最近の軍事技術は、進歩に次ぐ進歩を重ねています。ベネズエラでの米軍の軍事作戦では、「秘密兵器」」を使用したと明らかにしました。「ディスコムボビニレー」(混乱装置)という「秘密兵器」が使用されました。マドゥナロ大統領の警護部隊の話では、「突然、全てのレーダーシステムが停止した」と語っています。さらに、「突然、頭が内側から爆発するような感覚に襲われた」とか、「全員が鼻から血を流し、血を吐く者がいた。地面に倒れ込み、身動きがとれなくなった」とか、「彼らが何かを発射した。非常に強烈な音波のようだった」と話しています。でも、レーダーを無力化した兵器と警護部隊を狙った兵器が同一のものかは明確には分かっていないようです。ベネズエラの防空網はロシア製でした。そのロシア製の防空網を補完するために、中国製のレーダーを使っていたとのことです。マドウロ氏の邸宅が「国内最大の軍事基地内の真ん中」にあったにもかかわらず、その軍事基地にいた大統領を拘束し、米国に連れ去ったわけです。ロシアと中国の防空システムは、米軍の戦闘機や爆撃機150機の編隊が飛んでくるのを探知できず、ベネズエラ側はロシア製と中国製のロケット砲を保有していたが、一発も撃てなかった事実が残りました。また、イランの最高指導者ハメネイ師は、米軍とイスラエル軍に殺害されました。イランの厳戒態勢下にもかかわらず、最高幹部との秘密会合で狙われたのです。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)などによると、イスラエルは数年前からテヘラン市内の多数の監視カメラをハッキングしていたとのことです。護衛隊を中心に各隊員の警護対象、勤務時間などの日常情報を蓄積し、警備が手薄な時間帯などを分析していたと報じています。最高権力者の動静を把握し、ミサイルを正確に誘導する技術を持っているわけです。
スノーデンの暴露により、米国は同盟国の情報も盗み取っている事実も明らかになりました。現在の課題はネットへの侵入だけではなく、大量のデータを読み込みどう分析できるかになっています。全世界に飛び交うデータの流れに侵入することは容易なのですが、その大量のデータを実際に読み解くことは別の次元の課題になります。米国には、情報を読み解く能力に欠陥があったようでした。米国は、世界の情報を傍受することができました。でも、9・11テロにおいては、予知ができる情報を米連邦捜査局が得ながら、3000人が犠牲を出してしまいました。そこで、米国はこの欠陥を補う手法を作り出しました。テロとの戦いでは、「80対20」の原則を適用することでした。この原則は、危険であると推定できるのであれば直ちに行動をすべきだというものです。残りの20%の情報を集めているうちに、次のテロが起きるかもしれないという危機感です。「80対20」の原則の最たる例が、イラク戦争になります。米国は、イラク戦争を証拠もないままサダム・フセイン政権の打倒に突き進みました。結局イラクでは、大量破壊兵器の証拠は見つからず、その後テロの嵐が吹き荒れた経緯はご存じのとおりです。この原則の不備を補うツールが、人工知能(AI)になります。
AIが、軍事大国である米国の軍事戦略と防衛産業を変えようとしています。世界の軍事用AI市場は、2025年から30年にかけて年平均13%のペースで伸びると予想されています。米国ではAIの広がりが、軍需産業のあり方も変えようとしています。AI搭載の無人水上艇や水中艇、さらに片道切符の長離型攻撃ドローンの開発が進められています。米国や同盟国などが積極投資を進めれば、今後2年以内にAI搭載兵器を実戦配できるとまで言われています。AI関連予算は、2022年会計年度と比べおよそ6倍に増えています。米国国防省は、2026年会計年度でAI関連予算に134億ドル(約2.1兆円)を求めています。もっとも、AIの軍事利用を進めているのは米国だけではありません。中国は、かなり幅広く無人システムを開発しています。中国兵器工業集団は、時速50キロで自律的に戦闘支援任務を遂行できる軍用車両を公表しています。特に、中国は(群れで動く)協調型ドローンの開発に一貫して注力しています。このドローンには、米国も脅威を感じているようです。
