近年の植物工場の進化には、目を見張るものがあります。その中の一つに、垂直農法があります。栽培ケースを積み上げ密集して育てる農法は、「垂直農法」と呼ばれています。この種の野菜工場の栽培トレーは、垂直に積み面積を節約しています。ある企業の垂直農法は、2㎡の広さがあれば農地250㎡相当の収穫量を得られるのです。植物工場は、水耕栽培、空中栽培、ドリップ灌漑に関する技術は、IT技術を巻き込んで驚異的な進歩を見せています。この技術を植物工場で使いながら、需要に見合う生産を行おうとしているわけです。一方で、ネックも明らかになりつつあります。植物工場は、投資負担やランニングコストが高いことが経営上のネックになっているのです。時代が進み、照明に使う発光ダイオード(LED)の発光効率向上と低価格化が、コストの低減に大きく寄与しています。最新設備は、以前の設備と比べて消費電力は4割少ない設計になっています。最新の栽培技術を取り入れた垂直農法が、新たに取り入れる企業が現れています。
新しい挑戦を始めた企業は、シンガポールの新興グリーンファイトになります。地元メディアによると、投資額は約100億円で、高さ世界1の植物工場を運営しています。高さ23.3メートルで、垂直植物工場として世界で最も高いということです。垂直農法で土地利用効率を高めるとともに、自動化も進めています。この植物工場では、機器を垂直に積み上げて栽培する「垂直農法」を採用しています。120万株のレタスを同時に栽培ができ、年間の生産能力は最大2000トンになります。生産した野菜は、スーパーマーケットやオンラインで販売しています。国土が狭く人口の多いシンガポールでは、食料自給が課題になっていました。食料安全保障が、大きな問題になっていたわけです。シンガポールでは、食料自給率向上へ生産効率の良い植物工場が設けられてきた経緯があります。でも、収益確保が課題になっていたのです。その課題解決に、グリーンファイトか挑戦しているのです。
垂直農法では、従来の農法と比べて1へタタールあたり45倍の収穫量が期待できるとされてきました。それが、100倍以上の収量が夢ではなくなっています。グリーンファイトは独自システムで、自動化を進めて生産効率を徹底的に高めています。限られた敷地面積で生産効率を高めることはもちろん、人工知能(AI) やロボットを使いコストも抑えようとしています。AIが温度や湿度を制御し、ロボットが野菜の苗を配置していきます。草の高さや葉の状態の画像を分析して生育状況も把握します。さらに、大量生産と品質の安定を両立する野菜ごとに栄養の「レシピ」を作り、システム化で肥料や水を制御する生産工程になります。グリーンファイトの創業者のスーザン・チョン最高経営責任者(CEO)は、連続起業家として知られています。彼が、新たな事業に選んだのが「野菜」でした。グリーンファイトは、2014年設立で、10年以上かけて植物工場の建設を準備してきました。2015年代において、垂直農法に取り組む企業がいくつかありました。でも、コストが高く運営に苦戦する企業が多かったのです。もっとも、シンガポールだけでなく、欧米でも事業の清算や計画の中断を余儀なくされる企業もいくつかあったのです。
世界の先進都市では、殺虫剤や除草剤を使わない作物栽培を要求するようになりました。人間に優しい食材を、強く求めるようになったわけです。大都市に流れこむ食材は、大量になり、食品検査のコストが右肩上がりで増加している現実があります。食品安全の観点から、コントロールしやすい作物が求められているわけです。さらに農業生産者の減少により、栽培の各工程で人手を使わず、自動で生産する技術も不可欠になっています。このようなニーズに、植物工場は適合しています。一方、植物工場の課題は、品種の開発や野菜の生育に合った光源の開発、ロボットの本格導入ということになります。作物は土壌に関係なく、十分な水と水に溶けた無機質、そして有機肥料があれば植物は育ちます。ここに、人の健康状態や病状の要求を満たす栄養素を加える工夫も可能です。患者の病状を回復させる作物ができれば、付加価値の高い作物になります。たとえば、ある植物工場では、カリウムの少ない野菜を出荷しています。腎臓病の患者は、カリウムの摂取が制限されているのです。患者の方に安全で美味しい野菜を提供できます。植物工場は、温度や湿度、肥料やミネラルの補給、生育状況や出荷の時期を管理できます。消費者の要求を把握し、それに応えることのできる野菜を生産できれば、大都市において大きなビジネスチャンスになるかもしれません。
