季節の変わり目に商機が眠る アイデア広場 その1658

 今年も、暑い夏を迎えました。2025年の夏(6月~8月)の気温は、例年に比べて全国的に高いものになりました。暑いと言えば、熱中症が話題になります。例年この期間は、7~8万人の熱中症患者が出て、話題になったものです。ところが、昨年と今年は10万人以上の熱中症患者が出ています。もっとも、皆さんが熱中症に備えていれば、この状況をかえることもできました。熱中症にかからない仕組みは、汗を出すことで、身体を冷やすことになります。体温が上がるとやがて汗がでて、体温は下がるというわけです。暑さに体を徐々に慣らしていく取り組みは「暑熱順化(しょねつじゅんか)」と呼ばれています。なるべく早く暑熱順化に着手して、夏の暑さに備えるために、熱中症にかからない体にすることが望ましいわけです。ただ、温暖化が想定以上に進んでいる現実があります。熱中症対策が義務化となり、猛暑対策は快適さを求める段階から、安全の確保へ進む流れが生じてきました。「暑さ指数(WBGT)」を考慮しながら、暑さ対策に努めることになります。WBGTは、気温と湿度、放射熱、通風の4要素を反映した指数になります。「暑さ指数」から、熱中症リスクを判断休憩時間や頻度を増やすなどの対策を取るようになってきました。この対策が取られるようになった頃、また違う寒さへの対策が求められるようになりました。ニーズがあれば、そこにビジネスチャンスが生まれます。今回は、「暑い時期」と「暑さが切り替わる時期」のビジネスについて考えてみました。

 2005年に、環境省が「クービズ」を提唱してから6月で20年目を迎えます。この「クールビズ」は、「クール」と「ビジネス」」の合成語になります。クールビズの導入は、夏場でのネクタイの着用などが窮屈だと感じていたビジネスマンの共感を呼びました。ネクタイのスタイルから、ノージャケット、ノーネクタイのカジュアル化が進みました。クールビズ開始以降、男性の夏のオフィス着はジャケットにシャツと進化してきました。涼しさを求める人々は、世界各地に存在し、そこには民族の知恵がありました。「汗をかいたな」と感じた時には、相当の汗をかいているのです。蒸発して目に見えない汗を、有効発汗といいます。この汗が、体温を冷やす働きをしています。この働きを効果的にするためには、着衣の空間に空気の出入口を作ると良いのです。ハワイの民族衣装であるムームーは、空気の出入り口が設けてあります。この民族衣装には、ウエストを開放し、足下から首に抜ける空気の通路ができています。この空気の通路は、皮膚と衣服との間の気流を増やし、汗の発散面積を拡げ、冷却作用を効果的に行う仕組みの基礎になるものなのです。ハワイのムームーだけでなく、インドのサリー、そしてアラブの男性が着こなすトーブは、足の下から首にかけて気流を作り、熱の発散を効果的に行う仕掛けが組み込まれています。発散量を増やすには、風速が大きいほど、発散面積が大きいほど良い汗が出てくるのです。良い汗が出れば、熱中症に対する耐性が高まることになります。これらの民族衣装は、民族の知恵の結晶ともいえるものです。この知恵から、ファン付き作業服を考案した企業は、ビジネスチャンスをものにしています。

 人々の欲求には、キリがないようです。いつでも涼しさを、そしてより涼しいものをと欲求は高まっていきます。その欲求に応える企業が、現代の勝者になれるわけです。その勝者の1人が、住友金属鉱山になるようです。住友金属鉱山は、服の中の温度を最大20度下げられる作業服を開発しました。熱を遮る金属ベースの粉末を生地に織り込み、小型フアンを付けることで涼しくする仕組みです。この粉末は、タングステンなどを使い独自開発した「ソラメント」になります。ソラメントは、光を通し近赤外線を通さない特徴を持ち、熱を遮ることができるのです。この粉末は、自動車や建物の窓ガラスなどに使われています。さらに、2023年からは、キャンプ用品やポロシャツや日傘などにも応用されていました。住友金属鉱山は、今回初めて小型ファン付き作業服を試作しました。社内でも、製錬所などでの屋外作業に携わる作業員に使用してもらっています。上着とズボンのセットで、それぞれにファンを搭載していいます。この衣服に取り付ける冷却装置は、海外でも人気が高くなっています。住友金属鉱山の服は、海外展開も視野に入れています。アパレルメーカーに小型ファン付き作業服で、ソラメントを使ってもらうことを働きかけるようです。ちなみに、フランスのアウトドアブランド「Millet (ミレー)」がソラメントを採用したポロシャツは1万890円だそうです。

