放射能汚染地区の森林有効活用に挑戦 アイデア広場 その1675

 福島第一原発事故では、原発から西側に位置する福島県浜通りの阿武隈山地に放射性物質が広がっています。ほとんどの放射性物質は、森林の土壌表面から深さ5センチまでのところにとどまっています。山地の樹木を伐採して除染すると、大量の除染廃棄物が出るうえ、費用も膨大になります。一方、樹木の幹や枝だけを伐採して搬出すれば、放射性物質は拡散しないですみます。放射能で汚染された森林を、有効活用できないかと挑戦する組織が現れました。福島国際研究教育機構(エフレイ、福島県浪江町)は、バイオ燃料製造技術を使用して、木を伐採するだけで土壌には手を付けない方式を開発しました。この試みが実用化できれば、除染を実施しなくても林業が再生できると期待されています。エフレイは、森林汚染の将来予測も公表しています。阿武隈山地の主な樹種は、針葉樹のスギと広葉樹のコナラになります。スギは対策をとらなくても、セシウムが雨で流れ出し樹皮にほとんど残りません。一方、コナラはカリウムの施肥や落ち葉の除去などの対策が必要になります。コナラなどにセシウムが付着したバイオ炭などはそのまま土壌に埋める方針になるようです。

 原発事故後の除染は、居住地周辺に限られ、森林は手つかずの状態になっています。広大な森林が、利用されていないのです。エフレイは放射性物質に汚染された森林から、バイオ燃料を製造する技術開発に乗り出します。2029年度にも、汚染された森林からバイオ燃料を製造する実証試験を始めます。この実験は、エフレイの森林バイオ活用有機合成研究ユニットリーダーが中心になって取り組むことになります。弘前大学や東北大学、大阪大学、デロイトトーマツコンサルテイノダなどが参加しています。実証実験では、まず木材に含まれるセルロースやリグニンを熱分解します。セルロースやリグニンを熱分解して、ガス化した水素や一酸化炭素などを取り出します。その後、化学反応を促す触媒を使ってガスからバイオ燃料や化学品を合成するという流れです。いずれも確立した技術で、効率の高い触媒を新しく開発する点が実用化の核心になるようです。

 今回は、この事業に付加価値を添える提案になります。提案の1つは、放射能が拡散した地域に、バイオマスの燃料となる短周期栽培の木材を育てることになります。ヤナギは、木質バイオマス資源として有効な樹種です。ヤナギは、挿し木が容易であること、成長が早いこと、萌芽再生能力(切り株から再成長する能力が強い)という性質があります。この木は、刈り取り後の萌芽、更新能力が高く、再造林が必要ないという利点があります。1年収穫の場合、1.5mから3mに成長します。萌芽後の2年間で4mを越える高さに成長します。苗の株間隔を50cm、列間隔1.5mで密度2万本を1haに植えました。この1年後には、1本の枝の総量は平均0.6kgに成長していました。炭素は樹種によらず、全体の50%を占めていることがわかっています。式にすると、0.6k kg×2万本×0.5=6000kgとなります。ヤナギの木を1haの人工林に植林すると、6トンの炭素を光合成によって作れることになるわけです。1haあたり2万本の苗木を植えます。これを1年後にハーベスターで伐採し、ペレットにしていくわけです。このヤナギを木質バイオマスにする場合、輸送費の問題がありました。木質バイオの場合、輸送距離がネックになります。できれば50km以内が理想なのです。この理想をかなえる仕組みにが、エフレイにはありました。エフレイには当初から、コンテナサイズの小型装置を試作してトレーラーに積んでトラックで山間部に運ぶ計画でした。現場でバイオ燃料を製造して,木材を山間部から運び出さなくてもよい方式です。この方式ですと、製造コストを抑えられるメリットが生じます。

 2つ目の提案は、カーボンプライシングになります。2033年以降は、特定事業者負担金の制度開始により、賦課金・負担金の総額が大きくなるとされています。日本エネルギー経済研究所の試算では、2050年時点で化石燃料賦課金が約6000円/t-CO2、特定事業者負担金は約1万9000円/t-CO2程度まで上昇する可能性が示されています。この知見から、ヤナギの木をバイオマスとして燃やすだけでなく、燃やした二酸化炭素を地中に貯留という工程を毎年も繰り返すことで、利益を得ることも可能です。たとえば、1000ha(10k㎡)の人工林を作り、人工林には、短周期栽培の木材を育てることになります。6000トンの二酸化酸素を地中に貯留していくことになります。成長したヤナギを1年後にハーベスターで伐採し、ペレットにしていきます。木材の成長、伐採、ペレット、バイオ燃焼、二酸化炭素(CO2)は地中に貯留という工程を毎年も繰り返すことになります。バイオ燃焼による発電で利益を上げます。そして、カーボンプライシングで1トンにつき約1万円を稼ぎます。カーボンプライシングとは、二酸化炭素(CO2)排出に対して価格付けし、市場メカニズムを円滑にするものです。このような形で、地球に貢献できれば楽しいことになります。

 最後に、福島県に住むものとして、一言。 除染の目安とされてきた毎時0.23マイクロシーベルトは、国際的な安全基準になります。「0.23マイクロシーベルトは、自然界の実効線量0.04マイクロシーベルトを引いた0.19マイクロシーベルトを、365日続けて被曝して1年間で1ミリシーベルトになりますよ」という意味です。この基準が過大に評価され、風評被害の原因の一つになってきたのかもしれません。事故直後、空間の線量が0.23マイクロシーベルトならば、人が被曝する線量も0.23マイクロシーベルトとする専門家もいたようです。実は、空間の線量がそのまま人体に入るわけではないのです。また。家の中にいれば、さらに少なくなります。0.23マイクロシーベルトを基準とする外部被曝線量の計算方法は現状に合わずその値の半分程度だということが分かっています。ちなみに、毎年5ミリシーベルトの被爆を受け続けた場合の平均余命は0.27年短くなるという数値もあるようです。目標値が0.23 マイクロシーベルトとなったことが、いつまでも除染が続く状況を作り出しているという弊害も出てきています。除染事業費については、国の直轄事業区域が2兆円、市町村事業区域が3兆円となっています。このお金を別の復興事業にまわせば、より豊かな地域になっていたかもしれません。

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