多くの野菜は冷凍しても、栄養素が抜けることはほとんどないようです。特に、冷凍に向いた野菜や適切に下処理を施した野菜は、生野菜より栄養価が高くなる場合もあります。この知見を持つ方や飲食業の方は、積極的に冷凍野菜を使うようになってきました。このような状況が顕著にみられるのは、冷凍野菜の輸入量が2年連続で過去最高を更新したことにも現れているようです。日本の冷凍野菜は、輸入品が9割を占めています。特に、中国からの輸入が半分程度になっています。中国との関係は、政治は冷えても、食品の世界では健在のようです。2025年の冷凍野菜の輸入は、125万272トンと、過去最高でした。この数字は、前年を5%上回り、10年前と比べた伸び率は34%に及んでいます。冷凍野菜は不要部分をカットし、加熱処理して出荷されます。必要な部分だけのために、調理の手間を省ける利便性が支持され、家庭用も業務用も消費が増えているのです。特に、人手不足で調理スタッフの作業を減らしたい外食業界の需要が多いようです。さらに、天候不順のために国産野菜は不安定な供給が続いています。この国産野菜の代替として、輸入冷凍野菜の需要が拡大している流れがあります。
蛇足になりますが、国産野菜は不安定な供給が顕在化した事例がトマトの不作でした。2023年10月から11月にかけて、トマトの市場への入荷量は昨年と比べて大幅に減りました。10月中旬の東京都中央卸売市場へのトマトの入荷量は、前年同期と比べて6割減少しました。特に大口の産地である北海道や千葉産の出荷が減少しました。トマトの単価は、通常のもの1キログラム当たり360円ほどです。それが10月中旬時点で、1キログラム1060円にも高騰し、前年同期の2倍になりました。トマトの価格高騰の原因は、生産の減少になります。大幅に減っている理由は、今夏の高温で実がならないなどのケースが相次いだためでした。高温のために、各地で生育不良が発生し、生産が大幅に落ち込んだことが原因になったわけです。このトマトの不足とその高騰は、外食店にも影響を与えています。トマトは、イタリア料理など幅広いメニューに欠かせない食材です。これらの食材は、イタリアなどからも多くを輸入しています。足元では、円安とユーロ高により、輸入する食材も高騰しつつあります。国産の品薄を受け、「米国やカナダなどからの輸入を急きょ増やし工面している」実情があります。新鮮なトマトだけでなく、トマト缶詰の価格も上昇しているのです。9月のトマト缶詰の平均価格は、前年同月に比べて23%上昇しました。トマトの不足は、各方面に困難な状況をもたらしした事例になります。
国内の不作に左右されない輸入冷凍野菜は、国産の生鮮野菜より手ごろな価格が利点とされています。でも、少しずつ事情が変わりつつあります。近年は円安に加えて物流コストが上昇した影響もあり10年前から3割ほど上がっているのです。円安で輸入価格が上がり、生鮮野菜と比べた割安感は薄れつつあります。2025年の平均輸入単価は、1キログラムあたり275円と10年前から3割上がっているわけです。割高感が薄れた輸入冷凍野菜に代わり、国産の利用を探る動きもあります。この課題に挑戦した企業に、「ほっかほっか亭」があります。野菜などの原材料が安いときに大量調達して、総菜に加工した上で冷凍保存し、原価を下げようとしています。ほっかほっか亭以外にも、品目や用途、需給バランスによって国産の活用を積極的に行おうとする企業もあります。ある企業では、生鮮品として市場に出せなかった規格外品を使った冷凍野菜として販売するケースもあります。国産の冷凍野菜を安定供給するには、生産や加工を機械化して効率を高める必要があります。これを実現するには、企業では限界があり、農業団体や行政と連携して産地づくりを進める必要があります。
首都圏中心に展開するスーパーでは、冷凍野菜の今年2月の売上金額は前年同月比で4%も増えています。この4%増は、冷凍肉(1%)、冷凍魚(2%)と比べても大きい伸びになっています。枝豆やブロッコリーなど冷凍野菜は、千人当たり販売金額は、2025年に前年比5%増えています。日本冷凍食品協会の2025年のアンケートでは、特に女性の利用頻度が伸びていることを示しています。日本の共働きの場合、どうしても負担が女性に傾きがちです。食事作りは、まだ女性が担っていることが多いのです。結果として、先進国日本のジェンダー指数が146か国中116位という順位になってしまうわけです。冷凍食品は、このジェンダーギャップを軽減するツールになっているのかもしれません。冷凍野菜を使った調理ならば、共働き夫婦でも、労力を使わずのどちらでも料理はできます。レンジでチンをすれば、調理はできます。そして、生野菜より栄養価を高める工夫も、現在の知見では十分可能です。さらに、生ゴミを出さすこともすくなく、保存も効くなどの利点が評価されているようです。
