カメムシから農作物を守る工夫  アイデア広場 その1784

 カメムシが出す臭いは、日本では嫌われています。でも、東南アジアやアフリカでは、カメムシの臭みを薬味として利用する地域もあるようです。匂いの好き嫌いは、昧の場合より、はるかに個人差や民族差が大きいようです。でも、このカメムシが、作物に損害を与えるとなれば、害虫として駆除されることになります。心配なことですが、今年はこのカメムシの大量発生が予想されています。特に心配されていることは、7〜8月の稲穂が出る時期に、イネカメムシが水田周辺から飛来するとみられていることです。イネカメムシは、日本の福島県より南の地域や中国に生息するカメムシの仲間になります。1950年代までは、国内の稲作の主要な害虫でした。1960年代から化学農薬の普及などにより、被害が激減しました。ところが2018年ごろから、関東から九州にかけて再び被害が深刻になり、2024年には37都府県でイネカメムシが確認されました。今回は、カメムシが農作物に害をもたらさない工夫をひねり出してみました。

 このカメムシは、コメだけでなく、モモやナシなどの果物にも被害をもたらすのです。果樹カメムシの発生は、1996年ごろから顕著になり始めました。この果樹カメムシの体長は1cm~1.8cm 程度で、ムシの中では大きい部類に入ります。農林水産省は、今年の果樹収穫に被害をもたらす可能性があるとして注意を促しています。果樹に被害をもたらすクサギカメムシなど、今年はカメムシの発生が多いと予想しているのです。カメムシには、梨や桃、そしてかんきつ類が狙われやすくなります。カメムシが果実を口で刺し甘い汁を吸うと、実が落ちたり、形が悪くなり、商品として出荷できなくなります。カメムシは、山の中に産卵し、ヒノキやスギの実を食べて成長します。成虫になりエサが不足すると、果樹園や住宅地に飛来し、エサをあさる行動にでます。果樹を食害する「果樹カメムシ」は、30種類以上に上ります。チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ、ツヤアオカメムシが、果樹に被害をもたら代表的なカメムシになるようです。2024年は特に多く発生し、静岡県などでは果樹に甚大な被害を及ぼしました。

 農林水産省は、4月にまとめた「令和8年度病害虫発生予報第1号」で改めて警戒を呼びかけています。危険があると予想される場合、注意報を発令します。この注意報の発令数、農林水産省がまとめる始めた2007年以降、約1年ごとに増減を繰り返しています。3月下旬には佐賀県、4月下旬には和歌山県、高知県、山口県が「注意報」を発令しています。注意報を出す根拠は、カメムシの越冬量になるようです。この越冬量は、7月下旬ごろまでに収穫を迎える果樹への被害予測の指標になります。2026年は越冬したカメムシが全国的に平年以上になっています。特に、北九州や近畿などで警戒が必要とされています。近畿や北九州などの地域では、特に越冬量が多く大量発生の恐れがあるとされています。また、3月下旬時点の越冬量調査によると、関東では群馬、埼玉、神奈川で多い傾向がみられました。全国的なスギやヒノキの実のなる隔年結果の傾向により、カメムシの発生量も隔年傾向になるようです。1950~70年代に植林したスギやヒノキの人工林が成熟し、実を多くつけるようになったことと関連しています。カメムシの産卵場所やエサとなるスギやヒノキは、果実が多い年と少ない年が1年ごとに起きます。実りの多い年は、果樹カメムシも大量発生しやすくなります。昨年は、ヒノキの実が多くなり、カメムシの発生量も増えことが予想されるわけです。

 多く発生する要因は、もう一つあります。カメムシの多くは、高温で生育が早まります。コメを狙うイネカメムシも他のカメムシも、高温で増える傾向にあります。カメムシは3~5月に活動を始め、5~8月に産卵期を迎え、成虫のまま越冬します。このカメムシは、1年で1世代、2世代、3世代ほど誕生することになります。温暖化が進むと親から子、子から孫へと世代も早く回るため、越冬するカメムシも増えることになります。もちろん、そこにスギやヒノキの実が豊富にあることが前提になります。農林水産省は、飛来を確認したら早めに防除するよう要請しています。カメムシが活発に動く夕方から夜間にかけて、薬剤散布を推奨しています。でも、果物の収穫期に農薬で消毒作業をすれば、果物も商品価値は下がります。果樹園だけでなく、カメムシの大量発生は、住宅地にも及ぶ可能性も出てきます。この虫は、明るい場所に集まる特性を持つため、家の中に入ってきやすくなります。いつの間にか、家に入ってくる忍者のようです。さらに、排除しようとすると独特の匂いや不快感などの被害もたらします。嫌な匂いのもとになるのは、カメムシに刺激を与えると足の付け根から出る液体になります。液体が目に入るとかなりの痛みを伴い、皮膚につくと黄色に変色するため素手で触らないことです。

