気象庁によると、2024年の夏も猛暑日が多いという予報になりました。今年は、暑い夏を覚悟しなければならないようです。暑いと言えば、熱中症が話題になります。昨年は、約9万人の方が熱中症になっています。今年は、これを上回るとの予想も出ています。もっとも、皆さんが熱中症に備えていれば、この予想を覆すことができます。今回は、熱中症を少なくする知恵に磨きをかけてみました。まず、熱中症にかからない仕組みを考えます。汗の成分はほとんど水であり、この水が蒸発して身体を冷やすことになります。体温が上がるとやがて汗がでて、体温は下がるというわけです。この汗をだすのが、汗腺です。20歳までの平均汗腺数を100%だとすると、20~40歳で60%、40~60歳で45%になります。熱中症の多い60~80歳台になると30%になり、80歳以上では15%程度になってしまうのです。70歳を超えると汗の出る量が低下し、暑熱順化が期待できない身体になってしまいます。暑さに体を徐々に慣らしていく取り組みは「暑熱順化(しょねつじゅんか)」と呼ばれています。なるべく早く暑熱順化に着手して、夏の暑さに備えるために、熱中症にかからない体にすることが望ましいわけです。
気温が上昇すると体がこの変化についていけず、5月から6月に熱中症を引き起こすケースが増えます。一方、8月~9月ごろになると、暑さに体が順応し、熱中症の発生が落ちついていきます。この時期には、多くの人達に暑熱順化ができた状態になるわけです。でも、日本には四季があります。夏に獲得した「暑さへの慣れ」が、冬の寒さでリセットされてしまうのです。冬のリセットをなるべく早く夏のリセットに変えることが、求められます。これには、早く暑熱順化に着手して、夏の暑さに備えることになります。暑熱順化には、発汗機能を高めることで、暑い時期の体温調節を円滑にすることが効果的です。熱中症の予防には、汗をかきやすく体温調節機能を高めることが重要になるわけです。有力な対策として、運動があります。熱中症の対策に取り組んでいる方は、本格的に暑くなる季節の前に、運動の強度と頻度を上げているようです。ある事例では、自転車こぎや早歩きなど、汗をかくレベルの運動を1回30分、1週間以上続けて、夏に備えています。暑くなり始めたら運動を増やし、少し暑いときも続けると、体温調節機能はよくなります。運動の負荷が低いレベルでも、一定の効果があります。3分の早歩きが、暑熱順化の手軽な運動メニューになります。3分の早歩きを1日5回、週4回以上、4週間続けるのです。通勤通学や散歩において、これを繰り返せば良いわけです。特に、高齢者の方は、若者よりも暑熱順化に時間がかかります。高齢者方は、早めの時期からこれらの運動処方に着手してじっくり取り組むと良いようです。
「汗をかいたな」と感じた時には、相当の汗をかいているのです。蒸発して目に見えない汗を、有効発汗といいます。この汗が、体温を冷やす働きをしています。目に見える汗は、無効発汗です。この無効発汗は、汗といっても身体を冷却する効果があまりありません。有効発汗のみが、熱中症を防ぐ冷却作用の汗ということになります。この作用を効果的にするためには、着衣の空間に空気の出入口を作ると良いのです。ハワイの民族衣装であるムームーは、空気の出入り口が設けてあります。この民族衣装には、ウエストを開放し、足下から首に抜ける空気の通路ができています。この空気の通路は、皮膚と衣服との間の気流を増やし、汗の発散面積を拡げ、冷却作用を効果的に行う仕組みの基礎になるものなのです。ハワイのムームーだけでなく、インドのサリー、そしてアラブの男性が着こなすトーブは、足の下から首にかけて気流を作り、熱の発散を効果的に行う仕掛けが組み込まれています。発散量を増やすには、風速が大きいほど、発散面積が大きいほど良い汗が出てくるのです。良い汗が出れば、熱中症に対する耐性が高まることになります。これらの民族衣装は、民族の知恵の結晶ともいえるものです。
日本の湿気の高さと温度の高さを考慮すると、着衣の工夫と水分をとって汗をかくだけでは効果が限られます。体に熱が蓄積して、皮膚からの放熱が追いつかなければ体温が上がりすぎて熱中症になります。このような場合、文明の利器を使うケースも増えてきます。最も頼りになるのは、クーラーになります。居室内の温度は28度を超えないとうにして、室内外の温度差は5~7度に調整することになります。外気温が高い場合、睡眠時も連続運転をすることになります。ここでは、電気代のことよりも生命の維持を優先することになるようです。次に、若い世代に人気の携帯扇風競や首筋に巻いて使うネッククーラーなどを、連続して使うことも有効です。日差しに当たらない室内では冷房を使用する場合、空気が乾燥していでも喉の渇きを感じないことがあります。