感情AIが人間の不安を抑制する  アイデア広場 その1708

 労働の種類は、ブルーカラーとホワイトカラーの2つに大別されるのが一般的でした。ブルーカラーは、労働の現場で主に体力が求められる「肉体労働」ともいえます。一方、ホワイトカラーは、「知識労働」や「頭脳労働」とも呼ばれており、肉体労動とは異なる労働価値がるとされてきました。ホワイトカラーは、高度な知識や思考、判断力が求められるものとされています。ここに、「感情労働」という領域が認知されるようになりました。この3つの労働現場に、AIが進出してくると、いろいろな波紋を起こしています。たとえば、AIが、ホワイトカラーへの職場に進出し、ホワイトカラーの労働者を減らしているのです。このAIの影響は、「感情労働」という領域にも進出し始めています。ブルーカラーとホワイトカラー2つの労働とは異なる価値を持つ第三の労働があります。それが、「感情労働」というものです。感情労働は、サービス業をはじめ、顧客と直に接する仕事を担い、笑顔で応対することが求められます。感情労働は、不快感を押し殺したりするなど、感情をコントロールすることを求められるわけです。蛇足になりますが、就職後3年以内の高卒の離職率を産業別にみると、「宿泊業・飲食サービス業」が63.2%と突出しています。ここからわかることは、感情労働における離職率が高いということです。この職種において、3年後の大学生の内離職率は、49.7%と多い実情があります。この感情労働における離職率を低下させる仕組みができれば、日本の高卒や大卒の離職率の問題を、少し解決できるかもしれません。今回は、感情労働とAIの関連がどのように進むのかを考えてみました。

 人と人が接する仕事には、必ず感情を介したコミュニケーションが存在します。コミュニケーションは、一般的に話し手と聞き手の二者間でのやりとりが基本になります。人は会話しているときには、目の動きや表情しぐさなどで、言語外のメッセージを伝えることがあります。言語外のメッセージを、ノンバーバル(非言語)なメッセージといいます。人は、声の抑揚や姿勢、その場の雰囲気など、言語外の情報を重視することあります。相手のノンバーバルなメジセージを読み取ることで、誤解を少なくすることができます。ノンバーバルなメッセージを読み取ることは、言葉によるコミュニケーションのみにおける誤解を少なくすることが可能になります。多くのサービス業では、適切とされる感情表現のルールが存在します。多様な顧客のすべてに満足する対応は、なかなか難しいものです。顧客との対応に間違わないように自分の心や動きを限定することになり、従来の感情労働は難しいものでした。それが、宿泊業や飲食業における離職率の高さに現れていました。それが、巧みに言葉を操るチャットGPTの登場には、福音と衝撃の両方が同時に起こりました。脳科学の専門家などは、言語が人間に固有の能力だと信じてきました。それが、生成AIにより、瞬く間に破られています。現在は、マニュアル的な感情労働がいずれAIに代替されていくと考える専門家が増えています。

 感情労働者が、抱く不安を解消する方法はないのでしょうか。不安を和らげる仕組みは、古くは占い師やコンピュータ占いなどが担い、現在は心理療法士が主役になっています。心理療法が生活に根付いている文化圏は、キリスト教文化圏です。この文化圏には、懺悔によって心の悩みを打ち明ける習慣が根付いています。そんな土壌が、心理療法を盛んにしているのでしょうか。アメリカでは、日ごろの自己管理のために上手に心理療法(カウンセリング)を利用しています。あたかも、身体を鍛えるフィットネスクラブに通うように、心理療法士の元に通います。フィットネスクラブに通って、心を鍛えているかのようです。日本における心理療法は、アメリカより敷居が高いようです。かなり不安が高まった段階で、始めて心理療法を受ける方が多いのです。心理療法は、言語表現を通じて患者が自己決定をくだせるように導くものです。困ったことに、日本も欧米も患者が年々増えていくという傾向も見られます。専門家の不足が、1つの課題になっているようです。この課題を手っ取り早く解決するツールが、感情AIになっているようです。たとえば、歌舞伎町のホストの約7割が「Chat (チャット) GPT」などの対話型AIを使っています。彼ら・彼女らは、対話型AIに、接客の助言を求めるだけではありません。仕事のつらさや将来への不安を打ち明け、AIの言葉に慰められているといいます。感情労働は、顧客に好ましい感情を意図的に表現したりすることが求められる接客の仕事になります。今まではイライラを誰かに押しつけるか、自分の中にため込むかの二者択一でした。それが、AIとの対話で感情労働の苦しさを軽減できるという状況が生まれているのです。

