生産性を上げる働きを助けるセロトニン  アイデア広場 その1664

 13~15歳ごろの子どもは、トラブルを起こすことも多く、親にとって困る時期でもあります。受験戦線でキレたり、感性を失っている時、いろいろなもめごとも起きるものです。もっとも、このようなもめごとや困ったことを通して、成長していくことも多いわけです。子どもの成長には、複雑で柔軟な脳神経回路を育てることが求められます。複雑な情報にたくさんふれ、脳を発達させることになります。複雑な脳神経回路を手に入れるためには、多様な経験をすることが大切です。多様な経験の重要性は理解できのですが、これができる子どもと行けない子どもがいることも現実です。たとえば、受験の目標を実現するためにやるべきことの大半は、基本の反復になります。その勉強は、簡単で退屈なことが多いのです。目標を目指すレベルに至るまでには、必ず「退屈で単純なプロセス」が存在するわけです。この単純なプロセスを乗り切る子どもと、負けてしまう子ども達も出てきます。この負けてしまう子どもに見られる特徴は、セロトニンが少ない傾向があります。今回は、セロトニンについての知見を深めてみました。

 セロトニンという物質は、困難なことにぶつかっても、冷静に乗り切るメンタル状態を保ってくれます。面白い報告書があります。サルは、集団で生活をしています。集団には、上下関係が厳密に秩序づけられています。ボス猿とランクの低い猿で比べると、脳内の機能が違うことが知られています。ボス猿はセロトニンの神経伝達物質の受容体が豊富で、セロトニンの働きが活発なのです。セロトニンの働きが活発なことは、ストレスや不安を撥ねのけ敵と対決しても怖気づかないのです。ボス猿にふさわしい行動がとれるわけです。ランクの低い猿ほど、セロトニンの働きが低下しています。セロトニンは、不安をコントロールするうえで不可欠な役割を果たしています。セロトニンの働きが悪いと不安が強くなり、おどおどびくびくして小さくなってしまうのです。さらに、厳しい報告があります。サルの脳にあるセロトニン作動性線維を取り除くと、攻撃行動が増加します。人間の世界でも、セロトニン放出量が少ないほど、反社会的衝動的になる傾向が見られます。特に、犯罪者を起こした男性には顕著に見られるようです。他者を認めない排他的な犯罪者の精神は、不安定な自分に根ざしています。

 セロトニンが心の安定と健康の基盤を作り、オキシトシンが人とのつながりや愛情による幸福感をもたらし、ドーパミンが目標達成の喜びや意欲を高めます。この三つが「セロトニン的幸福」「オキシトシン的幸福」「ドーパミン的幸福」の順で積み重なる「幸せの三段重理論」が提唱されるようになってきました。セロトニンは、睡眠や精神安定に関わる物質でもあります。セロトニンが不足すると、睡眠障害や不安感などマイナスの精神症状に陥りやすくなります。であれば、セロトニンの分泌を増やすことができれば、ストレス耐性を高めることができ、不安な精神を克服することができます。簡単に考えれば、セロトニンの分泌を促す食事をすれば良いことになります。セロトニンの原料は、必須アミノ酸の「トリプトファン」です。この必須アミノ酸は、体内で必要量が生成できないため、食事からとる必要があります。トリプトファンを多く含んでいるのは、肉、魚、豆類といった食材です。しかしながら、これらの食材からトリプトファンをとるたけでは、セロトニンは合成されないのです。トリプトファン合成の過程には、タンパク質代謝に大きく関わる「ビタミンB6」と「鉄」が不可欠になります。また、合成の過程には、神経伝達物質を放出するときに必要となる「Ca」「Mg」の摂取も必要になります。さらに、合成の過程には、その他、脳神経の正常な働きに関わる「ビタミンB12」摂取のも必要になるのです。ここまでが、摂取の基本になります。次の課題は、摂取した栄養をどのように有効に合成していくかになります。

