部分最適を全体最適にするという流れは、業界の枠を超えて進んでいます。特に、ドライバー不足や燃料高騰に直面する流通業界や小売業界では、この流れが加速しています。コロナ過の最中にトイレットペイパーの不足が生じました。これはトイレットペイパーが、かさばるために、トラックに積み込む作業が遅れたことも一つの原因でした。従来はメーカーから卸業者に届いた段ボールを、フォークリフトで運びやすいパレットに載せる作業があります。次にスーパーなどの店への出荷する時には、かご型台車に移動する作業になります。さらにスーパー店では、小回りのきく車輪付き小型キャリーに載せるという3度の積み替え作業を行っていたわけです。3度の作業は、人的にも、コスト的にも、そしてカーボンフリーの立場からも無駄が多いのです。3回もあった積み替えをゼロにする流れは当然のように考えられます。3度も積み替えは、製造、配送、販売の個々の面から見れば、自分の都合で考えた部分最適だったといえます。でも、製造、配送、販売を統一した全体最適が、求められるようになってきたのです。工夫された案は、スーパーなどの最後の店舗を起点にする考えから出されたものでした。発想を転換し,最初の生産した工場の出荷時から、店舗別キャリーに載せる方式に変更したわけです。このような工夫は、各業界で行われつつあるようです。
通販の巨人であるアマゾンは、売上高が右肩上がりで伸びています。コロナ禍の前ですと、売り上げに比べ利益がそれほど多くない企業でした。というのは、アマゾンが物流センター構築の設備投資に多くの資金を投入していたためです。売上の多くを、次の物流事業に投入し、物流関連のインフラを整備していった経緯があります。長期的な波及効果で、物流の効果を測るべきだと考えていたのです。物流の重要性にいち早く気づき、投資を継続したことが、アマゾンをネット通販の業界で世界のトップに押し上げたともいえます。そのアマゾンが、9万個以上の荷物を仕分ける巨大倉庫で、最新技術を展示しました。その中で目玉となったのが、AIを搭載した新型の物流向けロボット「ブルージェイ」になります。このブルージェイを物流拠点に設置し、荷物の仕分け作業に使う構想です。従来、3種類のロボットを使っていた荷物の仕分け作業を1台で担わせることができます。これまで、3種類のロボットが必要だった工程を短縮できるという優れものです。ロボットの腕が荷物を持ち上げ、AIが自ら判断して指定の場所に運ぶことができます。AIが状況を認識して判断できれば、少ないロボットに作業を任せられるというものです。米南部サウスカロライナ州の拠点では、すでに試験導入しています。試験の効果が実証できれば、長期的に数千台の展開を視野に入れているようです。アマゾンのロボット開発部門は、「フィジカルAlは試作段階ではなく、すでに現実になる」と自信を深めています。
アマゾンの流通戦略は、その快進撃を見ると、先に損をして後に得とれを実践している企業になるようです。EC(電子商取引)倉庫の自動化の火付け役となったのは、アマゾンになります。物流は、参入障壁が高い業種になります。でも、このネックを制すれば長期的には大きなビジネスチャンスをもたらすことになります。たとえば、倉庫管理に関して言えば、通常の倉庫では作業員が棚の間を歩き回って荷物を集めます。荷物を集める方法は扱う商品が膨大になると、歩く距離が長くなり効率が悪くなります。アマゾンは、2012年にロボット開発の米キバ・システムズを7億7500万ドル・(約860億円) で買収します。キバの技術を基に、荷物を作業員のところまで運ぶ「棚搬送型」と呼ばれるロボットを開発したのです。アマゾンは人ではなく、棚を動かす逆転の発想で、人が梱包作業に集中できる仕組みを築いたわけです。物流の効率化と物流拠点の建設には、強いこだわりを持っているようです。2021年に入り、米国で250以上の物流拠点を新設しているのです。このアマゾンが、6月には世界の拠点に導入したロボットの数が100万台に達したと発表しました。ロボットの役割は、「退屈な反復作業を減らし人が重要な仕事に集中できるようにする」という思想を堅持しているようです。一部の拠点では二足歩行で人間のように動くヒト型ロボットの検証にも乗り出しています。アマゾンの物流現場では、自動化が急速に進んでいます。面白いことに、アマゾンは倉庫ロボットを外販していないのです。
