都市の縮小も豊かな生活をもたらす一歩になる アイデア広場 その1390

 過疎地域において、さまざまな生活必需サービスが維持できなくなってきている現実が起きています。ある過疎の村では、理髪店が閉店してしまいました。すると、ある高齢の男性は隣の町まで散髪に出かけることになりました。彼は、運転免許証を自主返納していたために、タクシーで往復1万円をかけて散髪に出かけることになったのです。床屋さんの撤退だけでなく、生活のあらゆる面で、不便なことが起こています。LPガス事業者数が2007年には、2万4622ありました。それが、2016年には1万9514にまで減ってしまったのです。LPガス事業者数は、2007年から2016年にかけて20.7%減少してしまいした。地方では、後継者不足でLPガス事業者の廃業が拡大しているのです。ガソリンスタンドも、例外ではありません。給油するためには、遠方のガソリンスタンドまで行く過疎地域が急速に広がっているのです。今までのように、生活しようとすれば、お金を必要以上に使う状況が増えています。これに似た事例は、すでに離島で見られていました。海上輸送のコストかかる離島などでは、日用品などが割高となっていました。過疎の地域では、物価は変わらないけれども、生活するための必需品を得るために今まで以上のお金がかかる状況が生まれているわけです。

 過疎の減少に似た状況は、建設業においても見られます。鉱業および建設業の就業者数は2017年から2040年にかけて約4割減少するという試算があります。国交省によれば、建物や建築物の生産高である建設投資は1992年度の約84兆円がピークになります。2021年度には、58兆4000億円となり、ピーク時より30.5%減になります。生産年齢人口(15歳~64歳) は、1995年にピークを迎えました。1995年の生産年齢人口の減少に歩調を合わせるように、日本の建設投資は縮小を続けてきました。普通に考えれば、建設需要は現行水準を維持することはなく、減少を続けていくことになります。一方、高度経済成長期に整備された施設を中心に、水道管や浄水場などの老朽化が進んでいます。特に、水道関連では、年間2万件を超す漏水や破損事故が起きています。もし、水道管や浄水場などすべてを更新しようと思えば130年以上かかると試算されています。水道に限らず、高度成長期に建設された施設の補充が、現在の経済状況では困難という現実を直視する時期にあるわけです。

 財政力指数という言葉があります。これは、行政サービスの提供に必要な費用に対して、その町の税収入の割合をいうものです。この指数が高いほど、健全な自治体といえます。生産労働人口の多かった時代は、無秩序な都市の郊外拡散が続いていました。このような拡散が、近年に見られるように、災害に弱い地域を作り出してきています。上下水道の拡散にしても、その維持や修理に多大な費用が掛かるようになりました。多くの自治体の水道事業は赤字経営になっています。その理由は、都市の拡散によるものです。都市の拡散は、自動車社会を生み出しました。これも交通インフラの整備に、多くの予算を使う仕組みを作り出しています。交通インフラの維持に使う予算も、自治体の大きな負担になっています。高度成長期には、予算が毎年増加した経緯から、水道事業も交通インフラも拡張が可能でした。でも、その流れは抑止の方向に向かっています。成長ばかりを考えてきた今までの都市政策は、限界を露呈してきたわけです。限界を露呈している姿は、地方都市に見ることができます。地方都市の衰退は、無秩序な都市の拡散にありました。多くの地方自治体が、高度成長時代のような右肩上がりの予算編成を組んでいます。でも、利益を産まないところに、予算を投資しても、見返りがなければ、無駄になります。人口が増加している都市は、郊外への開発が必然化し、バス路線の拡充が求められました。いま人口減少する環境では、多くのバス路線が赤字の路線をたどっています。収支悪化した路線を維持するために、国や自治体による補助金で維持している実態があります。

 ここでは、赤字のお話しになります。水道事業は、原則水道料金で運営する独立採算制を敷いています。当然のことながら、給水人口が少ないほど値上げ率は高くなる傾向にあります。厚労省の資料(2018年) によると、1日あたりの有収水量2000年が3900万㎥でピークになります。有収水量は、水道管を通り蛇口から出た水道料金の対象となる水量です。

