海産物の獲得と温暖化対策を同時に成功させる仕組み  アイデア広場 その1472

 グリーンクレジットは、適切な森林管理によってCO2等の吸収量を、クレジットとして国が認証する制度になります。このグリーンクレジットの価格は、上がっています。 特に二酸化炭素の吸収を目的とした植林プロジェクトのクレジット価格の上昇率が高いのです。 企業には、CO2ゼロ宣言達成のためにどうしても削減できない排出量あります。この排出量をオフセットするために、比較的管理しやすい植林プロジェクトへ投資する流れがあります。このグリーンに対して、ブルーカーボンクレジットがあります。これは、ワカメやコンブなどの海藻やアマモなどの海草が水中のCO2を吸収した後に、海底に長期貯留される仕組みになります。日本は、海藻や海草由来のブルーカーボン創出で先行しているのです。一つの事例が、北海道の増毛町に見られます。ニシン漁で栄えた北海道北西部にある増毛町の海岸は、海藻が生えない磯焼けの海岸でした。この不毛な海岸で、日本製鉄が地元の漁協と組み、2014年から植生回復の実証事業を始めたのです。製鉄時に出る鉄分を含んだ砂利を、土と混ぜて、ヤシの袋に入れて浅瀬に埋設することを行ったのです。これは、コンブの生育に欠かせない鉄分を供給する仕組みでした。鉄分を供給することにより、コンブの成長が1本当たりの重さが8倍も大きく育つという成果を上げたのです。増毛町では、夏を迎えると黒茶色のコンブが大量に採れるようになりました。コンブは、藻類に分類され、植物プランクトンの塊ともいえるものです。日本製鉄の狙いは、単にコンブの植生の回復だけではなく海藻が吸収する二酸化炭素対策でした。国連は、海藻をブルーカーボンとして取り上げ、高い評価を与えたのです。アマゾンなどの森林で貯留される炭素は、グリーンカーボンと言われています。国連は、海草の働きを調べました。その結論は、海は陸と同程度の二酸化炭素を吸収する能力があるというものでした。コンブやワカメなどの大型藻場のCO2を吸収能力の潜在力は、大きいということも分かったのです。

 時代は進んで、2024年になります。大阪府阪南市の沿岸部から約100~400メートルの沖合に、面白い風景があります。等間隔に並ぶブイの間で、試験生育中のワカメが海中で揺れる様子が船上から見えます。これは、日立製作所など産官学連合が行っているブルーカーボンの実証実験です。日立の研究者が3月に沖合に出て生育中のワカメを測ると、約2.5mまでに育っていました。ワカメの生育実証をするのは阪南市沖で同市近隣の下水処理施設の放流域になります。日立製作所など産官学連合が、下水処理技術を用いた藻場造りの技術開発を行っているのです。下水処理後の放流水は、栄養塩と呼ばれる窒素とリンの濃度が低水準になるように厳格に管理されています。この濃度が高くなると、赤潮などの原因になります。反対に、濃度管理が行き過ぎると、やせすぎた海になってしまいます。以前、瀬戸内海は、痩せすぎになったことがあります。

 瀬戸内海の海がきれいになって、痩せた海になったのです。兵庫県の養殖ノリが、日本一の座を佐賀県に譲り渡してかなりの年数が過ぎています。海水中の窒素やリンが減少し、貧栄養状態になりました。栄養がない状態では、ノリは育たない海になっていたわけです。ノリは、アミノ酸の塊です。成長するためには、窒素が必要不可欠なのです。昔は東京湾が、ノリの名産でした。それが瀬戸内海に移り、今は九州の佐賀県になっています。ノリの生産者の方は、「きれいな海になったが、豊かな海ではなくなった」という人も出てきています。瀬戸内海には、窒素やリンなどの栄養塩の流入が減少しています。この理由は、耕作地が減少していることにあります。河川を通じて田畑の肥料が瀬戸内海に流れこまなくなったのです。耕作放棄地が増加し、陸から海に化学肥料の窒素やリンが流れ込まなくなっているわけです。高度成長時代は、赤潮などの公害を解決することが第一の課題でした。今の瀬戸内海は、栄養塩のバランスをどうするかが課題になっているのです。この課題の解決のヒントが、ヨーロッパのドーバー海峡に見られます。ヨーロッパのドーバー海峡では、太ったアジが漁獲されています。アジに限らず、魚の生育が良い漁場として知られているのです。理由は、オランダにあります。オランダは、農業大国です。園芸農業や植物工場など最先端の農業を展開しています。機械化された生産システムには、多くの肥料を使用します。この肥料の残存成分である窒素やリンが、ドーバー海峡に流れ込んでくるのです。これが、この海域の植物プランクトンや動物プランクトンの繁殖を促すわけです。これを、アジなどの餌魚が食べるという食物連鎖ができています。瀬戸内海は、オランダとは、逆の現象が生じているわけです。

