娯楽産業のチケット高騰に少し抵抗する  アイデア広場 その1719

 ディズニーやユニバーサル・スタジオジャパンは、まだまだ人気が高い状況が続いています。その中で、パークに入れる人と入れない人が出てきている現象もあります。いわゆる格差の問題です。ディズニーは、過去10年で入場料を実質的に6度引き上げています。ユニバーサル・スタジオジャパンも、入場料を2001年の開園当初から1.6~2.1倍に引き上げています。テーマパークの運営会社は、事業成長に向けて高価格路線を進める流れがあります。運営するための土地や労働力などの資源には、制約が付きまといます。制約のある中で、利益を上げる仕組みを作り出します。たとえば、ディズニーが経営する園内の高級ホテルに宿泊すると、開園15分前に入園できる特権が与えられます。たった15分ですが、見たいイベント、乗りたいジェットコースターには、一般の入園者よりも早く行けることができます。お金による格差が、夢の国で生まれているわけです。この影響は、子ども達の入園数の減少という形で現われています。

 なぜ、人々はテーマパークを訪れようとするのでしょうか。それは、遊びを求めているからです。たとえば、幼児を『高い高い』とか『ぐるぐる回す』と喜ぶ笑顔を見ることができます。これらは、遊戯の要素にあるイリンクス(眩暈)なのです。イリンクスは、一瞬だけ知覚の安定を崩し、明晰な意識に一種の心地良いパニックを起こそうとする遊びです。この遊びが、高度化するとコーヒーカップやメリーゴーランドになっていきます。そして、近代になると蒸気機関をつかったメリーゴーランドになっていきます。現代では、圧倒的にディズニーランドやUSJのジェットコースターが人気を集めています。原理的には、イリンクスを巨大装置で再現したものです。蛇足ですが、遊びは、4つの要素から成り立つと言われています。それは、アゴーン(競争)、アレア(運)、ミミクリー(擬態)、イリンクス(眩暈)になります。アゴーン(競争)は、平等という条件の中で戦う闘争です。オリンピツクの100mの競技で金メダルを争うと言えばわかりやすいかもしれません。アレア(運)は、ラテン語でサイコロ遊びを意味します。アレアの例は、サイコロ、ルーレット、表か裏か、バカラ、宝くじなどに見られます。ミミクリーは、簡単にいうと物まね遊びです。子ども達は、母親ごっこや料理ごっこ、そしてお店屋さんごっこなどをします。ミミクリーの行為は、子どもの世界を越えて、大人の生活にも侵入していきます。この行為は、ディズニーランドでミッキーの仮面をつけるようなものです。もちろん、ミミクリーの行為は、芝居の上演や演技にも及ぶことになります。ミミクリーの最高傑作は、パントマイムと言われています。テーマパークでは、ミミクリーとイリンクスを重点的に展開しているようです。蛇足になりますが、ラスベガスは娯楽の殿堂といわれ、24時間営業のカジノなどが行われています。ラスベガスの場合、アゴーン、アレア、ミミクリー、イリンクスのすべてがありますが、アレアに最も重点がおかれています。

 ディズニーランド発祥地の米国でも、値上がりが続いています。コロナ禍の終わった頃から、ディズニーでは入園料の値上げや高額な優先搭乗券を相次ぎ導入し始めています。1時間あたり450~900ドルほどでガイド付きで、優先搭乗できるVIPツアーが登場しました。この優先搭乗だけではなく、園のチケットそのものも値上がりが続く状況になりました。入場料が、開業後69年間の歴史で初めて 200ドルを超えたのです。極め付けが、「ライトニングレーン・プレミアパス」になります。最大449ドル(約6万9000円)で、待ち時間なくアトラクションに乗れるパスを導入したのです。4人家族が1泊でディズニーに行った時にかかる平均費用は、節約すれば1227ドルになります。でも、値上げ後の入園料や新しいプレミアパスを加味すると入園と優先搭乗だけで最大2592ドルになるのです。ディズニーは1人100ドルの入園料で100人を入れて1万ドルの収益を得ることができます。さらに進めると、1人120ドルで90人の入場者になれば、1万800ドルを稼ぐことができます。ディズニーは、所得収入が上位40%の米国人世帯を対象に価格設定やマーケティングを行っていたと言われていました。でも実際には、上位20%に重点を置いているようです。節約する下位の80%の人達よりも、上位20%の人達を対象にしたほうが、ビジネスとしては有利という計算になります。これは、来場者数よりも収益を優先する戦略になりますが、ディズニーファン離れのリスクもあります。格差により、ディズニーを楽しめない人たちも出てきています。このような状況が、日本でも米国でも起きています。

