エチオピアは、成長著しいアフリカの中でも、特に高い成長可能性を秘めています。この国の人口は1億3千万人という規模に加えて、平均年齢20歳という若々しい国民構成になっています。毎年、毎月、経済発展が加速度的に進行している国でもあります。エチオピアの年間所得は、2010年には500ドル程度でした。それが、2020年には960ドルになっています。年間所得が1000ドルを超えると、2輪バイクの購買層が増えるという経験則があります。この層が増えると、さらに成長率が加速するという現象が現れます。台湾でも、タイでも、ケニアでも、この経験則は生きていました。このエチオピアでは、2022年にガソリン車の輸入が全面禁止されています。ガソリンを使用する移動手段が、抑制される環境に置かれるわけです。エチオピア政府は、電動モビリティ事業の推進に力を入れているわけです。ここに、一つのビジネスチャンスの芽があるようです。
エチオピアには、ユニクロやスエーデンのアパレルメーカーH&M、そして中国企業の縫製工場などが増えています。この国は欧米に近く、特にアメリカ向けの衣料品には税金がかからないという優位性を持っています。ユニクロは、高品質の衣料を量産できる労働力が確保できる体制を整えながら、徐々に生産量を増やす方針です。ゆくゆくは、欧米への輸出拠点にしたいようです。余談ですが、アフリカは、競争力のない現地企業が高価で質の悪い製品を細々と供給してきた歴史があります。第二次産業が、不毛の地であるともいわれてきました。アフリカは貧しいのにもかかわらず、割高な労働力になっていたのです。めざましい進出をしている中国企業が、アフリカの現地人を雇用しないのです。この理由は、彼らの高賃金とそれに見合う労働力が発揮されないことでした。アフリカの国は、国民所得の水準に比べて、相対的に物価が高いのです。食料調達コストが高く、物流コストが高いので、物価は高くなり、それに連動して労働賃金が高くなる構図ができていたのです。でも、この構図が、外国企業が多く進出する中で変わりつつあります。自国で品質の良い製品を大量に生産することにより、国民の所得が向上する現象が現れているのです。
一般に、繊維産業が栄えると、次に多様な製品の組み立て産業が栄えてきます。エチオピアにも、この萌芽が見え始めています。Dodai社は、2021年に佐々木裕馬が設立したグローバルスタートアップになります。この企業は、2023年よりエチオピアを主要拠点に、アフリカ全土での電動モビリティ事業展開を目指しています。Dodaiは日本人が経営し、日本のVCが出資する米国企業になります。この佐々木さんは、Uber Japanの営業本部長や
電動キックボードのLoup社副社長という実績を持つ経営者なのです。Dodai社は、都市部を中心に、アフリカ全土でのモビリティ問題の解決に取り組む起業になります。販売用の電動二輪車は5000台を仕入れ、現状の販売台数、約80台から大幅な拡販を目指しています。組み立て式の電動二輪車の仕入れなどに充て、現地での販売シェア拡大を急いでいます。エチオピアで、完成品に組み立てることでコストを抑えています。政府からの積極的な支援を受けながら、エチオピアの成長を下支えしようと高い志を発揮しています。
課題もあるようです。この電動二輪車は、競合の安価な電動バイクに比べると販売価格は5割ほど高いのです。高いのですが、航続距離吐2倍ほど長く、電池寿命も約4倍長いという利点があります。さらに、現地の金融機関と連携し手元資金が足りない個人向けにバイクローンによる購入もできる仕組みも作りました。経済成長が続いている期間は、ローンが有効に機能します。電動バイクの普及を加速させるための仕掛けも、用意しているようです。Dodaiは、2024年内をめどに取り外しバッテリ一のシェアリングサービスも始める計画です。電動モビリティのバッテリ一を交換しやすくするために、充電ステーションを主軸とするプラットフォームの展開も考えているようです。首都アディスアベバで電池交換の有人ステーションを設けて、専用の車両とアプリも提供することになります。さらにDodai社は、電動二輪の先には、電動三輪事業への進出する計画です。もちろん、提携する企業も必要です。この候補に、武蔵精密工業が選ばれました。武蔵精密工業は、四輪・二輪車用向けに、電動化や自動運転を見据えた部品の開発・製造・販売を行っている企業になります。エチオピアでの生産と販売が軌道にのれば、タンザニア、セネガル、コンゴ民主共和国などへの進出も視野に入れているようです。
