幸福を高める仕組みを生活や仕事に組み込む知恵   アイデア広場 その1662

 社会的な孤独が、1人暮らし世帯の増加で増えています。1人暮らしのシニアには、フレイルになるケースが多くなっています。このフレイルとは、加齢による身体的・精神的・社会的な機能の低下が起こり、「健康」と「要介護」の中間の虚弱な状態を指す言葉になります。各自治体は、フレイルのシニアを増やさないように、さらにフレイルの人を元気にするように対策を練るようになりました。その活動の中で、スキンシツプが少ない人(対人関係の少ない人)は、オキシトシン(幸せホルモン)の量も少ないと報告されるようになりました。ちなみに、幸せホルモンと言われるものにはオキシトシンの他に、セロトニン、ドーパミンなどがあります。オキシトシンが人とのつながりや愛情による幸福感をもたらし、セロトニンが心の安定と健康の基盤を作り、ドーパミンが目標達成の喜びや意欲を高めます。もし、これらのホルモンが十分に分泌される生活パターンができていれば、シニアも若者も健康を享受できることになります。今回は、オキシトシンに絞って、生活の充実を探ってみました。

 出産時に、オキシトシンというホルモンが分泌され、母親が子どもを献身的に育てることが知られています。不思議なことに、愛情を注げば注ぐほど母親は、このホルモンの分泌を増やしていくのです。また、オキシトシンと同じように、バソプレシンも子どもへの愛情に関わるホルモンと言われています。これらは、愛情ホルモンとも言われ、わが子の世話をすればするほど、このホルモンの分泌は高まるのです。わが子を見ただけで、父親の中にはバソプレシンという愛情ホルモンの分泌が高まる方もいるようです。いわゆる、「親ばか」といわれる父親ということになるのかもしれません。この時、父親の愛情が高まると同時に子どもの愛情も高まるのです。親子の関係中で、自分の幸せを求めることは、親子の幸せにつながることになるようです。最近の心理学は、利他的行動が利己的行動に比較してより多くの満足感を得ることを指摘するようになりました。他の人を助けることにより、自分の心が安らかになることも経験的に知られていたことです。利他により他を幸せにし、自分が求めなくても自然にしあわせが得られることもあるようです。

 少し話題がそれますが、外国人労働者の増加に伴って、外国人を含めた異質のチームによる生産性が、注目されるようになりました。チームには、個人にはない発想や知識があります。グーグルは200近いチームを分析し、成果をあげるチームとあげないチームを調べました。それによると、チームのメンバーが優秀か、どんな人材なのかはあまり関係ないようです。チーム内に心理的安全性が確立されている場合に限り、多様性の発想や創造性が得られるというのです。チーム内に、間違いを認めたり、リスクをともなうチャレンジにも寛容さがあると、力が発揮できるというのです。チーム内のメンバーが、お互いの情報を共有することも重要な要素になるようです。外国人でも安心して発言ができて、失敗を許容できるチームが生産性を高めたということです。このチームの効率性を高めるヒントが、オキシトシンの中にあるかもしれません。オキシトシンは、愛情を感じたときに多く分泌されるホルモンです。このオキシトシンの分泌を促進するためには、受動的な刺激あるいは能動的な刺激が必要になります。母子の光景(やり取り)を見れば、よくわかる光景です。母子のやり取りには、いわゆる利他的行動があります。さらに飛躍しますが、このやり取りにはシャーマンが病気を治す場合、利他により自分もしあわせを得ている状況が生まれます。他者の病気を治すことが、シャーマンの幸せを高めることは、未開の世界では知られていいます。チーム内の利他的行為(受動的な刺激あるいは能動的な刺激)が、チームの生産性を高めていたとも言えます。似たようなことは、「母親は子どもを産むと学習能力が高まる」ということも経験的に知られていることです。

 「社会的フレイル」の観点から、幸福の研究が進められるようになりました。慶応大学などの研究チームは、マウスを使ったオキシトシンに関する動物実験を行いました。同じ母親から生まれた兄弟マウスを、1匹飼いと4~5匹のグループ飼いに分け12週問観察しました。すると、1匹飼いのマウスは、グループ飼いと比べてオキシトシンの分泌量が少なくなりました。この実験では分かったことは、社会的な孤独が脳の視床下部から分泌される「幸せホルモン」減少させたことでした。仲間との触れ合いのあるマウスの群れは、ある意味、幸せな環境で生活できたとも言えます。さらに、孤立が身体への影響も及ぼしていることも分かりました。1匹飼いのマウスは、血中の中性脂肪や悪玉コレステロールが上昇して動脈硬化が進行していたのです。12週間の観察の中で、オキシトシンが肝臓に与える影響も調べました。1匹飼いのマウスは、オキシトシンの量が減少し、肝臓の脂質代謝異常を招いて動脈硬化を促進していたのです。ヒトを対象とした臨床研究でも、孤独が心筋梗塞の発症率を高めることが報告されていまます。

