「前門の中国、後門の米国」の圧力を上手に避ける知恵  アイデア広場 その1720

 

 現在の日本は、「前門の虎、後門の狼」という困難な状況にあるようです。高市首相の台湾を巡る発言に反発して、中国は早急にそして矢継ぎ早に圧力をかけてきました。水産物の輸入を停止や中国国民の渡航自粛を呼びかけました。さらに、レアアースなどの輸出規制をちらつかせています。今回の中国の措置は、中国がフィリピンやオーストラリア、そして韓国の制裁に使った手法と似たものです。この程度であれば、ある程度経験済みのことになります。これから憂慮される中国の出方では、心配されることもあります。中国は、米国からいろいろな制裁を受けて、米国から学んだ制裁の教訓が蓄積されています。米国に学んだ経済的威圧を高度化させて、日本や他国に利用することが心配されています。一方、中国は経済や軍事力を組織的に強化してきているにも関わらず、米国は、経済も軍事力も弱体化している状況にあります。日本は脅威に際して、同盟国の米国を全面的に頼れない状況が生まれています。中国から強い圧力をかけられる一方、米国による保護は当てにならないというわけです。第2次トランプ政権は、同盟国を守るより、関税などで締め上げる方に力点を置いています。米国は次第に無秩序化し、目先の取引に固執するようになってきました。

 もっとも、米国の政財界は、自国産業が「中国などの潜在的敵対国」に依存しすぎている事実を見つめ直しています。その危機感の表れとして、第1次トランプ政権は、輸出規制を米国の国境外に拡大適用しました。この輸出規制を、半導体サプライチェーンのほぼ全体を対象にしたのです。続くバイデン政権も、トランプ政権のやり方を推し進めました。この政権も、高性能半導体の対中輸出規制を強化した。米国製の装置や材料を使用して製造する企業は、この輸出規制に直面することになりました。TSMCや東芝は、半導体をファーウェイに供給したら罰則の対象になりかねない立場に追い込まれました。米国はファーウェイの排除に、冷戦時代の輸出規制を新たな目的に合わせて利用したわけです。

 中国は、過去数年間で2度のショックに見舞われました。2013年、CIA元職員のエドワード・スノーデン氏が米国による情報監視を暴露しました。スノーデンの暴露により、NASAは宇宙開発だけでなく、全世界のインターネットや携帯電話の情報を盗み取る事実が明らかになりました。この機関の役割は、全世界の無線、マイクロ波、衛星などの情報通信を傍受することでした。IT企業が暗号化のソフトを開発するときに、NASAは暗号ソフトにトラップドアを仕込むことも行いました。開発業者やIT企業と協力して、この機関はハードとソフトにセキュリティホールを埋め込むことも行っていました。この暴露の件で、情報監視に対する中国の脆弱性が明らかになりました。分かってからの中国の対策は、素早いものになりました。国産のスマホやソフトを使い、自国民の盗聴まで行うようになっています。2番目は、2018年以降、米商務省が通信機器大手、ZTEやファーウイの輸出を規制したことです。この輸出を規制で、2社は製造に必要な米国製品の調達が事実上できなくなりました。中国首脳部は2000年代後半、今までのやり方では米国のパワーに翻弄されるだけだと気づきます。それ以降は、外国の技術を輸入し国内投資を奨励する一方、自前の技術力の開発にも取り組んできました。現在、国防と経済の両面での強化は、中国の長年の望みを実現しつつあるようです。

 中国の封じ込めに力を発揮していたのは、国家安全保障会議(NSC)でした。バイデン政権では、国家安全保障会議(NSC)が輸出規制を拡大するよう調整役を務めていました。でも、第2次トランプ政権ではNSCのスタッフは半分以下に削減してしまいました。中国が米国の経済圧力に耐えている中で、NSCの重石が取れてしまったのです。軽くなった時に、中国は巧妙な経済的威圧を制度化していきます。一方で、トランプ政権は、米国の既存の制度を弱体化させていきます。規制や関税を発動しては、予測不能なやり方で突然停止することを繰り返しています。米国の新しい国家安全保障戦略(NSS)が、2025年12月に発表されました。この新しい国家安全保障戦略(NSS)は、明確さを念頭に設計されていないようです。同盟国を助ける意志が乏しいうえ、NSCほど強くも賢くもない内容です。米国には同盟国を助ける意志が乏しいため、日本は一段と孤立無援の立場にあります。日本を守るのは、日本の保護にトランプ大統領がメリットを見いだすケースに限られるようです。米国が経済的圧力から日本を守ってくれるのは、米国の権益が直接脅かされる場合です