 イネに害をもたらすカメムシは、穂の中にできたコメ粒が熟す期間に汁を吸い、黒い斑点を残します。この黒い米は「斑点米」と呼ばれ、1000粒に1粒を超えると一等米として売れなくなります。イネカメムシでは、斑点米のような品質低下に加え収量低下の原因にもなります。イネカメムシは出穂直後のコメ粒の形ができていない段階から汁を吸い始めるため、穂に実が入らずスカスカになってしまうのです。このようなイネカメムシに対する対策は、農薬が有効になります。カメムシ類に対しては、コメや果樹に被害を及ぼす害虫で駆除には農薬が使用されています。問題は、収穫直前における農薬による防除が難しい点です。もちろん、問題があれば、それを解決する知恵や工夫をする人たちが現れます。その解決に取り組んだのは、産業技術総合研究所(産総研)バイオものづくり研究センタ一、電気通信大学と秋田県立大学の研究者たちでした。カメムシ類は、微生物を体内に保持して餌で不足する栄養を供給しています。ヒトが腸内細菌で不足する栄養を補給したり、免疫力を強くしたりする仕組みと似ています。研究チームは、カメムシの共生微生物を模倣する病原微生物を発見しました。この病原微生物は、カメムシが必要とする栄養を作る微生物を殺す作用があります。結果として、カメムシは栄養を取ることができず、10日以内に死んでしまうという結果になりました。この手法は、カメムシの新たな駆除法とて期待されています。

 余談になりますが、農薬には生物の遺伝情報を担う物質を利用するRNA (リボ核酸)農薬があります。作物に悪さをする虫やカビなどの働きを抑えるようにRNAを設計し、このRNA (リボ核酸)農薬を農業分野に応用するやり方もあります。RNA農薬は農地にまかないため、安全性の確認も容易になるようです。農水省は、食料システム戦略の具体策の一つとしてRNA農薬に期待しています。東京農工大学などが、RNA (リポ核酸)農薬の成果をあげつつあります。狙った害虫だけを退治でき、農地にまいた後に分解されやすい夢のような農薬の開発を進めています。農工大の鈴木丈詞教授は、RNAを使って野菜の害虫食べる益虫ダニの食欲を増す技術を開発しました。この技術に応用されているのは、RNA干渉と呼ぶ仕組みになります。RNA干渉は細胞内の標的となる物質に結合して機能を失わせるものです。RNA入りのエサを与えたところ、ダニが体内に取り込んでRNAが狙ったとおりに作用しました。農林水産省は、益虫ダニが害虫の被害を抑える生物農薬として使用を認めています。益虫の容器に食欲増進RNAを加えたエサを入れて、販売することを想定しています。微生物や天敵、そしてRNA (リボ核酸)農薬を利用した生物農薬は、化学薬品に比べ環境負荷が低いために、これからの農薬として注目されています。

 最後になりますが、植物には自らを守るためには防御物質をつくることがあります。たとえば、葉を食べられた時、その危機を遺伝子に伝え防御物質を作ります。葉を食べる害虫は蝶や蛾の幼虫ですが、これらの天敵は寄生蜂になります。寄生蜂がいてくれると、毛虫などによる葉の食害が免れることができます。植物は葉を食べられた時、寄生蜂を引き寄せる物質を放出します。寄生蜂は、放出された香りに誘われて、たくさんいる毛虫に寄生することになります。植物には、防御システムがあり、それを働かせることにより成長を確実にしています。植物の作る防御物質を、人間が人工的に作ることも可能になってきたようです。カメムシ類は、微生物を体内に保持して餌で不足する栄養を供給する事例がありました。その微生物を殺す微生物を発見し、カメムシの害を防ぐ手法を開発しています。この発想をより進めることもできるようです。ワシントン大学のデビッド・ベイカー教授は、2024年にノーベル化学賞を受賞しました。彼は、2003年に93個のアミノ酸からなる「Top7」という人工タンパク質の合成に成功しました。彼は自然に存在しないタンパク質を作りました。理論的には、自然に存在しないアミノ酸配列を製造することが可能なりつつあります。未知のタンパク質を短時間で予測し、短時間で実用的な使用を実現することができるならば、カメムシなどの大量発生を抑える物質の開発も可能になります。もし、自由自在にこのような物質ができれば、大きなビズネスチャンスになるかもしれません。

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