近年、花粉症に悩む人が増えているようです。それも、年間を通して発症する事例が増えているのです。そこで今回は、花粉症を軽減する方策を考えてみました。花粉症は、花粉に対するアレルギー反応によって起こります。花粉に対してIgEという抗体が作られ、免疫細胞の一つである「肥満細胞」の表面に結合します。肥満細胞には,アレルギー症状を引き起こす原因となるヒスタミンが含まれています。この肥満細胞が破れると、ヒスタミンが外に飛び出し周辺の組織を傷つけます。これが、くしゃみやかゆみなどのアレルギー症状を引き起こすことになります。ちなみに、IgEは免疫グロブリンの一種になります。これは、 身体のなかに入ってきたアレルギーの原因物質(アレルゲン)に対して働きかけ、身体を守る機能を持つ抗体になります。 IgE抗体は、普通は血液中にとても少ない状態にあります。でも、アレルギー体質の場合は血液中に大量のIgE抗体が存在するといわれています。人間の体は、同じ種類の花粉が再び体内に入ると、IgE抗体と「抗原抗体反応」を起こします。IgE抗体と抗原抗体反応を起こし、肥満細胞が破れヒスタミンなどの化学物質が出されるわけです。ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されると、くしゃみや鼻水が出るようになります。これは、涙や鼻水によって、抗原を体の外に追い出そうとするけなげな働きになるわけです。でも、当の人間には苦しい症状になります。
世界には、3つの有名な花粉症があります。イギリスの牧草花粉症、アメリカのブタクサ花粉症、そして日本のスギ花粉症とあわせ、世界の三大花粉症といわれているのです。花粉症は、ヴィクトリア時代の1819年、「夏カタル」という名のもとに、産声を上げました。イギリスでは、干し草を作る時期に「夏カタル」の発作が始まりました。面白いことに、この発作は、産業革命とともに出現し、とくに清潔を旨とする牧師と医者に多く見られるようになりました。この「夏カタル」は、干し草まみれになっている農民におきなかったのです。アメリカでは、夏よりも秋に発症するため、「秋カタル」という病名が提唱されました。この花粉症は、アメリカから1世紀遅れで急成長した日本において、スギ花粉症として日光を中心に現れることになります。この現れる時期が、寄生虫が日本人から排除された時期と重なるのです。私たち日本人は、太古の昔から寄生虫を飼ってきたという歴史がありました。30年ほど前まで、日本人は寄生虫感染率が60%以上ありました。衛生上、この寄生虫を悪者として排除したのです。日本人の寄生虫感染率は60%以上あったのですが、現在は0.01 ~0.02 %にまで低下しました。寄生虫の感染率が低下したころから、花粉症やアトピー性皮膚炎などの様々なアレルギーが急増していきたのです。
花粉症は春の病気のイメージが強いのですが、似たような症状は、秋にも見られるようになりました。あるお医者さんによると、1年中の病気になりつつあると言います。鼻アレルギー診療ガイド 2024年版によると、スギ花粉症の有病率は38.8%になります。花粉症は春のスギ花粉に限らず、ブタクサやヨモギによって秋に発症することも珍しくありません。スギ花粉以外の花粉症は25.1%になります。実に4人に1人は、スギ花粉以外の植物によって花粉症を発症させていることになります。都内では、ブタクサが8月から、ヨモギやカナムグラが9月から11月くらいまで花粉を飛ばしています。キク科のブタクサやヨモギ、アサ科のカナムグラなどの花粉で、秋に発症することも多くなっているようです。主な症状は、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどで、基本的にスギ花粉と変わりません。でも、秋は花粉の量が少なく、スギ花粉症に比べれば症状は軽くなるようです。スギ花粉とブタクサ花粉は、それぞれ別の抗原になります。でも、スギ花粉症がある人は、ブタクサやヨモギの花粉症にもなりやすいようです。
寄生虫の感染率が低下したころから、花粉症やアトピー性皮膚炎などの様々なアレルギーが急増していきました。それでは、なぜ寄生虫を持っている人達は、花粉症になる割合が少なかったのでしょうか。スギ花粉症の場合,スギ花粉が体内に入ると,体がそれを異物と認識します。スギ花粉を異物と認識するとスギ花粉を攻撃するためのIgEといいう抗体を作ります。スギ花粉を攻撃するためのIgE(免疫グロブリンE)という抗体を作るわけです。IgE抗体は次々と肥満細胞の表面にくっついていきます。でも、肥満細胞は、1つのIgE抗体だけがくっついた状態では何も変化しません。症状が出るのは,次に同じスギ花粉が体内にやってきたときです。2つ目のスギ花粉をキャッチした抗体が、肥満細胞の表面にくっついて初めて肥満細胞が破れ、ヒスタミンなどが外に飛び周辺の組織を傷つける症状が出るわけです。寄生虫は、この2つ目のスギ花粉が肥満細胞に接触しないようにする働きを担っているのです。2つ目が入らなければ、症状は発症しないという理屈です。もう一つの理由は、清潔志向にあるようです。初期の花粉症は、イギリスの牧師や医者、そしてアメリカの有閑階級にもたらしました。裕福な彼らは、清潔な場所で生活をしました。無菌環境にいると、免疫力が低下して菌に対して弱くなります。多様性のある免疫を持つ人びとは、生き延びる強さを持ちます。一方、無菌状態の人びとは環境に対してひ弱になっていくようです。多様な免疫を持つにどのようにすれば良いのか、現代人の知恵が試されるところかもしれません。
