そろそろ、消費者も物価の上昇に対策を工夫するようになりました。その兆候は、中国の方からやってきました。中国人の爆買いは終了し、必要なものやサービスをリーズナブルな価格で手に入れるようになりました。そのサービスを中国の人々に提供してきた企業の一つがサイゼリヤになります。この流れは、日本国内でも消費者に受け入れられたようです。2025牟8月期の通期決算は、売上高が前の期比14%増の2567億円、純利益は37%増の111億円の業績を上げています。3年連続の最高益を上げ、値頃感で消費者を捉え、客数の増加を実現しています。多くの企業は、原料や人件費、そして輸送費が上がれば、その上昇分を製品やサービスに上乗せしてきました。そのような状況の中で、サイゼリヤは、「原価高騰による単純な値上げはしない」、「仕入れ先の集約などを通じて調達コストを引き下げる」、「セルフレジの活用などで効率的な店舗運営を図る」などの対策を取ってきました。サイゼリヤは、原材料や人件費などコストが高止まりするなか、店舗運営の効率化を進め、割安感を保ちつつ客数を伸ばす戦略に取組んでいます。値上げが横並びする業界にあって、値上げをしないで利益を上げる企業が、これからは見直されるのかもしれません。
サービスと言えば、コンビニの業態には素晴らしいものがあります。消費者のニーズに沿った商品の開発を行ってきた積極的姿勢が、コンビの成長を支えてきました。コンビニ店を見るとわかりますが、商品の配置が合理的になされています。店の売り場は、商品カテゴリーによって4つの温度帯に分けられています。常温の棚には、日用雑貨、カップ麺などの加工品、菓子類などが置いてあります。20度の温度の棚には、おにぎりや弁当などです。次に、チルドがあり、サンドイッチ、惣菜、麺類になります。最後は、冷凍でアイスクリーム、冷凍食品という具合です。コンビニは、POSデータを分析し、商品の売れ行きに応じた商品を適時提供してきました。でも、今はより進化して、マスから個人に販売戦略を変えつつあります。セブンイレブンはスマホアプリを刷新し、購買履歴履に合わせた個別の商品の提案を行っています。このアプリの利用率の高いお店は、客数の伸びが大きいという結果を出しています。他のコンビニも、個人の購買履歴に合わせた商品やサービスを提案するようになり始めました。これらの流れは、個々人の消費ニーズをベースにした商品の品ぞろえができることを意味します。コンビニは、順調に成長してきました。でも、暗雲が東京のコンビニに漂い始めました。
埼玉県が地盤で、千葉県など首都圏で広く店舗展開するヤオコーがあります。このヤオコーは、不動産賃料などコストが高く、事業の見通しを立てにくい東京への出店には慎重でした。この企業が、今年6月、はじめて東京23区内に出店しました。「クイーンズ伊勢丹」閉店跡を利用した杉並区内の店舗で、ノウハウを蓄積しながら23区内の店を増やそうとしています。この新勢力は、安さなど新たな魅力を都内の顧客にアピールする戦略です。価格の高騰に嫌気を刺した消費者を、抱え込む作戦です。価格競争が激化すると、コンビニには大きな脅威となります。安さを都内の顧客にアピールすれば、迎え撃つコンビニは現状維持では生き残れない情勢です。コンビニが価格勝負を避けるなら、商品やサービスで新たな魅力を生み出さすことになります。もっとも、激しい競争は、消費者である都民にはメリットが出てきます。人口が集まる場所には、価格の競争もサービスの競争もイノベーションも集中するようになります。
近場の埼玉からだけでなく、遠くの九州からも東京に進出する企業がトライアルになります。トライアルの強みは、商売を積み上げてきた田舎の大型店になります。でも、大型店での東京進出には無理がありました。そこで、東京に適した出店としてトライアルGOを福岡で実験を重ねてきました。これは、トライアル得意のデジタル技術を駆使した無人に近い店舗運営になります。無人に近い店舗運営で、コストを下げた小型スーパーという仕様になります。もう一つの東京進出の切り札は、東京地盤の西友を買収したことです。トライアルグループの経営幹部を務め、7月から西友社長に就いた楢木野仁司氏は、3800億円の買収価格も十分にリターンを得られると考えています。西友は、店舗の老朽化が目立ちますが、東京都内に多くの店をもつのが強みになります。この西友の店舗が、トライアルGO展開の「母店」として活用できれば、その価値は格段に高まるという狙いです。
