アメリカのエリートには、肥満がいないと言われます。肥満は、意志の弱い仕事が出来ない人物と見なされることもあります。彼らは、疲れにくく、風邪などの病気を寄せ付けない人生を手に入れています。エリートは、身体だけでなく頭も常にさえ、クリアな思考で物事をスムーズに意欲的に進められる人生を手に入れています。太ることもなく、若々しさを保持する人生を手に入れているようです。彼らは、病気になる心配をする前に、そうならないように避ける賢明な生き方をしています。真のアンチエエイジング(抗加齢医療)は、身体内部の老化現象の進行を遅らせることに重点を置いています。アメリカでは「予防医療に100の投資を行えば300の医療費を節約できる」という医療経済学も提唱されているようです。アメリカでは自己防衛すべく健康雑誌や書籍から情報を得て、予防医療を自ら実践している方も多いようです。その対極にある方が、美味しい食事を沢山取る人々です。美味しい食事が週に5回、6回と続くとどうしても栄養が偏り、カロリーを過剰摂取することになります。美味しい食事には、栄養バランスや健康づくりといいつた観点とは、違う価値がそこにあるようです。特別に美味しいものというのは、往々にして高カロリー、高塩分、高糖質、高脂質になります。今回は、バランスの取れた食事や必要な栄養に関する知見(健康や肥満など)を深めてみました。
動物性脂肪と塩の食べ合わせは、動脈硬化を進行させ、高血圧の原因となることが分かっています。この食べ合わせは、高血圧の原因となることが疫学調査でも明らかにされています。塩分摂取が増えてしまう外食の代表は、焼肉です。もちろん、対策もあります。焼肉を食べる時には、たっぷり野菜も食べることが高血圧の予防になります。緑色野菜に多く含まれるマグネシウムは、高血圧を防ぐ代表的な栄養素です。このマグネシウムは、血管壁にある筋肉を弛緩させる作用があります。食生活の乱れがあるとLDLが増え、生活習慣を改善するとHDLが増えます。LDLは悪玉コレステロールで、HDLは善玉コレステロールと呼ばれます。近年まで、この悪玉LDLが高いと心筋梗塞など血管が詰まる病気になりやすいと言われてきました。でも、最新の医学では、「高LDL=心筋梗塞ではなく「高LDL+炎症=心筋梗塞」ということが分かってきました。蛇足ですが、炎症についてのお話しになります。脂肪組織が大きくなるときには、脂肪組織で軽い炎症が起こっています。肥満の度が進むとともに、炎症も次第に進んでいきます。肥満の炎症の結果、作られた炎症性サイトカインが、他の細胞に働いていくことになるのです。サイトカインは、生理活性蛋白質とも呼ばれ、細胞間相互作用に関与し周囲の細胞に影響を与える物質です。要は、悪玉LDLが高いと脂肪組織が炎症を起こし心筋梗塞を起こすことが問題にされています。
肥満については、腸内細菌の関係が、動物レベルでは20世紀半ばには理解されていました。ニワトリやネズミにある種類の抗生物質を与ると、肥満が促進されることが知られていたのです。短期間で家畜を肥育促進するための方法として、飼料添加物としてある種の抗生物質が利用されたこともあったのです。肥育にできた理由は、ニワトリを健康にする腸内細菌を抗生物質が排除し、肥満を促進する腸内細菌を増やしたからです。もし、人間にこの現象がおきれば、肥満は増えます。さらに、炎症も増えていくことになります。もちろん、対策も用意してあります。それは、運動により筋肉を増やすことになります。筋肉が増えれば、代謝率も上がり、脂肪の燃焼が進み、肥満を解消することができます。この筋肉増強の過程で、筋肉自体の評価が高まる状況が生まれました。今までは、経験則的に認知症を防ぐために、あるいは発症を遅らせるためには、運動が良いと言われてきました。これが、実証されつつあるのです。その1つが、マイオカインになります。マイオカインとは、骨格筋(筋肉)から分泌される生理活性物質の総称で、運動によって分泌が促進され、脂肪燃焼、免疫力向上、骨の形成促進、糖代謝改善、認知機能向上、ストレス軽減など、全身の健康に良い影響を与えます。たとえば、イリシンはマイオカインですが、筋肉から分泌された後、血流に乗って脳に到達します。イリシンが脳に到達すると、脳の中でBDNFという物質が多く分泌されます。BDNFは、Brain Derived Neurotrophic Factor(脳由来の神経栄養因子)のことになります。このBDNFという物質が多く分泌されると、情報伝達に役立つ神経細胞が作られるのです。結果として、この物質が多く分泌されると、脳の機能が高まり、認知症の発症を抑えることになります。
