スポーツ活動で健全な行動様式を身に付ける アイデア広場 その1666

 小中の給食の無償化や高校の授業料無償化などによって、子どもの教育費は少なくなったと思われがちです。でも、子どもの教育費は、増えているのです。その一つが、部活動になります。子どもの部活動にかかるお金に悩む保護者が、目立つようになってきました。グローブ、テニスラケット、水着、競技用靴などのスポーツ用品は、2020年に比べ軒並み約13~24%上昇しています。この上昇は、所得の上昇を上回る伸びになっています。「入学直後に、部活でこんなにお金がかかるとは思わなかった」と、お母さんが嘆いています。高校で野球部に入った長男(16)は、5万円以上のグローブを買うことになりました。他にも、ユニホームや公式戦用の帽子などで10万円ほどかかりました。これで、終わりではなかったのです。スポーツ用具などに加えて、試合や合宿の費用、さらに遠征かかるバス代など授業料を上回る出費がかかりました。経済的な理由で入部をためらったり、退部したりする生徒も出てきています。家計の経済力の差が、子どもの「体験格差」に直結しかねない状況が生まれているのです。

 スポーツは、社会秩序を学ぶ場所という役割を担ってきました。スポーツ活動や文化活動への参加は、様々な環境の子どもが接点をもつ媒介的機能を持っていました。この活動をする中で、ルールを守る大切さや人間関係を学ぶ機会を提供してきました。スポーツにおいて何かを達成しようと動機づけられるときには、ふつう2の目標があります。それは、学習目標(ラーニング・ゴール)と遂行目標(パフォーマンス・ゴール)になります。学習目標をもつことは、学習することで自分の知識やスキルを増やすことそのものを目標とします。これは、自分の技能や見識を高めることを目標とすることになります。他人の目など気にしない自分が、納得するまで学習や練習を続けることです。もっと広くとれば、学ぶことや練習することが楽しいから、このことを楽しむこと自体が目的になります。一方、遂行目標をもつ人は、学習による成果や社会的な評価といったものを目標にしています。この遂行目標とはスポーツや勉強の結果、得られるもののことであり、勉強や練習そのものは手段にすぎないということになります。自分は他人より能力がまさっていることを示すために必死に頑張る遂行目標は、得られた成果によって自分が他人よりまさっていることを認識することが重視されます。この2つの動機づけは、どちらも必要のようです。でもスポーツにおいて、この目標を達成するためには、スポーツをする場がなければできません。今、経済格差により、スポーツが十分にできずに、より良い成長に必要な経験ができないない子ども達が出てきているのです。

 現在、学校の負担が重くなり、部活動を地域に移行する動きが出てきています。部活動(スポーツ活動や文化活動)を学校から地域に移す動きに伴い、費用負担が増えるのではと危ぶむ声も出るようになりました。今後広がっていくとみられる公立中学校などの「部活の地域展開」には、費用の壁があるようです。地域展開のスポーツクラブの費用は、一般に部活より高い費用の現実があります。学校の部動部の年間費用は、平均約5万1000円になります。一方、スポーツクラブは15万6000円と3倍ほどの違いがあります。学校の部活では、指導費、施設費、交通費などがほぼ無料になります。でも、スポーツクラブでは、これらに費用が付きまといます。たとえば、競技用スパイクは、定期的な買い替えを求められる例も多くなります。スパイク一つをとっても、種目によっては競技場が芝か土かなどの違いで複数のスパイクを用意しなければなりません。現在も、そしてこれからも

 部活動に参加する場合、家計が負担する実額は増えることになります。個々の家庭では、スポーツ用具の費用を抑えようとしています。でも、企業による製品のピーアールによって、高額商品の購入が後を絶たないようです。逆の見方をすると、スポーツ用品を生産・販売する企業の利益は、高止まりする流れができているのです。

 悲観的な流れを見るだけでは、つまりません。スポーツ用品を安く手に入れる過程で、利益を上げる工夫も面白いかもしれません。条件は、「ライト」な活動にすることから始まります。団塊世代の子ども時代の野球は、三角ベースなどの形式もありました。少人数で、やわらかいボールを手で打って、野球を楽しんでいました。もちろん、グローブを持っている子もいましたが、手で十分に野球ができていました。現在の部活動は、プロ野球のルールや用具を、子ども用にしたものが主流です。なぜか、公認された用具が使われるようになっています。当然高価になります。もっとも、軟式でも硬式でも、グローブはそれなりのもの(5万円もする)を使うようになります。でも、安全でそれなりの皮のグローブ(安い品物)を用意すれば良いわけです。革製品が、安い国はインドになります。インドは革靴の生産が盛んで、世界から需要が寄せられています。ちなみに、フランスで作られる靴が20とするとイタリアが14、フィリピンが4、中国が0.6、そしてインドは0.2の価格でできるのです。皮革が十分にあり、人件費は低コストというメリットが、インドの革靴の人気を高めています。ここで、革靴の職人の方に皮のグローブを作ってもらうビジネスを始めたらどうなるでしょう。もし実現すれば、それを輸入し格安のグローブを使用することも可能になります。

