学校給食などを運営するホーユー(広島市)が2023年9月に入り事業を停止しました。この会社は、広島地裁から破産手続きの開始決定を受けた。破産管財人の弁護士によると、開始時の負債は約16億8千万円、取引先の債権者は約500社にのぼり、約700人に上る従業員には解雇を通知しているということです。上昇した卸価格に耐えられず、倒産になったわけです。多くの自治体は、価格の上昇で、法律に基づく栄養基準を満たすことが難しくなっています。給食費の引き上げが、これから始めるかもしれません。給食は基本的に、食材費を保護者、設備費や人件費は自合体など学校の設置者が負担することになっています。全国の給食に使われる食材費は、月400億円規模になるようです。給食には、新しい流れも出てきています。全国的に、保護者負担をゼロにする給食無償化の動きが広がっているのです。2023年9月時点で、500を超える自治体が全ての小中学生を無償にしています。もう一つの流れは、地場の食材の採用です。学校給食法は、地場食材の活用を一つの目的に据えています。もちろん、給食の目的には、食育推進も目的の一つになります。地場食材の使用は、地元の生産者を守ることにもつながります。
給食を地元生産者の救済する手段とするモデルは、イギリスにその原型を見ることができます。近代国家にとっての最優先事項は、国民の栄養状態をよくすることでした。牛乳は、その意味で重要な食物になっていたのです。需要のある所に、商品が入ってきます。1930年頃、裕福なイギリスには、外国から安いバターやチーズが輸入されるようになりました。結果として、国内の牛乳がだぶつきはじめたのです。ある意味で、12月に訪れる北海道における生乳のだぶつきと似ています。イングランドとウェールズにおいても、乳製品業界に潜在的危機が訪れました。そこで、1934年にイングランドおよびウェールズは、公的な学校牛乳支給制度を作ったのです。この制度は、これらの地域の子ども達100万人に、牛乳を飲んでもらうことにするものでした。100万人以上の子どもが牛乳を飲み、消費量は年間4万トンに達したのです。イングランドおよびウェールズの政策は、牛乳の販売拡大に貢献したというお話しになります。この政策と同様のことは、戦後日本においても、コメが学校給食として取り入れられていることはご承知のとおりです。2023年度の地場食材の使用率を、金額ベースで2019年度と比較した調査があります。2023年度の全国平均の使用率は55.4%と、2019年度より2.7ポイント高まったというものです。安さを求めて民間に委託すれば、破産という事態を招くことも近年は起きています。多くの自治体は給食に託す「理想」と、予算や食材確保の「現実」のはざまで知恵を絞っています。今回は、そんな自治体を見ながら、給食制度の存続を考えてみました。
給食を通して、食文化の理解や健康増進を促す取り組みは東北地方でも進んでいます。秋田県能代市の学校給食に使う地元食材の割合は3割と県内では比較的高いのです。能代市では2021年度から、地場の食材を使った市内小中学校の統一献立を提供しています。この統一献立は、「天空の能代まんぷく給食」という楽しい給食になります。4人の栄養教諭の方が献立を考えて、小学校7校と中学校6校で、合計2860食ほどを準備したのです。能代市では、これまで様々な地場食材が統一献立とて登場させています。たとえば、牛の生産者が地元のコメをブレンドし、独自の配合飼料で育てた「秋田牛」などがその一つです。2024年度は、6月に地元産の秋田牛を使ったハヤシライスを提供しています。また、能代市では、民謡の秋田音頭の歌詞にも登場する「槍山(ひやま)納豆」なども提供しています。首都圏で人気のある「白神ねぎ」は、太くて歯応えがあり評価が高い食材になっています。能代市は毎月、購入先の産地直売所や市内青果店と情報交換して、最適な食材を給食に取り入れているようです。
福島の給食は、他の県と少し事情が異なります。福島県では、地場食材の使用が一時、非常に困難になりました。東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響があったのです。震災前の10年度は、学校給食への使用率が品目数ベースで36.1%と比較的多かったのです。ところが、震災後の2012年度は18.3%にまで落ち込みました。もちろん、福島県も地元産の使用を増やすことに、目標を掲げ努力を重ねてきました。2026年度までに、学校給食での地場産品の活用割合を品目数ベースで半分以上にするという目標を掲げました。この目標を、2023年度に前倒しして達成でしてしまったのです。福島県では、食育と連動する形で地場食材の学校給食への活用を推進してきました。その成果が、現れたということになります。学校給食に、地場食材を使う自治体が増えています。そんな中で、福島県の地元食材の増加率は全国3位にまで押し上げています。
