世界的な人口増大と新興国の経済成長で、食料不足への懸念が深まっています。将来的な世界の人口増に対応し、持続可能な食料の増産が必要になります。その中の一つに、漁業の漁獲があります。漁獲には、天然物と養殖ものがあります。世界の養殖生産量は、2024年に約1億4100万トンになります。一方、天然物の漁獲量は7900万トンになります。日本は天然ものが279万卜ンに対し、養殖生産量は83万トンになっています。日本の漁業は、完全養殖型のクロマグロに見られるように技術力の高い養殖業に世界から高い評価を得ています。でも、技術力はあるのですが、ビジネスにおける収益化や大規模化に苦戦しているケースも見られます。養殖業者の経営は、2021~23年度の養殖業の倒産の負債総額が合計17億円と厳しい状況にあります。さらに2024~25年度は、合計115億円を超えるという厳しさです。近畿大学が世界で初めて実現に成功した完全養殖型のクロマグロの事業も、徐々に勢いを失いつつあります。水産大手も、完全養殖クロマグロ事業から相次ぎ撤退しているようです。この撤退の理由には、飼料の高騰と稚魚の高価格にあります。人工ふ化して育てた幼魚は、天然の幼魚に比べて高く、採算が合わないという事情があるのです。話題になっている完全養殖からのかば焼きが、5000円という値段でした。これは、ウナギの稚魚の生存率が低く、天然物との価格に大きな差があることによるものです。今回は、今後の漁業がどのようにすれば、明るい生産性のある産業になるかを考えてみました。
養殖業者が、困っていることは飼料の高騰がまず一つです。魚の養殖で使う飼料は、天然のイワシなどを細かく砕いて丸めた魚粉などが主体になります。もう一つは、油を絞ったあとの大豆かす(大豆ミール)になります。飼料代は、養殖業のコストの7~8割を占めているのです。たとえば、クロマグロを30kgに育てるために、500kgの餌が必要になります。業者の共通する課題は、飼料の原料である魚粉輸入依存になります。この魚粉の国債指標は、ペルー産の産地価格になります。2025年のペルー産の上級品の産地価格は、1トンあたり2500ドルと1年前より57%高くなりました。1トンあたり2500ドルは、比較可能な2010年以降の最高値になります。悲観的な見方は、さらに付け加わります。カタクチイワシは、主産地の南米ペルーで漁獲量が激減しているのです。さらに、日本は外国為替市場の円安基調も重なり、輸入コストが上昇し、国内での価格がさらに膨らむ状況です。たとえば、ウナギは浜名湖産が有目です。浜名湖養魚漁業協同組合(浜松市)が、浜名湖周辺でウナギを育てています。このウナギの生産コストの3割はエサ代で、3割を稚魚代、4割を燃料費や人件費が占める構図です。ここでも、6月からの飼料の仕入れ値が前年比で2割上がり、その負担は大きくなっています。もちろん、飼料メーカーは、魚粉を市況の影響が少ないほかの原料に置き換えたエサの開発を進めています。その中で注目されているのが、昆虫夕ンパクになります。ミズアブの幼虫を使う飼料などが、利活用の試験段階に入っているようです。
日本では、昆虫食の試験段階ですが、EUなどでは市場を形成するようになりつつあります。昆虫食や飼料を含め、昆虫タンパク質の世界市場は、2019年度に70億円で、2027年までに33億ドル(4500億円) に達すると見られています。欧州では、昆虫が食用のほか豚や鳥などの畜産用として市場が広がりつつあります。特に、ペット用の餌や家畜の飼料、そしてサーモンやエビの養殖用飼料として普及しているのです。EUでは、ミールワームやトノサマバッタが食品として域内販売が認可されるようになりました。ミールワームとは、ゴミムシダマシ科の幼虫のことで、イネ科の植物を好んで食べる虫として知られています。一方、アメリカでは、ミズアブやバッタなどが注目されています。昆虫の飼料の市場が大きくなれば、食糧資源の減少や価格高騰を回避する解決策になる期待されています。昆虫は、餌が少なくとも大きく育つ特徴を持っています。少ないエサで済む昆虫が、魚のエサとして注目され始めたわけです。たとえば、ある起業は、ハエの一種である「イエバエ」を使った魚の飼料を開発しました。このハエは、植物工場と同じように工場で育てられます。イエバエの幼虫を養殖飼料にまぜると、餌に対する魚の食いつきがよくなるのです。この幼虫を乾燥させて、養殖飼料に5%を混ぜると、養殖魚のサイズが大きくなることも分かってきました。安く栄養価のある昆虫の餌は、これから増えていくことが予想されます
