新興国の医療から日本の医療を眺めてみる アイデア広場 その1762

 人間は、欲張りな動物になります。不便があれば、それを克服し、さらに便利な仕組みを求めていきます。医療に関心を示すのは、先進国だけではありません。サウスワールドの国々も、経済発展に伴い医療制度の充実を計りつつあります。その一つに、インドネシア大手財閥シナルマスグループがります。この財閥は、医療分野進出を図ろうとしています。1人当たりの年間医療費は、アメリカの9800ドル、日本の4200ドルと比べて、はるかに低い112ドルがインドネシアの年間医療費になります。インドネシアの人口1万人当たりの医師の数は、3.7人で、日本の24人や中国は17人より少なくなっています。病院に行っても、待たされる時間が長いのです。こんな状況が改善されれば、医療環境の改善、国民の健康増進、そして医療がビジネスチャンスになります。ジャカルタの首都圏など500の病院と提携し、遠隔診療や病院の予約を可能にする起業があります。健康を重視する都市部の中間層を対象に、ビジネスを広げようとするものです。将来は、医療診療の手数料や医薬品販売などでも稼ぐ予定ということです。今回は、これから成長が見込まれるインドネシアの医療の実情を眺めながら、今後の医療の方向を考えてみました。

 日本は、少子化の流れを、子どもの才能をより向上させることにより、経済の安定を図ろうとしています。インドネシアは、人口増加を意図しながら、より高い経済成長を図ろうとしています。インドネシアは、全国で無償の学校給食制度を導入するなど子どもの福祉に力を入れている国でもあります。問題は、5歳未満の約2割の子ども達が発育阻害とされていることです。東南アジア各国の中でも、健康に問題を抱える子どもが多いともいえる状況です。その要因の1つに、医師不足があります。インドネシアの医師不足は、ベトナムやマレーシアなどに比べても少ないのです。世界保健機関(WHO)によると、人口1万人当たりの医師数は5人以下になっています。さらに大半の医師が、ジャカルタのあるジャワ島に集中し、地域格差が大きくなっているのです。医師不足が深刻で、地方では医療サービスがなかなか利用できない状況があります。もちろん、不便なことがあれば、それを解決する企業が現れます。子どもの医療のニーズに対応する起業が、増えてきています。ジャワ島に見られるように、遠隔医療アプリの利用が広がっているのですが、小児医療の分野ではまだまだ普及が十分でなかったのです。特に、地方において、この不便な状況が顕著になっていました。現在、この子どもを対象にした医療関連のデジタルサービスを提供する起業が増えていいます。各社はデジタル技術を活用して子どもの健康を支えながら、事業の成長を目指しています。この国の全般的医療水準の向上に向けて、スタートアップの役割は今後さらに広がる可能性がでてきています。

 医師は不足し、医療へのニーズが高い場合、オンライン医療が導入されるケースが増えています。インドは、そんな国の一つになります。この国では、医師や病院が圧倒的に不足しています。その不足を補うように、スタートアップの企業が人工知能(AI)を使った診療システムを開発しています。利用者は、「喉が痛い」「熱がある」「おなかが痛い」など体調や症状などを選びます。病状を記入する段階から、A Iは症状から病気を推定していきます。AIの活用で、医師が診る患者数は飛躍的に多くすることができています。インドだけでなく、多くの国でAIが、医療現場で使われるようになりました。その流れは、診察の第1段階である問診で使われ始めました。生活習慣などを聞き取って、診断の手掛かりを得るプロセスで「AI問診」の導入が広がっています。今までは、この問診をアンケート用紙で行う病院が多かったようです。でもAIは、アンケート1枚といった既存の問診票では把握できない詳しい症状や背景を深く探り出します。AI問診は、患者の入力内容に応じて質問を次々と変えて、病状を探っていきます。患者から症状や既往歴、服薬歴、生活習慣などを聞き取って診断の手掛かりを得ています。患者が診察室に入ったときには、医師の手元に充実した情報が提供される仕組みを作り出しました。問診の次に行われる検査の領域では、以前からAIが浸透していました。レントゲンや内視鏡の画像、あるいは心電図の波形をAIに解析させることなどがあります。心電図の波形をAIに解析させて、病気をいち早く発見する技術が実用化されています。問診と検査の結果がそろえば病名を診断し、治療法の選択へと進むことになります。この治療法の選択へと進む過程でも、AIが精度を高めています。

 再度、インドネシアの新興の小児医療を見てみましょう。公務員のリンタン・チャンドラ・ウランさんは、首都のジャカルタ近郊のポゴーに住んでいます。ウランさん(27)は毎月、小児医療アプリ「プリマク」で1歳の娘の身長や体を記録しています。お子さんの発育状態が、「プリマク」で正常かどうかを確認できると話しています。このアプリは、専門医との遠隔診療や予防接種の管理、栄養指導などの機能も備えています。このアプリは、多くの機能が無料で利用でき、登録者数は300万人を超えるまでになっています。利用者は、仕事があるなか、毎月診療所に行かずにすむのが助かると話しています。このアプリの運営会社のプリマクは、2018年に創業しました。親や医者、医療機関などをつなぐ小児医療のエコシステム(生態系)を構築することが目標になっているようです。蛇足になりますが、300万人の医療データは、宝の山になります。たとえば、ビックデータには、構造データと非構造データがあります。データは、コンピュータが学習するのに適したものでなくてはいけません。データは「前処理」と呼ばれるデータの整理が重要になります。前処理をして、コンピュータが学習するものに適したものにするわけです。この課程を経たデータは、深層学習にも耐えられるデータになります。300万人の病状、治療、投薬の記録、身体検査、給食の記録などは、ビックデータの宝の山というものです。あまり知られていないことですが、アマゾンやグーグルは、膨大なデータを公表していません。日々蓄積している非構造データを、公開していないのです。でも、データを処理するソフトは無償で公開しています。これらのソフトで、未公開のデータを有利に分析し、活用する技術者を求めているのです。多くの技術者が、この未公開のデータを求めて、アマゾンやグーグルの研究者になり、活躍しているのも事実です。プリマクも、インドネシアの医療情報産業の旗手になるかもしれません。

