イソップ物語に、「羊飼いと狼」のお話しがあります。
『ある日、羊飼いの子どもが大きな声で叫びました。「狼だ!狼が来たぞ」大人たちが驚いて飛んできました。でも、狼はどこにもいません。子どもは、大人たちの慌てようを笑っていました。
次の日も、次の日も、羊飼いの子どもは叫びました。「狼だ!狼が来たぞ」。そのたびに大人たちは飛んできました。でも、やっぱり、狼はどこにもいません。子どもは、忍び笑いをしていました。
ところが、ある日、本当に狼がやってきました。羊飼いの子どもは大声で、「狼だ!狼が来たぞ」と叫びました。どんなに叫んでも、大人たちはだれも助けに来てくれませんでした。』
このユーモアと似たことが、米国の大統領から39回も発せられたようです。そして、このユーモア(情報)が発せられるたびに、お金を儲けた人々もいたようです。今回は、そんな儲けの「からくり(予測市場)」を探ってみました。
予測市場では、参加者は自分のお金を賭けるので真剣にチケットの売買をします。この予測市場は、世論調査より予測精度が高いことが知られています。世論調査は詳しい人も詳しくない人も同じに扱われ、真剣に答えるとは限らないというわけです。代表的な予測市場には、米国のポリマーケットがあります。ポリマーケットでは、上場株式市場のように、様々なチケットが売買されています。たとえば、「6月末に原油1バレルが110ドルに達するか?」のチケット価格は0.68ドルになります。つまり6月末に原油が、1バレルが110ドルを超す確率は68%、と予測されています。このタイミングで、トランプ大統領がイランとの合意は2~3日後だと言えば、チケットの価格に変動が起きました。この予測市場では、チケットの内容に詳しい人ほど多く売買して高い利益を得ることになります。イスラエルの事例では、予測市場に空軍が関与したことが報道されていいます。対イラン空爆の直前に、不自然な口座の開設や取引が行われ、利益を得た軍人がいたというものです。また米国などでは、ベネズエラのマドウロ大統領拘束の直前に、不自然な口座の開設や取引が報じられています。イスラエルや米国軍内に広がる構造の問題があり、インサイダーが参加しやすい仕組みが生まれているようです。蛇足ですが、インサイダー取引(内部者取引)とは、上場企業の関係者などが、その職務や地位によって知り得た「投資判断に重大な影響を与える未公表の社内情報(重要事実)」を利用して、その情報が公表される前に自社株などの売買を行う違法行為のことになります。一般投資家との公平性を欠き、証券市場の健全性と信頼性を損なうため、金融商品取引法で厳しく禁止されています。禁止されているのですが、目の前の利益に目がくらむ人もいるということになります。
ポリマーケットの賭けの対象には、軍事攻撃も含まれます。ここでは、イスラエルの事例を詳しく見てみます。イスラエルのメディアは、インサイダー事件の発端は「12日間戦争」の前日、2025年6月12日になります。逮捕されたで空軍予備役の少佐は、イスラエル空軍が翌13日にイランを攻撃する作戦の内容を非公開の会議で説明を受けました。作戦を知ったこの少佐は、共犯者とされる民間人に攻撃の日時について知らせました。知らせを受けた共犯者の民間人は、デジタルウォレットを開設しました。その後、共犯者が最初の攻撃のタイミングを当てるポリマートの取引に注文を入れます。正確な情報を持つ2人は賭けに勝ち、16万2663ト(約2600万円) を儲けました。共犯者の民間人は、賞金の半分を暗号資産(仮想通貨) で少佐に送金しました。2人は、12日間戦争の開始日だけでなく終結日に関する賭けでももうけたとも言われています。イスラエル当局は2月中旬、軍の機密情報を不正に用いて賭博をしていた2人を起訴しました。米予測市場(賭けサイト)「ポリマーケット」で、賭博をいた2人を起訴したのです。当初、イスラエル当局は、事件の詳細に関しては箝口令をしきました。ただ、被告は尋問で「飛行隊全体がポリマーットに参加しており、空軍全体が賭けている」と実情を述べて、波紋が広がっているようです。
