近年、J-POPが世界に認められ、普及している現状あるようです。音楽関係者には、嬉しいニュースになります。1980年から90年代には、J-POPがアジアでも人気がありました。でも、当時は国内が豊かで、海外普及にまで手を伸ばさなくとも、十分に利益を享受できたのです。日本の豊かさに誘われるように、K-POPが日本に根を下ろすようになります。韓国の市場が狭かったために、日本に進出したという裏の事情もあったようです。その韓国のK-POPが、2000年代にデジタル化して海外に打って出ました。韓国の海外戦略は、見事に成功しました。世界中から、K-POPが受け入れられるようになったわけです。一方、成功し資金が豊かになると、いろいろな問題が生じることになります。HYBEをめぐっては、人気絶頂のガールズグループを手掛ける子会社とのお家騒動が起こりました。HYBEは、世界的なアイドルグループBTSの事務所になります。これは、韓国国内1位のエンターテイメントの事務所でもあります。市場の関心は、K-POPの行方とともに、騒動を機に株価は大きく下落したことにあるようです。HYBEが今後、適切なガバナンスをきかせながら再成長できるか、市場が注目しているわけです。
K-POPは、歌詞で聴かせる歌ではありません。このK-POPは、ダンスの魅力と、分かりやすいノリの良さが重視されています。これは、ある意味で人間の根源的な欲求を満足させるものなのです。アフリカの森から平原に出たホモ・サピエンスは、世界中に分布するようになりました。私たちの祖先であるホモ・サピエンスは、きわめて移動能力が高く、適応能力が高い生き物でした。彼らは10万年前の時代でも、音楽やおしゃれを楽しんでいたのです。世界中の神話や物語を分析すると、30程度のパターンに分類できてしまいます。それらには、聞いたり読んだり見たりして、心地いいと感じる物語やお話があります。その心地よい物語には、共通の「型」があることが分かりました。人類が移動して、いろいろな地域に生活するようになっても、なにを喜び、なにを哀しむかは、どの国でも似たようなことが多いのです。音声の言葉ではなく、音楽(リズム、メロディ、ハーモニー)と身体言語でコミュニケーションを行っていたのです。この音楽や身体言語が、本当の喜びや悲しみを表現するものになっていたともいえます。この意味で、K-POPは世界に広がる要素を備えていたことになります。多種多様な言語や宗教と多彩な生活様式などの多様性が、人類の生存を支えてきました。K-POPはこの多様性の上に乗り、共通の言語を持たないアジアや欧米の人々にも楽しんでもらえる要素を備えていたというわけです。さらに、人類学的視点だけでなく、現在文明の力も備えていました。スマホとYouTubeの融合した曲や映像を提供しているために、K-POPは成功しているともいえます。
4月にアメリカで開かれた世界最大級の音楽フェス「コーチェラ」には、日本勢が多数参加しました。カリフォルニア州西部の砂漠地帯に会場が設置され、入場者は延べ75万人にも及ぶ大フェスティバルです。4月12~14, 19~21日にかけて、100組におよぶアーティストが連日昼夜を通して演奏したのです。「コーチェラ」にはYOASOBIやラッパーのAwichさんなど日本勢が多く出演しました。このようなフェスティバルだけでなく、ライブやチャートでJ-POPが活気をもたらしています。アイドル」」は日本語楽曲で初めて、ビルボードのグーバルチャートで首位に立ちました。この「アイドル」(Idol)は、日本の音楽ユニット・YOASOBIの楽曲になります。2023年4月12日に各種音楽配信サービスにて配信が開始され、5月26日には英語版をリリースしています。YOMOBIは、この曲で世界的スターに駆け上がりました。YOASOBI だけでなく、 Creepy Nutsの曲も米国でヒットしています。J-POPが、世界の音楽シーンをかつてなくにぎわせている状況があります。世界チャートにJ-POPが並ぶ今、アーティストの世界進出を支援する企業も当然のように出てきます。
その企業の一つに、ソニーミュージックエンタテイーント(SME)があります。SMEはソニーの米アニメ配信会社とも組んで、アニメ音楽のフェスティバルなどにも歌手の出演を手掛けています。「アイドル」は、アニメ「[推しの子]」主題歌としてヒットしました。常識的なアニメソングとして曲想が大きく異なることが、[推しの子]のヒットにつながったとも言われています。K-POPは、普遍性を体現していました。でも、「アイドル」は、「アニメと親和性が高いことが、他国の音楽にはない日本の強みだ」と言われています。普遍性よりも、地域性や特殊性に比重があるようです。日本のアニメは、ガラパゴスの強みと弱さを持っています。この強みを保持しつつ、次の針路をどのように開拓していくかが、SMEなどの企業の才覚になるようです。日本人が得意なことを、大切に育てていきたいものです。蛇足ですが、日本のアニメは、観光誘致にも強い誘因力を持っています。このアニメは、世界の人を引き付ける「何か」を持っているのかもしれません。