 シニアが元気になっていけば、世の中は間違いなく明るくなります。毎日ぼんやりしてばかりだと、気力も体力も衰えるものです。残念ながら、心身の機能が衰えるフレイル(虚弱)が増える状況が生まれています。自分でも気づかないうちに、身体が衰えていたり、もの忘れが進んでいる状況を心配するシニアも増えました。早期にフレイルを気づくことができれば、寝たきりなど深刻な事態になることが防げます。このフレイルは、3種類に大別されるようです。1つが身体的機能の低下を示す「身体的フレイル」、2つめは認知能力が落ちる「認知的フレイル」、3つは外出機会が減り社会から切り離される「社会的フレイル」になります。特に、社会的フレイルから、残り2つのフレイルに移行することが多いことが分かっています。シニアが孤立すれば、筋肉がますます落ちていくことになります。外に出て、人々との接触が増えれば、エネルギーが多く使われ、生活習慣病などの発症のリスク低下にもつながっていきます。運動は足腰に筋肉をつけ、万病を予防するだけではなく、孤立を防ぐ上でも重要な要素になります。一つの運動の中に、「体を動かす」、「頭を使う」「人とふれあう」の3つの要素が含まれている場合は、理想的な活動になります。「身体的フレイル」、「認知的プしイル」、「社会的フレイル」のフレイルを改善し、健康な状態にしていくことが、今日的課題になっています。

 余談になりますが、シニアが人と触れ合い、その中に運動があれば理想です。一つの解決策ができると、さらに便利な解決策が考案されるものです。その解決策の一つに、中部電力が全国の自治体を対象に展開している「eフレイルナビ」があります。このeフレイルナビ」も、見守りサービスの一つになります。フレイルとなった人は心身の活動が鈍るため、室内での活動量が減ったりします。彼らは、心身の活動が鈍るため、外出時間が減る傾向があります。彼らの行動特徴として、外出や活動などに伴い電使用量の変動幅が縮小する傾向があります。この電力使用量から、居住者の活動量を分析し、フレイル有無を把握する仕組みです。使用電力量を30分ごとに計測し、そのデータを人工知能(AI)、を通して分析します。中部電力のサービスの強みは、精度の高さになります。AIを通した分析でフレイルと判定された人が実際にそうであった割合は、80%以上の精度になります。変動幅の変化からフレイルリスクを数値化し、契約している自治体に連絡する仕組みです。連絡された自治体は、過去のフレイルのスコアから個別訪問を行っています。見守りから、各自に合った活動への参加、そして対人関係の構築などに発展すれば、楽しい地域が形成されるかもしれません。

 最後になりますが、子どもとシニアの話ばかりになりましたが、働き盛りの方の話題も取り上げてみました。他人の「陰口」が、世の中の人々をポジティブな気持ちにする手法があります。それは、いわゆる「ポジティブ陰口」と言われるものです。Aさんがいない場で、さりげなくAさんの好意や敬意を周りに伝える手法です。たとえば、取引のある会社の部署で、いつも書類のやり取りをするAさんがいるとします。そのAさんの行う堅実な仕事が、自分の業績を高めている場合があります。そんな時、お礼を当人に言うことは当然でしょう。でも、それだけでは詰まりません。できればその仕事の卓越性を、彼の上司にそれとなく伝えるのです。つまり、他社の社員への感謝を、その上司に感謝していることを伝えるわけです。堅実な仕事を行う社員への「ポジティブ陰口」が、Aさんの上司にも好影響を与えることになります。お互いが、ウインウインになれます。似たようなことに、他国の文化圏に行ったときには、その国の食文化を賞賛すると、相手に喜んでもらえる現象があります。他国の文化圏でその国の食文化を賞賛すると、信頼関係を深める効果があるというわけです。フランス人に、すき焼きを褒められて、困る日本人はいないでしょう。一方、フランスのワインを美味しそうに飲んでいる日本人は、フランス人に嫌われることは少ないようです。ポジティブ陰口は、相手の承認欲求を満たす効果が高いということです。そんな職場で、働きたいものです。

タイトルとURLをコピーしました