中国のZ世代が、話題になっています。このZ世代は、15~29歳の年齢層の総称で、中国の人口14億人の18.4%を占めています。Z世代の消費行動が、各分野から注目されているのです。中国のSNS「Soul (ソウル)は、利用者の約8割がZ世代と言われています。この「Soul (ソウル)」で、Z世代の消費行動を調べたデータがあります。それによると、「独身の日」のセールでは、購入者の3割以上が複数のサイトをみて価格を比較していました。近年の「独身の日」のセールでは、購入者の43.4%が明確な目的買をしていました。ある太陽電池メーカーに勤める女性は、普通は37元するケーキを15.9元で手に入れたと自慢げに話していました。この女性は、売れ残り品を値引き販売するSNS上のサービスを使っていました。抑えるところは抑えながら、合理的な支出の仕方を探っている様子が見て取れます。この世代では、品質やコストパフォーマンスを重視する「ケチ経済」といった言葉が流行しています。
Z世代の中国人は、国内人口約20%を占め、将来の消費や子育ての担い手になります。この世代の消費動向は、中国国内だけでなく、海外の企業にとってもこれからのターゲットになります。日産自動車は、中国の清華大学と共同研究センターを設立すると発表しました。この「世代」の価値観を理解するために、現地の研究機関と効果的に交流して、今後の対策を模索するようです。日産は、1990年代半ば以降に生まれた中国の「Z世代」の価値観を理解において苦戦が続いていました。この研究交流が、苦戦の陥っていた理由に、気づく一助になったと述べています。研究では、中国の顧客が求める商品やサービスを提供するための知見を得られたとしています。中国では、付加価値の高い商品とコスト重視が中心の商品の二極化が進んでいます。価格と性能のバランスを重視した新シリーズを通じて、若い顧客層の開拓をしていくようです。日産だけでなく、中国で活動する企業はでZ世代をターゲットにした新シリーズを立ち上げています。海爾集団(ハイアール)は、ヒト型のロボットなどを中心に、そしてパナソニックホールディングスは、白物家電の新シリーズを中国で発売すると発表しています。
急速な経済成長を続けてきた中国ですが、今後数年は減速が続くとの見方が支配的になっています。一時は、経済評論家から、減速すると何度も言われてきたことがあります。でも、その批判に反発するように、経済を立て直し、成長を続けてきました。でも、中国国内の企業に、自律反発するメカニズムが働きにくくなってきています。もちろん、中国政府はこの流れを受け入れているわけではありません。政府は、年間約5%の経済成長率の維持に真剣に取り組んでいます。そのためにも、デフレ懸念を和らげようとしています。その方策として、国内の消費拡大に力を入れています。消費が上昇に転じれば、デフレ圧力を一定程度緩和する可能性が出てきます。中国政府は、若い世代がいかに十分な賃金を稼ぎ、支出に前向きになれるかを模索しています。この懸命な中国政府にとって、Z世代の節約志向は悩みの種の1つになっているわけです。消費の主役を担う15~29歳のZ世代の消費意欲の減退は、長期的に打撃を与えかねない要素になっています。
Z世代は、急速な経済成長と生活水準の向上の時代に育った若者たちです。おそらく物質的な面で中国史上最も豊かな子ども時代を過ごしてきました。彼らは、生活水準の向上の時代に育った若者たちです。でも、彼らを取り巻く状況は、将来に対する不安を増長しています。その一つが、若者の失業です。16~24歳の2024年2月の失業率は、15.3%と、雇用の面でも不安を抱えています。Z世代については、将来に対する不安い失望感が深まっているわけです。その不安の現れやその防衛策が、節約的消費行動になります。右肩上がりの繁栄の中で育った彼らは、繁栄からはじき出されています。繁栄を前提にしない生き方や自己肯定感を求めているのかもしれません。15~29歳のZ世代の消費意欲は、中国の消費行動の主役を担う立場にあります。Z世代の消費意欲の減退は、長期的に打撃を与えかねないことを中国政府は警戒を強めています。
Z世代に不安をもたらす一つの事例が、ピッグサイクルになります。中国では、豚の飼育頭数と豚肉価格が周期的に上下する「ピッグサイクル」が繰り返されてきました。2018~2021年にかけて、アフリカ豚熱(ASF)の大流行で豚の飼育頭数が急減しました。豚の供給不足が生じると、今度は価格が急騰に向かう流れです。政府は落ち込んだ豚肉の供給を安定させるため、養豚農家に対して生産拡大を促してきました。強力な政策手法は、痛みの伴う副作用と需給バランスが供給過剰の2つの流れを生み出しました。2022年10月には、26元前後の高値を付けていました。それが、2022年末には15元近辺と4割下落したのです。アフリカ豚熱による豚の減少を、急速に回復させました。