ドローンの生産を速く、そして低コストで実現する アイデア広場 その1645

 ロシアのウクライナ侵略を観察していると、この侵略におけるロシアの政治的目的は明確になってきました。ロシアの目的は、ウクライナに主権国家としての地位を認めず、事実上の属国とすることにあります。この目的を達成させるために、大きく分けて三つの方法が考えられました。第一は、ウクライナのゼレスキー政権を打倒して親口シアの傀儡政権を樹立することでした。これは、見事に失敗しています。第二は、ウクライナ軍の抵抗を排除しながらウクライナ全土を占領し、支配することです。でも、これには莫大な費用と80万人の軍隊と治安部隊が必要です。敵対的な土地を支配するために、人口1000人当たり20人の兵士ないし警察官が必要になります。人口4000万人のウクライナを支配するには、80万人の治安部隊が必要となります。30万人の徴兵に苦労しているプーチン大統領には、敷居の高い決断になります。第三はウクライナ政府に、事実上の無条件降伏を強いるような停戦協定を受諾させることになります。これが、現在行なっているロシアの戦いになります。一般に戦争行為で認められていないことがあります。市民への無差別攻撃などは、戦争犯罪になります。それを承知で、ロシアは病院や学校に狙いを定めた市街地への攻撃を行っています。無条件降伏を受け入れさせるために、ウクライナの社会、経済、そして電気や水道のインフラを軍事的手段で破壊し続けているのです。膨大な戦争被害をウクライナに与えて、ロシアの要求を呑むのもやむをえないとウクライナ国民を諦めさせようとしています。このような理不尽な戦争に、脚光を浴びたドローン兵器になります。

 今回は、復習を兼ねてドローン(無人機)についての理解を深めていきます。ドローンが、現代戦の戦況を左右するようになりました。ウクライナ軍が作戦に用いているのは、「FPV (First Person View)」と呼ぶ小型機になります。このFPVは、1機、600~1000ドル(約9万~15万円)になります。対するロシア軍は、イラン製の「シャヘド136」を多用しています。この「シャヘド136」は、巡航ミサイルに近い性能を持っています。最近のドローンは、技術水準が上がり、機動性が高く迎撃が難しくなっています。ドローンの先進国とされるのは米国とイスラエル、中国、そしてトルコになります。トルコ製の「バイテクタルTB2」は、翼長12mの機体に情報収集機器と攻撃兵器を備えています。この「バイテクタルTB2」は、トルコ軍のほか、ウクライナやカタール、アゼルバイジャンなども採用しています。自衛隊も、この機種を購入すると伝えられています。この分野で、最も早く開発を進めてきた国が、イスラエルになります。1970年代から開発を進め、イスラム組織ハマスとの戦闘にも自国製の偵察・攻撃幾を大量投入してきました。その事例として、暗殺用のドローンがありました。イスラエルのドローンは、ハマスのリーダーの部屋に飛んでいってその本人だけを殺害することができるのです。標的の人物を認識し低空で飛んでいって、標的を発見すると5寸釘を眉間に当てる性能を持っています。このドローンを使って、イスラエルがハマスの軍事部門の指導者を個別に暗殺を始めました。その途端に、ハマスは停戦に応じたと言われています。もちろん、この種のドローンに対する対策(地下道の延長など)ができれば、ハマスの活動は再開されました。