肥満と「うつ」のお話しになりましたが、日本はこの2つの課題に直面しています。現代社会では、ストレスかたまりやすい環境が整っています。ストレスの蓄積で、ホメオスタシスが崩れることがあります。ホメオスタシスが崩れ引き起こされる反応は、身体面・心理面・行動面に見られます。ストレスを起こしやすい環境が、肥満と「うつ」を引き起こしやすくなっています。うつに関しては、人間の感情に、喜び、高揚、幸福感、快感、悲しみ、落胆、恐怖、不安、怒りなどがあります。これらの中で不安などの負の感情が多くなれば、「うつ」の状態になりやすくなります。一方、これらの負の感情を適度に発散することを行えば、より良い状態が保てるのです。この発散の一つに、ウオーキングなどの運動があるわけです。もちろん、運動だけでなく、趣味などの楽しいことも発散の選択肢になります。うつ病の患者は、幸せホルモンと言われるオキシトシン、セロトニン、ドーパミンなどの神経伝達物質が減少しています。であれば、これらの神経伝達物質の分泌を促す仕組みを工夫すれば良いことになります。セロトニンが心の安定と健康の基盤を作り、オキシトシンが人とのつながりや愛情による幸福感をもたらし、ドーパミンが目標達成の喜びや意欲を高めます。これらのホルモンの分泌を促す仕組みを理解し、その工夫をすることが重要になります。
ここで注目される物質が、浮かび上がっています。ビタミンDが「一種のホルモン」として、世界中のアンチエイジング研究者の注目を集めています。「ビタミンD」の摂取は、うつ病をはじめとした精神疾患の予防・改善に有効という事実が報告されるようになりました。うつ病を引き起こす主な原因は、脳内の神経伝達物が不活性化することにあります。ビタミンDの受容体が、脳内の前頭前皮質や海馬、視床などの部位を活発にする知見が蓄積されてきています。ビタミンDがドーパミンやノルアドレナリンの神経伝達物質の作用を改善させる働きがあります。結果として、ビタミンDが脳を酸化ストレスから保護しているのです。ビタミンDは、食事からの補給も可能で、特に鮭や青魚に豊富にあります。ただ、加齢に伴い食事の全体量も減ってくるため、必然的にビタミンDの血中濃度は低下する傾向があります。また、ビタミンDは日光に当たることで、皮膚で生成されます。これも年齢とともに、皮膚で作られるビタミンDの量は減っていく傾向があります。もっとも、この知見を知っていれば、高齢者でも魚を多く食べ、朝日に当たる時間を増やすことに心掛ければ、問題は解決に向かいます。
余談になりますが、幸福ホルモンについての研究が進んでいるようです。慶応大学などの研究チームは、マウスを使った幸せホルモン(オキシトシン)に関する動物実験を行いました。同じ母親から生まれた兄弟マウスを、単独飼いと4~5匹のグループ飼いに分け12週問観察したのです。すると、単独飼いのマウスは、グループ飼いと比べてオキシトシンの分泌量が少なくなりました。この実験では分かったことは、社会的な孤独が脳の視床下部から分泌される「幸せホルモン」減少させたことでした。仲間との触れ合いのあるマウスの群れは、ある意味、幸せな環境で生活できたとも言えます。さらに、孤立が身体への影響も及ぼしていました。単独飼いのマウスは、血中の中性脂肪や悪玉コレステロールが上昇して動脈硬化が進行していたのです。12週間の観察の中で、オキシトシンが肝臓に与える影響も調べました。単独飼いのマウスは、オキシトシンの量が減少し、肝臓の脂質代謝異常を招いて動脈硬化を促進していたのです。オキシトシンの減少が、肝臓の脂質代謝を抑制し、肥満を促進していたというわけです。ヒトを対象とした臨床研究ででも、孤独が心筋梗塞の発症率を高めることが報告されていました。
最後になりますが、オキシトシン、セロトニン、ドーパミンの三つの「幸せホルモン」は、それぞれ異なる幸福感をもたらすとともに、相互に作用し合い心身の健康を支えています。セロトニンが心の安定と健康の基盤を作り、オキシトシンが人とのつながりや愛情による幸福感をもたらし、ドーパミンが目標達成の喜びや意欲を高めます。この三つが「セロトニン的幸福」「オキシトシン的幸福」「ドーパミン的幸福」の順で積み重なる「幸せの三段重理論」が提唱されるようになってきました。セロトニンは、睡眠や精神安定に関わる物質でもあります。セロトニンが不足すると、睡眠障害や不安感などマイナスの精神症状に陥りやすくなります。であれば、セロトニンの分泌を促す食事をすれば良いことになります。セロトニンの原料は、必須アミノ酸の「トリプトファン」です。この必須アミノ酸は、体内で必要量が生成できないため、食事からとる必要があります。トリプトファンを多く含んでいるのは、肉、魚、豆類といった食材です。しかしながら、これらの食材からトリプトファンをとるたけでは、セロトニンは合成されないのです。トリプトファン合成の過程には、タンパク質代謝に大きく関わる「ビタミンB6」と鉄」が不可欠になります。また、合成の過程には、神経伝達物質を放出するときに必要となる「Ca」「Mg」の摂取も必要になります。さらに、合成の過程には、その他、脳神経の正常な働きに関わる「ビタミンB12」摂取のも必要になるのです。肥満やうつにならずに、幸福な状態を享受するためには、単なる栄養素だけでなく、その取り方、摂取の仕方、睡眠の質、人間関係などにより幸福ホルモンの分泌が変化するようです。