政府の努力が実った成果でした。でも、今度は供給過剰になり、価格が急激に下落したのです。中国の豚肉価格の指標の価格は、現在の時点で1キロ 14元半ば(約310円)になっています。中国では供給過剰になり、豚肉価格が下がった状況が続くと、多くの零細企業が廃業に追い込まれました。一方、体力のある養豚業社は、価格が下がっても簡単には市場から退出しなくなりました。でも、そこに弊害が起きています。業界6位(22年時点)の江西正邦科技は2022年末に破綻した後に再編されています。ここにきて、大手養豚企業の体力もそがれている現実があります。最大手の牧原食品は1月、2023年の業績が38億~46億元の赤字になりました。豚肉の好きな中国の人達は、豚肉の価格や企業の動向を見て、判断するようになります。ピッグサイクルを冷静に見れば、政府の情報をそのまま受け入れることにはリスクがあると理解しているようです。Z世代は、自分なりの自立した考えや消費行動が必要と理解し始めたとも言えます。ピッグサイクルと似たような現象が、電気自動車の過剰生産という面でも見られるようになりました。
全人口の18%を占める中国のZ世代は消費行動の特徴は、節約志向が鮮明になりつつあります。中国へ上海の高齢者向け格安食堂では最近、20代前後の若者が利用客の3分の1を占めるまでになっています。よく訪れるという24歳の女性来店客は、一日の食費を、100元(約2100円)以下に抑えられて助かる」と話しています。次は、旅行のケースです。あるホームシェアリング運営会社では、Z世代利用者による「寺院」の検索数が急増しています。この寺院のサービスを歓迎するのは、高い環境意識や強い自己肯定感ある若い世代になります。高価なホテル利用に代わり、寺院滞在も低予算の選択肢として人気が高まっているのです。早朝の膜想(めいそう)体験も含めて、宿泊料は1泊わずか80元になります。春節期間中には、Z世代利用者による「寺院」の検索数が、過去の同シーズンに比べ24倍に急増したのです。SNS上では品質やコストパフォーマンス重視を意味する「反抗消費」といった言葉が流行しています。このように、外国製ならば良いとか、自国産が良いとかの選択ではなく、自分の立ち位置から判断する若者が増えているということになります。
中国や海外の企業は、この若者のニーズに応える商品やサービスを工夫することになります。面白い切り口の企業に、日本のパナソニックがあります。パナソニックは、若者のニーズに向けた製品を市場に出しています。パナソニックは、京東の持つ顧客データを分析した商品開発や販促の効率化にも乗り出しています。それによると、Z世代はペットと暮らす生活を好む傾向があるとされています。パナソニックは、ペットの毛を除去できる洗濯機と乾燥機のセットなどをそろえたのです。日本国内では、犬と猫が推計で1600万匹飼育されています。中国で飼われているペットの数は1億3000万匹の規模になります。日本におけるペット関連の市場規模は、1兆5千億円を超えています。ペットを取り巻く市場環境は、ペットフードや衣類などのモノ消費から、旅行や娯楽などのサービスへと広がりを見せています。もし、中国でこのペット市場が定着すれば、日本の10倍に迫る規模になります。世界的規模で、ペットにお金や時間をかけることを、惜しまない愛好家が増えてきました。ペットを家族の一員として、一緒に旅行や外出を楽しみたいという愛好家も増えています。ペット産業が、中国の経済発展の一つの要素になれば、中国国内外の企業にとっても楽しいことになるかもしれません。
余談ですが、団塊の世代とかZ世代という世代には、ステレオタイプ的なリスクが伴います。日本では、ABO式血液型によって性格が違うというステレオタイプが普及しています。各血液型には、その血液型をもつ人々が共通にもっていると多くの人が信じているわけです。血液型をもつ人々が共通にもっていると信じていることを血液型ステレオタイプと呼びます。大正から昭和の時代に至るまで、血液型性格判断の妥当性を検討するいくつかの研究が心理学者によって行われてきました。結果の多くは、多くは血液型と性格の関連を見出せないというものでした。血液型と性格との関連には、科学的根拠がないのです。でも、「A型は几帳面」というステレオタイプをもつと、A型の友人の凡帳面な面だけ注目することになります。たとえば、友人がノートをきれいな字で書いている点に注目しやすくなります。「A型は几帳面」というステレオタイプをもつと、友人の凡帳面でないところを見逃すのです。友人の部屋が汚いなどは、見逃されがちになるというわけです。ノートだけ見て、A型は「几帳面」というイメージのみが確認され、「血液型性格判断は当る」と考えてしまう傾向があるのです。中国のZ世代についても、節約ステレオタイプという側面だけに注目してしまうと、別の有益な側面を見逃してしまうかもしれません。