 新兵器は、導入、優位、対抗という3段階プロセスを経て効力の「限界点」を迎える流れになります。たとえばドローンの場合、第一段階は斬新であるため、使い方がわからず、配備される数もきわめて少ない状況にありました。第二段階では、配備数が増えてきて、実際に使われるようになります。この第二段階の間、ドローンの新しい機能は優位性を発揮されます。第三段階になると、相手もドローンの機能や戦術を削ぐための研究を進め、やがて「「普通の兵器」となっていく流れになるわけです。一般的に軍事技術は、すでにある技術に一つの工夫を加えながら使用されることが多いようです。ドローンは、「歴史を変える」兵器のひとつといわれています。その理由は、すでにある部品から、低コストで作ることができるからです。ドローンの先進国は、中国になります。その中国のドローン企業では、DJI社が有名です。このDJI製の価格が約8万円のマビック・エアー2が、どのような部品で作られているのか調べてみた会社があります。約230種類ある部品のうち、80%が一般電化製品の部品を使っていたのです。ドローンで使われている1枚の基板には、制御や通信半導体やセンサーなど大小10個の半導体部品が高密度で実装されています。今回分解した機種のマビック・エアー2には、この基板に多くのアメリカ製部品が使われていました。このドローンの部品価格の原価は、14000円で、原価率は20%でした。1000円を超える高価な部品もバッテリーとカメラくらいにとどめているのです。部品の組み合わせとソフト技術の向上で、性能を飛躍的に高めている姿が浮かんできます。これからのドローンは、より低コストで、状況に応じて使える機能を持つものが求められるようです。

 2001年10月、アメリカのブッシュ大統領が、アフガニスタンへ空爆と地上軍の投入を命令しました。この戦闘に、全長10cmで重量16gというドローンが使われました。これには、静止画像と動画を記録する可動式カメラを搭載しています。このドローンは、戦闘地域で狙撃兵を偵察するために使われていたのです。戦場では、狙撃が日常的行われています。どこから狙撃をされたのかを、ドローンを飛ばして調べるのです。どこから狙撃してきたか、手元のゲームボーイのような画面で見ることができます。この超軽量ドローンを利用して、狙撃ロードを横断する際に、狙撃地点をチェックし、危険を排除したのです。時代は進み、2020年9月アゼルバイジャンとアルメニアの間で、自治州をめぐって軍事衝突が起こりました。この衝突でのアゼルバイジャンの勝利は、世界中の軍事関係者に衝撃を与えまたのです。アゼルバイジャンの勝利の 陰には、ドローンがありました。アルメニア陸軍の主力である戦車は、ロシアのT-72やT-80でした。これは、およそ40トンの頑丈な鉄の塊になります。紛争地は基本的に山地や丘陵地帯であり、急な山道を戦車はゆっくりと進むことになります。これに対して、アゼルバイジャンはドローンによって、ゆっくり進むアルメニアの戦車を攻撃したのです。40トンの戦車に対して、40キロ弱の模型飛行機が、戦車の真上から、爆弾を抱えて突っ込んでいきます。爆弾は爆発すると8000℃にもなるガスが、敵の装甲を破壊し貫通していきました。わずか数十万円でのドローンで、数億円の戦車が破壊できることに、軍事関係者は新しい時代を痛感したわけです。ちなみに、アゼルバイジャンが使用したドローンは、ハーピーというイスラエル製のものでした。

 さらに、時代は進みます。ウクライナ軍は、2025年6月1日にロシア空軍基地への大規模なドローンを攻撃しました。この「クモの巣」と名付けた作戦には計117機のドローンが投入されました。「クモの巣」作戦は、ロシア国内の4カ所の軍用飛行場を同時に攻撃したのです。117機の製造費用は、計2億円程度にとどまり、ロシア側に与えた損害はその5000倍に上る1兆円との推計があります。ロシアが保有する戦略爆機の3分の1が、この作戦で失われたのです。ロシア空軍基地への大規模なドローンを攻撃は、世界各の安全保障当局者に衝撃を与えています。このドローンを攻撃により、各国は安保戦略の練り直しを迫られているのです。世界の大半の軍事施設は、同種のドローン攻撃に脆弱なのが実態なのです。軍事施設だけではなく、原発やデータセンターなどを攻撃しようとすれば、容易に標的になることが知らされたとも言えます。2022年から続くロシアのウクライナ侵略は、軍事技術に変化(進化)をもたらしています。ウクライナ軍がロシア軍に与えている損害の8割が、ドローン攻撃によるものだと明らかになりました。ウクライナ国防省によると、 2024年には、200以上の国内企業が計150万機を生産しました。これは、5000機前後だった2022年の300倍になります。2022年の開戦当初は、ドローンやその部品を輸入に頼っていました。戦況の進展により、急ピッチで自前の生産体制を整備していきました。その結果として、ウクライナは、戦闘機やヘリを撃墜できる海上ドローンやAI搭載型のドローンなどの開発にも成功しています。ドローン機体だけでなく、ドローンパイロットも重要な役割を担います。ウクライナ軍が前線の部隊に配置したドローンパイロトは、数万人規模になります。ドローンパイロットは、実戦経験を通じて急速に練度を上げています。これらのパイロットは、ジャミングや防空レーダーの回避など実戦経験を蓄積しています。豊富な要員が、多様な作戦に従事しています。