快進撃を続けるアマゾンにも、悩みはあるようです。ある報道機関が、アマゾンが物流現場へのロポット導入で約60万人分を担う構想があると報じたのです。この報道から、大きな波紋が生じています。アマゾンはこの報道に対して、「当社の採用戦略を示したものではない」とコメントし、火消しに追われています。報道について「10年後ほどうなるかわからない。予測に過ぎない」と説明した。60万人は、アマゾンの米国の従業員数の半数になります。この会社は、米国では民間企業として米小売り大手ウォルマートに次ぐ2番目に大きい雇用主でもあります。近年、米国内では「AIが人の雇用を奪うのでは」と社会的な不安が強まっているのです。AIロボットが普及すれば、いずれ雇用維持との両立が難しくなる局面が訪れる可能性があります。この情況の中で、雇用不安は望ましいことではありません。大規模な人員削減に踏み切れば、社会的な反発を招く恐れもあります。もちろん、アマゾンも対策を怠ってはいません。対策として、複数の新技術を披露しています。その一つが、「フィジカルAI」になります。もう一つは、眼鏡型端末の導入です。配達員が装着し、眼鏡のレンズに表示される情報を頼りに荷物を届ける仕組みです。いずれも、人による仕事を側面支援するという位置づけになります。アマゾンは、「人の作業員を支援する」と繰り返し、雇用を代替する目的ではないという姿勢を強調しています。
余談ですが、AIや生成AIの出現は、新しい産業革命にたとえられます。英国で始まった蒸気機関による最初の産業革命は、人類の産業の発展という観点で見ると、大きな恩恵をもたらしました。でも、産業革命初期では、紡績と織布のスキルを待った手工業の労働者が不必要になりました。そして、不必要になった労働者が就ける代わりの仕事も生み出しませんでした。産業革命初期に登場した紡績機や力織機などは労働置換技術であったとされています。労働置換型の技術とは、人間の労働を完全に機械に置き換え、人間が介在する余地をなくす技術になります。次の第二次産業革命で登場した電気や石油を応用した大量生産技術は、労働補完型の技術になります。この労働補完型の技術とは、生産を上げ、新しい仕事を生み出すきっかけになるような技術になります。この技術は、人間の労働を補助し、その労働自体を楽にしたりする技術になります。第二次産業革命は、実際に当時の雇用者を増やし、賃金も上昇させる成果を上げました。現在、生成AIは、労働補完型の技術と考えられています。生成AIを上手に使うことにより、既存の労働をより生産的に、より快適で質が高いものにできるという説が多くなりつつあります。労働補完型の生成AIに、人が介在する余地が残るかどうかは、その仕事の元々の複雑さによります。仕事が一定以上複雑な場合、生成AIを投入して効率を上げるのは人間ということです。アマゾンは、フィジカルロボットが労働補完型のツールであり、人間の雇用をなくすツールではないと訴え続けているようです。
ロボットやAIの導入により、人の負担を減らし、作業効率を上げる流れが主流になっています。一方で、速さよりも無駄を減らす流れも、消費者に生まれてきています。国内の営業用トラックの積載率は、4割を切りました。これは、4割の積み荷と6割の空間で輸送と行っていることを意味します。6割の無駄の理由は、早く届けるために荷台が埋っていなくても走らせるために起きています。配達日程に幅があれば、空きスペースを埋められます。配送時期を遅らせられれば、荷物が集中した日の分を翌日に移すなど業務を平準化できるのです。ゆっくり宅配ができれば、荷物で空きスペースを埋めることができます。必要なトラックの数の数も、ドライバーの負担も、大幅に減らすことができるのです。ゆっくり宅配ができれば、荷物で空きスペースを埋めることができて、温暖化ガスによる環境負荷も引き下げられるわけです。物流は速さだけでなく、環境や福祉の観点からもビジネスに繋がると時代になってきています。こんな流通の仕組みを支持する消費者も増えてきています。いわゆる部分最適よりも、全体最適という流れです。AIやフィジカルロボットが、全体最適を支援するツールになっていってほしいものです。
