日本のキャリア官僚が、優秀であることは世界的に知られていることです。資源のない国で、これだけの経済力を持つ国に押し上げた力の一端は、日本の官僚の能力によるものでしょう。一方、世界を見渡すと、官僚の悪い点を指摘する学説も見られます。英国の政治学者であるパーキンソン氏は、官僚の時間や予算の使い方に関する興味深い特性を見出しました。官僚は使える予算があるとめいっぱい使ってしまうといいます。さらに、官僚は作業をするためにある時間を与えられると、その時間をめいっぱい使う特徴があります。官僚には、選択を先延ばしにし、現在の状況を維持しようとする傾向があるというのです。残念ながら、日本の官僚にも、このような傾向が出てきたようです。
面白いことに官僚と反対の行動が「注意欠如・多動性障害(ADHD)」の方に見られるのです。ADHDの方は、落ち着きがなく好奇心のままに瞬間的に行動する傾向があります。一方、最近の学説では、ADHDは生存に有利に働く可能性があることが指摘されるようになりました。この困った行動が矯正すべき問題というよりも、ある場面においては強みとなる可能性もあるというのです。ある場面とは、文明の視点で考察すると、狩猟社会と農業社会ということになります。狩猟社会において異変が起きた場合に、行動を変える特性があります。行動を柔軟に変えることにより、狩りの成功率を高め、外敵に備えたりすることができました。一方、農業社会では社会の上層部が決めた農作業を規則正しく行うことを奨励されました。官僚制の萌芽が見られたわけです。
人類の歴史をよく見ると、特殊な人たちが、伝統的で、官僚的で、消極的な習慣を破壊し、社会を改革してきた事実もあります。それらの人々は、新奇探索傾向を持つ人たちです。ある意味で、新奇探索傾向は、農耕以前の狩猟採集社会において、生き残るために有利な特性でした。新奇探索行動を示す現代人のなかには、注意欠陥や多動性障害の方に多く見られます。ADHDの方は安定した社会において、ネガティブな評価に甘んじています。でも、その彼らの行動が人の心をつかみ、課題をシンプルに解決する方法を発見してくれることがあります。良いアイデアや発想には、いつでも人の心をつかむ明快さがあります。パーキンソンの法則に見られるような資金や時間の浪費より、必要な所に必要な資金を投じる仕組みがシンプルで分かりやすいものもあります。
ある学者は、新奇探索傾向と仕事を先延ばしにする傾向のせめぎあいが続いてきたと唱えます。2つを融合すれば、新しい局面が生まれるかもしれないというわけです。日本には、経済的価値を高めてきた優秀な官僚の方がいます。ADHDの方たちには、長嶋茂雄、マイケル・フェルプス、ウィル・スミス、黒柳徹子、さかなクンなどの才能を持った人たちがいます。ADHDの方たちと優秀な官僚が、長所を発揮しながらタッグを組めば、豊かな社会の可能性が生まれます。イノベーションとは、簡単に言えば、「経済的な価値を生み出す新しいもの」です。イノベーションで大事なことは、「経済的な価値」と「新しい」という2つの要素になります。官僚の発想とADHDの発想の融合が、日本の発展に寄与するかもしれません。
