夢の国にも格差が幅を利かす時代ですが、良いことも アイデア広場 その1507

 世界のハッピーランドとも言えるディズニーで、少し困ったことが起きているようです。それは、値上げの波及です。ディズニーが、米国で運営する6つのパークでは頻繁に値上げが続いています。この夢の国では、混雑緩和のために先着順で発行する無料の整理券「ファストパス」がありました。もっとも、このファストパスは、入場者が減った新型コロナウイルス禍の入場制限を機に2021年ごろに終了しました。コロナ禍の終わった頃から、ディズニーは入園料の値上げや高額な優先搭乗券を相次ぎ導入し始めています。1時間あたり450~900ドルほどでガイド付きで、優先搭乗できるVIPツアーが登場しました。優先搭乗だけではなく、園のチケットそのものも値上がりが続く状況になりました。入場料が、開業後69年間の歴史で初めて 200ドルを超えたのです。極め付けが、「ライトニングレーン・プレミアパス」になります。最大449ドル(約6万9000円)で、待ち時間なくアトラクションに乗れるパスを導入したのです。最大449ドルで並ばずに専用レーンから乗れる「ライトニングレーン・プレミアパス」の出現です。このプレミアパスは、カリフオルニア州の2つのパークでも始まりました。プレミアパスの運営コストはかからないので、プレミアパスの収益はほぼパークの純利益になるということです。

 4人家族が1泊でディズニーに行った時にかかる平均費用は、節約すれば1227ドルになります。でも、値上げ後の入園料や新しいプレミアパスを加味すると入園と優先搭乗だけで最大2592ドルになるのです。さらに、制限が付きます。このプレミアパスは、ディズニーの特定ホテルに宿泊する人だけが購入できるのです。ディズニーは、プレミアパスに加えて、ホテルでも有利なビジネスを行う仕組みを作り出したわけです。「世界で一番ハッピーな場所」で、金の多寡によって平等に楽しめない状況が生まれているわけです。この流れには、ディズニーの営業戦略があるようです。ディズニーは1人100ドルの入園料で100人を入れて1万ドルの収益を得ることができます。さらに進めると、1人120ドルで90人の1万800ドルを稼ぐことができます。ディズニーは、収入が上位40%の米国人世帯を対象に価格設定やマーケティングを行っていたと言われていました。でも実際には、上位20%に重点を置いているともいわれています。上位20%の人々が毎年旅行に費やす金額は、下位80%の合計とほぼ同じことになります。節約する下位の80%の人達よりも、上位20%の人達を対象にしたほうが、ビジネスとしては有利という計算になります。これは、来場者数よりも収益を優先する戦略になりますが、ディズニーファン離れのリスクもあります。米ウォルト・ディズニーのテーマパークが一般的な家計にとって遠い場所になりつつあるという心配が出てきているわけです。

 蛇足ですが、なぜ人々はテーマパークに行くのでしょうか。幼児に『高い高い』とか『ぐるぐる回す』と喜ぶ笑顔を見ることができます。これらは、遊戯の要素にあるイリンクス(眩暈)なのです。イリンクスは、一瞬だけ知覚の安定を崩し、明晰な意識に一種の心地良いパニックを起こそうとする遊びです。この遊びが、近代になると蒸気機関をつかったメリーゴーランドになっていきます。そこで、イリンクスという原初的遊びを使うビジネスを調べて見ました。できれば、低コストで喜びをもたらす工夫も探してみました。現代では、圧倒的にディズニーランドやUSJのジェットコースター、そしてハウステンボスのプロジェクションマッピングが人気を集めています。原理的には、イリンクスを巨大装置で再現したものです。ところで、これらの巨大装置の影に隠れて、コーヒーカップや旧式なメリーゴーランドなども活躍しているのです。イリンクスを起こしやすい人、状況によってイリンクスが起こしやすくなる環境、年齢や役割によって起こりやすくなったり、阻害されたりする状況があるようです。宗教におけるシャーマンには、陶酔とかのイリンクスの要素がつきものです。テーマパークは、これらを求める人々を寄せ集める巨大な装置になります。その維持にも、人々の関心をかきたてる装置の開発にも、資金を必要とすることになります、

