アメリカ軍がアフガニスタンにおけるテロとの戦で磨いてきたドローン技術は、急速に世界に拡散しています。軍事用ドローンの保有国は、世界で100カ国近くに広がっているとされています。アメリカ軍は、2020年1月バグダッドでイラン革命防衛隊の司令官をドローンの攻撃で殺害しました。2019年9月、サウジアラビアの石油施設が攻撃されました。この攻撃は、イエメンの武装組織フーシがドローン10機を使って行わったものです。サウジアラビアは、米独仏の高度な対空防衛システムをもっていました。この高度な対空防衛システムが、ローテクの小型ドローンによって破られたのです。ゲームチェンジャーと言われるドローンのような新兵器は、導入、優位、対抗という3段階プロセスを経て効力の「限界点」を迎える流れになります。ドローンの場合、第一段階は斬新であるため、使い方がわからず、配備される数もきわめて少ない状況にありました。第二段階では、配備数が増えてきて、実際に使われるようになります。この第二段階では、ドローンの新しい機能は優位性を発揮されます。この事例は、ウクライナ戦争において顕著にみられました。第三段階になると、相手もドローンの機能や戦術を削ぐための研究を進め、やがて「普通の兵器」となっていく流れになるわけです。
普通の兵器になったドローンは、その間に急速な機能の向上、さらには低コストへの課題を克服してきました。この機能の向上と低コストを、民間の企業が利用する流れができてきました。NTTドコモは、無人航空機を飛ばして地上と通信する「空飛ぶ基地局」(HAPS)を2026年に商用化すると発表しました。さらにNTTは、宇宙関連事業のブランド「NTTC89」の立ち上げも発表しました。もちろん、NTTドコモには、無人機を飛ばす技術も衛星を飛ばす技術もありません。エアバス子会社のアルトハップスや米アマゾンドット・コムと提携して、これらの事業を行うわけです。NTTは、米アマゾンドット・コム(アマゾン)と衛星通信事業で提携しています。アマゾンは、スターリングと同様の低軌道衛星を使った通信サービス構想を掲げています。この両社は、衛星やHAPSを活用した通信サービスを法人向けに提供しようとしています。
HAPSは、アンテナを載せた無人機を地上から約20 kmの成層圏に飛ばします。約20キロメートルの成層圏に飛ばし、上空から電波を発信する仕組みになります。電波の届く範囲は、最大で直径200 kmとされています。現在の地上基地局の能力は直径10kmなので、広い範囲をカバーできます。たとえば、富山湾上空に無人航空機を1機飛ばした場合、能登半島全域を覆う通信エリアをカバーできることになります。地震や台風に伴う通信障害を、早期に復旧する手段として有望視されています。また、地上基地局を設置しにくい離島などでのサービスのほか、海上や山間部における産業向けの活用が考えられています。問題は、この無人機が動力を太陽光発電でまかなうため、日照時間の短い高緯度の地域での運用が難しい点になります。しかし、ドローンの技術開発は、この課題を解決ししつつあります。アルトが開発中の無人機「ゼファー」は、このハードルを乗り越える可能性があります。「ゼファー」の機体はグライダー型で、全幅約25メートル、重さ約75kgに過ぎません。この無人機は、大容量化したバッテリー搭載しながらも、米国では64日間連続で飛行する記録を残しています。
余談になりますが、ドローンは、コストをかけないで手軽にとばすことができる点にメリットがあります。逆にいえば、管理のために多くのコストをかけることが許されないともいえます。GPSを搭載すれば、ドローンは決められた地点を飛行することができます。太陽光発電を付けて飛ぶとなると、通信機材の重量も制限されます。逆にいえば、少ないエネルギーで、多くの機材を積むことで、低コストの通信網の構築ができるわけです。そこで、再度深掘りをしてみました。ソーラーエネルギー発生装置の重量を減らし、通信設備の重量を増やすという課題の克服です。エネルギーを使わずに飛行時間を延ばすには、可能な限り風を利用することが重要です。参考になるのが、アホウドリの飛行スタイルです。アホウドリは、飛行にほとんどエネルギーを使いません。海面をすれすれ飛ぶアホウドリは、速度が落ちてくると急に進行方向を風上に変えます。向かい風を受け、体はフワッと急角度で上昇することをダイナミック・ソワリングといいます。この飛行を繰り返して飛ぶので、エネルギーはほとんど使わないのです。ダイナミック・ソアリングの技術を、ドローンの滞空時間の延長する技術に応用するわけです。成層圏は、無尽蔵の強風がふいています。工夫次第では、大型の空中基地の建設も可能になるかもしれません。