近年は、「花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)」という病気も増えています。PFASは、花粉症の時期に発生しやすい病気です。似たタンパク質を含む野菜や果物を食べることで、口の中や腸でアレルギー反応が起こるのです。花粉症の人が特定の野菜や果物を食べると、のどに違和感やかゆみが出る症状です。花粉の抗原とよく似たたんぱく質を食べることで、口の中や腸でアレルギー反応が起こるわけです。メロンやセロリを食べて、のどがイガイガすると感じたら花粉症の検査を検討したいものです。このアレルギー検査を受けると、自分がアレルギーを起こす抗原を特定できます。国際医療福祉大学成田病院では、13種類の抗原を調べる検査を実施しています。ちなみに、13種類の抗原を調べる検査は、診察料込みで6千円程度(3割負担)が目安になるようです。スギ、キク科のブタクサとヨモギ、アサ科のカナムグラなどの花粉が、抗原になることが分かりました。このような抗原が、さらに増えてきたことになります。困ったことに、他の病気にかかりやすい人は、これらの抗原にも抵抗が低下することが分かってきました。
余談ですが、簡単に考えると、肥満細胞は、1つのIgE抗体だけがくっついた状態では無害です。でも、ここに新たなスギ花粉がくっつくと、肥満細胞からヒスタミンが出て、アレルギー症状が出ます。昔の人が、スギ花粉症にならなかった理由は、肥満細胞に寄生虫の分泌物が付着していたからでした。であれば、寄生虫の分泌物を肥満細胞に、事前にくっつけておけば良いわけです。このシステムで、30年前まで日本人はスギ花粉の症状がほぼ出なかったわけです。もっとも、いまさらながら寄生虫を体内に入れることを希望する人は少ないと思います。そこで、科学の登場になります。人間のタンパク質は20個のアミノ酸で構成されており、これが互いに連結して人体を形成します。私たちの人間を含む生命体は、進化の過程で様々なタンパク質を作って使用してきました。しかし、この進化過程に属さないタンパク質も人工的に作られ始めたのです。ワシントン大学のデビッド・ベイカー教授は、2024年にノーベル化学賞を受賞しました。彼は、2003年に93個のアミノ酸からなる「Top7」という人工タンパク質の合成に成功しました。彼は自然に存在しないタンパク質を作りました。理論的には、自然に存在しないアミノ酸配列を製造することが可能なりつつあります。未知のタンパク質を短時間で予測し、短時間で実用的な使用を実現することができるならば、寄生虫の分泌物と同等の物質を作ることも可能でしょう。13種類の抗原に有効な抗体を作ることも可能でしょう。もし、自由自在にこのような物質ができれば、大きなビズネスチャンスになるかもしれません。
最後になりますが、気管支ぜんそくのお話しになります。この病気で、2023年、全国の医療施設受療した推計患者数は、入院が120万人と外来710万人の合計で830万人以上が医療機関を受療していました。この気管支ぜんそく患者の3分の2は、ハウスダストと何らかの関係があったのです。ハウスダストは、室内にたまる主にホコリやちりのことです。でも、このチリには悪影響を及ぼすダニの死がいやフン含まれています。ダニの死がいに触れると、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、結膜炎を引き起こす人も多いのです。このチリが、気管支ぜんそくなどのアレルギー疾患を引き起こすー因になるわけです。ダニは、気温と湿度が高い夏場に活発に繁殖します。増えたダニが一斉に死に、秋になると死がいが大量に発生する流れがあります。気密性の高い住宅が増えたことで、最近では夏以降もダニが繁殖しやすい環境が整ってきました。秋にハウスダストの悪影響が出やすいのは、このためになります。そして困ったことには秋の花粉症とコラボすることになってしまうのです。既往症の方は、症状が出やすい環境に置かれることになります。簡単な対策は、マスク着用やうがい、洗いなどの対策になります。コロナ禍の期間は、マスク対策で、新たに花粉症を発症する人が半減しました。また、症状は同じでも家の中にいるだけでなるのか、もしくは外に行くとなるのかで、抗原を見分けられます。2つの抗原に出会わないように、することも選択肢になります。自分に適したやり方で、花粉症などのアレルギー症状を軽減していきたいものです。