トライアルが、東京を軸にして都市型小型店に挑戦するのには明確な理由があります。トライアルが店舗を広げてきた地方は、人口減少に見舞われています。小売業界にとって事業で重要なことは、人口動態になります。人口の多い地域での営業が、利益の増大に繋がります。都道府県別でみると、人口が増えたのは東京都と千葉県だけなのです。トライアルの東京進出は、各業界から注目されています。トライアルの小型店の成長性に注目しているのは、大手食品メーカーに多いようです。「セブンイレブン」など、圧倒的な知名度をもつコンビニに対しどんな勝算が:あるのかに注目が集まるのです。福岡にある既存のGOでは、300円台などの安価な弁当が目立ちます。安価で暖かい弁当が、消費者の支持を集めているのです。300円台などの安価な弁当は、生活が楽でない都内の若い層にも支持されそうです。一般にコンビニの弁当は、専用工場などで集中してつくられ遠くから運ばれてきます。一方、トライアルの弁当は、東京の西友の各店舗で調理して、トライアルGOへ運んでいく方式です。既存の施設が、有効利用できるというメリットを生かすわけです。
イオンもまた、首都圏進出を狙い始めました。イオンは、三重県が発祥で、郊外の大型ショッピングセンターを主軸に成長してきました。イオンも歴史的には東京での存在感が薄いが、このところ攻めの姿勢が鮮明になってきています。東京進出は苦戦していましたが、ようやく運営が軌道に乗り出店が加速しています。その一つが、「コンビニキラー」と異名を取る、小型スーパー「ますばすけっと」になります。この「まいばすけっと」は、イオンにとって東京攻略の中軸になります。イオンのプライベートブランドなどを開発し、コンビニよりも価格を抑えた食品が強みになっています。「まいばすけっと」の7割が東京都内に集中しています。都内消費者の中には、物価高に苦しむ方もいます。「まいばすけっと」は、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で約1200店を展開しています。「まいばすけっと」を消費者が支持する流れができてきたので、イオンは、総店舗数を2030年までに2倍以上の2500店体制にする構想を持っています。小売業にとって、首都圏は、今後も最重要地域になります。ここでの勝者が、日本の勝者になる可能性があります。
最後になりますが、コンビニは、立地の限界、人材の限界、そして我儘な顧客ニーズを克服してきたわけです。現在の深夜営業の課題も、コンビニ各社が加盟店への支援策として時短営業の取り組みを進め始めました。加盟店が時短営業を希望すれば、本部がそれに合わせるとしています。利用客が自ら精算するセルフレジの導入で、省力化を図ろうとしているコンビニもあります。ただ、これらの対症療法だけでは、不十分な面もあるようです。コンビニのサンドイッチやおにぎりの販売ピークは、朝になります。朝の時間帯は通勤や通学の途中のお客さんがコンビニに寄って、朝食やランチ用に買っていきます。この時間帯に買ったサンドイッチは、サッパリでかつシャキッとする野菜が不可欠です。コンビニができたころ、野菜は収穫後、常温で保存保管されていたために、劣化を防ぐことは困難でした。この劣化がある限り、サッパリでシャキッとするサンドイッチできませんでした。この課題を解決するために、セブンイレブンは、有志の農家に呼びかけ、産地からセンター製造工場へ、そして店舗まで野菜を運ぶシステムを構築しました。産地から店舗まで低温で野菜を運ぶシステムを独自で作ったのです。この低温輸送は、サンドイッチをはじめ、サラダや惣菜の野菜も新鮮な状態で店頭に並べるイノベーションを実現しました。そして現在は、そのイノベーションを超える消費者のニーズをかなえる安価とか環境に優しいとか要素も求められるようになりました。首都圏を目指す小売業の方には、ぜひ多様な工夫をして頂きたいものです。