「空飛ぶ基地局」(HAPS)は、ネットワークづくりで、効果の高いサービスを提供できる可能性があります。非地上系ネットワークには、先行する低軌道衛星があります。この代表例である米スペースXの「スターリング」は、通信に専用端末が必要になります。HAPSは、専用端末の必要性がなく、スマートフォンと直接通信できる利点があります。更なる利点は、低軌道衛星より低い位置を飛ぶため、通信遅延も抑えられます。HAPSは、高速通信規格「5G」の環境を効率的に整備できる可能性もあります。HAPSを商用化できれば、世界初で通信の空白地帯をなくすネットワークづくりが加速度的に進みます。アマゾンは、「24年中に日本向けに2機を打ち上げて実証実験を始めたい」との意向を示しています。HAPSは、現在ネット環境を使えない地域におけるデジタル格差を埋め技術としても期待されています。HAPSは、災害時における緊急時のニーズに応えやすい機能を持っています。NTTドコモは、東南アジアなど新興国への展開も視野に入れているようです。
東南アジアだけでなく、アフリカでも通信の空白地帯があります。アジアにしてもアフリカにしても、これからの経済成長が見込まれている地域になります。これらの地域では、通信環境が重要なインフラになります。アフリカ社会の失業率は、高いレベルで推移しています。特に若者の失業率が高いのです。アフリカ社会の就職は、門番、子守、清掃員、農場労働の職種が大部分です。これらの仕事を探すことでも、足を棒にして探していた現実がありました。今は、携帯で探すことが可能になりつつあります。もし、スマホの使える通信網が構築されれば、携帯以上に仕事を求める者同士のマッチング精度がたかまります。マッチング環境が整えば、仕事の有無、仕事に必要なスキルの必要性などの情報が容易に把握できるようになります。経済成長の著しいアフリカで、アフリカ全土をカバーする通信網を、できるだけ低コストで構築する計画があります。グーグルやフェイスブックは、成層圏を数年間無着陸で滞空可能なドローンの計画を持っているのです。。太陽光発電により大型ドローンを成層圏に滞空させて、空中の基地局をつくるわけです。成層圏に数十機のドローンを滞空させることができれば、アフリカ全土をカバーする通信網は、今までよりは速く実用化するとしています。人工衛星による通信網の構築より、はるかに低コストでできるという試算もあるようです。
最後になりますが、ドローンの先進国は、中国になります。その中国のドローン企業では、DJI社が有名です。DJIは中国広東省深圳にある会社で、民生用ドローンおよびその関連機器の製造会社になります。このDJI製の価格が約8万円のマビック・エアー2が、どのような部品で作られているのか調べてみた会社があります。約230種類ある部品のうち、8割が一般電化製品の部品を使っていたのです。ドローンで使われている1枚の基板には、制御や通信半導体やセンサーなど大小10個の半導体部品が高密度で実装されています。今回、分解した機種のマビック・エアー2には、この基板に多くのアメリカ製部品が使われていました。このドローンの部品価格の原価は、14000円で、原価率は20%でした。1000円を超える高価な部品もバッテリーとカメラくらいにとどめているのです。日本のドローン開発者は、「DJIのドローンの最初は飛行制御も未熟だったが、3年ほどで見違えた」と述べています。部品の組み合わせとソフト技術の向上で、性能を飛躍的に高めている姿が浮かんできます。軍事技術も民間用の技術もこの延長線上で、その開発を語ることができるようです。一般的に軍事技術は、すでにある技術に一つの工夫を加えながら使用されることが多いようです。ドローンは、「歴史を変える」兵器のひとつといわれています。その理由は、すでにある部品から、低コストで作ることができるからです。民間も負けずに、歴史を変えるドローンを開発し、それを有効活用したいものです。