植物工場は、成長産業になるようです。世界の植物工場の市場規模は、2023年に約23億ドル(約3500億円)になりました。この23億ドルのうち、36%にあたる約8億がシンガポールのほか中国や日本などの地域になります。アジア地域の成長率は世界で最も高く、2031年には2023年比で約2倍の15億ドル強に達するようです。この関連市場の拡大は、今後も続くとみられています。食料の9割を輸入に頼るシンガポールは、食料自給率の向上が喫緊の課題になります。シンガポール政府はこの課題に対処するために、2025年11月に最新の目標を設定しました。この目標を設定では、2035年までに野菜などの食物繊維の自給率を国内消費の20%としています。政府の期待を担うグリーンファイトが生産した野菜は、大手スーパー「フェアプライス」で販売されています。課題もあります。グリーンファイトの野菜カイランの価格は、1パック3.95シンガポーレドル(480円)になります。この価格は、中国産の最安値商品の2倍以上になります。課題の克服には、価格競争力を高めつつ、安心・安全など別の付加価値を伝えていくことが重要になるようです。
余談ですが、消費者の作物を見る視点も、変わりつつあります。今までの野菜の新種開発は、形が良くて、多く生産できる品種改良が主流でした。でも、生活習慣病や健康寿命の知見が深まるにつれて、消費者にも変化が起きているのです。植物工場は、温度や湿度、肥料やミネラルの補給、生育状況や出荷の時期を管理できます。人の健康状態や病状の要求を満たす栄養素を、栽培の過程で加える工夫もできるようになりました。たとえば、トマトは、栽培において挑色系が主流でした。そんな中で、赤いトマトを買う人も増えてきたのです。赤いトマトはビタミンCが多く、抗酸化力も高いからです。抗酸化力の高い野菜は、エイジングを抑止する効果があります。野菜の姿や形ではなく、質の高い機能性成分や抗酸化力のあるものを求める購買層が現れたということになります。アンチエイジング求める消費者を絞り込み、その要望にあった野菜を個々人に配送する仕組みも徐々に出現しているようです。システム化された栽培では、いずれ血糖値をコントロールする野菜の開発も可能になるようです。さらに進めば、サプリメントの原料となる野菜や果物の出荷も、植物工場から行われるようになるかもしれません。
最後になりますが、植物工場の可能性は、別の面で発揮されるかもしれません。都市部では、水の汚染が問題になります。この水を浄化して、上水道や中水道として使っているわけです。この浄化にかかる費用が、年々増加している現実があります。この汚染した処理水が飲料水に変わると、水の価値は7.2億ドルになるという試算があります。ニューヨークにおいて、ペットボトル4㍑の水を2セントで売ることは可能のようです。都市の水の循環は、月や火星の生活にたとえることができます。月や火星で長期間住みたいならば、閉鎖システムで長時間暮らす水の浄化循環システムが必要です。この循環の強力なツールが、野菜になります。処理水の浄化は植物の気孔から蒸散される作用を利用して簡単に実現できます。都市部もしくはその周辺に、浄化専用の植物農場をつくるわけです。この水を利用して、第二の植物工場を稼働させることが考えられます。室内農業であれば耕作、追肥、種まき、雑草取り、収穫において化石燃料使用を減少させることができます。アメリカの農業に使用される化石燃料は20%を占めています。都市の垂直農場ができれば、この化石燃料の使用は減少します。化石燃料に頼った輸送や冷蔵そして化学肥料を減らせば、環境に優しい都市が生まれます。消費地で栽培することで、野菜輸送の際に排出される二酸化炭素も減らせることになり、フード・マイレージという視点から高い評価を受けることになります。植物工場の未来は、いろいろな分野で活躍できる素地があるようです。
