生成AIが教育の改革を実現する     アイデア広場 その1410

 世の中には、面白いサービスがあります。米チェグは、学生向けに宿題のオンライン指導サービスを手がける企業になります。学生がレポートや課題を提出する場合などに、米チェグがそのサービスをして利益を上げていました。でも、この企業が行っていた有料サービスが、チャットGPTに奪われるケースが出てきました。この事態を受けて、米チェグの株価が48%下落するという情況に陥ったのです。時価総額で、約10億ドルが吹き飛ぶという損失でした。チャットGPTとGPT-4で、日本の医師国家試験を解かせたケースがあります。このケースでは、約8割の正答率で、国家試験の合格ラインを上回りました。一つ前の世代の「GPT-3.5」では、合格は難しかった課題をクリアしたのです。GPT-4は、公認会計士など米国の主要な4つの会計関連資格試験の合格ラインを上回っています。もっとも、GPT-4は日本の大学入試において、日本の誇る東ロボ君にはかなわないようです。

 現在、工業化の近代産業から、デジタル産業に移行しつつあります。それに伴い、教育の内容も変わりつつあります。18世紀の産業革命の後、各国の教育は教室に同年齢の児童生徒を集めて同じ内容を教える形式になりました。工業化と近代化を進めるには、画一的な人材を育てるモデルが合理的でした。今は、技術革新が経済成長を左右するデジタル社会を迎えています。デジタル技術と通信環境の進展により、学びの場が大きく変わろうとしているのです。新しいデジタル社会を進めるには、画一的な人材を育てるモデルが転換を迫られています。一斉型から個別最適型への教育は、転換を支えるデジタル技術開発により加速度的に進展しています。教室は黒板にチョークと紙のノートが中心でしたが、電子黒板や学習用端末の利用が日常になっています。

 子どもの才能を伸ばす仕組みが、多様なデジタル技術の出現により可能になりつつあります。企業の参入も、活発になってきました。その企業の一つに、コニカミノルタがあります。コニカミノルタは、小中学校の児童や生徒の学習を支援する生成AIシステムを開発しました。チャットGPTに代表される生成AIは、インターネットに存在する情報を学習します。これらの生成AIは、子どもの教育に適していない情報を提供するリスクがあるのです。そこで、コニカミノルタは、AIが不適切な言葉を回答に使わないように、学習データを学習指導要領、教科書、そして参考書などに絞ったのです。学習指導要領のデータなどを活用し、生徒一人ひとりのレベルにあわせて支援することが可能になります。コニカは、2024年9月から関西の一部の小中学校で生成AIシステムの実証研究を始めることになります。日本の教育現場に、生成AIなどのデジタル技術を導入することは、これからの教育に大きく貢献することでしょう。

 学校の各教科や科目の授業には、到達目標があります。目標を達成するために、授業があります。授業には、子ども達が授業を理解し、学習進度の目標に到達しているかどうかを調べる評価の過程があります。一般的に、授業が理解できたかどうかを調べるには、3段階の評価過程があります。最初は、診断的評価のテストで、単元前の学力を調べることになります。次に、授業や宿題などの学習活動の後で、子ども達一人一人の習得の度合を形成評価する段階になります。この授業における形成評価は、遅れている子どもには補習的指導を繰り返すような支援することになります。最後が、総括評価が子ども達の学習進度や学力を把握するテストになります。診断、形成、総括の流れが把握できれば、学習目標との関連で、子ども達の学力形成が逐一把握されるわけです。このように、授業には、目標、内容、方法、評価の流れがあります。これを先生方が、子ども達を支援しながらその能力を高めていくことがお仕事でした。これらの一部を、生成AI が担当することになれば、楽しいことになります。 支援する生身の先生の条件は、身体的にも精神的にも社会的にも良好な健康状態が求められます。先生方の能力を気持ちよく発揮してもらうことが、教育現場では求められます。でも、ご存じのように、日本の先生方は疲弊しています。そこに、疲れの知らない「生成AIの先生」がヘルパーになれば、先生方の能力は効果を発揮します。

 熱心な先生は、子どもの実態を把握しています。学習をする前の学力、その後の学力の形成評価も十分に把握しています。でも、この把握には、プレテストや形成評価のためのテストも必要です。個々の生徒を深く知ろうとすれば、テストの採点業務が増えることになります。作文を読んで、個々の子どもの変化も調べることも必要です。多くの教員は、これらを授業以外の時間で行います。できれば、採点業務を毎日定時まで行う補助的職員がいれば、子どもの学力の推移は把握しやすくなります。把握できれば、補充やより伸ばす工夫も適時にできます。早く採点ができれば、結果が分かります。結果が分かれば、次の対策を早く取ることがでるのです。パソコンをはじめとするデジタルツールの向上で、子ども達の支援対策は、素早くできるようになるでしょう。いずれ子ども達の学力や能力の「予測」「絞り込み」「見える化」が教員個人でもできる時代が来ると期待されていました。その期待を実現する時期が、生成AIの登場で、現実味を増してきました。

 コニカは、AIが生徒の学力データから苦手分野を見つける機能などを開発していいます。コニカは、自治体ごとに行う学力調査のデータを活用し、生徒一人ひとりのレベルにあわせた支援を考えています。コニカ方式は、学校全体や地域全体の学力調査の結果や日々の学習の取り組み状況を分析することも可能のようです。学習の取り組み状況を分析し、一人ひとりに合ったメッセージをタブレットで表示します。生徒に自主的に学ばせるため、AIは問題の答えを教えず、考え方を伝える支援のやり方を取り入れています。たとえば、勉強の仕方に、AIが「まずはかけ算とわり算を見直すためにこの動画を見てみよう。それぞれの計算が理解できていると、解きやすくなるよ!」などと答えます。生徒の学習状況を教師にも報告し、学校での授業の改善などに生かしてもらう支援の仕組みです。自治体や学校の要望に応じて、生徒が親しみやすく対話できるようにするようです。

 最後になりますが、現代は、多様な人々の個性と力を引き出す教育がより求められています。日本より少し先を行く、アメリカの大学のお話しになります。ハーバー大学でコンピュターを教えるデビット・マラン教授は、AIを「講師」に採用しています。個々の生徒に応じて問題の難易度を変える生成AIを、「講師」にしているのです。この講師のおかげで、個々のレベルに合わせた学習ができ、学生が積極的になる効果があったと言います。学生の中には、「自分専用の講師がいるようだ」と評価するケースもありました。ある男子学生(18)は、AI「講師」を「かなり使える」と評価しています。このAIを「講師」として、半年で7万人以上の学生が使いました。そして、AIを「講師」は、数百万件の質問に答えたのです。突出した才能をもつ子どもは、「ギフテッド」と言われています。デビット・マラン教授には、狙いがあったようです。ギフテッドといった集団教育になじめない子どもに、適切な学習の機会を与える狙いがあったのです。初歩的な問いへの回答をAIに任せ、ギフテッドといった学生と教授が、深い思考を要する問題に集中する狙いというわけです。今後は、世界中の教育で生成AIが導入されていきます。その生成AIを目的達成のために、上手に使っていくスキルと知恵を磨いていきたいものです。

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