アフリカの国々は、中国製の日用品で溢れています。中国製の日用品が、アフリカの人々の生活向上に寄与したことは明らかです。でも、安い輸入物にだけ頼っていては、自国の産業が育たないことも理解し始めています。中国企業は、労働力に問題のある現地人を雇用しない傾向がありました。中国から労働者を連れてきて、効率的に工事をしてしまうのです。これにアフリカの若者は、不満を持っているようです。自分たちを雇って、自分たちと一緒にこの国を豊かにして欲しと思うわけです。アフリカには、流通インフラ、農業、医療、教育などの課題があります。この中で、進出企業は優先度の高い分野を選択して事業を展開しています。ドイツのダイムラー社はボツワナにおいて、この選択を上手に行っています。これからの世界は、ガソリン車から電気自動車に変えていく国が多くなります。EVの普及が進めば、コバルトやニッケルが戦略的な金属になるわけです。ボツワナには、電気自動車に不可欠なコバルトやニッケルの豊富な資源があります。当然世界の企業は、アフリカに注目しています。特に南部アフリカのボツワナに眼を向けています。重要資源を確保した企業が、優位に立てるのです。鉱山開発には、ボツワナ政府によるインフラ整備は期待できません。インフラには、道路や鉱山施設、そこで働く労働者の子どもの教育施設、医療施設などがあります。たとえばボツワナに進出企業は、ボツワナ政府に代わりインフラ整備や周辺環境を構築することになります。エイズの労務対策において、世界で最も進んでいる企業がダイムラー社です。このダイムラー社は、社員のために病院も医師も看護婦も雇用しているのです。社員も家族も安心して働ける環境を、用意しているわけです。アフリカに進出する企業は、医療施設を準備することが現地にスムーズに受け入れられることになります。
余談になりますが、アパレル業界も、いくつかの対策を立てています。アパレル産業を通して、国民の所得を向上させた事例もあります。給料の多い国にしておいた方が、自国の消費量は増え、消費財も大量生産できるようになり、値段も安くなる現象が起きるのです。一般に、一人当たりのGDPが1000ドルを超えると、バイクも普及します。携帯は既に普及しています。情報と移動手段が整備されれば、成長はさらに加速していきます。 貧しい国が、縫製工場を誘致したことで、国を豊かにした事例があります。1970年代は100ドル程度だった一人当たりのGDPが現在は2000ドルになったバングラデシュです。この国は、世界第2位の衣料品の輸出国に成長しました。首位の中国に次ぐ輸出国になることで、1億6千万人の国民所得を増やしています。そして、今度はアフリカです。ユニクロは、エチオピアで生産を開始します。この国はアフリカの中でも、労働賃金が低い水準にあります。アジアの途上国よりも、安い労働賃金で縫製工場を運営できる環境ができているようです。でも、低賃金だけでは、将来にわたって産業を発展させることはできません。働く人のスキルを高め、製品を持続的に販売できる品質を維持しなければなりません。仕事のできる人材が不可欠です。賃金が低くても、人材の質が低ければ外国企業は参入しません。さらに、産業の成長を引っ張る経営者を育成することも不可欠です。現地化によるコスト削減を見込んだ、誘致や経済全体の底上げが求められます。バングラデシュでできたことをアパレル産業が、アフリカで先頭に立つ構図がみられるかもしれません。そして、各種の工業製品の生産も自国の力で行うことができれば、ハッピーです。
最後になりますが、多くの人々が安心して暮せるためには、食料と仕事確保が必要です。アフリカ全体を見渡すと、工業に弱点があり、自国の生活用品は、自国で作れる体制が求められます。ノックダウン方式でも良いから、少しずつ生産を行える人材を育成することです。静岡県にあるヤマハやスズキは、積極的に留学生生のインターンシップに協力しています。卒業後はヤマハやスズキの就職に有利になるように配慮もされています。帰国して現地の企業で働いてもらう場合でも、優れた人材として期待されるわけです。わが国の技術援助は、機械の供給だけでなく、機械の使い方やメンテナンスも指導するようになりました。日本の技術援助は、現地人が長く使える技能伝承力が強いと高い評価を得ています。対象になる国の全体を見渡して、どこに経済を停滞させるボトルネックがあるかを見極めることも必要になります。これからは、ボトルネックを解消するような支援も必要になります。日本政府や日本の企業は、このような視点にたった援助を行いたいものです。もちろん、釈迦に説法ですが、企業は利益を上げる使命を忘れてはいかません。