 人口減少や節水機器の普及などによって2000年をピークに有収水量が減っている状況があります。1日あたりの有収水量は、2065年には43.6%少ない2200万㎥になると予測されるまでになりました。日本の水道管の距離は、約 74 万 km にも及びます。この距離をそのままに、有収水量が減り続けても、74 万 km の水道管は維持されます。その上、毎年、2万件の濾水事故が起きることを考慮にいれると、地方の水道事業が厳しくなることは確実です。厳しくなる地域は、北海道、東北、北陸において値上げ率が高くなる傾向がでてきます。2043年度までに、水道料金が赤字になり、水道料金の値上げが必要となるのは1162事業体です。1162事業体という数字は、分析対象とした1232事業体の94.3%を占めるのです。

 さらに、赤字のお話しが続きます。赤字続きで、廃止になる鉄道や路線バスの現実を直視しなければならない時期にきています。地方の鉄道存続問題の本質は、地域住民の減少に伴う利用者不足にあります。地域の商圏人口(周辺人口)が、 鉄道やバス路線の存続可能な必要利用者に届かなくなっています。鉄道の存続でも、路線バスなどへの転換でも、需要不足を起こしている状況があります。すでに、鉄道廃線に伴う代替バス路線までもが赤字続きで廃止になるケースがあります。乗客が増えなければ、鉄道かバスかにかかわらず結局は廃止の道が待っている状況なのです。鉄道の赤字ローカル線が突き付けている問題の本質は、急速に人口が減少する現実にあります。商圏人口が縮むと、生活インフラの経営に即座に影響するわけです。鉄道やバス路線の存続に必要な利用者を確保しなければ、公共交通機関は維持できません。今日の鉄道は、「明日の水道」、「明日のガソリン・LPガス」、そして「医療・福祉」などの姿になります。

 赤字のお話しが嫌いならば、黒字にする工夫をすれば良いわけです。この工夫をしている鉄道企業もあります。有望な鉄道資産を、上手に活用する工夫を着々と行っています。高齢者の増加に伴い、生活に必要なサービスを一元的に受けられる場へのニーズは大きくなっています。それは、生活用品、行政サービスの窓口や医療機関、福祉施設のサービス一元的に受けられる便利な場のニーズになります。大都市圏の鉄道会社は、人口減少社会で鉄道事業を続けながら新たな収入の芽を育てています。新たな収入の芽は、まずは駅の機能を強化することから始めています。乗り換えの便利さや商業施設の充実だけでは、不十分です。駅を単に乗り換えための場から、周辺住民にとっての「便利な場所」へと生まれ変わらせる工夫です。医療機関が集中する駅、劇場や音楽ホールが集まる駅といったコンパクトシティの機能です。今後は郊外の主要駅がそれぞれにコンパクトシティの拠点としての役割持たせていく工夫になります。沿線の複数の駅で「役害分担」をして、コンパクシティの機能を持たせる工夫もあるようです。

 74 万 kmの水道管を84兆円から58兆円に縮小する建設費で維持することは、現実的ではありません。むしろ、水道管の距離を20万㎞にすれば、黒字になるでしょう。当然、人口密度の多い地域に、20万kmの水道管に縮小する工夫が求められます。その「縮小」を具現化する構想が、コンパクトシティ政策になります。コンパクトシティは、都市を健康にしよという体質改善の試みです。今の自治体は、人口が減少の中で、広げた水道や道路のインフラの維持に苦労し、さらに、自然災害に被害の受けやすい地区を作り出し、そして、非効率な公共交通を運営しています。ある意味で、肥満体をより肥満にし、あたかも糖尿病へ導く政策のように見えます。肥満の方が糖尿病になれば、治療費は相乗的に増大していきます。地方の都市政策を人間に例えれば、病気になって余計な治療費を散財しているようです。コンパクトシティは、都市の公共インフラを中心に適正な規模に誘導するものです。大事なことは、快適な環境の中で、人々がどれだけ生きがいを持って楽しめるのかという視点になります。人間の生きがいや活動力は、経済活動や社会活動によって維持され、高められていくものです。コンパクトシティは、経済活動や社会活動によって維持を保証することになるかもしれません。その上で、地域の中に、自分の出番や役割があることあればハッピーです。その役割ややりがいのある仕事を日々行うことにより、小さな幸せを積み重ねていくことができれば、コンパクトシティの目的が達成されるでしょう。

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