現在日本では、年間で約44億本の切り花と、 7.6億の鉢花が流通しています。豊かな日本の切り花文化は、国内外多くの生産者の手により支えられているともいえます。流通されている花のバラェティーも群を抜いて、4万種の登録品種があり、2万種の流通品種が私たちの目を楽しませています。現在日本では、1年で3,000もの新品種が登場しています。1年で3,000もの新品種が登場は、花の大国オランダの倍以上にもなるのです。日本では、植物や花に関する研究も進んでいます。40億年の生命の歴史に隠された植物のしたたかな戦略が明らかになりつつあります。ゲノム科学の進展は、生薬や漢方薬、植物成分の分野に目を見張るような進展をもたらした。その延長線上に、花の香りやその癒し効果などの研究があります。最近、甘草の全ゲノム配列を決定することにも成功しました。この甘草は、砂糖の30倍以上の甘味を持つ植物です。漢方薬に必需品になっているほどです。植物や人間が持っている全てのDNA情報であるゲノム配列が、次々と決定されてきています。植物の世界が、分かりつつあるのです。このような知見を用いて、切り花を見て楽しみ、香りを嗅いで楽しみ、さらに有用な薬用として活用することに挑戦してみました。
人間が、花の美しさや香しい匂いに魅力を感じるように、虫や小鳥も花の香りに誘われて花を訪れます。そこで、花粉を付けて、花への受粉活動を行っています。香りの少ない花は、色華やかな美しさでこれらの虫や小鳥を集めます。華やかな花の色も香りも、繁殖をスムーズに行う道具になります。一方、色の薄い花ほど、強い香りを出す傾向があります。この香りが、人間に有用に働くケースが出てきます。ミントやシソの香り成分を飲むと、腸などの臓器の炎症に効くことは経験的に分っています。ゲラニオールを吸引したマウスの腫瘍が、小さくなること分かってきました。ゲラニオールは、バラの香りの成分です。昆虫などには害になる成分が、人間には良い効果をもたらす場合も出てくるわけです。現代の花の多くは、香りのよさよりも、色や形などの視覚的な美しさに重点が置かれているようです。花の色で昆虫を寄せつける戦略は、明るい昼の時間のほうが有利になります。一方、暗夜に蛾などを引き寄せて受粉する場合、特異的な香りの成分を花から揮発する傾向があります。夜に咲く花の場合、その開花に合わせて揮発性の高い香り成分が放たれるというわけです。この開花に合わせての揮発性の香りは、多くの人間にとっても心地良い香りになるようです。そこで出てくる発想が、見た目が良く香りの効果が優れているという両面から切り花をビジネスの種にしてはどうかという発想が出てきます。
香りや匂いのする物質は20万種類とも40万種類ともいわれています。ある種の香りや匂いが、記憶の中枢といわれる海馬の活動を増進することが分かってきました。前頭葉のやる気の部位が完成すると、記憶の中枢である側頭連合野の働きがスムーズになります。記憶の中枢である側頭連合野の働きがスムーズになると、うれしいことに記憶力が増すのです。一般に、小学校高学年からは記憶するべき知識が必要になります。このような時期に、勉強部屋に海馬を刺激する切り花を飾り、お子さんの記憶を向上させることも面白いかもしれません。香りの効果の最前線に、睡眠があります。現在、多くの分野で、睡眠の質が問われる時代になっています。脳には、覚醒(昼の活動状態)、ノンレム睡眠、レム睡眠という3つの状態があります。8時間の眠りのうち、6時間がノンレム睡眠、2時間がレム睡眠といわれています。深いノンレム睡眠の確保が、健康を保証することになります。この深い睡眠を導く花の香りには、ラベンダー、ベルガモット、カモミールなどのアロマが効果的と言われています。また、色が人にもたらす生理心理効果はよく知られています。たとえば、花色の活用法として、食欲を抑えたい人にはブルーの花を飾って食欲をコントロールすることもあります。このように、花の香りや色は人間の使い方によっては、有効なものがあるのです。
自然界では、植物がそれぞれ独自の色の花を咲かせています。誰でもが美しいという花に、高山植物があります。高山に咲く花は、青紫が多いようです。高山地帯では、紫外線が平地より数段強いのです。これらの花は紫外線から身を守るために、ポリフェノールという物質を多く蓄えています。花の美しさは、自分を守るために存在していると言っても良いようです。ポリフェノールには、細菌の増殖を抑えたり、紫外線などのストレスから身を守る作用があるのです。植物は、移動できない弱点があります。でも、敵から守る術を備えています。害虫に食べられた植物は、特有の香りブレンドしたものを大気中に放出します。