幸福な町や国の特徴   アイデア広場 その1810

 誰しも、幸せな環境の中で生活したいと思っています。そんな街が、北海道の東神楽町になるようです。旭川市に隣接する東神楽町が、「街の幸福度ランキング」で2年連続全国1位となりました。さらに、全国の20歳以上を対象に幸福度を評価する調査の北海道版でも、5年連続トップとなっています。東神楽町は、人口約1万人の農業と家具の町になります。この町の特徴は、道路沿いや公園に花壇が広がる光景です。町は半世紀以上にわたって、この花の光景を作り続けてきました。「花のまちづくり」のきっかけは、面白いものでした。1960年前後に、蚊の発生を防ぐための環境整備の一環としてとして始まりました。蚊がいなくなった後も、花の魅力に取りつかれた住民の方がボランティア活動として続けてこられたのです。ここでは、約250種類、2万4千株の花を町民のボランティアの方が育てています。町民のボランティア活動を、役場は苗の提供や専門職員の技術指導で支える仕組みも整っています。5月下旬、町役場前の花壇に約30人のボランティアが集まりました。そこでは、「今日はカボチャの苗を直えましょう」などと、土をいじりながら自然と会話が弾む光景が見られました。「花のまちづくり」の植栽は、景観を彩るだけでなく人の交流を育む取り組みとしても発展しています。「花があると散歩が楽しい」の声から、歩数を競う健康イベントも定着しているようです。花を通じて、住民が主体となり地域を育む活動が幸福な地域を実現しているようです。

 国別の幸福度を調べる調査では、日本はいつもランクが低い評価を受けています。この幸福度調査」では、0から10までのスコアがあり、6~8が「幸福」に入ります。一般に、日本人が幸福を考えるとき、お金などの経済的要因が重視されるようです。2019年の内閣府の調査結果によると、年収100万円未満の世帯の幸福度は平均5.01になっています。これは、あまり幸福ではないスコアです。他方、700万円以上1000万円未満の世帯の幸福度は6.24でした。日本では、幸福度を経済的要因が左右していようです。他国の状況を見ると、経済的要因や医療保険制度、そして年金制度が日本より劣っていても、幸福度の高い国があります。その国の一つに、マレーシアがあります。2020年に、マーシア統計局が11州の約4万人行った「幸福度」調査があります。マレーシアの平均スコアは、「幸福」を示す6.48でした。マレーシアは、イスラム教、仏教、ヒンズー教徒の多民族国家になります。他の地域に見られるような宗教紛争がありません。長期間にわたって、多民族が平安に暮らしてきた歴史があります。この歴史的背景が要因なのか、階層、民族、年齢層、性別、学歴、婚姻状況で幸福度の有意差がないのです。お金がある人もない人も、結婚している人もしていない人も、同様に幸福なのです。決して平等とは言えない国なのに、多くの人が幸福の中で生活しているとこの調査は示しています。

 それでは、「街の幸福度ランキング」1位の東神楽町の秘密に迫って見ましょう。その一つに運動があるようです。この町の住宅街のひじり野地区では、住民主催のラジオ体操が長年継続して行ってきました。ひじり野地区のラジオ体操は、住民主催で毎朝30~50人集まります。この朝のラジオ体操は、運動だけでなく、高齢者の見守りや災害時の助け合いにもつながっています。朝の明るい挨拶で、地域の人の輪が生まれ、笑顔の交流は花壇の手入れやバーベキューと広がっているようです。継続的にラジオ体操のような運動を続けていくには、適度な食事と睡眠が必要です。食事を規則的に取り、運動を適度にすれば、身体状況は良好になります。さらに、ラジオ体操に参加するためには、睡眠時間を規則的に取らなければなりません。これを、ホルモンのレベルから見ていくと、朝日を浴びて運動を適度にすることにより、セロトニンの分泌は良好になります。さらにセロトニンは、睡眠時にメロトニンになり、良質な睡眠をもたらします。適度な食事、睡眠、そして運動は、健康の維持増進につながるわけです。健康は、幸福をもたらす一つの要素です。でも、個人の健康のみでは、幸福に至らないことがあります。最近は、幸福の研究が心理学の分野で盛んに行われていました。幸福の研究には、行動経済学、医学、脳神経科学など、様々な分野が関わるようになりました。幸福が感情的な快や不快の面だけでなく、達成感やコミュニケーション、そして社会貢献など多面的に捉えるようになってきました。個人の健康に達成感やコミュニケーション、そして社会貢献の向上という要素を加わると幸福を獲得できる可能性が高まります。ラジオ体操や花の手入れは、健康とコミュニケーション、そして社会貢献などの活動が、高い幸福度に繋がっているようです。