  日本でも、先端的企業が痩せた海を豊かにする工夫を重ねています。岡部は、海洋向け建築資材を手掛ける企業になります。この企業が、養殖の難しい沖合でブルーカーボンを創出する開発が始めました。多段式の養殖設備を作り、深度に合わせて海藻の種類を変えられるという優れものです。岡部は、深さ30メートル以上でも海藻を育てられる多段式の養殖設備を作ったのです。もしここに、栄養を切らさすに提供できれば、豊かな海になります。海水に含まれる栄養価を高めることで、周辺域の海藻を豊かに茂らせるわけです。増毛町の海岸にコンブを繁殖させたように、鉄分を供給すれば良いわけです。この教訓を実践している企業が、東洋製缶グループになるかもしれません。このグループは海藻の養分となる鉄が、ゆっくり供給できる仕組みを発案しました。ゆっくりと水中に鉄分が溶け出すガラスが、全国60カ所以上の漁港や防波堤に採用されました。また、KDDIはこれまで水上ドローン技術を、ブルーカーボン計測に活用してきています。漁船などの船上から海に潜ることなく、藻場の生育状況を計測できるシステムの実用化を進めてきました。水中カメラを使って、水中の画像データなどから藻場の生育状況を精度高く計測できる優れものを作り出したわけです。

 国連の環境計画では、海藻藻場や干潟などのブルーカーボン生態系が温暖化対策になるとしています。ブルーカーボンとは、コンブなどの海藻が光合成で吸収する炭素を指すものです。海藻などによる炭素の貯留期間は最大で数百年から数千年とされ、数十年の森林より長いという特徴があります。日本は、海に囲まれた島国です。日本は、国土は小さいがブルーカーボンを手掛ける余地は大きいのです。国土は小さいのですが、海岸線の長さと海洋面積はともに世界6位になります。この海岸の長さと海の面積は、日本の資産になります。植物は光合成で、空気中や水中の二酸化炭素と水を使って炭水化物と酸素をつくっています。熱帯雨林の植物には、数年から数十年、長いものになれば数百年生きる樹木もあります。この熱帯雨林の植物内には、長期間、炭素が貯蔵されていることになります。一方、植物プランクトンは、速く成長して、速く再生産し、早く死ぬのが海の生産者の特徴になります。植物プランクトンは、6日に1回の割合で分裂を繰り返します。この植物プランクトンの半数は、死ぬか、他の生物に食べられます運命にあります。植物プランクトンの全量は、1週間に一度、そっくり入れ替わっていることになるのです。海洋の世代交代は、陸上の約260倍の速さで進んでいることになります。熱帯雨林の植物と比較して、1週間ですべて生え替わっていく植物プランクトン速さが理解できるかもしれません。国土交通省所管の港湾空港技術研究所によれば、世界での陸域のC02吸収量は年77億トンになります。一方、ブルーカーボンの海域での吸収量は、102億トンと陸より多いのです。海には、可能性が残されているわけです。

 おさらいになりますが、植物は光合成で、ショ糖やグルコース、デンプンなどの糖類と酸素をつくっています。植物プランクトンが光合成をし、生長と増加するためには必要な栄養塩が必要になります。光合成を行う上で必要とするものは、炭素(C)と窒素(N)、リン(P)の3元素です。3元素の組成(モル比)は、おおよそC―N―Pが106対16対1になります。この106対16対1の比率は、発見者にちなんで「レッドフィールド比」とよばれているのです。鉄は、植物プランクトンの同類である藻類が光合成をするのに必要な器官である葉緑体の形成などに不可欠な物質になります。海は、つねに鉄が不足している状態にあるのです。106対16対1対0.001の鉄が不足するために、植物プランクトンの繁殖が阻まれているともいえます。でも、増毛町や大阪府阪南市の海岸で、鉄分の供給があれば、コンブや海藻が豊かに育つことが確認されています。適度な栄養の供給が可能になれば、海は宝の宝庫になります。

 最後になりますが、ブルーカーボンで削減したC02量をクレジットとして販売する動きも日本では進んでいます。しかも、高値での取引が行われています。国交相の認可法人ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)は、森林クレジットなどに比べて5倍以上高値で取引されています。このJBEは、ブルーカーボンクレジットの認証団体になります。クレジットの発行実績は、2023年度で2000トンを超えています。この数字は、海外と比べても突出しています。日本の先端的企業の実力が、向上していることを示しています。JBEは、生物多様性確保などの環境価値が評価されているようです。クレジット創出のノウハウなどに対して、海外からの問いあわせが増えているとのことです。諸外国で、このクレジット化が可能になれば、日本国内だけでなく、外国で利益を上げることができるようになります。そんな日がくれば、ハッピーです。

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