2023年の世界の音楽市場規模は、286億ドル(約4兆5000億円)になります。さらに、この市場は、毎年10%以上の伸びを続けています。この伸びは、世界の成長の上をいっています。IMF(国際通貨基金)のデータで全世界のGDPを見ると、世界の経済は拡大を続けています。1980年のGDP は、11.1兆ドルでした。この世界のGDP が、2000年には33.8兆ドルとなります。さらに、2022年における世界のGDPは95.8兆ドルになっています。この40年ほどで9倍の成長を示しているのです。成長産業に、企業が関心を持つことは当然です。2023年の世界の音楽市場は、67%がストリーミングになっています。ストリーミングは、ネットに接続した状態で動画や音楽などのデータを分割してダウンロードしながら同時に再生ずる配信方式になります。グローバル化が進んでいるある韓国音楽事務所は、海外配信比率が85%にもなっています。残念ながら、日本は65%がCDなどで、デジタル化の波に後れを取っています。音楽の世界には、多種多様なファンがいます。まず、企業としては、この大枠を把握することが前提になります。昔は広く浅く把握し、それらのファンに広く浅く知らせる手法でも一定の成果を上げることができました。でも、現在は広い浅いファンよりも、コアなファンを掌握することに商機があります。アニメなどと親和性の高いローカルな曲には、ローカルの意味や価値があります。コアなファンは、このローカルを求めるわけです。多種多様なファンの中から、コアなファンを囲い込み、曲とアニメ、そして曲とダンスなどのコンテンツを楽しんでもらう方向に導きます。導く方向は、ファンのエンゲージメントを高める方向にもなるかもしれません。
余談ですが、昔の歌謡曲は恋愛の歌詞が7割を占めていました。今は、日々の生活の中の悩みを歌う歌詞が増えています。SNSでも、若者が人間関係の悩みを悲観的に書き込んでいる姿があります。そのような状況を反映して、悩みをリアルに体現するアーティストの人気が高いのです。「アイドル」や「BBBB」は、カラオケで歌うのは難しいですが、それにも関わらず世界で流行しました。この現象は、SNS時代の申し子と言われています。でも、この流行には仕掛けが隠されています。英語歌詞に知恵を絞るなど、地道な仕掛け(戦略)が成功しているのです。たとえば、「夜に駆ける」の歌い出しの「沈むように」は「Seize a move, you’re on me」となります。歌詞の意味を英語に訳すのではなく、発音を日本語に寄せて口ずさみやすくしているのです。曲調や歌詞を工夫して、SNSで反響を呼ぶ戦略が奏功しているのです。音楽配信サービスでグローバルの一押し曲に選ばれるには、SNSの「バズり」も大切な要素になります。「バズる」とは、SNSやネト上で話題になり、多くの人の注目を集めることを指します。日本は、アニメ・ゲームの世界的人気が原作マンガや音楽、そして舞台にも及んでいます。この方面からも、音楽関連の企業は「バズり」を生む組織改革にも着手する必要が出てきているようです。
最後になりますが、日本からグローバルを目指すって動きは今後も増える状況になっています。世界に発信するためには、ファンに届けるための仕組みが必要になります。普遍化やグローバル化だけで、すべての人たちを満足させることは難しい環境です。1人のスーパースターのヒットだけでは、ビジネスの景色は変わりません。J-POPの次の成長には、海外での物販体制の整備をつくることが課題になるようです。J-POPの次の成長には、熱心なファンのコミュニティーであるコアなファンのグループを作ることになります。コアなファンは、趣味・アニメ・漫画・小説・スポーツなどの分野の熱心な人達になります。熱心なファンによる世界が、彼らによって形成された特殊文化になるかもしれません。文化は、生まれれば揺籃期として成長し、さらに成熟の領域まで成長し、成長がピークになれば、衰退するという流れがあります。「アイドル」や「BBBB」は、楽曲そのものにSNSで「バズり」を起こせる要素が詰まっています。文化の流れから言えば、揺籃期から成熟の領域まで押し上げることができる可能性があるわけです。現代は、狭くても熱量が大きい人に受容されることが重要です。J-POPが世界でも、揺籃期から成熟の領域に次々に登場することを期待したいものです。欲張りな私は、成熟期ができるだけ長く、そして衰退が急に訪れることのないようにできればと希望しています。