日本から海外を眺めると、欧米には女性の首相や閣僚が多いことに気が付きます。そのすそ野を支えている市町村の議員にも女性が多いのです。その女性議員の活動が、地域を豊かにしているという状況を生み出しています。経済学や財政学の分野では、性差によってリスク回避行動や意思決定のパターンが異なることが分かっています。男子中心の議会では、この性差影響が男子の意向を取り入れるものになりがちです。ここに女性が多数占めれば、女性の要望を取り入れることが可能になるわけです。たとえば、警察の家庭内暴力を担当する部門で女性のトップが増えると、警察組織のパフォーマンスが女性にプラスに働き、警察への信頼性や公平性について市民の印象もよくなることが分かっています。その成果は、女性に寄り添った相談や事情聴取が行われるからです。公務員の属性の差によって、市民の満足度や市民に対するサービスが変わってくるかという研究が各国で行われるようになってきました。このような研究の積み重ねの結果、女性議員比率が高い国ほど汚職が少なくなることが実証的に明らかになってきたわけです。日本の場合、地方議員は地元の名士など高齢の男性に頼ることが多い状況が続いてきました。地方の人口は減少し、このままではなり手を確保できない地方議会も増えています。今回は、地方の議会を活性化するアイデアを絞り出してみました。
少子高齢化の影響でしょうか、地方議員のなり手不足か深刻になっています。人口減少が著しい離島や山間部を中心に議員のなり手不足は深刻な状況を生み出しています。町村の議員報酬は、月額で平均21万7000円になります。この報酬は、都道府県の議員(83万円) 4分の1程度になります。この金額では、副業を行わないと十分な議員活動と生活の両立はできません。住民が少ない自治体ほど議員報酬が、低い現実があります。町村議員の無投票割合は、2023年に30%を越えました。従来のやり方を踏襲するだけでは、立候補者増は見込めない状況が生まれています。地域の活性化には新陳代謝で議会に多様な意見を取り込むことが必要になります。男子だけの高齢の議員だけでは、地域の活性化できない現実あります。もっとも、困ったことがあれば、それを解決する人や地域があります。議員の立候補者が増えた地方議会が、13の府県に見られるようになりました。その上位には、島根県や富山県、滋賀県があります。上位の議会では、議員の報酬を上げる施策や兼業を認めるなどの仕組みを整えています。さらに、女性や移住者の人達が、立候補しやすい環境を整えているようです。
議員が兼業で、豊かな暮らしと活動をしているモデルは、スイスの地方議員になります。もっとも、議会だけなく、行政、住民の福祉や仕事を高いレベルで充実させています。スイスのある村役場の施設には、学校のほか企業の入るテナントや広場に面したカフェもあります。村は、村長を含めて職員がパートタイムで働いています。テナントとして入っているコンビニは、午前中のみの営業なのです。スイスのある村役場は、多くの機能を兼ねています。図書館は、週に一度オープンするだけです。多目的室では、村議会が開かれ9人の議員が集まって議論が行われます。役場で働く公務員も、基本的に4年任期の自由契約制で、賞与や昇給はないのです。地元の人々は中学や高校を卒業するだけで、家業の農業や観光業を受け継いで豊かな生活ができます。農業や観光業の傍ら、農道や林道の改修や除雪、住宅地の維持管理などの土木建設工事に携わる人も多いのです。国民も多くの場合、複数の職業をもっており、平均年間所得は世界1位の約563万円の所得額になっています。共働きで、2人合わせて1000万円を超える夫婦も少なくありません。議員も、これらの副業をしながら、地域の活性化と生活の充実を計っているのです。スイスにできて、日本にできない理由は何なのでしょうか。
女性議員の増加が、地方創生に貢献した事例が、神奈川県の大磯町です。日本国内で女性議員の比率が最も高い町は、大磯町でした。2003年には、この町の女性議員の比率が50%になりました。女性議員が増えて、議会は様変わりしました。男性ばかりの議会運営の場合、議員が行う視察も「親睦のための観光」などの形式が多かったのです。でも、男性議員の観光主流の視察を、女性議員は福祉のための視察に大きく変換していきました。女性が政策決定の主導権を発揮し、税金を人々の日々の生活を良くすることに使われるようになりました。女性議員は、家庭と社会の仕事を融合する管理術を持っています。議会集団が男性や高齢者で構成されていれば、男性と高齢者の利益を重視する施策が通りやすくなります。女性議員が増えることで、町おこしなど住民に直接関わる施策が提起されるようになっていったということです。伝統的に男性優位の議会に、女性議員が新風を巻き起こします。