ウクライナ、ロシア、中国、そしてEUの利害関係  アイデア広場 その1811

 ウクライナは、ロシアとの戦闘でドローンの技術力を急速い向上させています。この技術(ハードとソフト)を、世界中の軍事関係が獲得しようとするようになりました。ゼレンスキー大統領は、「「ウクライナが年間1000万機のドローンを生産するようになり、さらに年間この2倍とする目標を掲げており、今後はパートナー諸国との連携で「2000万機になるだろう」と述べています。ウクライナのゼレンスキー大統領は、フォンデアライエン欧州委員長とキーウで会談し、ドローンの共同生産や技術協力に関する協定を締結しています。フォンデアライエン氏は、「ウクライナに兵器の生産拠点を提供する」とも発言しています。ドローンの技術を向上させて、EUの軍需生産基盤と組み合わせる狙いがあります。EU加盟国は、ウクライナ向けに無利子融資900億ユーロを合意しました。この無利子融資900億ユーロのうち、ドローン関連として60億ユーロを段階的に融資することになります。ウクライナは、欧洲各国とドローン分野での共同生産や投資協力、技術移転などを進めています。また、ウクライナは、すでに英国やドイツなど9カ国と個別に協定を結んで、ドローンの技術開発に突き進んでいます。

 世界の軍事関係者が注目するのは、ドローンの進化です。ドローンは、兵員不足への対応や人的被害の防止に有効な兵器と認識されるようになりました。人的なコストを抑える観点からも、軍備の省人化、無人化が世界的な潮流となってきています。ロシア軍の損害の8割が、ドローン攻撃によるものだと明らかになりました。ウクライナ国防省によると、 2024年には、200以上の国内企業が計150万機を生産しました。これは、5000機前後だった2022年の300倍になります。2022年の開戦当初は、ドローンやその部品を輸入に頼っていました。戦況の進展により、急ピッチで自前の生産体制を整備していきました。その結果として、ウクライナは、戦闘機やヘリを撃墜できる海上ドローンやAI搭載型のドローンなどの開発にも成功しています。ドローン機体だけでなく、ドローンパイロットも重要な役割を担います。ウクライナ軍が前線の部隊に配置したドローンパイロトは、数万人規模になります。ドローンパイロットは、実戦経験を通じて急速に練度を上げています。これらのパイロットは、ジャミングや防空レーダーの回避など実戦経験を蓄積しています。豊富な要員が、多様な作戦に従事しています。蛇足ですが、ウクライナ軍は、前線の部隊がオンラインでドローンを発注します。すると、数日から1週間ほどでドローンを届けるシステムが確立されています。安価で、すばやく調達できるために、戦場に大量に投下できる仕組みができています。多機能の高価な装備が、多数の安価な無人装備によって凌駕されている状況がウクライナの戦場で生まれているのです。

 ドローンは、「歴史を変える」兵器のひとつといわれています。その理由は、すでにある民生部品から、低コストで作ることができるからです。ドローンの先進国は、中国になります。その中国のドローン企業では、DJI社が有名です。このDJI製の価格が約8万円のマビック・エアー2が、どのような部品で作られているのか調べてみた会社があります。約230種類ある部品のうち、80%が一般電化製品の部品を使っていたのです。ドローンで使われている1枚の基板には、制御や通信半導体やセンサーなど大小10個の半導体部品が高密度で実装されています。今回分解した機種のマビック・エアー2には、この基板に多くのアメリカ製部品が使われていました。このドローンの部品価格の原価は、14000円で、原価率は20%でした。1000円を超える高価な部品もバッテリーとカメラくらいにとどめているのです。部品の組み合わせとソフト技術の向上で、性能を飛躍的に高めています。さらに、中国のドローンは、ドローン本体においても部品においてもその生産能力が急速に向上させています。中国は2024年に広東省で開いた航空ショーでは、大量の小型ドローンやミサイルを搭載する大型機「九天」を公開しました。この「九天」は、中国航空工業公司(AVIC)が開発した大型無人戦闘機システムです。ジェットエンジンを搭載し、優れた推進力によって最大速度700km/h、最大離陸重量16トン、最大積載量6トンという有人戦闘機に匹敵するペイロード能力を有するとされています。ポイントには、レーザー誘導爆弾、滑空爆弾、対艦ミサイル、空対空ミサイルなど、多種多様な兵装の搭載が可能になります。最大飛行時間は12時間、航続距離は最大11,500km、実用上昇限度は15,000mとされています。このような機能を持つ中国のドローンが、次の主役を狙っています。

