最近、アニマルウェルフェア(動物福祉)という言葉を聞くようになりました。特に、欧米では、このことが実際に行われているようです。シンガポールには、旅を楽しむ方が多いようです。その中でも、愛犬を連れて海旅行する人が増えていいます。へレン・チャンさんは、人材開発企業に勤めています。彼は、初の犬連れ海外は2022年、SNS,で情報収集し「ペットに優しい」とされるスイスを選びました。人間と同じようにペットが、旅行するにはいろいろ制約があります。ペットを客室に同乗できる航空会社は限られ、犬種体重で制限もあります。ケージで長時間過ごすことは、犬や猫のペットには苦手で不向きなことになります。でも、スイスでは、キャリーケースなどに入れずにペット同伴でレストランに入れることができました。このことに感動し、3週間のドライブ旅行を愛犬と楽しんだそうです。今回は、この動物福祉について考えてみました
ペットだけでなく、家畜にもこのアニマルウェルフェアが取り入れられてきています。アニマルウェルフェア(動物福祉)は、人間の管理下にある動物・家畜などのストレスや苦痛を減らし、快適に過ごせるようにするという考え方になります。動物福祉の国際基準の先行モデルは、ドイツなどのEUの酪農家で実践されています。ドイツの場合、一般的農家では4万5千羽のニワトリを9つ飼育舎に分けて、これらの鶏舎で飼育し、市場に供給するケースがあります。餌は、飼料タンクから自動の搬送コンベアに載って鶏舎に行き渡る方式を取っています。そのエサを、ニワトリたちは5つの自由を謳歌しながら食べています。鶏舎内には、至るところに数十の小さなプラットフォーム(止まり木)があります。好奇心旺盛なニワトリたちは、しょっちゅうプラットフォームに飛び乗って遊ぶのです。ニワトリを遊ばせることも大切ですが、人間には他の狙いがあります。プラットフォームに組み込まれた秤が、ニワトリの重さを測定し、5000羽の平均重量を算出するのです。体重を把握し、餌や照明のコントロールをしていくことになります。成長する過程や成熟する過程において、5つの自由が享受される流れがあります。蛇足ですが、「5つの自由」は、人間が管理する動物(家畜・ペット・実験動物)が心身ともに健康でストレスなく暮らすための国際的な指標になります。1960年代に英国で提唱され、飢え・不快・病気・恐怖からの解放と、本来の行動をとれる環境の確保を示すものです。
一般的に投資家からの企業への信頼感が高まると、その企業の株価は上がりやすくなります。その意味で、企業は株主や消費者、意識の変化を敏感にくみ取り、応えていくことが求められます。そのような中で、米国やEUなどでは近年、動物福祉の株主提案が増えているようです。2024年に米国の動物福祉関連の株主提案数は、少なくとも30件にのぼっています。提案の中身は、動物実験の透明性になるようです。外部への透明性を高め、過度な動物実験を抑制する狙いがおもなものです。この提案に呼応するように、独バイエルやスイスのノバルテイス、デンマークのノボノルディスクなどの海外企業などは、実験動物の購入頭数を開示するようになりました。また、家畜の肉を大量に使うマクドナルドは、動物福祉の取り組みを開示しています。マクドナルドの動物福祉は、家畜の「5つの自由」に基づき、飼育から食肉処理までストレスや苦痛を最小限にする取り組みになります。ケージフリー(平飼い)卵の導入、人道的な処理手順(AHW)の遵守、成長促進抗生物質の使用禁止など、サプライチェーン全体で動物の健康と生活の質を向上させる基準を設けています。動物福祉が、企業の価値に結びつく可能性が現実味を帯びてきているのです。
欧米の流れは、鶏をケージで飼育する仕組みが激減しています。もっとも、ケージでの飼育には、維持管理のコストを抑えて生産性が高まるというメリットがあります。ケージフリーの場合、生産性は低下するが、人の健康に寄与するというメリットがでてきます。ケージフリーでは、鶏の腸内細菌が変化して卵に含まれるビタミビタミンB12が3~4倍に増えるのです。これも蛇足になりますが、ビタミンB12は、主に血液(赤血球)の生成や神経機能の正常な維持に不可欠な栄養素になります。それぞれメリットとデメリットあり、フェアに比較して、養鶏場に取り入れてもらうことが望ましいわけです。取捨選択において、日本には、少し残念な流れがありました。その一つに、吉川元農相の汚職事件がありました。東京地方裁判所の公判で、鶏卵生産大手の元代表が起訴内容を認めたと報道されました。