 ディズニーランドにおける値上がりによる格差の現象が、スポーツ分野においても起きています。スポーツは、遊戯が高度化したものという考え方があります。そのスポーツは、社会秩序を学ぶ場所という役割を担ってきました。スポーツは、様々な環境の子どもが接点をもつ媒介的機能を持っていました。この活動をする中で、ルールを守る大切さや人間関係を学ぶ機会を提供してきました。でも、この機会が減る状況が、生まれつつあるのです。2024年、東京都区部の水泳教室の月謝が、9079円と10年前から2000円近く上がりました。また、ある小学6年生が所属するサッカークラブチームの月謝が、1000円以上高くなったそうです。2児の母である兵庫県の40代女性は、「スポーツをやらせるほどお金がかかる」こぼしています。野球やテニスなどは、用具代の上昇によりさらに家庭の負担が増えています。この家庭では、遠征費なども含めて、年間の支出は20万円近くなると言います。中学部活動の地域移行に伴い民間が担い手になれば、費用は一段とかさむ傾向があるようです。ここで、顕在化してきたのが家庭の経済環境による子どもの「スポーツ格差」になります。スポーツ活動に参加し、それを楽しむ機会が家庭の経済状況によって大きく左右される「スポーツ格差」が広がっているのです。経済的に余裕がある家庭のみが、スポーツを享受できる状況が生まれています。

 スポーツの享受という視点からは、見るスポーツにも格差が広がっています。2024年は、プロ野球やJリーグの入場者数が史上最多を記録しました。入場者数が史上最多を記録したこの影で、10代のスポーツ離れが加速していたのです。以前は、子どもの小遣い程度でも足りたスポーツ観戦が、近年は高額化が進み躊躇する事態も生んでいます。2023年にスポーツを生観戦した12~19歳の割合は、30.5%と2011年から10ポイト以上も減少しているのです。競技を問わず、2024年にスポーツを生観戦した人の1回のチケット代は4527円になります。このチケット代4527円は、10年前から44%も上昇しています。2024年に実施した18歳以上の調査では、生観戦率が26.2%で2012年から5.5ポイト減少しています。スポーツの有料化が進み、大人も子どもにも、観戦から遠のいたという声も聞こえてくるようになりました。かつては、地上波で見られたプロ野球やサッカー日本代表戦も多くが有料になることもあります。また、スポーツ動画配信のDAZN(ダゾーン)は2024年、基本プランの料金を月4200円になりました。この4200円は、3年間で2倍以上の値上がりになったのです。ディズニーランドやスポーツのチケット高騰の影響は、年齢層の低い子ども達に格差という形で顕著に現れています。

 不利な影響が分かれば、それを解決する個人や企業が現れます。遊びやスポーツは、子ども達の心身の成長発達に必要なものです。運動が、精神にポジティブな影響をもたらします。気持ちが沈みがちな時には、体を動かすことが気分転換の処方になります。それでは、どの程度の運動をすれば、精神に良い影響を与えるのでしょうか。この分野に、スポーツ企業が存在感を発揮しつつあります。アシックスは、運動が人間の精神に及ぼす影響を可視化するシステムを開発しています。この企業は、2021年6月からアプリをネット上に公開して、世界中から参加を募り、実証実験を進めていました。運動が精神に及ぼす影響を可視化するシステムは、「マインドアップリフター」というアプリになります。この実証実験では、運動時間と精神をポジティブする状態を分析しました。世界中の参加者が実際に行ったこの実験では、精神をポジティブする運動時間が15分9秒となりました。アシックスの結果からは、気持ちが落ち込んでいると感じたら、ウオーキングでも筋トレでもとりあえず15分程度やってみることも面白いかもしれません。格差にこだわらず、自分でできる遊びやスポーツで、ポジティブな気持ちを維持できるスキルを身に付けていきたいものです。

 最後になりますが、遊びの最中にポジティブな状態だということが客観的にわかれば、この遊びを繰り返すことで、良い状態をつくることができます。スイスで、こんな便利なツールの開発も進んでいます。スイスのOvomind (オボマインド)は、腕時計型端末からプレーヤーの感情を分析するAIを開発しました。腕時計型のウェアラブルは、心拍数や発汗、皮膚の温度といった生体データを読み取ることができます。発汗や心拍数といった生体情報を分析して、ゲームの展開にリアルタイムで反映するのです。生体データを読み取り、AIが「興奮」「ストレス」「退屈」など8分野の感情を抽出します。生体情報を分析して、ゲームの展開にリアルタイムで反映し、プレーの没入感を高めるのです。8分野の感情を抽出の結果は、リアルタイムでスマホに表示されます。スマホに表示され、感情に応じてBGMやセリフ、字幕といったゲーム内容が変わるのです。たとえば、ゲームに没入した子どもは、どの場面で「興奮」し、どの時間帯で「退屈」したのかを、データとして蓄積していくことも可能です。どの場面でどんな反応があったかを本人が確認し、良い反応の場面を再現すれば、ポジティブな状態を実現できる可能性があるわけです。このツールやソフトが安価であれば、高いチケット買わずに、楽しい有意義な時間が過ごせるかもしれません。

タイトルとURLをコピーしました