新風だけでなく、成果も確実にもたらしつつあります。この成果をより早く確実にする制度の導入が、欧米では取り入れられています。それは、クオータ制の導入になります。この制度は、積極的に女性を登用するものです。クオータ制が導入されている理由は、女性の知的生産が高いことが認知されてきたからです。一方、男性は既得権が守られており、女性に不利に働く社会制度の存在があります。女性の能力をより生かすことと、制度的不利な状況にある女性の障壁を低くするためにクオータ制が取り入れられているわけです。議員や会社役員などの女性の割合をあらかじめ定め、女性の有効活用を図っているともいえます。クオータ制の仕組みは、男性優位の社会制度を是正する優れた制度になりつつあります。日本の政党でも、努力義務として取り入れているケースもあるようですが、法律で制定するようにしたいものです。
最近、地方に良い風が吹き始めています。地方にも、良い人材が移り住むようになりつつあるのです。日本の高度人材にも、移動が見られるようになってきました。年間に1000人単位で、プロの人材が東京から地方に還流しているのです。東京の大手企業で働いていた優秀な人材が、潜在成長力のある地方の企業や地域に進出しています。地方で活躍したいと思っている人材は、まだまだたくさん控えている状態です。一つのモデルが、隠岐諸島にある島根県知夫村になります。日野昇さんは、東京都で50歳近くまで都内で会社勤めをしていました。彼は、妻の妊娠をきっかけに自然豊かな土地で子どもを育てたいと知夫村に移住を決めたのです。日野さんは、畜産業を営む傍ら、子育て世帯の有志で祭りの運営を村から引き継ついだりしています。これらの活動をしている中で、村の子どもたちのために村政を持続的なものにしたいと考えるようになりました。その先に、村議に立候補するまでになりました。村の行政に移住者の声を反映させたいと願ったようです。村長さんも、「島の人たちばかりでは村を活性化していくのが難しい」と歓迎の意向です。
余談になりますが、ジェンダーギャップを埋めれば、より良い地域行政が実現することが徐々に理解されてきています。日本の764市の2007年から2012年のデータを使い、女性の割合と自治体の財政状況を検証した研究があります。それによると、女性議員が増えると、自治体の財政規律が高まるとの実証研究をまとめています。女性議員の比率が高い自治体では、地方債の発行が少なく、公営企業への資金拠出も少ないのです。女性議員は、福祉面でよく政策提言し、施策や事業遂行過程に注意を払っているようです。女性議員が多いほど、女性に関心の高い公共サービスに予算が付きやすいという結果も出ています。さらに、女性議員比率が高いほど汚職が少なく、教育や福祉に予算がつきやすいという実証研究もまとめられています。余談ですが、インドの265自治体を対象にしたこの種の研究があります。このインドの研究では、日本と同じように、女性議員が多いほど、教育や福祉に予算が付きやすくなるようです。女性議員の増加のメリットは、①現状を変える②新しい考えを受け入れる③社会に貢献する④成果を達成するという結果になっています。さらに、女性議員が増えれば、高齢の男性議員が多い議会を変え多様な価値観を行政に反映できるとも付け加えています。より良い行政は、女性議員の増加からという定説が出来つつあります。さらに、その実現にはクオータ制度の導入ということも、欧米では常識になっているようです。
最後になりますが、ジェンダーギャップ指数は、政治、経済、教育、健康の4つの分野で評価するものになります。日本は、146か国中125位と悲しい位置にいます。でも、健康と教育の2つの分野は世界でもトップクラスです。日本の場合、健康と教育の分野ではそれほど男女差はないのです。平均寿命では、常に世界トップクラスに位置しています。教育分野では、4年制大学進学’率をとってみてもほとんど男女差がありません。ただ、政治となると、衆議院の女性議員比率は15.7%です。女性の首相は、長い歴史の中で高市首相ただ一人です。経済面では賃金格差や女性管理者が極端に少ないなど、ギャップは深刻な状況です。でも、ここでも状況が変わりつつあります。市場調査や将来について議論する場で、男性ばかりのグルーピングでは問題があるという流れが日本に出始めています。米国ではもはや、登壇者に女性が1人だけですと批判の対象になるようです。「適任の女性がいない」といった言い訳も当然、禁句になっています。適任の女性を育ててこなかった企業が、非難の対象になる時代になったともいえます。女性の参加の割合を増やす動きは、多様な意見を引き出す場にすることが求められているからです。日本の政治や経済も、教育や健康と同じように高い水準に移行していきたいものです。