 暑さに対する対策の中で、新しい材質の開発や改良に成功している企業が勝ち組になるようです。でも、勝ち組がいつも勝つわけではないのです。9月21日は東京の最高気温が31.1度まで上がりました、一方で、最低気温は18.6度になり、その差は10度以上でした。昼間の気温が30度を超える日も多く、スポーツ飲料やハンディーファンなどの販売が好調に続いています。ウエルシアホールディングスなどは、暑さ対策商品の在庫を増やすなどの対応を行っています。一方、日中から夕方へと目を移すと様相が変わります。暑さに順応した体が、少しの温度の低下で、寒さを強く感じるようになっています。ファミリーマートは9月上旬で、中華まんの売り上げが前年同期比30%増のペースで推移しました。スーパーでも、「肉まん」や鍋つゆなどの温かい食品の需要も出始めているのです。残暑が続くなかで、日中と夜間、屋内外などでの寒暖差を対策する商品の販売が伸びているのです。オフィスビルや自宅の冷房で、急に冷えた体を温めたい食品の需要も増えているということです。背景にあるのは、季節の変わり目に大きく変動する気温と日中と朝晩などの温度差になります。この時期、涼しさと温かさの両面から消費を掘り起こすことも必要なことになります。そして、すばやく掘り起こした企業が、ビジネスチャンスをものにできるわけです。

 ビックカメラでは、これまで猛暑商戦をけん引してきたエアコンは需要のピークを過ぎたと判断しました。エアコンの8月の出荷額は、前年同月比14%減の524億円、出荷台数は8%減の66万台になっていました。次の秋の商品や冬の商品の仕入れを考えているようです。アパレル各社も、寒暖差の需要取り込みに工夫をしています。アパレル各社は、脱着などが容易な上着の品ぞろえを増やしています。ユニクロは、今秋からカーディガンなどニットの商品を拡充に努めています。特にカーディガンは空調の効いた室内と屋外での気温の変化に対応できる商品になります。カシミヤのセーターなども含むニット商品は40型、100色をそろえるようです。カーディガンは、気温の変化に対応できる羽織物としての人気が高まっており、商品の種類も充実させているようです。三陽商会も、秋冬から袖なしコートやニットなどの生産数を前年に比べて4割ほど増やしています。気温に応じて、裏地を着脱できるコートや丈の短いアウターなども充実させています。TSIホールディンは11月まで着られるような羽織物の商品数を増やす一方で、秋物衣料の品番数を減らす方針のようです。

 余談になりますが、サウナのような熱い体育館と同じ条件下でも、倒れる子どもと倒れない子どもがいました。倒れた子どもと倒れなかった子どもの違いには、生活習慣の良し悪しがありました。よく寝て食事を規則的に食べている子どもは、倒れない割合が高くなります。生活が不規則な子どもは、倒れる割合が高くなるようです。学校は、子どもの命を守るところでもありますが、一方で逞しい生命を育てる場所でもあります。子ども達も、いずれ暑さや寒さにある程度耐えなければならない能力が求められることになります。耐性の一番低い子どもに集団全体を合わせれば、集団としての能力は低下します。強い子に合わせれば、弱い子は熱中症を発症する割合が高くなります。一般的には、集団の中間に合わせながら、その中間のレベルを少しずつ上げていくことになります。その目安は、小学校であれば、食事と睡眠になります。遅刻が常習化しているクラスでは、家庭での睡眠が十分でないことが推測されます。給食で残り物が多いクラスは、耐性のレベルが低いと判断されます。これらの指標を少しずつでも、高めて行くことが求められます。食事、睡眠、適度な運動を積み上げることにより、健全な身体が形成されます。このような子ども達は、体育館で倒れることが少なくなります。大人についても、このような耐性の視点から、暑さ対策を工夫することが求められるようです。蛇足になりますが、日本の中産階層が減少したために、日本の経済が低迷していいます。中間層を高みに持っていくことも、一つの成長に繋がる施策になるようです。

 最後になりますが、最近、良くできたマニュアルに頼り切る傾向があるといわれています。雨が降っている場合は、近隣で働く人は、スーパーやコンビニの弁当で済ますことが多くなります。これらの店は、データと気象情報サービスから、雨の日はどのような人達がどのくらい来店するか予想して、弁当を発注しています。でも、情報を見る視点は、ベテランと慣れない店員の差が出てきます。発注には降雨の有無を見るだけでは、ダメなのです。雨の強さや降り始めと終わりを確認することが大切になります。雨が強すぎれば、スーパーにもコンビニにもお客は来ないのです。お天気情報とデータから、ロスのない発注が求められるわけです。午前中に雨が降り、午後に晴天になったときは、デパートなどに来店する人が増えます。ここに、ビジネスチャンスが生まれる天候となるわけです。

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