少数の若者が、多くの高齢者を支える時代になりました。歴史をさかのぼると、年老いた人たちは「姥捨て山」に行き、若者に子孫を残してもらう役割を託しました。現在は、若者の生産能力を高めて、老若男女がともに幸せに生活する流れになってきています。この流れを維持するためには、食料の確保や健康の維持向上などが求められます。これらの維持向上には、公的支援や個人の自助努力が必要になります。今回は、健康の維持向上をウオーキングと筋肉トレーニングの視点から眺めてみました。歩ける方は、健康と言っても良いでしょう。1日に8000歩以上を歩くと、死亡率が下がることはこれまでの研究で分かっていました。ウオーキングは、軽い有酸素運動になります。このウオーキングは、末梢で循環する血液の量が増加し、疾患予防の効果があります。確かに、血液には、各器官に酸素や各種栄養素を運び供給する働きがあります。この働きが、円滑に行われる限り、健康は維持向上されることでしょう。日本では、ウオーキングが1日7000~8000歩の歩行が有効とされています。欲をいえば、1日8000歩程度の運動で、その運動の中に中強度の運動5分程度入れるとより効果があがります。この中強度の運動を5分間以上すると、うつ病の発症率は10分の1以下になるという報告もあります。ちなみに、中程度の運動とは、歩きながら仲間と話がちょっときついかなという程度の運動になります。
世界保健機構(WHO)も、無理のない運動として、ウオーキングを推奨しています。ウオーキングは、軽い有酸素運動になります。この運動をすれば、心拍数が上がり、血液の流れは増加します。増加した血液は、各臓器や器官に酸素と栄養素を供給します。各臓器や器官は、これらを受け入れて活発な活動をすることになります。有酸素運動をすると、HDLコレステロールの上昇のほか、安静時の血圧低下も認められています。HDLコレステロールは、余分なコレステロールを回収して動脈硬化を抑える善玉コレステロールです。このコレステロールは、増えすぎたコレステロールを回収し、さらに血管壁にたまったコレステロールを取り除いて、肝臓へもどす働きをします。有酸素運動は、心筋梗塞と関係がある動脈硬化のリスクを下げ、認知症を予防する因子としても期待されています。さらに、有酸素運動をすれば、脂肪燃焼によって中性脂肪が減り、血圧の改善にもつながる効果があります。このような意味で、WHOは週の7日の中で、合計150~300分の中強度の有酸素運動をガイドラインで推奨しています。1日20分から40分強の運動を進めて言わけです。人間には欲がありますので、もっと効果的なやり方を求めるものです。WHOは、この要望に応え、ある運動処方を用意してあります。その処方は、中強度の有酸素運動より強い高強度の有酸素運動を週に75~150分程度行うことになります。さらに、有酸素運量動に加え、週2日以上の筋力トレーニングを推奨しています。これらの組み合わせで、運動量を無理なく達成でき、健康維持が可能になるというものです。
最近のウオーキング関する知見では、単に一定の速度で歩くのではなく、インターバル形式(インターバル速歩)であることがより効果的という流れが主流のようです。このやり方は、ややきついペースの運動3分とゆっくりペースの3分を交互に切り替えて歩くものです。これを5セット、1セット6分で計30分行うことになります。ややきついペースとは、話ができるが息が上がる程度の強度になります。このような運動を行うと、運動後も代謝が高い状態が続くため、脂肪燃焼効果が持続します。強度の高い運動と低い運動乗り返すことで、心肺機能が効率的に鍛えられます。さらに効果を上げるには、このインターバル速歩に週2~3回の筋力トレーニングを加えると、相乗効果が生まれます。この筋トレは、自宅でできるスクワット、腕立て伏せ、プランクなどの自重卜レーングで十分です。自重トレーニングは、自分の体重を負荷として利用する筋力トレーニングになります。この筋肉を増やす筋トレが、マイオカインの関連で注目されています。筋肉には体を動かしたり支えたりする以外に、ホルモンを分泌する働きがあります。それが「マイオカイン」です。マイオカインは、現在30種類以上発見されています。骨格筋から分泌されるマイオカインは、様々な臓器に働きかけます。骨格筋から分泌されるホルモンが、人体から放出される最大の量とされるまでになっています。