 お話は、インドネシアから日本に飛びます。日本では、1990年代以降、病気ごとに最適な検査や治療法をまとめた診療ガイドラインが公開さるようになりました。最適な検査や治療法をまとめた診療ガイドラインが各学会によって作成、公開されてきたのです。このことが、日本の医療水準を高めている要因になります。さらに、医師が経験や知識を増やし、これらが多い医師が名医と呼ばれる傾向がありました。診療ガイドラインは、「医療者の教科書」になっています。AIはこれらのガイドラインを学び、人間の医師が一生かけても経験できない量の症例を学習して分析できるようになりました。AIによる診断は、膨大な症例が土台となっています。AI医療では、すべての患者に「名医」の診断を提供できる可能性が出てきているようです。問診に関しては、AIロボットが待合室の患者に話しかけ、自然な会話から患者の情報を収集できます。自然な会話から患者の情報を収集し、診察室にいる医師に必要な検査を提示することもできます。検査などにおいては、血液検査や検査画像、そして心音などの音声データなどの数値データを統合して分析できるマルチモーダルの導入が出てきています。次に、マルチモーダルAIが、診断結果と治療法を示すことになります。治療の効率は、飛躍的に向上する光景が目の前に来ているようです。日本は、旧来の壁に遮られ、オンライン医療の進度が遅くなっています。一方、新興国は既存の旧来技術を経ることなく、一気に最新技術を導入して先進国を追い抜くケースがあります。いわゆるリープフロッグ現象(Leapfrogging)が、インドネシアでも起きる可能性があるようです。

 余談になりますが。医療の世界では、治療医学よりも予防医学に重点を置くべきとの意見も出ています。不調の兆しを早期発見できれば、早期治療につながり、医療費の節約に繋がります。その早期発見や早期治療の環境が整いつつあるのです。病気の予兆やその進行状況を指標化できる健康データをデジタルバイオマーカーと呼びます。スマートフォンやウェアラブル端末の普及に伴い、この健康データを手軽に取得できるようになりました。皮膚に流れる微弱な電流の変化を検知して、心電図を24時間体制で測定する仕組みも開発されています。心電図を24時間体制で測定し、その結果はクラウド上に記録していくこともできます。クラウトに蓄積された呼吸数や心拍などを分析し、異常があればシステムを通じて、該当の個人に知らせることもできます。知らせを受けた個人は、心電図データを提携医がAIシステムを使ってさらに解析し、治療をすることになります。蓄積されたデータから、過去の患者と似た波形などを見つけた場合、AIがアラートを出す仕組みができているわけです。診断や診療を支援するAIシステムは、泰明期から普及期に転換しつつあるようです。この普及期において、リープフロッグ現象がインドなど発生しているようです。優れた医師を選ぶこともできるシステムが実用化されています。いろいろな症状に対応できる医師の一覧から、患者は診断してもらいたい医師を選択します。その医師の一覧から、選択した医師に、電話やビデオチャットで症状を詳しく伝えていくことになります。AIが専門医を選定し、選ばれた医師が最終的な病気の判断をします。たとえば、首都デリーの患者が、1000km以上離れた産業都市ムンバイのお医者さんを指定することもできるのです。予防も診療もすぐできるシステムが、いろいろな国や地域で開発されつつあるようです。

 最後は、良いお医者さんや良い病院で、診てもらいたいというニーズの実現になります。韓国には、医療機関のミシュランガイドと呼ばれているアプリがあります。各病院の設備、手術実績や執刀医のリスト、生存率の5段階評価表を知ることもできるのです。保険診療と保険外診療を合わせた混合診療もあります。ある特定の資格を満たした医者を選んで診療を受ける場合には、保険適用外となります。特定の資格を満たした医者を選んで診療を受ける場合には、追加費用は全額患者負担となるのです。面白いことは、不正請求をした病院のリストが保健福祉省のホームページに公開されています。病院の性格を知るうえで、参考になるというわけです。韓国の新型コロナウイルス対策は、優れた成果を上げています。良く調べてみると、PCR検査の量的優位だけではないことが分かります。韓国国民は、生まれたときから住民登録番号で管理されているのです。国民健康保険公団の個人疾病情報データベースは、住民登録番号と紐づけられています。これまでの特定検診データ、既往歴や現病歴、通院記録、受診内容、検査結果、投薬履歴、治療費の医療データが経年的に蓄積されていたのです。子どものときに受けた感染症や予防接種の記録もあり、母子手帳の必要性はないようです。病院別に注射剤や抗生物質の処方率の過多を示すリストもあります。薬局に出す処方箋もアプリで届くので、何を処方されたかスマホに記録が残っています。この特定検診データは、通院するごとに最新情報に更新されるという優れたシステムです。日本にもこのような仕組みが、マイナンバーカードの普及とともに取り入れられる日が来ることを願っています。

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