特に、高齢者は、暑さや体調不良を察知しにくいために、気づかぬうちに室内で熱中症を発症するケースがあります。汗を多くかくと体は水分を失うため、体温調節機能も低下して熱中症に至りやすくなります。この脱水状態を防ぐため、起きている間は定期的な水分摂取が重要になります。一方、定期的な水分補給と同時に、水分を維持する知恵も必要になります。人は、お風呂に入つたときも寝ている間も人は汗をかきます。汗をかく入浴の前後と就寝前には、少し多めのコップ1杯の水やお茶を飲んで脱水を防ぐことも、一つの知恵になります。コーヒーや紅茶などカフェインを多く含む飲料は、利尿作用が高いことが知られています。利尿作用が高い飲み物は、飲んだ以上の水分を排せつしてしまいます。コーヒーなどは、飲み過ぎないように注意したいものです。お酒も、要注意です。アルコールも利尿効果が強く、飲んだ以上の水分を排せつしてしまいます。お酒を飲んでいる間や飲んだ後も、しっかりと水分補給する必要があります。これらの知見も、生活の知恵になります。
熱中症の予防や対策は、水分補給に偏りがちだが、それだけでは不十分です。汗をかくと水分だけでなく、ナトリウムやカリウムなどの電解質が排出されてしまいます。これらが不足すると、筋肉や神経の正常な機能が失われます。これらは、食事で補う必要があります。ナリウムは食塩や味噌、カリウムは野菜サラダや野菜入りスープなどで摂取できます。もちろん、たんぱく質や炭水化物、ビタミンB1などの栄養補給も大切になります。糖質をエネルギーに変えやすくするビタミンB1などの栄養補給は、夏バテと言われる状況を改善するものになります。たんぱく質やアミノ酸を運動の後に取ると、循環血液量が増加し、発汗能力も高まります。たんぱく質は肉類や魚類のほか、大豆製品や乳製品に多く含まれています。水分補給とたんぱく質補給を同時にする方法は、コップ1杯の牛乳やプロテイン飲料を飲むことです。これを行えば、失った水分も同時に摂取できます。
余談ですが、人間は、環境に適応できます。でも、気温や湿度の変化が激しい場合、適応能力を超えて、心身の調子を崩すこともあります。天候ビジネス会社は、熱中症、喘息、リウマチなどで注意が必要な人達に、予測サービスを提供しています。喘息は、最低気温が15度で5時間以内に3度下がると、発作がでる可能性高くなります。この温度変化の情報を、提供します。熱中症のサービスも、急激な温度変化には注意の喚起を行っています。ここでもし、サービスの中に、言葉の注意だけでなく、実践的処方を加えらならば付加価値の高い情報になります。人間の身体は、生命維持のために塩分の喪失を少なくするしくみがあります。でも、汗の塩分濃度が加齢により増加するために、高齢になるほど塩分喪失が起こりやすくなります。高齢者は、口渇の感じ方が鈍く飲水の機会が遅れがちになります。飲水の機会が遅れることが、原因で慢性的な脱水を有する人も多いのです。水分不足の上に、塩分の濃い汗をだすことになります。体温の上昇と塩分不足からの筋痙攣という熱中症の症状を引き起こすことになるわけです。さらに、運動処方なども良いサービスになります。人間は暑さに対する耐性を高めると、暑い環境での生存が容易になります。日常的に運動をしている人は、この耐性能力を高めています。暑さに対する耐性を高めるための運動処方(各世代に適した運動処方)なども提供できれば、暑い夏を楽しく過ごす人々の笑顔が見られるようになるかもしれません。
最後になりますが、気温と湿度、放射熱、通風の4要素を反映した「暑さ指数(WBGT)」を理解して、暑さに負けない体つくり、さらに過ごしやすい居場所を見つけることも、一つの知恵になります。本格的な暑さが始まる前から、熱中症に備える体つくりも必要になります。これは、自分に合った運動、自分の好きな運動を続けることが基本になります。次に、リーズナブルな場所を確保することになります。家の近くに、冷房が稼働していて涼みに行ける場所を調べておきます。自宅内の環境整備に限界がある場合は、暑さから身を守るための場所を事前に探しておくわけです。最近は、熱中症特別警戒アラートが発表された際に、開放されるクーリングシェルターの運用も始まっているようです。2024年度から、各自治体が「クーリングシェルター」と呼ばれる施設を事前に指定することになっています。このような施設を事前に把握しておくことも必要です。ここでもう一味つけることが、味噌になります。そこを、仲間と一緒に過ごす楽しい場にしてしまうのです。一人でじっと過ごすだけでは、味気がありません。趣味の仲間との集いの場にすれば、涼しさプラス楽しさの有意義な空間と時間が確保されることになります。熱中症の有効な対策は、衣食住、そして趣味や仲間との交流などの分野にまたがり合わせ技を使って効果を高めたいものです。