2回目の「地方創生」が、叫ばれています。1回目の地方創生には、女性の目線が少なかったようです。そのために、効果が上がりませんでした。それは、ジェンダーギャップに起因するものでした。地方創生の政策の中身に、男性の目線が強く、女性の目線が少なかったとも言えます。出産可能な若い女性が故郷を出て行ってしまうことは、自治体の消滅危機に陥ることまでは誰でも分かります。この消滅危機の先への対策がなく、女性たちがなぜ故郷を捨てたのかを放置してきたわけです。「女性が生きやすくなる条件とは何なのか? 」、「何を望むのか?」。創生のカギは、この「何を望むのか」に隠されているにも関わらず、女性の声を聞こうとしない状況が続いています。女性の声を聞こうとしない自治体に限って、女性議員がゼロだったりします。昭和は、食事にしても、妻が「作る人」で、夫が「食べる人」でした。でも、令和になり、昔のように子育てを女性まかせにするなんて、逆にかっこ悪いという風潮できつつあるようです。ある認可保育園の朝の風景は、子どもを送ってくるのは、父親が90%だそうです。女性の管理職を積極的に登用する企業も増えています。そして、実績を上げているのです。今回の衆議院選挙でも、女性議員は増えてきました。今回は、ジェンダーギャップを克服することを考えてみました。
ジェンダーギヤジプ指数は、政治、経済、教育、健康の4つの分野で評価するものになります。日本は、146か国中125位と悲しい位置にいます。でも、健康と教育の2つの分野は世界でもトップクラスです。日本の場合、健康と教育の分野ではそれほど男女差はないのです。平均寿命では、常に世界トップクラスに位置しています。教育分野では、4年制大学進学’率をとってみてもほとんど男女差がありません。ただ、政治となると、衆議院の女性議員比率は15.7%です。過去に女性の首相は一人もいません。経済面では賃金格差や女性管理者が極端に少ないなど、ギャップは深刻な状況です。日本の女性は、家庭内で無償労働が求められてきました。掃除や洗濯、そして育児に対して、要求水準が高かったのです。この家事労働と会社の仕事の両方を、こなしていたわけです。日本の女性キャリアだけが、重い荷物を背負って、用意ドンとスタートをしていたことになります。高い教育を受けてきた女性たちが、志なかばで社会の片隅に追いやられてしまう状況がありました。これらの女性の才能を伸ばす仕組みがあれば、日本の前途は開けます。せめて、同じ土俵で、男女が仕事をせめぎ合う環境を整えることが望まれます。
それでは、どのようにしてジェンダーギャップを埋めれば良いのでしょうか。日本の764市の2007年から2012年のデータを使い、女性の割合と自治体の財政状況を検証した研究があります。それによると、女性議員が増えると、自治体の財政規律が高まるとの実証研究をまとめています。女性議員の比率が高い自治体では、地方債の発行が少なく、公営企業への資金拠出も少ないのです。女性議員は、福祉面でよく政策提言し、施策や事業遂行過程に注意を払っているようです。女性議員が多いほど、女性に関心の高い公共サービスに予算が付きやすいという結果も出ています。さらに、女性議員比率が高いほど汚職が少なく、教育や福祉に予算がつきやすいという実証研究もまとめられています。余談ですが、インドの265自治体を対象にしたこの種の研究があります。このインドの研究では、日本と同じように、女性議員が多いほど、教育や福祉に予算が付きやすくなるようです。女性議員の増加のメリットは、①現状を変える②新しい考えを受け入れる③社会に貢献する④成果を達成するという結果になっています。さらに、女性議員が増えれば、高齢の男性議員が多い議会を変え多様な価値観を行政に反映できるとも付け加えています。
女性議員の増加が、地方創生に貢献した事例が、神奈川県の大磯町です。日本国内で女性議員の比率が最も高い町は、大磯町でした。2003年には、この町の女性議員の比率が50%になりました。女性議員が増えて、議会は様変わりしました。男性ばかりの議会運営の場合、議員が行う視察も「親睦のための観光」などの形式が多かったのです。でも、男性議員の観光主流の視察を、女性議員は福祉のための視察に大きく変換していきました。女性が政策決定の主導権を発揮し、税金を人々の日々の生活を良くすることに使われるようになりました。女性議員は、家庭と社会の仕事を融合する管理術を持っています。議会集団が男性や高齢者で構成されていれば、男性と高齢者の利益を重視する施策が通りやすくなります。女性議員が増えることで、町おこしなど住民に直接関わる施策が提起されるようになっていったということです。伝統的に男性優位の議会に、女性議員が新風を巻き起こします。新風だけでなく、成果も確実にもたらしつつあります。