 「ライト」な活動にした場合、マルチタスク的な経験ができます。部活動を行うためには、お金が必要になります。このお金を、部員全員で稼ぐ仕組みを作るわけです。今、農家では人手不足に悩んでいます。たとえば、青森県弘前市は、人手不足の解決策として、市職員がリンゴ農家でのアルバイトをできるようにした事例があります。北海道の十勝地方でも、1日単位でアルバイトを雇う専用マッチングアプリを利用しています。道内では、9月のタマネギの収穫、9~11月には特産のジャガイモや長芋、長ネギの収穫期を迎えます。農家が募集する仕事は、「ジヤガイモ収穫」「ネギ箱詰め」など機械を操作しない単純作業になります。一つのチームが、お金を稼げる場は用意されつつあります。この部員全員でバイトをし、部の運営費を稼ぐヒントは、福農連携の事例にみることができます。ある試算によると、障害者が地方で自立した生活を送るためには最低月11万円は必要になります。障害者の方は、障害年金をもらえます。障害者年金を月7万円もらい、障害者が働いて4万円を稼ぐと11万円になります。そこで、鹿児島のあるリーダーは試行錯誤を重ねながら、この稼ぐ仕組みを作り出したのです。障害者の自立を支援する職員には、20万の給料が国から入ってきます。この職員が自分の給料20万円を、5人の障害者に4万円ずつ分けると11万円になります。そして、職員と5人の障害者が一緒になって20万円を稼げばよいと考えたのです。現在、障害者が取り組んでいる作業は、種まきや草取り、収穫運搬などさまざまです。それぞれが、自分のできることを行い、できないことがあればできる人がそれを補ったり、教えたりするようにしています。基本は、障害者の目線ですべての作業工程を見直すことでした。作業工程を見直すことで、経験、身体能力、年齢に関わらず、誰にでもできる作業にしていったのです。職員と障害者が一緒に農業をやることで、成果を上げることができるようになりました。中学や高校の部活動でも、このような仕組みを取り入れることは可能でしょう。このような仕組みを、地区の農家と契約を結んで、農繁期にお手伝いという形で、作業をお手伝いすることも、貴重な経験になるかもしれません。

 余談ですが、地域移行のスポーツクラブでは、費用の負担が膨らむことは間違いないようです。文化系でも吹奏楽部などで使われる楽器では価格高騰の目立つ品目が多いのです。この負担が増えていくのを放置すれば、子どもたちの体験格差が大きくなっていきます。現状ほど専門的な用具をそろえなくとも良い括動を準備することも選択肢です。地域のボランティアらも含めて、現状より「ライト」な活動を幅広く提供すことも選択肢になります。特定の部活に絞って、長い間参加し続けることを避ければ、ライトな活動になります。短期間に色々なスポーツや文化活動を体験できるようにすることです。そのうえで春は、野球、夏はフットボールなど、季節ごとに活動を変えていくことも選択肢です。部活動の参加は自由であると本質的に保証し、米国のような「シーズン制」を導入することも選択肢になります。

 最後になりますが、全米大学体育協会(NCAA)では、スポーツ漬けにはならないルールがあります。ここには、体調管理や学業への配慮で練習日数や練習時間を制限するルールがあるのです。NCAAで競技を続けるには、毎日継続的な勉強をやるしかない環境に放り込まれます。ある意味で、競技を続けるためには毎日継続的な勉強の習慣をつくることが不可欠です。スタンフォード大ほどの超名門でなくてもNCMのI部校なら、アスリートをサポートする環境が整っています。NCAAのI部校の環境は、トレーニング施設や学業のサポートを含めて豊富にそろえてあります。勉強との両立は大変との指摘がありますが、その大変さがプラスに転じる可能性のほうが高いと言われています。スポーツをやれば、各種の能力が自然とつくわけではありません。スポーツの場面で、意図的に忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーションなど能力を高める取り組みをする時に身に付いていくものです。

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