現在の日本では、電力需要の電力設備容量が2億5000万kw程度になるようです。この電力設備で、日本の1年間の発電電力量約1兆kwhを作り出しているわけです。中身は、火力発電の設備容量が1億6000万kwです。東日本大震災前は, 54基の原子力発電が約5,000万キロワットで、日本全体の26%をまかなっていました。残りを、水力発電、太陽光発電 、バイオマス発電、地熱発電、小水力発電、潮流発電、波力発電などで賄っていたわけです。でも、原子力発電の事故が起きてからは、火力発電や再生可能エネルギーによる負担が増えていることになります。日本の電力事情は、いろいろな電源を組み合せながら成立していることになります。そんな中で、秋田県信用組合が河川などの水流を利用した小水力発電の普及をめざして動き始めたというニュースを目にしました。秋田県北秋田市の中山間地域にある棚木沢地区には、標高1454メートルの森吉山があります。ここから流れ出す水量は時期によって異なるが、水量は豊かで、地域の生産者は稲作などの農業用水に使っています。でも、この水量を十分に生かしているとは言えないようです。信用組合は、地域で十分に活用されていない水資源を生かす小水力発電普及をめざすことになりました。小規模でも昼夜を問わず安定して発電でき、地域に眠る水資源活用につながるとの考えによるものです。今回は、水力発電と小水力発電の利用について考えてみました。
小水力発電は、1mの落差でも0.5kwの電力を作ることができます。1 kwの電力を作る建設費が、200万円といわれています。上手く運用すれば、2mの落差の1kwの小水力発電で、年間20万円の売電ができます。たとえば、渓流に5つの砂防ダムがあれば、その1つ1つで発電できるわけです。砂防ダムが5つあれば、そのすべてで小水力発電が可能になります。ダムの高さが10mクラスの小さな砂防ダムでも、発電は可能で、200kwの電力は得られます。200kwだとすると5つで1000 kwになり、2億円の売電が可能になるのです。そんな事例が、人口約250人の笹川地区に、宮城県仙台市の建築会社が発電所を設けて売電をするというのです。この地区を流れる笹川を使った小水力発電を、2023年に始めています。196キロワットの発電所で、約400世帯分の電力を作れるという規模になります。この発電所で作った電力を、北陸電力に売ることになります。売電費用を、水道のインフラ更新に使うことになるようです。発電所の管理や運営はすみれ地域信託(岐阜県高山市) が担うことになります。信託方式を採用は、「仙台の会社が倒産することがあっても、持続できるようにしたかった」というものです。過疎に悩む地域が、地元の小水力の資源を生かして持続性を高める方式は地方再生に希望を与えている事例になります。
世界的に人類文明のエネルギーは、再生可能エネルギーへとシフトしていく流れになっています。この流れを後押しすることで、地域の活性化や脱炭素にもつながるとみられています。石燃料は、エネルギー密度が濃いので使いやすい利点があります。再生エネで石油と同じ大きさのエネルギーを得ようとすると、大きな量を集めなければなりません。たとえば、太陽光発電の場合なら、太陽光パネルをどれだけ広く設置できるかが課題になります。太陽光発電によって石油や石炭と同じだけの電力を得るためには、広大な面積が必要になります。風力発電なら、より風の強いポイトにより多くの風車を設置する必要がでてきます。その点、水力発電には利点があります。太陽光や風力に比べて、気象に左右されにくく、長時間発電でき、設備効率が高いという利点です。再生可能エネルギーを利用する場合、地方にあった再生可能エネルギーを考えていくことが求められます。