ちなみにこの増加率は、宮城県が8位になります。その宮城県の仙台市は、「学校給食のコメは宮城県産をほぼ 100%使っていいます。仙台市の学校給食には、市内農家が生産した宮城県産「ひとめぼれ」が使われています。仙台市教育局は、地産地消できる自慢の食材の一つですと話しています。仙台市の農家の若生宏明さんは化学肥料や農薬の使用を抑え環境保全米の栽培に取り組んでいます。化学肥料や農薬の使用を抑え、約1.5へククールの水田で環境保全米の栽培を行っています。9月下旬に収穫時期を迎える2024年産は、およそ8000キログラムが収穫できる見通しになっています。秋ごろには、仙台市内の学校給食で提供されるようです。仙台市内ではコメだけでなく、イチゴやナシなどの果物も地元産を使うようになっている。また、大豆やダイコン、そしてサツマイモなどの野菜も地元産を使うようにしています。地産地消の実践の場でもあるようです。
余談ですが、朝食を食べる子どもの学力は、高いことが分かっています。「衣食足りて礼節を知る」ということわざがあります。着るものや食べるものが十分にあって初めて、人は礼儀や節度をわきまえるようになるという意味になります。このことからすれば、朝食を食べる子どもは、身体的にも精神的にも、そして社会的に良好な状態を保って、勉学に励むことができると想像できます。このことを私の知人は、定時制高校で実感したそうです。平成の初めころのお話しになります。この頃の定時制高校は、不登校を経験した子どもや中学校や高校で問題を抱えた子ども達の受け皿になっていたと知人が話していました。でも、彼らは定時制高校で、順調に成長していったと懐かしそうに話すのです。「なぜ、そんなにうまくいったのか」と聞くと、給食の効果が大きかったと言うのです。学校給食法に基づく栄養の摂取基準も満たすことが求められています。たとえば、6~7歳の児童の場合は、食でエネルギーは530キロカロリー、細かく定められています。栄養士さんは、子ども達が食指を動かすメニューを作ります。栄養士さんに言わせると、子ども達が喜ぶようなメニューを考えるのは、「難しいパズル」をやるようなものだったようです。この栄養士さんは、文部省から表彰を受けるほどの有能な方でした。子ども達の食べやすいメニューを作ります。子ども達はそれを食べて、授業を受けるというパターンを繰り返したのです。この栄養士さんは、定時制の子ども達が栄養に偏りがあることを見抜いました。栄養の過多により、生活が乱れることは、良く知られています。子ども達の1日の栄養の全体を見て、給食ではそのバランスが取れるメニューを作っていた、と知人は懐かしそうに話していました。
最後になりますが、山口県長門市のお話しになります。長門市は2024年度から小中学校の給食の無償化に踏み切りました。この市は、さらに思い切ったことをしました。通常の給食費とは別枠で、地場食材の購入予算を確保したのです。長門市は、食育充実のために別枠で820万円を予算化しました。月に1度か2度は、食材費を1人170円程度上乗せできる予算を確保したのです。別枠で地場食材の購入予算を確保し、高取食材を食べる機会を作ったわけです。これは、子ども達からすれば嬉しい給食になります。地元の生産者の方からすれば、確実な需要が生まれたことになります。この贅沢な給食では、地元でとれる高級魚の「キジハタ」や地鶏の「長州黒かしわ」などが使われました。9月5日山口県の長門市立深川小学校を訪ねると、給食のおかわりを待つ列ができていました。給食のおかわりを待つ列のお目当ては、市特産の「泊オクラ」を使った味噌汁でした。食事が落ち着くと、先生が電子黒板に白オクラの生産者を撮影した映像を流し、生産の様子をお話ししていました。ここの市長さんの願いは、将来的に長門市から出たとしても、帰りたいと思ってもらえるきっかけにもなってほしいというものでした。物価高で予算の面で難しい状況にあるけれど、未来への投資と考えて行っているようです。こんな試みが、全国に広がってほしいものです。