日本の場合、必要な時に必要な量の野菜が供給されないという弱点があります。この弱点を克服している国が、オランダになります。オランダでは、植物工場が規制もなく自由に農作物を作り出しています。あの小さなオランダが、世界第2位の農産物輸出国になります。輸出量は、10兆円なのです。この金額は、中国が輸入する穀物に匹敵する金額になります。農業輸出大国と言われるブラジルやロシアよりもその輸出額は多いのです。オランダの植物工場は、徹底した合理化を行っています。この植物工場は、植物に適した温度や湿度を提供し、常に一定の生育速度を保っています。耕作、追肥、種まき、収穫作業において完全自動化を行っているのです。オランダにできて、日本にできないのは、なぜなのか考えてしまいます。日本には、農業技術も資本もあります。なぜなのか。突き詰めていくと65年も前にできた農地法が、邪魔をしていることに突き当たります。農地法は、床をコンクリートにした植物工場を農地とは認めていません。コンクリートの植物工場には、高い固定資産税が適用されます。技術も資本がある企業が、農業に参入できない岩盤規制があるためなのです。2020年12月の新潟県上越市の高田地区では、35年ぶりの記録的な大雪に見舞われました。この大雪で1592棟のビニールハウスに破損や倒壊の被害が出ていました。オランダのように近代工場のようにしっかりした構造ならば、暴風や豪雪で施設が吹き飛ぶことはありません。日本の農業は、ビニールハウスに暖房機を導入して、促成栽培を行っています。化石燃料を、多量に使用する農業ともいえます。ビニールハウスが崩壊すれば、国から支援があります。国の支援は、税金になります。3匹の子豚の家の比較のように、レンガの家にすれば、狼に襲われることもないわけです。
余談になりますが、市場の要求に応じて、決まった量を適正な時期に届ける農産物供給のシステムは、植物工場になるようです。植物工場の中では、食の安全性が保障されています。天候による出荷の増減もなく、安定的な供給ができるのです。植物工場では、1年中トマトやイチゴを育てて、販売することができます。効率的な植物工場は、同じ農地面積の30倍にも匹敵する割合で収益を上げることができるのです。イチゴやトマトなど商業的に採算の合う作物は、すでに工場から世界のマーケットに出荷されています。利益の出せる人気の野菜は、トマト、レタス、ほうれん草、ピーマン、さや豆、イチゴなどです。消費者は、次々と要求水準を高めていきます。世界の先進都市では、殺虫剤や除草剤を使わない作物栽培を要求するようになりました。人間にも環境にも優しい食材を、強く求めるようになったわけです。大都市に流れこむ食材は大量になり、食品検査のコストが右肩上がりで増加している現実があります。食品安全の観点から、コントロールしやすい作物が求められています。さらに農業生産者の減少により、栽培の各工程で人手を使わず、自動で生産する技術も不可欠になっています。都市近郊の栽培と消費は、生態系の特徴であるクローズドシステムを目指すことになるでしょう。つまり、作物の生産能力と廃棄物ゼロを目指すシステムの構築が望まれるわけです。このような要望に、植物工場そして冷凍野菜は応えていかなければならないようです。
最後は、これから冷凍野菜が普及するインドネシアのお話しになります。熱帯のこの地方では、一年を通じてほぼ30度を超える気候が続きます。熱帯の国では、野菜の成長が速い一方、収穫した野菜がすぐに傷んでしまう特徴があります。そのため、生野菜を食べる習慣はほとんどなかったのです。これは、インドネシアを含む東南アジアやインドにおいての食習慣を形成していました。でも、道路などのインフラが整備され、物流が円滑に行われるようになりました。さらに、物流拠点には、冷凍冷蔵倉庫のインフラも整備されつつあります。野菜や果物の廃棄率が、著しく改善されてきているのです。そのインフラ整備の上に、生野菜の消費増加という現象が現れています。食習慣が変われば、そこに大きなビジネスチャンスが生まれます。チャンスの国の1つは、世界で4番目の人口を持つインドネシアになるようです。ジャカルタなどの都市部では、大型モールなどが順調に売上げを伸ばしています。モールの中には、サラダ専門店も増え、サラダブームが起きているようです。中間層の増大とともに、高い品質を要求する人達が増えています。彼らには、健康志向が広がっています。ビタミンなどの摂取は大切だという意識が浸透してきたのです。熱帯地方では、消化器系の疾病による死亡率が高かったのです。そのため、食材には熱を加え、殺菌をする食習慣を形成していたわけです。新しい生野菜の食習慣には、細菌が少ないとか寄生中がいないという条件をクリアーすることが不可欠でした。この条件をクリアーするインフラ整備が、進んでいるのです。さらに、冷凍野菜は、栄養価を失うことなく、より高い栄養素を提供することが分かってきています。チャンスの国では、健康の意識が高まれば高まるほど、野菜の消費量は増える可能性があります。