米国の最新動向は、「X-BAT (エックス・バット)と呼ばれる次世代の戦闘機にみることができます。この戦闘機は、世界で初めて完全無人、かつ滑走路を必要としない垂直での離着陸を可能にしました。エックス・バットは、全地球測位システム(GPS)や外部との通信を必要とせず、「AIパイロット」が自律的に判断して動きます。搭載できる兵器も多様で、戦闘機同士の空中戦、地上施設への攻撃のどちらにも対応できる優れものです。コストは米軍の最新型戦闘「第5世代」のF35などに比べ、10分の1におさまるようです。もっとも、F-35戦闘機の価格は、主に機体単価で約8,000万ドル〜1億ドル(日本円で約120億〜150億円)ですので、10分の1と言っても、高額であることは事実です。エックス・バットを開発したのは、新興の米シールドAIになります。この会社は、ドローの自律飛行ソフトを開発する新興の企業です。エックス・バットは、滑走路を必要としないために、これまで航空戦力の展開が難しかった台湾周辺の無人島などにも配備できる利点があります。台湾の防衛能力の強化をうたい、防衛航空大手の漢翔航空工業(AIDC)と提携しています。数干の無人兵器を台湾海峡に展開し、中国の台湾占領を食い止める構想のようです。
現在、兵器には性能と価格の問題が横たわっています。9月2025年、ロシアのドローンがポーランドに侵入した際には、北大西洋条約機構(NATO)が素早く動きました。ポーランドの戦闘機とともにオランダの戦闘機が緊急発進し、侵入したドローンを撃墜し、NATOの即応能力を示しました。ポーランドは、今後領空を侵犯する飛行物体を撃墜すると表明しました。でも、この撃墜という成果には、課題もあるのです。それは、費用対効果に関するものです。戦闘機のスクランブルにかかる費用は、1回のスクランブルあたり約800万円になります。たとえば、ウクライナ軍のドローン(FPV)は1機600〜1000ドル(約9万〜15万円)とみられています。ロシアの偵察機も似たような価格でしょう。10万円のドローンを落とすために、800万円を使っていては、防御側の負担が多すぎるのです。ドローン対策では、費用対効果の問題を無視できない段階に来ています。安価なドローンに、高コストで対処をすることには課題があるわけです。防衛綱を、低コストで築けるかどうかが重要な課題になります。EUは「ドローンの壁」の構想を巡り、対ドローンに関する知見を持つウクライナの官民との協力を精力的に進めているようです。一方で、盾の強化だけでなく、矛の強化も必要であると述べるようになりました。EUは、中長期的なドローン対処能力の確保と撃墜や反撃の能力を伴う抑止力強化を考え始めています。ロシアにドローンを飛ばすことを思いとどまらせる、抑止力の向上も求められると考えるわけです。高度な警戒システムとあわせて、「欧州による長距離攻撃能力で抑止する」力のバランスを求め始めています。欧州の取り組みは、台湾有事などのリスクを見据えるアジアの国や地域にも参考になるようです。
余談になりますが、中国は(群れで動く)協調型ドローンの開発について考えてみました。昆虫の神経系に電気信号を送り込み、昆虫の動きを自由にコントロールする研究があります。特に、ゴキブリは神経系の加工がしやすく、さらに入手も容易な昆虫です。ゴキブリの身体にコンピュータチップを貼り付け、ゴキブリをラジコンのように操作する技術です。昆虫特有の羽による飛行を行なえば、まるでドローンのように扱えます。地上では細いパイプの中や部屋の隙間などに入り込み、様々な調査がゴキブリで可能となります。この昆虫ドローン(ロボット)の行動は、一匹に限定される訳ではありません。多くのゴキブリサイボーグを、集団として一度に大量に放つことも可能です。集団の昆虫ドローンを使えば、橋脚にある老化箇所や補修部分を1匹の目ではなく、数十匹の目で、同時に調査することも可能になります。橋脚を塹壕と置き換えれば、塹壕戦にも使えるツールになります。空中ドローンでは、把握できない塹壕戦などでは有効な兵器になるかもしれません。
最後になりますが、人工知能(AI)が、戦争のあり方そのものを変えようとしています。人間であれば、最低でも2日かかった作戦策定に向けたシナリオ分析が1分以内できるのです。問題は、AIモデルが人間だけによる戦闘シミュレーションと比べ、突然エスカレートする傾向あることです。人間なら二の足を踏むような人的被害を生む攻撃も、AIはためらわない可能があります。このモデルでは、核戦争を含む戦争が突然エスカレートする傾向があることがわかりました。AIをツールとした戦争遂行には、人類の存続を危険にさらす恐れさえあるのです。最強の人間棋士を破った囲碁AIは、なぜその手を打ったかを説明してはくれません。もちろん、人間も黙っているわけではありません。なぜそうなったのかというAIの判断の根拠を、人が解釈できるようにする研究が続けられているのです。実のところ、AIは間違えます。AIが間違えたときに、AIがどこに着目していたかを調べることが試行錯誤されています。間違った時に、コンピュータの回路の反応などを視覚できるような研究が進められているようです。AIに対して、間違いを起こす多くのテストケースを与え、AIがどのように振る舞うかを観察する手法もあるようです。このような手法の改善を進め、AIの暴走を止める英知を結集したいものです。