なぜ女性議員が増えると、議会の雰囲気が変わるのでしょうか。この質問に対するヒントとなるのが、『代表的官僚制』になります。行政学には、社会を構成する人たちの属性と公務員の属性を近づけることで、公共サービスをより民主的で公正なものにするという『代表的官僚制』という考え方があります。経済学や財政学の分野では、性差によってリスク回避行動や意思決定のパターンが異なることが分かっています。男子中心の議会では、この性差影響が男子の意向を取り入れるものになりがちです。ここに女性が多数占めれば、女性の性差を取り入れることが可能になるわけです。たとえば、警察の家庭内暴力を担当する部門で女性のトップが増えると、警察組織のパフォーマンスにプラスに働き、警察への信頼性や公平性について市民の印象もよくなることが分かっています。その成果は、女性に寄り添った相談や事情聴取が行われるからです。公務員の属性の差によって、市民の満足度や市民に対するサービスが変わってくるかという研究が各国で行われるようになってきました。このような研究の積み重ねの結果、女性議員比率が高い国ほど汚職が少なくなることが実証的に明らかになってきたわけです。
それでは、民間企業ではどうなのでしょうか。グーグルは、社員に無償で炊事や洗濯代行のサービスをオフィスで提供しました。グーグルは、最大の価値を発揮する資源は、優秀な社員だと見極めていたのです。優秀な社員の時間は、無駄にしてはいけないという哲学があるようです。日本は長らく、男性優位の職場環境を形成してきました。でも、最近は女性の購買力も急速に向上してきています。女性のことは、女性がよく分かります。女性の提案から男性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造、そして販売という流れが多いようです。これを、女性の提案から女性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造・販売という流れを構築した方が合理的です。キャリア女性の能力が生かされる分野は、拡大しています。日本では、女性の能力を生かしている企業に積水ハウスがあります。積水ハウスは、育児休業の制度を拡充するなど子育てと仕事の両立支援にも力を入てきた企業になります。2018年9月から男性社員に育休1カ月取得を義務付けました。育休の対象になった670人全員が、取得したことで話題になりました。昭和モデルでは、男性が稼ぎ手としての働くことが美徳とされました。妻は、家で子育てという美風が残っていました。育休など取っていては、生産性が落ちるというわけです。でも、積水ハウスの場合、育休は休業中の引き継ぎなどの簡素化で、無駄な業務を見直しました。その結果、生産性が向上するという効果がありました。育休の完全実施が、会社の利益なり、家庭の平和にも寄与したわけです。コロナ禍で図らずも得た柔軟な働き方を軸に、男性が家事や育児を担える環境が整ってきたようです。
最後になりますが、働く女性にとって、楽しい仕事をして子どもと至福の時を過ごすことが、幸せということになるかもしれません。近年は、働いて子どもを育てるだけでは、十分でないという声も出てきました。日本の管理職や専門職の女性は、家事や育児を今までの様に、がんばりながら両立をして方が多いようです。一方、日本では管理職になると幸福度は下がるという研究もあります。管理職になる能力を持ちながらも、管理職にならない人材もあるようです。管理職になりたくない理由としては、男女とも「ストレスが増えるため」ということのようです。特に、女性は昇進に消極的と言われています。ところが、このような女性管理職に否定的な見解に、反する楽しい調査結果も出てきています。積水ハウスが2023年、「幸せ度」調査を、慶応義塾大学大学の前野隆司教授の監修で実施されました。グループ関連会社も含めて 2万3117人から回答を得ました。この中身が、一般的日本の企業の常識から良い意味で逸脱していたのです。「幸せ度」調査では、女性管理職のスコアが、男性の管理職、男性のー般社員、そして一般の女性社員を上回っていたのです。女性管理職が、職場で最も「幸せ度」が高いという結果になりました。このような企業で働く女性もいるわけです。蛇足ですが、2023年4月の統一地方選では、女性議員が過去最多になりました。各自治体で、女性議員の増えた議会が相次ぎました。今回の衆議院選挙では、73人の女性議員が当選しました。この当選者も過去最高になります。議会も企業も、家庭も、徐々に変わりつつあります。この流れをより大きな流れにしていきたいものです。