この香りは、害虫の天敵を惹きつけ、周囲の植物仲間にも危険を知らせる役割を持っています。害虫に食べられている植物は香りを放出することで、害虫の天敵を呼び寄せるのです。害虫のイモムシに襲われた植物は、天敵である寄生ハチを呼び寄せます。寄生ハチはイモムシの内蔵に傷を付けないように、害虫のお腹の中に卵を産みます。卵から孵化した寄生ハチの幼虫は、イモムシのお腹で成長します。サナギになる段階で、宿主としてのイモムシを殺してしまうのです。花と昆虫のコミュニケーションでは、花の色だけでなく、香りこそが重要であることが理解できます。蛇足になりますが、香りを利用して、病害虫を排除する農法があります。一般的には、コンパニオンプランツ(共栄作物)と言われています。ハッカやアザミなどのアロマ植物は、害虫の密度を抑える働きがあります。農作物の近くにこれらのアロマ植物を植えることにより、害虫を防いだり、作物の成長を促すのです。いわゆる混植をすることで、害虫を防いだり、成長を促す農法になるわけです。
世界の花卉市場は、進歩を重ねてきています。欧米では1990年代後半から、家庭用とカジュアルギフトとしての切り花の需要が伸び始めていた経緯があります。欧州の花屋さんは、同じ価格帯のミックスの花束でも使う花を変えて自分たちの特色を出しているようです。さすがに、個性を大切にする欧米の特色が出ています。そんな中で、注目されているお店が、イギリスで最大手の量販店「テスコ」になります。このお店は、切り花の日持ち保証販売を本格的に導入したことで知られています。「テスコ」が、この保証販売を本格的に導入したのは1990年代初頭になります。テスコ販売は、保証期間中に花が枯れた場合、代替え品を改めて出すシステムです。日持ち保証販売を導入することで、花の品質に満足し、またそのお店に花を買いに来るリピーターが増えたのです。テスコ販売額は、最初の10年間で約7倍に増加し、廃棄率も6%を切るようになりました。日持ち保証販売を導入することで、花の品質に満足した消費者がリピーターとなったわけです。もちろん、日本も負けてはいません。日本の花卉農家は消費者のニーズを予測しながら、季節ごとに花を栽培しています。日本で独自に改良したものなどは、国際的に評価されてきました。花卉市場があるオランダでは、「日本産は同じキクなどの品目でも平均相場より1.5~2倍ほど高い」といいます。花卉農家は、労働力を必要以上につぎ込み、肥料や農薬を十分に使い美しい花を育てます。一方で、弱点も指摘されています。でも、日本の小規模農家が作る花は生産コストが高くなるのです。花の美しさを追求するあまり、利益という要素を軽視するところがあるようです。売る値段より、作る値段が高くなっては、所得を増やすことができません。技術はあるのですから、その技術を高く売る工夫が求められるようです。
最後になりますが、アフリカで、チンパンジーの生態観察を行っている研究チームがあります。このチームが、病気のチンパンジーを観察していたところ、普段は口にしない苦味の強いキク科の髄液を飲むことを見つけました。キク科の髄液を飲み、約1日後に体調が回復する様子が明らかになったそうです。チンパンジーはキク科の植物を食料としてではなく、薬として寄生虫の駆除に使ったことに驚きがあります。キク科の髄液には、セスキテルペンラクトンとステロイドグルコシドの化合物が含まれています。これらの両成分は、寄生虫の産卵の抑制作用のあるのです。チンパンジーは、経験的にそれらの知識を獲得していたのでしょう。チンパンジーのように視点を変えて、花の利用法を考えることも楽しいかもしれません。生活する上で、住まいに求められる機能は5つほどあるようです。家庭では、リラックスしたいものです。睡眠などを十分にとりたい場でもあります。次に、食事を作り、飲食をする場としての機能もあります。3番目に、子どもだけでなく大人も学習を行う場になります。4番目は、家庭は楽しい場でなければならないでしょう。趣味や遊びの場になります。最後に、最近はリモートワークなどが取り入れられてきました。そのために、家庭が仕事の場と変身することになりました。この5つの場面に、花の効用を利用する発想が出てきます。たとえば、食事の道具として、キッチンカウンターやダイニングテーブルなどがあります。美味しく食べて、健康を維持増進することが目的になります。ここに、切り花の登場になります。食欲を抑えたい人にはブルーの花を飾って食欲をコントロールすることもできます。食欲のない人にはオレンジの花を飾って、食欲をコントロールすることになります。家庭に花があると、やる気が出て職場でも持続するケースがあります。家庭の5つの機能に合わせて、その機能を支援する花の活用を工夫することも面白い試みかもしれません。
