リスキリングを楽しく行う工夫 アイデア広場 その1771

 岸田文雄元首相は、2022年に労働改革のー環として、今後5年でリスキリングに1兆円支援すると述べていました。そして、高市早苗政権も成長戦略としてリスキリングの促進策を強調しています。欧米の例も見るまでもなく、リスキリングは、企業に人材の高度化と生産性の向上につながるメリットがあります。新しい時代には、新しいビジネスが生まれます。日本では長く終身雇用が定着し、厚待遇で外部人材を獲得するケースは少ない状況です。終身雇用が定着し、企業が社員の教育訓練に投資してきた経緯があります。でも、企業の教育力が衰えてきていることは、誰しも認めざるを得ないようです。政府もこの衰えに危機感を持ち、リスキリングを目指す教育訓練休暇制度を立ち上げました。でも、教育訓練休暇制度を導入している企業は7.5%とわずかです。また、導入を予定している企業は9.1%です。導入予定はないと答えた企業が83.4%を占めています。欧米では、企業は専門能力に応じた高い報酬で人材を獲得する慣習があります。ジョブ型雇用が主流の欧米では、労働者が自ら投資して能力向上に取り組む姿勢もあります。この姿勢が、日本が30年にわたって所得が上がらない状況を生み出し、一方で欧米の所得が向上している要因になっているようです。今回は、効果的なリスキリングへの取り組みを考えてみました。

 一般の社員が、リスキリングを行うためには、学習する時間を、確保しなければなりません。1年間の総時間は、24時間×365日の計算で8760時間になります。人の生活時間は、睡眠などの生理的時間が8時間、労働時間が8時間、余暇時間が8時間という3区分法が成立するようです。労働時間は、8時間×365日÷7× (7日-2日)の計算で2080時間になります。それに対して、余暇時間は、約3000時間以上になります。専門的スキルや知識を身に付けるには、1000時間が必要とされます。つまり、仕事に2000時間打ち込み、余暇時間の3000時間を使えば、専門的スキルと知識は獲得できるわけです。年間3000時間の余暇の3分の1をリスキリングに費やし、そこで専門的知識やスキルが得られれば、ハッピーになれます。でも、現実の社会はそんなに甘くはありません。残業や人間関係のしがらみで、余暇時間を自由に使えない状況があります。そんな障害を乗り越えて、成功の道を歩んだ方もします。東京に住むAさんは、M&A仲介機関を2024年に退職しました。現在、外資系コンサル会社に転職し、小売業証券の監査を手がけています。この転職は、大学院時代は取得できなかった公認会計士の資格を得たことが転機になったとのことです。彼は、約1年の勉強で国家資格を取得しました。大学院時代に取れなかった資格を、効果的に復習できる学習ツールの力が大きく貢献したと話しています。利用したのは、エビングハウスステーショナリー(神戸市)が開発した復習用の付箋になります。彼は、1日約12時間の勉強のうち、3時間を付箋による復習に費やしました。この付箋の価格は、1100円になります。

 こんな便利な付箋は、現役医大生の樫原優衣さんによって商品化されました。彼女は、中学の頃にノートや問題集などに付箋をたくさん貼って勉強したが、煩わしさを感じました。そこで日付ごとに次の復習日をまとめた付箋を立案し、高校時代に特許を取得したのです。この特許は、これまでに中国や台湾の特許も取得しています。この商品は、ドイツの心理学者エビングハウスが提唱した「忘却曲線」に基づいています。人が記憶したものは、時間が過ぎることに多くを忘れていきます。でも、忘れるものを復習することで、記憶が定着することも事実です。この定理を利用して、間違った部分を「翌日」「1週間後」「4週間後」に復習を促す仕組みが付箋の利用になります。簡単に言えば、翌日、1週間後、4週間後に復習すると,学んだことが忘れにくくなるというものです。暗記力を高めるには、翌日以降の再学習が効果的であり、その学習を助けるものが付箋というものです。1つの付箋には切れ目があり、4つの数字が付いています。例えば、月初めの1日の勉強で間違ったところには、「12.8.29」と連なる付箋を貼ります。そして、間違ったところを、2日、8日、29日に復習することが記憶を定着させることになります。付箋の役割は、復習する日を「見える化」したことで効果が上がり、その成果が利用者に受け入れられているのです。リスキリングには、学習する時間の確保も大切ですが、その勉強方法も重要ということになるようです。

