物流にも余裕が求められる時代になりました アイデア広場 その1691

 現在の物流は「安く、早く」の流れになっています。ある物流大手の幹部はこのままでは、運び切れなくなると苦境を語っています。国内の営業用トラックの積載率は、2020年度に4割を切りました。これは、4割の積み荷と6割の空間で輸送と行っていることを意味します。6割の無駄の理由は、早く届けるために荷台が埋っていなくても走らせるために起きています。もちろん、積載率や空きスペースの問題に対して、いくつかの企業は対応をしています。アサヒ飲料と日清食品は、共同配送を行っています。アサヒは、茨城県の工場で生産した飲料を佐賀県の配送センターに輸送します。このとき、積載重量の限界を超えないように調整しているので、トラックの荷台には隙間ができます。この荷台の隙間に、軽い日清の即席麺を積み込むわけです。トラックの空間を、有効利用することになります。

 同じようなことは、サンスターとキューピーでも行っています。サンスターの容積は軽い歯ブラシが中心のために、重量ベースでは限界値の6割を使い、荷台の容積の8割を使ってきました。この場合、営業用トラックの積載率は4割程度で、積載能力も十分に生かされていないわけです。ここに、キューピーの調味料を一緒に積み込むことで、重量ベースで9割を活用できるようになったのです。積載能力を確保するためにも共同配送に踏み切る企業が増えています。経営効率とカーボンフリーの一石二鳥を実現しているのです。

 このような配送の前提条件は、配達に余裕を持っても良いということが認められていることです。配達日程に幅があれば、空きスペースを埋められます。配送時期を遅らせられれば、荷物が集中した日の分を翌日に移すなど業務を平準化できるのです。ゆっくり宅配ができれば、荷物で空きスペースを埋めることができます。必要なトラックの数の数も、ドライバーの負担も、大幅に減らすことができるのです。ゆっくり宅配ができれば、荷物で空きスペースを埋めることができて、温暖化ガスによる環境負荷も引き下げられるわけです。ゆっくり宅配にした場合、配達に余裕ができて、価格を安くできる可能性が出てきます。早く提供することが、宅配の市場原理でした。でも、ここに別の流れが出来つつあります。

 人には便利さや速さだけではなく、密度の濃い時間や空間での過ごし方に価値を求める方もいるようです。たとえば、スローフードの楽しみ方があります。これは、イタリアが発祥の地になります。スローフードは、生物の多様性を大切にして、地産地消を実践し、食経験の豊かな社会の共有がコンセプトになっています。これと対照的なものが、ファーストフードです。これは、便利で安さを追求した画一的料理です。世界のどこで食べても同じ味を、ほぼ同じ料金で食べることができます。でも、健康や地域との文化の融和性にスムーズさを欠くものもありました。部分最適ではあるが、全体最適には、もう少しというレベルです。「速い安い」部分最適から、株主、顧客、従業員、「地域社会」と「自然」などの多くの要素を満足させる全体最適の視野で考えなければならない流れが、業界の枠を超えて進んでいるようです。

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