 パフオーマンスを高めるには、良質な睡眠が重要な要素になります。この睡眠を考える場合、セロトニンが重要な要素になります。人間は、日の出とともに活動的になり、日の入りとともに活動を低下させていくように進化してきました。セロトニンとメラトニンの循環が、良質な活動と睡眠を作り出しています。朝の太陽光で、網膜が自然光を感知すると、セロトニンという脳内神経伝達物質が分泌されます。セロトニンは、覚醒のホルモンで、朝分泌され、脳の働きが良くします。このセロトニンは、脳神経回路に信号を行きわたりやすくして、脳に覚醒をもたらすのです。夜はセロトニンの分泌が減り、セロトニンからメラトニンがつくられます。メラトニンは、良質な睡眠をもたらします。睡眠とは、身体が休むときに脳の活動をしっかり低下させるシステムです。良い睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に90分の周期で起こるといわれています。深いノンレム睡眠中は、子どもの成長や身体の傷の修復に関係する成長ホルモンが分泌されます。正常な成長発達に、必要なホルモンです。細菌やウイルスが身体に侵入すると防御機構が働き、ノンレム睡眠を誘発し免疫物質を作ります。眠りが免疫物質を作り、身体を防御するわけです。このように、睡眠は人間の成長と健康維持に必要不可欠なものとなっているわけです。この必要不可欠な物質に、セロトニンが位置しているわけです。

 食事と睡眠の他に要因が、運動になります。運動による身体への刺激は、生活リズム向上のために有効です。運動量が増えると、セロトニンの分泌が促されます。セロトニンの分泌を促す運動が、注目されるようになりました。たとえば、ウオーキングがうつ症状の改善に役立つことが明らかになってきました。2023年版の「過労死等防止対策白書」では、うつ病についての言及がありました。人間の感情には、喜び、高揚、幸感、快感、悲しみ、落胆、恐怖、不安、怒りなどがあります。これらの中で不安などの負の感情が多くなれば、「うつ」の状態になりやすくなります。一方、これらの負の感情を適度に発散することを行えば、より良い状態が保てることになります。この発散法の一つに、ウオーキングなどの運動があるわけです。ある実験で、運動の重要性が明らかになりました。うつ病の患者に、薬のグループと運動処方のグループに分けて実験を4ヶ月間行ったのです。うつ病の患者は、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が減少しています。これを、薬のグループは抗うつ剤で補うことにしました。この結果は、どちらもグループにも同程度の幸福感をもたらすという有意義な結果をもたらしました。この幸福度の改善は、運動が抗うつ剤と同じだけの効果があることを証明したわけです。さらに時間が過ぎるにつれて、運動の効果の優位性が浮かび上がってきました。抗うつ剤を飲んだグループは、6ヶ月後38%が再びうつ状態に戻っていたのです。運動療法をしたグループは、6ヶ月後の再発率はわずか9%でした。運動療法は、「うつ」の状態から90%以上を解放したことになります。

 余談ですが、朝の太陽光で、網膜が自然光を感知すると、セロトニンという脳内神経伝達物質が分泌されます。セロトニンは、脳神経回路に信号を行きわたりやすくして、脳に覚醒をもたらすのです。セロトニンという物質は、困難なことにぶつかっても、冷静に乗り切るメンタル状態を保ってくれます。子ども達は課題に直面している時、そして関心のあることに夢中になっている時、左脳も右脳も問題解決のための積極的な活動をしているのです。この活動をセロトニンが心の安定と健康の立場から支え、オキシトシンが人とのつながりや愛情による高揚感や幸福感をもたらし、ドーパミンが目標達成の喜びや意欲を高めているわけです。最近、「セロトニン的幸福」「オキシトシン的幸福」「ドーパミン的幸福」の順で積み重なる「幸せの三段重理論」が提唱されるようになってきたわけです。幼児期のころから、このメカニズムが発達している子ども達がいます。それは、早寝や早起き、そして朝ごはんの習慣化ができていいて、読書や適度な運動の習慣がある子ども達に多く見られます。

 最後になりますが、セロトニンの働きが弱まると、不安や抑うつ症状を引き起こすと言われます。そうであれば、適度なセロトニンの分泌を行えば良いことになります。セロトニン分泌は、バランスの良い食事、睡眠とまぶしい太陽、そして適度な運動よって促進されます。適度な運動と適度な睡眠、そして朝起きた時に太陽の光を浴びれば、セロトニンの分泌は確保されます。現代社会では避けることのできないストレスを、上手に発散するスキルも必要です。でも、さらに進んで、ストレスを寄せ付けない幸せを身にまとうことも選択肢になります。創造的で生産性の高い仕事を実現するためには、「幸せの三段重理論」に基づいたスキルも身に付けておきたいものです。すでに、いくつかの企業は、「運動」「食事」「睡眠」「環境要素」の情報を集め、健康サービスの乗り出す企業がでてきています。楽しく、生産的で、健康な社会を構築したいものです。

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