スポーツ医学の専門家によると、筋肉量は40代から年1%ずつ減少するそうです。70代になると、20代と比べて筋肉量が半分程度まで減ることになります。この半分程度まで減ることを抑止する対策として、筋力トレーニングがあります。筋肉トレーニングによる骨格筋の増加そのものが、生活習慣病の予防や改善に効果があります。筋肉が増えれば、エネルギー代謝が増え、脂肪の燃焼効率を高めます。肥満を防ぎ、生活習慣病を予防することになります。筋力運動はウエイトトレーニングのような高強度のものをイメージしがちです。でも、スポーツジムの高度な筋力トレーニングをするだけが、筋肉運動ではありません。筋力運動には、低強度のものでも有用であると考えられていいます。この筋力トレーニングは、週2~3日で十分です。ある意味、7日のうち4~5日休んでよいと思えば気が楽になる運動かもしれません。筋力トレーニングは、なかでも「老化は足からくる」として、スクワットが推奨されています。足が丈夫になれば、ウオーキングが自由にできます。有酸素運動が、いつでもできる体になるわけです。スクワットは歩行と転倒予防に重要な太ももの筋肉などを同時に鍛えられるという利点もあります。ここで留意すべき点は、筋肉トレーニングした日は、肉や魚などのたんぱく質を多めに摂ることです。これらを摂取すると、筋肉量の増加が加速するのです。低強度で、短い時間でも運動の効果を得るために積極的に日常生活に取り入れる姿勢が大切になります。
運動で最も重要なのは「始めること」と、そして「続けること」ことになります。このような環境が整っている地域は、意外にも首都圏になります。首都圏の3500万人といわれる人々の生産活動が、日本経済を支えているといっても過言ではありません。この人々が元気になれば、経済効果が高まることはまちがいありません。そこでの経済効果が地方に波及し、地方が豊かになれば楽しいことになります。それはさておき、首都圏の有利な条件を述べてみます。先日、西武池袋線の保谷駅から池袋駅に行き、そこから山の手線で新宿に行き、さらに京王線で幡ヶ谷までの電車の旅を楽しみました。すると、歩数が4000歩以上になっていました。往復を考慮に入れると8000歩を優に超えるウオーキングをしていたことになります。ここでは、駅構内を歩く人々の速さに、驚きました。らに、駅構内の歩く距離が長く、有酸素運動という観点から見ると、通勤者は十分運動を行っていました。ここに、最近のウオーキングの知見を入れれば、週5日の有酸素運動を十分に行うことができる環境に暮らしていることになります。
余談になりますが、よくトレーニングとか練習という言葉を使います。トレーニングは筋力や持久力を付ける訓練と意味で使います。練習は、上手くなるために技術系の訓練ということです。ここでは、両方をまとめてトレーニングという言葉で、話を進めていきます。体力が付いているとか上手くなっていると感じることが、運動を続けるうえで一番楽しいことになります。トレーニングをする場合、意識しながら行う場合と漠然と行う場合とでは、効果が違ってきます。ある実験で、ホテルの清掃員の方に「ベットセットやお風呂の掃除は体力向上に役立つ」と教えられたグループと教えなかったグループの比較を行いました。教えられなかったグループには、変化が見られませんでした。でも、教えられたグループの体力は明らかに向上していたのです。義務感でやる運動より、意図を持って運動に取り組むと、体力の向上というご褒美が得られるようです。
最後になりますが、通勤者の体力を高める方法は、現在の運動を意図的なものにしていくことが一つです。歩くスピード上げることや同じ運動量の時間短縮を意識することです。次は、歩き方の確認です。下を見るより前を見ることです。腰の位置を高くして、背筋を伸ばして歩きます。歩幅を広げて歩き続ければ、持久力は向上します。持久力の次は、筋力の強化です。イスに座るよりつり革につかまります。つま先で立ちます。腓腹筋が鍛えられます。この筋肉を鍛えておけば、歩幅を広く意識して歩くときのキック力に役立ちます。下半身だけでは、もの足りない方はつり革にぶら下がることもお薦めです。大胸筋や背筋、そして上腕二等筋などが強化されます。通勤時間が片道1時間として、2時間のトレーニングの機会ができます。スポーツジムで2時間を毎日やる人はいないでしょう。でも、通勤者は毎日行うことができます。毎日行えば、確実に体力は向上する環境が首都圏にはあります。そんな環境を有効に利用して、健康を維持し向上させていきたいものです。