 ドローンの大量生産は、大量に使用する民間企業や軍需産業がなければなりたちません。その大量生産を行っている中国は、ロシアにもウクライナにもドローンに必要な部品を供給しているのです。EUは、中国がロシアの戦争を支える中心的な役割を果たしてしていると非難しています。事実、ロシア軍の兵器は、中国製部品に依存している状態です。一方で、ウクライナの軍需産業も、中国製部品に依存しているのです。4年以上続くロシアとウクライナの戦闘で、中国が双方に部品を供給しているわけです。「漁夫の利」を得ているとも言えます。欧州はロシア危機に備えて、産業基盤を強化しようとしています。でも、EUの防衛産業の生産能力は十分ではありません。欧州が自前の防衛産業の構築に苦戦するなか、重要部品では中国依存が続いているのです。EUは中国がロシアに軍用品を供給していると非難する一方で、ウクライナが必要とする部品購入の必要性を認めざる得ない状況にあります。そのような中で、ウクライナは中国製ドローン部品を購入のために、EUの例外措置の適用を取り付けたのです。

 部品の供給が十分でないEUは、苦渋の決断をします。生産能力が整うまでの、例外規定を取りました。一般に、新兵器は、導入、優位、対抗という3段階プロセスを経て効力の「限界点」を迎える流れになります。たとえばドローンの場合、第一段階は斬新であるため、使い方がわからず、配備される数もきわめて少ない状況にありました。第二段階では、配備数が増えてきて、実際に使われるようになります。この第二段階の間、ドローンの新しい機能は優位性を発揮されます。第三段階になると、相手もドローンの機能や戦術を削ぐための研究を進め、やがて「「普通の兵器」となっていく流れになるわけです。ウクライナは、ロシアの爆撃を受けながらも、欧州で有数の革新的な防衛産業を築き上げました。戦場でのロシア側の死傷者の8割程度は、ドローンによるものになります。この第二段階の戦場で主役となっているドローンの需要に、同盟国による部品の供給が追いていません。そこで、例外規定を設けることになります。例外措置の枠は、ウクライナ向けの防衛調達に600億ユーロを充てるEUの融資制度の第1弾になります。ウクライナは、EUの防衛融資制度の資金で中国製ドローン部品を購入できるようになりました。いずれ、ウクライナがドローンのハードやソフトを向上させ、高性能のドローン(部品も含む)をEU域内で生産できる狙いがあるようです。

 最後になりますが、ロシアのウクライナ侵略を観察していると、この侵略におけるロシアの政治的目的は明確になってきました。ロシアの目的は、ウクライナに主権国家としての地位を認めず、事実上の属国とすることにあります。この目的を達成させるために、大きく分けて三つの方法が考えられました。第一は、ウクライナのゼレスキー政権を打倒して親口シアの傀儡政権を樹立することでした。これは、見事に失敗しています。第二は、ウクライナ軍の抵抗を排除しながらウクライナ全土を占領し、支配することです。でも、これには莫大な費用と80万人の軍隊と治安部隊が必要です。第三はウクライナ政府に、事実上の無条件降伏を強いるような停戦協定を受諾させることになります。これが、現在行なっているロシアの戦いになります。一市民への無差別攻撃などは、戦争犯罪になります。それを承知で、ロシアは病院や学校に狙いを定めた市街地への攻撃を行っています。無条件降伏を受け入れさせるために、ウクライナの社会、経済、そして電気や水道のインフラを軍事的手段で破壊し続けているのです。このような理不尽な戦争に、脚光を浴びた兵器がドローンになります。戦争は4年も続き、仕掛けたロシアにほころびが出始めているようです。

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