勉強が好きになる環境整備  アイデア広場 その 1417

 子ども達の学習環境は、以前に比べてば、整備されてきています。でも、受験環境は、厳しさが増しているようです。2024年の首都圏中学入試の「私立・国立中学校の受験者総数」は、52,400名と前年よりわずか200名ほど減りました。この52,400名は、過去2番目の受験者数となっています。一方、受験率は「18%」と、過去最高になっています。首都圏の私立中学入試の受験者は、2023年まで9年連続で増え続けてきた経緯があります。この約5万人の受験者数は、10年前を2割も上回っており、小学校6年生の5人に1人が受けた計算になります。塾通いは、小学校4年生前後から始まっていましたが、さらに低学年化が進んでいます。塾のうたい文句は、「低学年から勉強の習慣を身につけることが重要で、小学校1年生での入塾は決して早くない」ということになります。厳しい中学受験に合格し、見事入学を果たせば、公立よりも指導力と熱意のめる先生の授業を受けることができると希望があるようです。教育水準の高い仲間たちと、少なくとも6年はともに切磁琢磨できる環境に入ることができます。6年間をともに切磁琢磨しながら過ごす期間は、成長過程において有意義なものになると誰しも考えます。脳の素質は同じでも、育つときの環境や人間関係で能力は向上します。すべての知識や勉強法は、孤独から生まれるのではなく対人関係の中から身に付いていくものです。若者は、若者同士の付き合いを通してさまざまなことを学び、能力を向上させていきます。勉強させたいのであれば、勉強しかない環境を用意し、その中で切磋宅することになります。過熱する私立や国立の中学受験には、このような背景があるようです。それでは、子どもにやる気を出させるにはどうしたら良いのでしょうか。今回はこのようなテーマに挑戦してみました。

 やる気があるからできるのではなく、やり始めるとやる気が出てくると言われています。アイデアも出てから書くのではなく、書いているうちにアイデアが出てくるものです。親が子どもに勉強させたいと思うのなら、親が勉強している姿を子どもに見せることが一番とも言われています。子どもに勉強を強いるのでなく、子ども自身が勉強する目的を理解するよう手助けするとも重要です。親が子どもに目標を与えるのではなく、子どもの立てる目標を親が聞くという姿勢が大事になります。このような親の姿勢には、ある一定の真理が含まれているようです。子どもに勉強させたいと思うのなら、まず親が勉強することです。親が楽しんで勉強する姿以上に、効果的な支援の仕方はないようです。辛抱強く子ども自身が考え、答えを出すことを待ってあげる姿勢を持つことです。答えを出すことを待ってあげさえすれば、子どもは自分で自分なりの答えを出してきます。自分で考え、自分で行動し、答えを出すことが、自主性の育成になります。これを繰り返すことにより、自主的能力が高まっていくことになります。この自主性が、重要なファクターになります。

 自主的能力をつける方法に、音読があります。たとえば、本を読んで内容を理解することは、一つの能力になります。それは、いわゆる読解力になります。この読解力をつけるには、音読が一番効果的です。音読は、読めない漢字、意味のわからない言葉を子ども自身が自覚することができます。音読の特徴は「目」「耳」「口」三つの器官を同時に使うことにあります。声を出すことにより、大脳が刺激され、活性化していきます。音読は「目」しか使わない黙読より、内容の吸収効果が格段によいのです。音読で、大脳が刺激され活性化することで、理解力や応用力が高まってきます。ある意味、勉強の基本は丸暗記になります。暗記するくらい教科書を読めば、自然と学力は上がります。教科書の内容がわかると、それだけで偏差値は70になると言われています。以前、1970~80年代に世界から、多くの専門家が日本の教育を視察したのは、日本の暗記やテスト教育の姿でした。この教育の姿が、戦後の日本の強みでした。義務教育を終えていれば、オートメ化でもロボット化でも適応できた点を世界が評価したのです。