 よく今の時代は、将来予測が困難なVUCA(ブーカ)の時代に入ったと言われています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という頭文字を取った言葉になります。変化が激しく、自然や社会の環境が複雑性を増し、想定外の事象が発生し、将来を予測することが困難な状況を示すことになります。ブーカの時代は、自ら考え不確実な社会を生き抜くことが求められます。生きていくためには、小・中・高・大学で学んだ知識だけでは乗り切れない時代になっているようです。そこで必要とされるものが、リスキリング(学び直し)になります。社会環境の変化やデジタル化が進むなか、働き手に見あった学び直しが喫緊の課題になっています。リスキリングの課題としは、時間や人材、費用などリース不足などが挙げられています。帝国データバンクの調べでは、リスキリングの環境整備は依然として遅れています。リスキリグに関する企業の意識調査(2024年)では「取り組んでいる」と答えた企業は8.9%と少数派になります。企業に頼ることができなければ、まずは個人から取り組むことも選択肢になるかもしれません。

 そこで、個人や起業で取り組んでいる事例を見てみました。カフェ英会話(東京・渋谷) は、ネーテイブの講師らが毎月約2000人にリアルもしくはオンラインで英会話レッスンを提供しています。面白いというか合理的というか、学びが合理的に行われている点に興味を持ちました。このカフェ英会話は、小回りを武器に1回500円のワンコインで英会話の機会を提供しているのです。カフェのー角を活用し、500円の料金で英語を話したい仲間と交流しています。この交流には、全国約100カ所のカフェの協力を得ています。一つの光景は、午後7時、女性社員が大阪・梅田で英語クラスを行っています。彼女は、英語を話す場として、職場から徒歩10分で行ける英会話カフェにほぼ毎週通っています。この日は、9人が趣味から最近おいしかった食事まで、互いに英語で語り合っていました。英会話のリスキリングを志す個人同士のつながりが、学びの場をつくっています。日本人だけでも、英語を頑張っている仲間と話すことでモチベーションを維持できています。それも、500円という格安さで学びを楽しんでいます。カフェ英会話のスタッフがそれぞれの店長と話し、カフェの一角をレッスンに使う許可を得ています。カフェには、まとまった客を定期的に呼び込める利点が生じています。一方で、カフェ英会話は店舗を持たずに間借りすることで料金を抑えています。

 余談になりますが、技を磨き高めるためには、3つの要素が必要です。それは、場所、練習方法、仲間になります。サッカー選手が、上手になろうとしたら、練習場所が必要です。練習がいつもできる環境があれば、自分の課題がシュートだとすれば、シュートの練習がいつでもできます。また、どういうシュートを打てるかも課題になります。闇雲にボールを蹴っていては上達しません。シュートが上手になるような練習方法を身に付けることになります。一つのやり方に、守・破・離というものがあります。一般的に、学びや運動(スポーツ)を志す者は、指導者から与えられた「型」をこなすところから始めることになります。基礎ができてないところに、積み上げても無駄な練習になります。「守・破・離」という言葉があります「守」とは、指導者の教を忠実に守って練習を続け、「型」をしっかり身につける段階です。「守」で学んだ基本に自分のオリジナリティを加えるのが「破」になります。さらに指導者から独立して自分の道を切りひらくのが「離」になります。守・破・離の三つの段階を経て、有能な選手に成長していきます。最後は、仲間です。カフェ英会話でも見られたように、仲間とのコミュニケーションがあれば、モチベーションを維持し、高めていくこともできます。1人では、なかなか維持できないやる気も仲間の支えで継続することができることは、いろいろな場面で経験することです。そして、この場所、練習方法、仲間の3つが容易に低コストで、楽しくできればハッピーということになります。

 最後になりますが、日本の企業は、本業がおろそかになるといった理由から副業解禁に慎重でした。でも、風向きが変わり始めています。2018年に厚生労働省が「モデル就業規則」において、副業を原則禁止から認める内容に改定しました。各企業の事業環境や技術の変化が、急展開するようになりました。企業は、社員のリスキングやキャリアアップを支援せざるを得ない状況に追い込まれてきています。このリスキングやキャリアアップに、副業を利用する企業もあるのです。副業を容認する企業は、近年急増しています。2025年時点の調査では約56〜64%と半数を超えるまでになっています。大手企業やIT・サービス業を中心に広がり、政府の推進も追い風となっています。企業にも社員がリスキングで新たなスキルを身に付けることを奨励する企業も増えてきました。副業の成果を本業に生かすことができれば、企業側にもメリットがあると考える流れが出てきているようです。このような流れの中で、個々人の社員の能力が向上し、欧米のように日本の経済が上昇していけば楽しい社会になります。

タイトルとURLをコピーしました