2018年11月21日、東京都内のホテルで開かれた吉川元農相の大臣就任パーティーで、トイレに立った元農相を追い掛け「これはお祝いです」と上着のポケットに現金200万円をねじこんだというのです。業界と政界の関係の一端を知ることになりました。当時、動物飼育の国際機関では「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の理念に基づいて、「巣箱」や「止まり木」の設置を義務付ける国際基準案が検討されていたのです。これが導入されると、「ケージ飼い」が主流の日本国内の養鶏は、多額の設備投資が必要になる可能性がありました。米国などでは、禁止されている檻で飼育する方式を、日本の鶏卵業界は嫌ったということになるようです。生産者や消費者、そして世界の動向などを勘案する案件を、政治家と業界幹部が強引に進めたことに問題があったようです。
もちろん、後ろ向きの流れだけでなく、前向きの流れも出てきます。東京農工大学は、食料システム開発の一環として、採卵鶏の動物福祉の普及とその研究を行っています。東京農工大学は2025年4月、4つの飼育の仕方をガラス越しに観察できる鶏舎「Unshelled」(「殻がない」の意味)を開設しました。この鶏舎は、施設は金網のケージで飼育する「パタリーケージ」、放し飼いをする「平飼い」、平飼いを段構造にして上下に広げた「エイビブリー」、そしてケージに止まり木や巣雑追加した「エンリッチドケージ」などの4方式で構成されています。その光景を見てみると、ケージのニワトリを除いて、鶏舎のシャッターがゆっくりと開くと鶏が一羽、またー羽と朝の光が差し込むガラス張りの放牧場に顔を出しします。鶏たちは脚を伸ばして日光浴したり、砂浴びをしたりとのびのび過ごしています。Unshelledは、透明性の高い環境で、鶏の飼育方法をアニマルウェルフェアの観点から比較し、消費者や多様な関係者が集まって議論するための場を提供しています。「Unshelled」では4つの場面を並べて、衛生面や生産性、動物福祉の観点から飼育方法を比べ、最新かつ多様な研究が行われています。この研究は、複数の企業と連携して運営されています。日本の特徴が生かされる成果が、この研究から期待されます。
余談になりますが、 動物福祉に関する流れは、2000年頃から顕著になってきました。米国では2000年代以降、鶏や豚など家畜を狭い檻に入れることを禁止する法律を制定する州が相次ぎました。この流れを受けて、国際原則として「5つの自由が提唱されるようになりました。これは、飢えや渇きからの自由、恐怖や苦悩からの自由、不快からの自由、苦痛からの自由、通常の行動をとる自由とされています。この「5つの自由」は、ペットや家畜、実験動物など幅広く対象となります。この流れは、初期において企業側にそれほど受け入れられませんでした。でも、10年前に気候変動問題に対する企業の責任が議論され始めるようになった頃と似た状況になってきました。気候変動に関する株主提案の動きも海外で先行して、その機運が高まり、その後日本でも定着した経緯があります。現代は思想ではなく、法律で動物愛護が推奨される流れになります。2013年改正動物愛護管理法で、飼い主はペットが命を終えるまで飼うことが義務になりました。動物福祉の理念が浸透し、その実践まで、徐々に広がりつつあるようです。
最後になりますが、動物の命を奪うことと、命を奪った動物を大切にすることは、矛盾しないことを世界の民族史は示しています。その一つが、アイヌのイヨマンテです。熊送りは、イヨマンテ(霊送り)といわれています。現在は、動物愛護の観点から、行われなくなった儀式です。アイヌの人々は、自然界にさまざまな神(カムイ)がいること知っていました。熊に変身した神は、お土産(熊自身の毛皮、肉、内臓など)を持って村にやってきます。アイヌの村人は遊びに来た熊に、酒や餅を持たせて神の国にお送り(死者として)をする儀式がイヨマンテでした。イヨマンテは、お土産を再度持って来て下さいという意味を持っていたのです。自然の恵みは受け取るが、それ以上に自然を大切にすることで、自然に報いていたわけです。このイヨマンテは、熊だけでなくフクロウや狐などもの霊送りもありました。人間にとって、動物性タンパク質は必要なものです。人間が生きる限り、動物の命を奪う行為は続きます。狩猟や漁労は、人類にとって本質的な行為です。狩猟や漁労に従事する人々には、みずからが殺した動物を手あつく葬る習俗がありました。古代における殺生禁断は、時間的な制限をもうけ、動物にも狩猟者や漁労者にも配慮したものでした。このような精神が、先祖返りとして現代に現れたのかもしれません。