 一方、中国は2度のショックを受け、そのショックを乗り越えるとことまできているようです。2013年からは技術安全保障が、重視されるようになりました。中国は、防衛と攻撃の両面で新しい政策と制度の開発に着手しました。陸軍を減らし、海軍、空軍、そして宇宙に資金を投じるようになります。2018年からは、技術面のデカップリング(切り離し)に着手し始めます。最近施行された法律では、レアアース関連の装置・技術の輸出が禁止されました。中国は「信頼できない存在」に対抗する権利と、制裁に対して報復する権利があると主張しています。中国は世界の製造システムに規制の綱をかけだけではなく、中国の有利になるように作り変えつつあります。中国は米国が対中制裁で使ってきた手段を模倣して、独自の経済的威圧の手法を開発しました。その手法を、フィリピンもオーストラリアも、そして日本も経験しています。特に心配な点は、中国が国境の外にまで自国の規制対象を拡大しつつあることです。中国は今までより大幅に範囲が広く、高度な規制手段を確保しています。高度な規制手段を確保しため、米国が中国への脅しとして使った高関税手法が効果を失っている理由もここにあるようです。

 今世界では、戦後作り上げてきた国際秩序を、軍事力で破壊する動きが出てきました。国際法を無視して、力で自国の権益を広げる手法です。もし、トランプと中国の習近平の間で大型の交渉が成立したら日本の権益は考慮されないケースもでてきます。もっとも、日本に打開策がないわけではありません。日本は、以前から経済安保の重要性を理解しています。日本は経済安保に適した先進的な制度を備え、官民が緊密な関係を維持しています。官民が緊密な関係を維持いる点では、他のどの大国よりも優れていると評価されています。尖閣諸島の事件で、2010年に中国がレアアース輸出を大幅に削減しました。その時の教訓から、少しずつ危機への対処を学んできた経緯があります。レアアース輸出の大幅に削減を機に、脅威を分析し、対応する能力の拡充に着手した。もっとも、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということもありましたが、中国の粘着質的外交を理解も経験もしています。現在は、中国と米国と距離を置く国々と関係を深めることが求められています。特に欧州連合やカナダは、対米関係が次第に距離を置く状況が生まれています。日本は、同じようなジレンマを抱えた他の中堅国との関係を深めることに目を向けることになるようです。

 最後は、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と孫子の教えになります。強国の中国にも米国にも、今抱えている課題があります。尖閣諸島問題の時は、中国の政府や国民が興奮状態になりました。日本企業の経営する店などを攻撃する民衆を、警察は遠くから見ているだけでした。高市首相の台湾発言では、民衆の動員を極力避ける方針を取っています。民衆の矛先が、共産党や政府に向くことを恐れているのです。恐れる理由は、生活への不安です。不安があるために、中国国民は将来に備えて、貯蓄を増やし、消費を減らし節約志向に走っています。未来が明るければ、消費が増えて中国経済は成長の軌道に乗ります。中国政府は、消費を増やす政策を続けています。でも、効果が長続きしていないようです。一方で、鉄鋼、太陽光パネル、電気自動車など過剰生産が続いています。供給過剰と需要不足を「突出した矛盾」と党も政府も認識しているのですが、有効な手を打つことが出来ないジレンマの状態にあるようです。「外交は八方美人」と言った方がいましたが、ある意味、正鵠を得ているようです。中国や米国の消費が回復すれば、世界の経済は明るい方向に向かいます。他国のジレンマを増幅しないように、お互いの利益を増やすような知恵を出していきたいものです。

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