外国人労働者が安心して働ける環境を準備する  アイデア広場 その1650

 日本の介護現場では、担い手不足が一段と深刻になっています。国内の介護職員数は2022年度時点の215万人を今後維持しても、2026年度には25万人不足する状況です。2040年度には、57万人も足りなくなる見通しなのです。介護業界では今後、深刻な人手不足が待ち受けています。これまでは、アジアの介護人材を安易に採用できるという風潮がありました。でも、この環境は急激に変わりつつあります。ベトナムの人材派遣の運営者は、台湾や韓国では日本より厚待遇の求人も出始めていると述べています。日本の場合、語学習得をはじめハードルが高く、今まで日本を希望していた人材の日本離れが加速する流れがあるようです。アジアで介護人材の奪い合いが起こっています。外国人に頼れない事態も、現実味を帯びてきているのです。そんな中、あえて外国人の介護士の確保を試みる企業があります。SOMPOケア株式会社は、東京都品川区に本社を置く介護サービスを運営する企業で、SOMPOホールディングスの子会社になります。この会社は、少子化の加速を背景に、国内だけで人手を確保するのは困難になると考えていました。この会社は、インド人の資質にも着目していました。インドの介護人材は、今のところ少ないのですが、彼らは海外就労への意欲が高いのです。日本語習得能力も高く、就労人口の層も厚いため「潜在力が高い」とみられています。世界銀行によると、インンドの人あたりGDPは2024年に 2700ドル(約40万円) でした。1人あたりGDPは、インドネシアの4900ドルやベトナムの4700ドルよりも低いのです。もっとも、低いから良いと言うわけではありません。インド人が満足度の高い職場で働き、彼らにとっても良い施設にしていくことが求められます。今回は、外国人労働者が高いモチベーションの持てる日本企業の在り方について考えてみました。

 SOMPOケアは、インド国家技能開発公社の協力を得ました。その上で、2024年8月にインド国内で人材の研修施設を開いたのです。これは、SOMPOケアが初めて海外人材向けに現地で開いた研修施設になります。この研修施設では、介護福祉士試験の対策講座を用意したり、日本語教材を提供したりして支援することになります。研修施設では、現在2、3期生を各30人規模で育成しています。介護分野で外国人を受け入れる際に、主に活用されるのは特定技能制度になります。2024年12月末時点で、約4万4千人が特定技能制度で在留しています。特定技能試験に合格できれば、永続的に在留ができて、SOMPOケアにとって長期的な戦力になります。今回は、8人が特定技能試験に合格し、うち6人が7月にSOMPOケアへ入社しています。この6人は、在留資格「特定技能1号」で在留できる介護福祉士資格の取得を目指しています。

 インドの研修施設の1期生が、このほど国内で働き始めました。介護付き「そんぽの家隅田公園」は、SOMPOケアが運営しており、そこには132人が入居しています。ここで、インドの研修施設で育成したインド人の登用を本格的に始めたのです。インド出身の職員ジョージ・リンシーさん(25)は、「そんぽの家隅田公園」働くことになりました。リンシーさんは、7月末にこの施設へ配属され、現在は職場内訓練(OJT)に取り組んでいます。彼女は、インドでは病院で看護師をしていたが、給料は少なかったようです。「安全できれいで、仕事のチャンスがある日本で働こうと思った」と話しています。リンシーさんを含む1期生は、介護の技能や日本語の勉強に約9カ月取り組んだ成果が現れているようです。インド人の登用は、本格的に深刻化する介護業界の人手不足の緩和を狙っているようです。文化の壁を乗り越える知恵は、インド人も日本人にも必要です。インドの人はうなずく際に首を左右に傾けるなど、ジェスチャーの仕方が日本と異なケースがあります。日本の「相づち」とは違うジェスチャーになります。インドの研修施設では、日本の文化や慣習も学び、慣れるようにしています。インド人材の登用を進める上で、施設の利用者に喜んで受け入れられるかがカギになるようです。

 パソナグループが、2024年からベトナムで「おかえりジョブ」のアプリを始めました。「おかえりジョブ」はもとともと、駐在員らが有志で立ち上げた企画でした。ベトナムで活動する日本人実業家や総合商社の駐在員らが、有志で立ち上げた企画だったわけです。きっかけは、日本居住経験あるベトナム人の多くが帰国後に地元企業に就職していることでした。現地に進出した2000社以上の日系企業が、「即戦力」を見逃しているとの問題意識があったのです。日本居住経験のある人材が、ベトナムでは日系企業の即戦力になります。日系企業は、日本の礼儀作法や商習慣を知る人材が即戦力になることを熟知していました。この「おかえりジョブ」は、求職者を限定しています。おかえりジョブは、技能実習や留学で日本に1年以上の居住歴があるベトナム人に絞っています。自国経済(ベトナムやインドネシアまど)の発展には、時間がかかります。日本の企業であれば、この時間を短縮できます。その短縮するには、日本居住経験のある人材が欠かせないわけです。企業は日本語能力よりも、時間を守るなど日本の職場への理解を求めているようです。「おかえりジョブ」がベトナム人求職者と日本企業をつなぐ架け橋になっています。

