再利用できる個人の工夫と個人を助ける制度設計  アイデア広場 その1709

 南米チリの砂漠に、「衣類の墓場」とも呼ばれる光景が広がっています。この砂漠には、世界中から着古した衣類が集められて不法投棄されているのです。それが、2014年には1000億着に達してしまったのです。世界は、過剰な衣服で溢れる状況になりました。一方で、ものを再利用し、修理、再生、共有することで資源を循環させる流れも出てきています。近年、この流れを助ける制度もできつつあります。最近の電子機器は、自分でメンテナンスをするのは難しいものです。この難しい状況を、是正しようという動きが企業側にあるのです。企業が製品を製造する段階で、消費者が容易に修理できるような構造・設計にする動きがでてきています。修理ができるように、部品を市場で簡単に入手できるようにすることを目指す動も出てきています。欧米では、消費者が修理する権利である「リペア権」の整備も政府主導で進められています。

 ものは何度も使われると、価値が下がるように思われます。でも、何度も使ううちに価値が上がるものもあります。私たちは、そんな価値のある使い方を工夫していきたいものです。そのヒントが、アメリカの中古住宅に見られます。日本では、家の値段は買ったときが一番高く、30年もするとほぼ無価値と判断されています。アメリカでは、手入れのよい家が買ったときの値段よりも、売るときの値段がしばしば高くなるのです。彼らは、自分の家と庭のメンテナンスに余念がありません。自らの資産の価値を高めようと、向上心と工夫に余念がないのです。アメリカでは、住んでいる間に住宅に追加投資された分を適正に評価してくれる風土があります。この国では、百年以上経た物件が歴史的な価値が評価に加わり、売買価格が高くなるのです。ニューヨークの戦前の集合住宅は、「戦前物件」とされています。この古い物件は、戦後物件よりも高い値段になるという不思議な現象もあります。この環境重視の社会では、何度も使われ、環境に負荷を与えない再利用のシステムが高い評価を受けることになるようです。

 物価高が、続いています。家計防衛のため、注目されているものが「捨てない経済」になります。「捨てない経済」は、サーキュラーエコノミー循環とも呼ばれています。この「捨てない経済」は、これまで当たり前だった大量生大量消費を見直そうとする発想になります。新しく購入するものを減らせば、家計への負担も軽くできます。節約的な消費行動や買い物の仕方に変えれば、無駄な消費を減らすことにもつながります。無駄を減らす工夫に、再利用があります。再利用の仕組みは、充実してきています。衣類を、リフォームしてくれる事業者もあります。リフォームの中で、個性を表現できるオマケつきもあるようです。靴やバッグは修理してくれる店舗も、各地にあります。使い慣れた品物は、長く使っていると身体の一部になってしまいます。物価高が、叫ばれています。そんな状況の中で、賢くものを使用する視点が求められます。「今買おうとしているものは、無くても何とかなるのではないか」、「何かで代用できないか」と考える習慣をつけることも工夫の1つになります。長く繰り返して使えるものを買い、自分にとって価値が下がらないものを選ぶことになるようです。

  大量生産や画一的サービスは、いくつかの不都合を生み出しています。そんな不都合を乗り越える知恵が、高齢者の介護施設に見ることができました。日本の課題に、高齢者の介護という問題が横たわっています。でも、この状況を別の面から工夫を加えれば、楽しい介護施設にすることもできるのです。日本は、訪問介護と施設介護を合わせて、要介護の方は600万人を超えようとしています。この要介護の方をお世話する介護に関わる職員は、150万人以上になります。たびたび報道されるように、介護の現場は厳しいものがあります。離職率の高い職場でもあります。ある介護施設では、食事、入浴、レクレーションを一律サービスしていたのです。レクレーションは、一つに限定して、内容の濃いものをしていたそうです。このレクレーションのときは、全職員の方が関与する体制をしいていました。このようなレクレーションを行っている中で、要介護者の方が自分たちの好きな別のレクレーションもやりたいと希望を述べたのです。この要介護者の要望で、このレクレーションを7種類に増やしたのです。7種類に増やすと介護者同士の活動が活発になり、全職員の関与が少なくなり、業務が円滑になったそうです。好きなレクレーションになると、参加者同士が教え合うなど意欲の向上が見られるようになりました。介護の一律サービスを、個々の利用者のニーズに合ったものにすることで、要介護者が自律性を取り戻し、介護職員の負担が減り、業務が円滑になった事例になります。介護者が自分でできることを自分でする仕組みの構築は、介護の現場では大事なことになるようです。

 余談になりますが、AIは米国のホワイトカラー労働者の半分を置き換えることになるだろうという予測が現実味を帯びています。AIにはできない技術者を「エッセンシャルワーカー」と呼びます。エッセンシャルワーカーのような役割が、若者に求められています。米建設業協会によると、2026年は建設業界で49万9000人の新規労働者を必要とするとのことです。建築の一部である空調整備の仕事は、床下に潜り込んだりと過酷なうえに細かな手作業を伴います。このような作業のスキルを得るために、職業訓練学校の入学者が増えています。「過去1年間に入学者が20%増加した」と、テキサス州の職業訓練学校の学長が話しています。この職業訓練学校では、自動車機械工、溶接工、配管工、冷暖房空調整備技師などを養成する過程を設けています。約3000ドルの授業料と寮費などを加えても、年間費用は9000ドルになります。この年間費用の9000ドルは、米国の四年制私立大学の10分の1ほどになります。職業訓練学校は、2年で修了します。職業訓練学校の卒業生を採用したいという会社は、引きも切らないようです。興味深いのは、トランプ政権が、ブルーカラー養成を支援していることです。トランプ政権は、ハーバード大学など有名私立大学への助成金をカットしようとしていました。政府が、奨学金を26~27学年度から職業訓練などの短期資格取得プログラムも対象にしています。政権は、ブルーカラーのスキルを必要としているようです。確かに、造船能力は中国の200分の1と言われるまでに低下しています。米国は、船を造る高性能の鉄鋼の生産もままならない状態です。国力の維持の面から、ブルーカラーの養成は必然的な事なのかもしれません。

 最後は、腕利きの弁護士とブルーカラーの給与に関するものになります。この弁護士が住むマンハッタンの自宅アパートで、天井や壁に取り付けたオーディオシステムが故障したのです。修理を頼むと、音響装置の修理技師がポルシェに乗ってやって来たそうです。オーディオシステムが故障して、修理に来た技術者は数千ドルの修理代を請求しました。修理技師は、ハンプトンに別荘を構えていました。ここは、グアイランドの高級避暑地になります。ハンプトンに別荘を構える音響装置の修理技師の方が、腕利き弁護士よりもいい生活をしているのです。また、水道管に水漏れがあったとき、2時間の作業で800ドル(約12万円)を請求されました。ブルーカラーの配管工は、今や医者よりも収入が高い収入を得ているのです。技能を習得し経験を積んだ配管工や自動車整備士などのスキルは、AIには代替できません。そのために、日本では考えられないような状況が生まれているようです。最近の電子機器は、自分でメンテナンスをするのは難しいものです。でも、消費者が容易に修理できるような構造・設計になっていれば、個人の力で修理するができます。このような消費者が修理する権利である「リペア権」の整備を、日本でも、民間企業や政府主導で進めてほしいものです。

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