それでは、昆虫の食べる餌をどのように調達すれば良いのでしょうか。この調達を、お金をもらいながらできる夢のような仕組みもあるようです。食べ残したものを、飼料や肥料に変換する仕組みの実用化は、カナダのバンクーバーですでに行われています。2014年、バンクーバー市は、すべての野菜廃棄物のリサイクルを義務づける法律を可決しました。多くの企業は、リサイクルを義務づけるこの法律に戸惑いました。でも、困った企業が多ければ、それを解決した企業にはビジネスチャンスが訪れることになります。カナダのエンテラ社は、野菜の廃棄物を利用する仕掛けを作っていました。バンクーバーで活動する企業には、食品ロスを大量に吐き出している大手食料品店があります。ここには、大量の売れ残り、古くなった野菜やサラダなどを廃棄する大手食料品店があったのです。これらの企業は、食品ロスの削減に、コストをかけながら取り組んでいました。エンテラ社は、この野菜の廃棄物を有料で受け入れる施設をつくりました。古い果物や野菜など甘酸っぽい匂いのするゴミの山が、ダンプカーに積まれて有料の施設に入ってきます。野菜廃棄物を満載したダンプの重量を計り、エンテラ社は料金を取って、「廃棄物」を受け取ります。それを、ミキサーにかけてドロドロのジュースにします。このジュースを、アメリカミズアブの幼虫に食べさせます。5 kgのアブの幼虫が、100トンのくず野菜を餌として食べてしまうのです。この5kgのアブの幼虫は、6トンの肥料と6トンのタンパク質の豊富な幼虫を作ります。幼虫の糞と蛹の抜け殻が、6トンの肥料になります。アブの糞から作られた肥料は、地元の農家や家庭菜園に利用されています。タンパク質の豊富な幼虫は、ニワトリや魚の高品質の飼料になります。地方によりリサイクル施設などがあれば、養魚場と植物工場、そしてデータセンターの廃棄熱などのコラボで、地域に貢献する施設になるかもしれません。
養魚場に関しては、飼料のほかにも課題があります。日本は海に囲まれ、養殖場所も豊富とおもわれています。でも、多くの魚を安く効率的に育てられる大きな養殖場の候補地が意外と少ないのです。海面養殖の場合、水温や水波浪など環境条件が整う必要があります。養殖に適したエリアを、新しく見つけることが難しいのです。また養殖に適したエリアであっても、沖合を使う地元漁業者の理解を得なければなりません。もっとも、理解を得て共同で行うことができれば、多くのメリットが生まれます。岩手県の大槌町や陸前高田市、大船市では、ギンザケなどを2025年時点で合計約1500トンを生産しています。この地区で、ニッスイグループは地元漁師との協力を進めています。漁業者の減少によって、沖合を使う頻度が減った場所を生かしているのです。この沖合に、直径25メートルの「いけす」を増設しています。さらに、直径50メートルの「いけす」も新設しました。ニッスイは、2030年までに7000トンと生産を拡大する計画のようです。ニッスイは、規模を拡大しつつ生産効率を高め、価格競争力を高めていく意向です。さらに、漁獲が減った漁師の「転職先」のひとつの受け皿としての機能も持つことになるようです。
最後になりますが、美味しい魚を高価格帯で集荷する工夫も良いものです。エサの仕入れ代そのものを引き下げることは難しいが単価を上げて収益を増やす手法もあります。浜名湖魚漁業協組合では、メスウナギを生産し始めた。オスウナギに比べて、メスウナギは1割ほど高い卸値で出荷できるのです。メスはオスよりも脂のりがよく、身が柔らかくなります。消費者には、この脂のりが良く、やわらかなかば焼きが講評のようです。難しい点は、ウナギの稚魚にはオスとメスの区別がないことです。でも、養殖で育てているうちに大半がオスになってしまうことです。ここで、観察眼の鋭い方がいました。エサに大豆イソゾアラボン由来の原料を混ぜて与えると、メスに育つことを見抜いたのです。それから、メスを増やし、2024年からブランド「でしこ」として出荷しているとのことでした。発想をもっと広げると、面白いことがおきるかもしれません。たとえば、マグロやウナギの稚魚を丈夫にするアイデアになります。
金メダルを取る選手の腸内細菌は、一般の人に比べ、1.5倍ほど多種類の菌を持っています。その腸内菌の多さが、身体に良い働きをもたらしています。最近の研究で、優れたスポーツ選手には特殊な菌があることが分かりました。ボストンマラソンに参加する選手の協力を得て、走る前と後で「便」を採取したのです。この便の菌をマウスの腸に移植したところ、マウスの運動能力が高まるという現象が見られました。さらに最新の研究では、スポーツ種目の違いによって、腸内細菌叢には違いがあることも分かってきました。ラグビーのような激しい運動は、特に体に負荷がかかり、一時的に免疫の低下を招きます。この免疫を早くは回復させる腸内細菌叢を、ラグビー選手は持っているようです。マグロやウナギの腸内細菌の視点から、強いマグロの稚魚やウナギの稚魚の育て方などの研究も面白かもしれません。