 架け橋の良い実例があります。ハン・タイン・ロン(34歳)さんの警備は、ホーチミン近郊にある日系企業の工場が職場になります。ロンさんは、今春、ベトナムのALSOKで警備員の仕事に就きました。彼は、「ボディーガードの仕事憧れていた」と言います。ロンさんは、日本に約4年間の居住経験があります。ベトナムのALSOKで警備員として働くロンさんは、日本での経験を生かしています。この工場には日本からの来客も多く、日本語で案内できる警備員の評判は上々のようです。パソナは、日本暮らしの経験があるベトナム人を、帰国後も日系企業で就業できるように仲介サービスをしています。このパソナグループがベトナムで手掛ける求人アプリは、注目を集めているのです。パソナは、日本居住経験が1年以上あるベトナム人材だけを対象としています。パソナの求人アプリは、日本企業にのみ送り込む点が特徴になっています。帰国後に日本居住の経験を生かすキャリア形成の「出口」としても存在感が高まっています。入ってくる外国人にも、帰国した外国人にもサービスができる環境になりつつあるようです。

 ベトナムは、中国に次いで2番目に就業者が多い国となりました。日本に住むベトナム人は、2024年末時点で前年比約7万人増の63万人を数えています。帰国した後の支援だけでなく、ベトナムから日本へ向かう「入口」の改善も進んでいます。借金を負って渡航したべトナム人が、不法滞在したりするケースや返済資金を窃盗したりするケースも出てきています。国際協力機構(JICA)は7月、公式求人情報を閲覧できるアプリの運用を始めました。これは、高額な手数料を取る悪質仲介業者を排除する狙いになります。日本での安全な就労を希望するベトナム人向けに、求人情報を閲覧できるアプリの運用を始めたわけです。これは、ベトナム海外労働管理局が持つ日本企業の「公式」求人情報を閲覧できるサイトです。このアプリの運用を海外労働管理局の副局長は、求人情報を閲覧できるアプリを評価しています。JICAのアプリは、全国どこでも手軽に求人情報を閲覧できる利点もあります。受け入れも、受け入れ後も、そして、安全に働ける収量の場を提供する仕組みが、少しずつ構築されつつあるようです。

 最後になりますが、外国労働者が増えれば、問題は確実に増えます。何らかの対策で、事故が全てなくなるということはありません。事故は必ず起こるという認識で、外国人の労働者を受け入れることになります。外国人労働者の多い自治体では、すでに独自の制度を設けているようです。例えば、外国人の方が困ることは、病気です。病気になり、病状を説明する場合、患者も医者も言葉の問題が出てきます。そこで、日本語の分かる母国の方が、安い料金で通訳を引き受けている方もいます。医療の現場で、言葉による意思疎通が可能になれば、その地域は外国人労働者が働きやすく住みやすい場所になります。医療通訳の存在は、大きな意味を持っているわけです。リーダーが心身的に安定していれば、同国の人びとに手厚いケアができます。でも、リーダーが不安定ならば、ケアは不十分な状態になります。そこで、リーダーの心身安定を維持する工夫が求められます。一番の特効薬は、家族と過ごすことです。家族を呼び寄せ、家族が地域に貢献できる仕組みを作るわけです。お父さんは、農業技術者として働き、母親は介護士として働き、子どもは留学生として勉強するという具合です。合間を見て、医療通訳や法廷通訳、地域の困り事の相談、そして自治体との連絡調整など役割をこなしていくことになります。自治体だけで、全てを準備できるわけではありません。最初から、完璧な対応ができるわけでもありません。でも、少しだけ住みよい環境や働きやすい環境ができれば、長期間にわたり地域に住んで働いてくれる外国人労働者が増えるようになります。そんな、環境を日本に整備したいものです。

備考

 ある知人の話では、外国人は信頼できるコミュニティ内ではまじめに生活していることが多いとのことです。でも、困ったことが起きた時、コミュニティ以外の場所で、問題行動を起こすケースがあるとのことです。たとえば、埼玉でのコミュニティで生活をしている場合、問題行動を起こすのは横浜や地方といった具合です。できるだけ、同国のコミュニティ内で、満足のできる環境ができれば、問題行動も少しは減るのかもしれません。

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