 できる勉強と出会うことが、重要なステップになります。できるための秘訣は、学習習慣の定着になります。基礎的なことを毎日、少しずつでいいから続けることが大切になります。習ったことは、忘れるものです。忘れることを前提に、その日のうちに習ったことを自分のものにしてしまう習慣も大切になります。そして、繰り返すことです。毎日決まったことを、決まった時間に、決まった場所で行なうことが秘訣です。勉強するためには頭を働かせるのではなく、頭より先に身体が動いてしまうようになれば、習慣化ができたとみなされます。さらに、1日のうちで、自分が一番疲れる時間と、一番さえる時間を知り、それに合わせて勉強を行うことも一つの知恵になります。学んだことを誰かに伝えることは、効果絶大の勉強法でもあります。教わったこと(インプット) について、誰かに教える(アウトプット)をすることは知識の整理に繋がります。そして、この誰かに教えることが、より確かな整理された記憶になるのです。教わったことについて、時間をおかずに誰かに教えることで知識が整理され、記憶が確かなものになるわけです。

 毎日、知識をインプットし、それをアウトプットすることを続けていくと知識の蓄積ができます。積み上げてきた知識が、あるとき干渉しあって繋がり、突然わかるようになる時があります。このように、突然わかるようになることをパラダイムチェンジといいます。たいていの場合、パラダイムチェンジを境に、ぐんぐん学習能力が向上し成績伸びる現象が生まれます。学習を続けていけば、パラダイムチェンジは、一生のうちに何度も訪れて人間を成長させます。勉強は曼荼羅的に広がっていくもので、何がきっかけになるか、わかりません。この曼荼羅的現象は、アイデアにも言えます。アイデアは、雑学や基礎知識の豊富な学習者に多くの閃きとして訪れます。雑多な知識を特定の目的のために、関連性のある文脈に当てはめて応用することが脳の働きになります。学習を続けて、覚えることも大事です。そして、その覚えた知識を使って問題を解くための訓練も大事になります。課題に対して、自分で自分なりの答えを出していくことが、やがては「問題解決能力」へ育っていくことになります。

 知らないことを知る楽しさ、できなかったことができるようになる楽しさが、子ども達を前向きにします。「できる」という実感を得ることは、とてつもなく重要な体験になります。この「できる」という体験を味わうことで、今までできなかったこともできるようになります。自分がすでに知っているものと、初めて知るものがつながり合ったとき、とても心地良い気持ちになります。この「できる」という状態になるまでには、勉強の積み重ねが必要です。心理学では、ある程度、我慢し待ったあとにもらえる大報酬を選ぶことを、自己制御と言います。マシュマロの実験では、待つことのできる子ども達が、後に社会的成功者になることを明らかにしました。このような自己抑制は、独りの心的機制でできるものではありません。遊びや付き合いのなかで、自分を少し抑制するような体験的な学習を経験する中で形成されていくものです。多様なものの存在を認めつつ、それにうまく合わせつつ、自分を律する人間になっていくわけです。ある面で、中学受験を体験した子ども達の中にも、たくさん遊びながら、抑制する経験を多くできれば、より高い能力が獲得できるかもしれません。

 最後になりますが、成績上位でやる気に満ちている子どもの特徴は、親のはたらきかけのうまさにあります。たとえば、国語の授業で芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の文章の一部分をテキストで扱う授業がありました。すると、お母さんが本屋で芥川の文庫本を買ってきて家族全員で、読みまわしをするのです。地理で「北海道」を教わった日の数日後に、北海道産と他県産のジャガイモが食卓に出ます。学習が言葉や知識だけでなく、モノやコトとして目の前に提示される迫力は、記憶の定着を確実にします。子どもの運動や学力に、影響を与える第3の変数が存在します。この第3の変数は、交絡因子と呼ばれています。子どもの運動能力にも学力にも影響している熱心な親という交絡因子が、もろもろの成果を引き出しているようです。モノやコトの提示だけでなく、目標の提示も上手に行っているようです。子ども自身が決めた目標と日々の成果を、目に見えるように可視化してあげているのです。目標を可視化したら、次は努力の経過も見えるようにそれとなく提示していきます。「前より伸びている」という実感こそが、やる気の原動力になります。親は、子どもが目標にむかってがんばれるような学習環境を提供します。楽しく前向きな親子関係の中でこそ、子どものやる気は培われていきます。そして、優れた先生方を揃えた中高一貫校も勉強の目標を可視化し、努力の経過を提示できる役割を果たせるかもしれません。

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