ディズニーランドの夢の空間に入ると、ハッピーな気分になります。近年、ウェルビーイング(Well-being)に対する社会的な関心が高まっています。ウェルビーイングは、幸福とか幸福感と訳され人生の満足度や充実感、ポジティブな感情を意味すると理解されていまます。このウェルビーイングは「幸福」とも訳せますが、同じ意味の幸福(Happiness)とはニュアンスが異なるようです。ハピネスは「瞬間的」に幸せな心理状態という捉え方になり、一方ウェルビーイングは「持続的」という意味でとらえられるようです。最近の診断技術は進歩し、個人の幸福度をかなり正確に安定して測れる自己診断の手法が確立されています。この手法を使う企業が、社員の幸福感を高めて、業績を上げるケースも増えているのです。社員が束の間の幸福感を味わうたびに、ポジティブ感情が生じて、創造性と革新性が高まり、それが業績に結びつくという好循環が生まれているわけです。企業や経営者がハッピーで上機嫌な職場をつくれば、病欠も減り医療費も減少することも分かってきました。ディズニーにで、幸福な気持ちで心の癒した親や子どもたちは、次の日からポジティブな生活をすることができるようです。この幸福には、現在のポジティブな気分と将来に関するポジティブな展望の両方が含まれるという見方が主流です。

世の中には、上位20%の消費者を対象としたビジネスがある一方で、下位の80%を対象にしたビジネスもあります。所得が低い地域には、市場が存在しないという考えは間違っているようです。人々は毎日生きていくために、食べ続けていかなければなりません。ベースオブピラミッド(BOP)の人々は、40億人といわれています。世界の人口構成は、BOP層が世界人口の約72%を占めるわけです。ちなみに、中間層が14億人、富裕層が1.75億人という構成になります。BOPの人々に、10円のモノを買ってもらえれば、400億円の販売が可能になります。味の素では、アフリカのBOPを対象に10円に小分けした味の素を販売しています。また、中間層は、最も購買量の多い層でもあります。先進国でのこの層は、飽和状態にあるといわれています。でも、消費の主体を細分化することで、より多くの種類の商品を販売することが可能な層でもあります。消費のニーズに応えることで、より多くの購買量を増やすことができるターゲットになります。蛇足ですが、BOP層は、所得階層別人口ピラミッドの最底辺に位置する、一人当たり年間所得が購買力平価(PPP)ベースで3,000ドル以下の低所得貧困層を指します。BOP層をターゲットとするビジネスモデルをBOPビジネスと呼び、新たな市場の開拓や格差や貧困問題の解決に注目されています。もし、この地域に住む人々の所得を上げる仕組みを作ることができれば、飛躍的なビズネスの成功をもたらす可能性を秘めています。

お話は、日本の東京ディズニー(TDR)になります。TDRは、2024年3月期の1当たり売上高は20年3月期比で4割増に上がりました。2024年の客単価にあたるゲスト与人当たり売上高は2020年比で4割増の1万6644円になります。TDRは昨年のチケット値上げ後も、入園者数の増加いていました。でも、一転して減少に転じたのです。新エリア効果を期待したのですが、今年に入り、旅行需要の減少や猛暑の影響が出ました。2024年4~9月期は、1220万人で期初の会社予想を約100万人下回ったのです。オリエンタルランド(OLC)の2024年4~9月期の売上高は、5%増の2972億円でした。OLCの2024年4~9月期の連結決算は、純利益が前年同期比17%減の455億円になりました。そこで、通期の入園者数は上期の減少分を考慮することになり、従来予想の2900万人から2800万人に修正したわけです。もっとも、経営幹部は強気で、「TDRはもともと下期のほうが入場者数は多い」と強気です。強気の理由は、「ハロウィーンやクリスマスといったイベントがあるというものです。

最後になりますが、テーマパークと地域の共生のお話しになります。東京ディズニーリゾートは2023年、開業40周年を迎えました。千葉県浦安市は、ディズニーリゾートの営業が軌道にのり、宅地の大規模開発がひと段しました。同市の今の課題は、高齢化に向き合う地域の運営になるようです。税収の安定収入が、運営のかなめになります。浦安市は、ディズニーの立地条件を生かそうとしています。スターツホテルは、浦安市内でホテルを運営しています。スターツホテルの稼働率は、90%を超えています。稼働率が、90%を超える魅力的な場所はなかなかないのです。ディズニーに来る地方の人々は、地元のホテルに泊まる方が多いのです。年間、2800万人の入場者の10%でも、地元ホテルに宿泊すれば、その稼働率は上々ということになります。この状況を捉えて、TDRのある特有の産業構造を税収増に生かそうという構想です。浦安市だけでなく、千葉県でも宿泊税の導入を検討しています。課税額は1人1泊あたり、100円は必要と想定しているようです。ホテル税を、道路や公共施設といったイフラ整備に使うことになります。人が集まれば、そこに消費が生まれます。ホテル税だけでなく、多くの消費税も入ることになります。もし、多くの裕福な方がディズニーに来ることになれば、近辺の地域に多くのお金が落ちることになります。それが、地域の住民の福祉に使われるようになるかもしれません。

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