余談ですが、水力発電は、ダムなしには成立しないものです。そのダムは、地震に対する耐性はあるのでしょうか。日本は地震国であり、明治以降にも頻繁に大きな震災が起こっています。約100年経った古いダムが巨大地震にさらされても、まったく問題がなかったと証明されています。大きな震災が起きても、全国の何千とあるダムには、ダム本体が壊れた例がないのです。ビルの場合の崩壊はあるのに、なぜダムは大丈夫なのでしょうか。ビルの場合、壁や柱のコンクリートは、せいぜい2mか3mになります。ダムの場合、コンクリーの厚みは数十mから200m以上にも達するものになります。コンクリートは、石灰岩と砂と石とが固まっているものになります。ダムのコンクリートは、天然の凝灰岩と同じものになります。その凝灰岩は、100年、200年と年代を経るにつれて堅く強固になっていく性質があります。ダムの基礎は、杭などで支えるどころか、岩盤と一体化させてしまう性質のものです。年代を経るにつれて堅く強固になっていくことが、コンクリートダムが壊れない理由になります。ダムを維持することができれば、半永久的に使えるインフラになるのです。
今の日本で一年間に発電されている電力量は約1兆kwhです。その中で、水力発電の電力量は、900億kwhになります。ある専門家が示す理論値は、水力発電にはさらに多くの潜在力があると考えています。日本には、水力発電を開発する場所が2万ヵ所以上あるとされています。この2万か所以上の水力発電のすべてを開発すると、総電力は1400万kwに上ると試算されています。雨や雪の位置エネルギーを発電で電力に変換されると、7200億kwhになるとの試算もありあす。もし水力を完全に開発できれば、電力需要1兆kwhの70%ほどを賄える計算になるわけです。現在のダムだけでも、潜在的な発電能力を引き出せば、電力需要1兆kwh 30%まで可能だとの試算もあります。この試算に基づいて、水力発電の電力量が現在より1000億kwhだけ増加すると、年間で約2兆円分の電力が得られることになります。年に1000億kwhの増加は、100年分で200兆円分の電力を余計に生んでくれるわけです。ダムとは、未来の日本に、200兆円を超える富を増やしてくれる巨大遺産になります。ダムは、半永久的に純国産でタダのエネルギーを与えてくれる貴重な打ち出の小槌になります。
バラ色の水力発電ですが、現実は厳しい情況も浮かび上がります。ある小水力発電の追跡結果は、75カ所のうち30件は消滅しているのです。稼働しているのは、40件の小水力発電ということです。小水力発電の追跡結果は、稼働状況が芳しくないといことになります。稼働状況が芳しくない理由は、枯葉などの流入で発電機能が低下をきたすことです。また、取水口などに土砂がたまり、稼働状況が低下することにあります。土砂などの除去に、苦戦していることが分かります。この苦戦を克服したところに、ビジネスチャンスあります。この維持やメンテナンス作業を行えば、稼働率は安定することになります。土砂や枯葉などの除去を、ロボットが自動的に行えばどうなるでしょうか。ロボット機能の向上により、応用範囲は広くなりつつあります。ロボットが動きやすい貯水口などの工夫により、土砂や枯葉の自動除去を行うことは可能でしょう。停滞している30の小水力発電が、再び稼動を始めることも夢ではありません。秋田信用組合が、標高1454mの森吉山の水系を上手に利用するモデルを実現すれば、面白いことになります。小水力発電を効率的に維持する仕組みを確立すれば、全国各地の発電所のモデルになります。秋田が、小水力発電の人材育成の基地としても、可能性を持つことになります。蛇足ですが、小水力発電は最大出力が1000kwh未満の小さい発電になります。小水力発電は、中山問地域の流量が少ない中小河川でも、高低差を確保すれば発電できます。日本全国には、水量の豊富な川が無数にあります。ある意味、雪山のある所には、無限の小さなエネルギーがあるわけです。
最後になりますが、現在あるダムを嵩上げすることで、貯められる水量が増え、発電能力も増大します。北海道の夕張シューパロダムは、高さが67mでした。ここに43mの嵩上げし、110mにした事例があります。このシューパロダムの嵩上げにより、貯水容量は、8700万㎥から4億3000万㎥に増えたのです。一般的に、100mのダムの嵩上げを10mすると、発電能力はほぼ倍増することになります。10%の嵩上げは、ダムをも一つ造るのと同じ効果があるのです。ダムの高さを約1.5倍にすることで、貯められる水が5倍近くにまで増えるわけです。その嵩上げの費用は、初期のダム建設費用の3分の1以下で完成するのです。全国のダムの試算では、運用の改善と嵩上げだけで、343億kwhの電力量を増やせるとの数字がでています。水力発電にも、目を向ける必要があるのかもしれません。