 おさらいですが、生成AIの言語モデルは、4つの要素から成り立っています。1つは、「教師あり学習」です。「教師あり学習」は、人間が正解データをつくり、そのデータをもとに学習する手法です。2つ目は、「教師なし学習」です。これは機械がデータのなかから自動的に特徴を発見し、グルーピングなどを行う手法です。3つ目は「強化学習」です。「強化学習」は、機械が自律的に環境を探索して得た経験データを学習する手法です。強化学習は、経験データとタスクの成功信号である報酬から意思決定則を学習する手法になります。最後は「自己教師あり学習」ですが、これは人間が作成したものではありません。「自己教師」は、教師データも機械が自動的につくり、その正解データから学習を行います。この学習は、24時間休みなく続けることができます。AIは、疲れないのです。この言語モデル生成AIから、自分が望む出力(答え)を得るためには、適切な「プロンプト」を提示ことが必要です。人間が入力する指示文は、「プロンプト」と呼ばれています。同じ回答を要求する場合でも、プロンプトを工夫するだけで出力がまったく違ってくるのです。たとえば、言語モデル生成AIに、文章で「こんな不安の答えを生成してほしい」と指示すると、指示の希望通りの答えを生成します。プロンプトに「NO1の不安」、「NO1に対する顧客の要望」などの用語を入れれば、出力される内容がより詳細になります。

 余談ですが、ネット上で行き交う短い文面から、その相手がどんな人かを確かめたいという研究は、世界各地で行われています。情報通信研究機構の研究は、数百という少ないデータでも、AIを賢く用いることで、新たな手法の開発したことに高い評価を得ました。この実験では、AIがツイッターの情報から人々の内面を表す23種類の特徴を推定しています。知能や性格のほか、統合失調症やうつ病の精神状態、飲酒や喫煙の生活習慣も読み取っています。たとえば、「いいね」をされた頻度が多いと「漢字の読み書きの能力が高い」とか、毎回のつぶやきで文字数のばらつきが大きいほど「統合失調症の傾向がある」とか、「飲む」「歩く」「時刻表」などの単語を多く使う人は「飲酒の習慣がある」とかの特徴を抽出しているのです。誰もがつぶやけるSNSは、今では社会参加のインフラになっています。そのインフラから、人の内面や健康状態を探り出す技術が開発されつつあるわけです。精神状態や健康状態を把握し、それに対する処方ができる環境が整いつつあるのです。もし、法制度において、この環境を容認することができれば、いわゆるオンライン医療やカウンセリングは可能になるわけです。

 最後になりますが、すでに脳科学に基づいて、消費者の深層心理を分析し、マーケティングに生かす動きがあります。脳科学に基づいて深層心理を分析するマーケティングは、飲料や化粧品大手も採用するようになっています。あるインドの市場調査会社は、表情や声のトーンといった生体データを分析して消費者の感情を解析しています。この解析を元に、消費者のニーズに合った商品を開発しているのです。この手法は、へルスケアや教育といった分野での利用が見込まれています。顔の表情や身体のしぐさから、感情を評価するシステムが開発されてきました。商品を見て、表情やしぐさがポジティブであれば、売れ筋になります。ネガティブなどの表情やしぐさの場合、消えゆく商品になります。これらの蓄積が、マーケティングに生かされていくわけです。感情を解析するAIの世界市場は、2032年に149億ドルに達すると予測されています。また、オンライン医療の中には、いろいろな受診の工夫の芽が出てきています。対面診療の間隔を3ケ月程度に伸ばし、その間2ケ月はオンラインで受診のシステムを使うこともできます。病状が安定していれば、診療の目的が触診など伴わない相談や生活指導であることも多いのです。対面診療とオンライン医療を適切に組み合わせて使えば、医師と患者の双方の負担が減少します。うつ病や統合失調症など精神疾患の治療に、オンライン治療を取り入れることも容易になります。精神疾患では、定期的な通院が難しい患者が少なくありません。そんな場合、オンライン診療も効果を発揮するケースも出てきます。感情AIの活用できる環境は、徐々に整いつつあるようです。

タイトルとURLをコピーしました