 地方の市町村では、人口減少と高齢化が進んでいます。そんな中で、高齢者は、歩けるだけで良質な生活ができていると、妥協することも多くなるようです。生活の質を自力で歩けてトイレに行けるなど、最低限の日常生活レベルをイメージするようになるわけです。このレベルを続けていくと、社会的孤立が進んでいきます。シニアに限らず、社会的孤立は、今や国のプロジェクトとして進めるべき課題となっています。孤立が続けば、加齢を加速化し、うつや認知症へ導くことを速めます。逆に、人々とコミュニケーションの場を設ければ、加齢も認知症への流れを緩めることができます。日常生活で誰かと会うために外出する機会があれば、少しでも体を動かすことができます。高齢者が孤立すれば、筋肉がますます落ちていくことになります。外に出て、人々との接触が増えれば、エネルギーが多く使われ、生活習慣病などの発症のリスク低下にもつながっていきます。運動は足腰に筋肉をつけ、万病を予防するだけではなく、孤立を防ぐ上でも重要な要素になります。一つの活動や運動の中に、「体を動かす」、「頭を使う」「人とふれあう」の3つの要素が含まれている場合は、理想的な活動になります。東神楽町には、このような理想的な活動を陰に陽に支援している姿が浮かび上がります。住民の声や活動を受け止め、声や活動が実現する環境を整えています。町は、町内会や団体が企画するスポーツや文化活動などに上限20万円を補助しています。このような支援を継続的に行ってきたことが、地元住民はもとより、移住者にも地域になじみやすい町と評価される要因のようです。

 現在の日本では、人口減少や高齢化が進む中で、防災や福祉などを行政だけで住民を支援続けるのは難しくなってきています。地域の支え合いへの期待が高まるー方で、残念ながら、つながりは希薄になっています。地域で課題が生じると、「役所が悪い」など行政に批判が向くことは少なくありません。特に、災害時にはそのような批判が顕著になります。自治会の担い手である、役員の不足や役員の高齢化も深刻になってきています。市区町村での自治会加入率は、2010年度の78%から2020年度には72%に低下しています。東神楽町も、人口減少や高齢化など直面しています。でも、町内会加入率が9割を超えています。回覧板のデジタル化や防犯カメラの設置なども推し進め、住民の活動を支援しています。市町村も、住民にすべてが満足いくようなサービスを提供することが困難になっています。このような困難に直面した時、行政が「住民に対し何をするか」だけでは解決しないことが生じます。もう一つの処方は、「住民が力を発揮できる環境をどう整えるか」ということになります。東神楽町の場合、住民が花づくりやラジオ体操に主体的に参加することで、自分の町への愛着を高めていったようです。

 余談になりますが、住民の活動を支援するためには財源が必要です。その財源を確保するために、各自治体は工夫を凝らしています。北海道内の各自治体は、公共施設の集約を進めています。東神楽町では、1960年代から年代を中心に町役場などの公共施設を整備しています。2018年には、各施設を個別に改修したりする場合と複合施設に集約した場合の財政負担を試算しました。その資産では、複合施設に集約すれば、公的債の活用で60年間の負担軽減額が20億円近い結果を得たのです。2024年、役場機能、診療所、文化ホール、図書館などが入る複合公共施設を開設しました。役場や文化施設など個別に,整備した建物を再編し公共施設の維持負担を軽減するものでした。財政負担を軽くしたことで、施設の持続可能性が高まりました。持続的施設の使用が可能になり、町民の自主的活動も、継続が可能になっています。公共施設の複合化などは、これからどの自治体でも採用する案件になるようです。世界で豊かな国の上位に位置するスイスは、この複合化のモデルになります。スイスのある村役場の施設には、学校のほか企業の入るテナントや広場に面したカフェもあります。村は、村長を含めて職員がパートタイムで働いています。テナントとして入っているコンビニは、午前中のみの営業なのです。この村役場は、多くの機能を兼ねています。図書館は、週に一度オープンするだけです。多目的室では、村議会が開かれ9人の議員が集まって議論が行われます。役場で働く公務員も、基本的に4年任期の自由契約制で、賞与や昇給はないのです。彼らも、農業や観光業の副業を持ち、農道や林道の改修や除雪の作業を行うことで、世界一の収入を得ているわけです。さらに、農業の手厚い保護により、四季折々の美しい山村の風景が維持されています。この風景が、観光資源として地域の人々を潤しているのです。地元の人々は中学や高校を卒業するだけで、家業の農業や観光業を受け継いで豊かな生活を享受しています。

 最後になりますが、日本より公共インフラや医療年金制度が十分でないマレーシアのお話しになります。近年、欧米の政府に失望した人々が、マレーシアに移住を考えている人が多くなっています。特に、子どもを持つ家族を中心に、より宗教的価値観を尊重できる環境を求める人々には、条件の整った国との評価が高いようです。そのマレーシアに住む人びとは、道路に穴があれば、注意してよけて歩きます。エスカレークターが止まっていれば歩き、信号が壊れていれば、道を譲り合いながら車の運転をしています。電車が遅れても、文句を言っている人を見たことがありません。でも、日本で道路に穴が開いていれば、すぐに市町村の責任者に苦情が殺到するでしょう。日本とマレーシアの違いは、「日本人の完璧を求める性格にある」ようです。特にビジネスの世界で言われていることですが、過剰品質のワナという状況があります。「完璧なこと」が、裏目に出る場合もあるのです。必要以上に完璧を求めず、他人に完璧を期待しすぎず、自分の責任で行動することが、一つの望ましい行動パターンになります。必要以上に完璧を意識しないことが、明るさや幸福感につながるようです。

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