 余談になりますが、中国は日本周辺でドローン(無人機)の飛行を増やしています。日本の周辺で活動する無人機も、大型の偵察機が多くなっています。大型になると、偵察にしても攻撃にしても、その機能が向上します。たとえば、中国は2024年に広東省で開いた航空ショーでは、大量の小型ドローンやミサイルを搭載する大型機「九天」を公開しました。この「九天」は、中国航空工業公司(AVIC)が開発した大型無人戦闘機システムです。ジェットエンジンを搭載し、優れた推進力によって最大速度700km/h、最大離陸重量16トン、最大積載量6トンという有人戦闘機に匹敵するペイロード能力を有するとされています。ポイントには、レーザー誘導爆弾、滑空爆弾、対艦ミサイル、空対空ミサイルなど、多種多様な兵装の搭載が可能になります。最大飛行時間は12時間、航続距離は最大11,500km、実用上昇限度は15,000mとされています。このような機能を持つ中国のドローンが、日本近海に飛来することが続いています。中国軍の無人機が飛来した場合、航空自衛隊の戦闘機の緊急発(スクランブル)を行います。無人機に対する航空自衛隊の戦闘機の緊急発進は2024年度に23回、のべ30機にのぼり、以前から比べて3倍に増えています。無人機に対して、有人機によるスクランブルは、物量面でも搭乗員のリスクの面でも見合わないのです。戦闘機のスクランブルにかかる費用は、1回のスクランブルあたり約800万円になります。ドローンの費用を考慮に入れると、この800万円は、確かに間尺に合わないようです。

 最後になりますが、1990年代以降にドローンの活用が進んだ諸外国に対し、日本での導入は遅れています。四方を海に囲まれた日本の防衛は、偵察や哨戒業務を航続距離の長い有人ヘリコプターや哨戒機が担ってきた経緯があります。ウクライナ侵略では、逃げ惑う兵士をドローンが攻撃する映像がSNSを通じて世界に拡散しています。前線近くでは、有人の偵察機や攻撃機の撃墜リスクが高まってきています。ドローンは、兵員不足への対応や人的被害の防止に有効兵器と認識されるようになりました。人的なコストを抑える観点からも、軍備の省人化、無人化が世界的な潮流となってきています。ここにきて、日本もドローンの多角的利用を導入するようになりました。自衛隊は、普通科の隊員が敵の車両などに突っ込む自爆型攻撃機をおよそ300機導入する計画を立てました。また、経済産業省が中心となり、無人機の産業基盤強化に向けた検討会を立ち上げました。これは、ドローンの運用拡大を見据え、機材と関連部品の供給能力を高めことを意図しています。蛇足ですが、ウクライナ軍は、前線の部隊がオンラインでドローンを発注します。すると、数日から1週間ほどでドローンを届けるシステムが確立されています。ウクライナ政府機関の担当者は「ドローン版のアマゾンだ」と例えています。安価で、すばやく調達できるために、戦場に大量に投下できる仕組みができています。多機能の高価な装備が、多数の安価な無人装備によって凌駕されている状況が生まれています。あたかも、悪貨が良貨を駆逐する状況が起きています。日本も、この流れに遅れない対策を取っていくことが求められるようです。

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