予測市場は、拡大しています。ポリマーケットや米カルシなど予測市場で賭けられた金額は、2024年初めの月間1億ドル未満でした。それが、2025年11月には130億ドル以上に拡大しているのです。米予測市場のカルシやポリマーケットの取引金額は、2024年から2025年にかけて100倍以上に拡大したのです。人気の秘密は、賭けの対象となるトピックの多さにあるようです。賭けの対象は、中東情勢や台湾有事などの政治・外交分,野に加え、金利などの経済指標、そしてスポーツベントにも広がります。1口賭けが、1ドルから始められる手軽さにもあるようです。さらに、イエスかノーかの二者択一で賭けられるわかりやすさにもあるようです。たとえば、「2028年の米大統領選で民主党と共和党のどちらが勝つか」という。ポリマーケットでの実際の賭けがあります。4月7日時点では、民主党60%、共和党40%が参加者の予想になります。民主党が勝つと予想して60セントを賭けた場合、民主党候補が勝てば1ドルを得られます。民主党候補が勝てば1ドルを得られ、差し引き40セントがもうけとなります。もちろん、外れれば掛け金はゼロになります。また、「民主党が勝つ」に買いが集中すれば、勝った場合のもうけは減ることになります。オッズは参加者の行動によってリアルタイムで決まるわけです。蛇足ですが、オッズは、投票総数によって倍率が変動する日本の競馬(パリミュチュエル方式)と投票した時点の倍率が確定する「固定オッズ方式」があります。
余談になりますが、遊びは、4つの要素から成り立つと言われています。それは、アゴーン(競争)、アレア(運)、ミミクリー(擬態)、イリンクス(眩暈)になります。アゴーン(競争)は、平等という条件の中で戦う闘争です。オリンピツクの100mの競技で金メダルを争うと言えばわかりやすいかもしれません。アレア(運)は、ラテン語でサイコロ遊びを意味します。アレアの例は、サイコロ、ルーレット、表か裏か、バカラ、宝くじなどに見られます。ポリマーケットは、アレアの延長線上にあります。一般に、遊びにはルールがあり、遊びに参加するプレイヤーは、ルールを尊寿することが求められます。遊びのルールでは、いかさま(インサイダー)が厳しく戒められることになります。プレイヤーは、ルールを尊重し、スキルを磨き、勝つことで称賛を得ることになります。サム・アルトマン氏は、いま最も注目されているチヤットGPTを生んだオープンAIを率いるリーダーになります。サム・アルトマン氏の行動は、世界を先読みしています。世界の流れを読み取る能力を彼は、ポーカーで学んだというのです。サム・アルトマン氏は意思決定術を学生時代に熱中したポーカーで学んでいるのです。ポーカーは、アゴーン(競争)とアレア(運)を組み合わせたゲームになります。それは、戦いの神と運の神を兼ね備えたゲームというわけです。読みと決断、そして女神がもたらす運が勝負を決定するわけです。遊びの中には、このような要素を単独でも、組み合わせた形でも、訓練する場があるということになります。さらに、この遊びの中に、予測市場に勝つ訓練の場が用意されているかもしれません。
最後になりますが、あらゆる生物にとって、予測は生存に関わる重要な営みでありました。その予測を提供する市場が、予測市場の賭けの対象の中にあるかもしれません。実際にお金を賭ける人は、真剣に勝ち負けの予測を考えます。予測市場は、ある意味集合知の現場です。予測市場は、その精度を大きく改善する場でもあります。戦争においては、一般民間人よりも、機密情報を知る軍人の方が勝つための情報を多く持っています。現在は、軍人の持つ情報が機密という名目で自由に発信できません。でも、没価値という予測という面では、有力な情報になります。再度現実にもどれば、米大統領のように国際政治の結果を変えられる人物が、予測市場に参加することはタブーになります。もっとも、このタブーを大統領周辺の人々が破りつつあるという報道が多数出てきています。一方で、多数のインサイダーが、予測市場に排出されれば予測精度は上がるという状況も生まれます。このトレードオフを乗り切るプレイヤーが現れれば、新天地での活躍は確実になるでしょう。
