豚肉の消費から中国を眺めてみる アイデア広場 その1812

 中国は、豚肉消費量で世界の約4割を占める国になります。世界最大の豚肉消費国の中で、伝統的な中華料理に豚肉が庶民の生活に欠かせません。この豚肉の価格に、異変が起きています。中国ではこの20年間で、2006~10年、2010~14年、2014~18年、2018~22年と4度の豚肉価格のサイクルがありました。このサイクルをピックサイクルと言います。具体的には、2018年には豚肉1k当たり40元強でしたが、2022年には12元になりました。需給に応じて大きく上下する豚肉価格の動向は、ピックサイクル(豚周期)と呼ばれています。このピックサイクルに、異変が起きているのです。中国の豚肉価格は、2023年以降、ピックサイクルがなく低迷が続いているのです。中国農業農村省によると、2026年3月に付けた生豚価格は1k g当たり10元で推移しています。確かに、中国は官民一体になり、豚肉の価格の安定に努めてきた経緯があります。養豚業に、資金を投じることを奨励も行ってきました。その現われが、高層ビルのビル型豚舎で大量飼育する方式でした。この方式を取ることにより、豚肉の生産は安定したのです。でも、「ブタを育てれば育てるほど損をする」と中国の養豚業者から悲鳴が上がっているのです。養豚コストは上がっているのに、豚肉価格は上がらないのです。豚肉の価格は、中国景気を映す鏡でもあります。今回は、中国の国民食である豚肉の価格の上下から、中国の実情を見てみました。

 以前、中国の養豚業は中小畜産農家や企業が中心に行われていました。養豚業は、2017年は、中小農家や中小の業者の供給シェアが7割を占めていました。養豚業は、農村地域で現金収入を確保できる重要な産業の一つになっていたのです。農家の現金収入を一変させたのは、2018年に中国で初めて流行したアリカ豚熱の猛威です。アフリカ豚熱の致死率が、ほぼ100%でした。この豚熱で、中国の3分の1近くの豚が死んでしまいました。この惨事は、農家と価格に大きな変化をもたらした。この惨事から離農が相次ぎ、2018年から2023年の間に1300万戸の中小畜産農家が廃業したのです。2018~-19年にかけては、豚肉価格が急騰し、1kg当たり40元前後と約1年で4倍に急騰しました。すると、資金のある農家や企業は、豚肉価格が上昇すると利益拡大を見込んで飼育頭数を増やしていきました。この増やす流れが供給過剰を招き、価格が下落する3~4年周期のピックサイクルを繰り返してきたのです。中国の養豚業では、中小農家や中小企業が経験や勘を頼りに生産量を調整してきた経緯があります。「価格が急騰すれば生産を急拡大し、急落すれば手控える」という流れが、ピックサイクルを生み出してきました。そのピックサイクルに、異変が起きているのです。

 中国では、2018年8月以降に家畜伝染病のアフリカ豚熱(ASF) 広がりました。このアフリカ豚熱はひとたび感染すると、養豚場すべての豚を殺処分しなければなりませんでした。2018年夏に広がったアフリカ豚熱は中国の物価にも大きな影響を与えました。中国では2018年8月に初めて確認され、2019年春までに全土に広がったのです。新規感染が出ている状況では、リスクを恐れて飼育頭数を増やしたくない養豚業者もいました。中国全体の飼育頭数は、ピーク時の7割ほどになりました。「弱り目に祟り目」ということわざがありますが、災害は重なるものです。この年の台風被害が深刻で、豚肉の主産地の湖北省などでは、養豚場が浸水し出荷できなくなりました。供給が減り需要が今まで通りならば、価格は上昇します。2022年頃には、新型コロナウイルス禍が落ち着き、中国は大規模な財政支出や金融緩和で景気の下支えに動き始めました。経済活動が再開し、外食の機会も増える局面を迎えています。当然、豚肉の消費も増えてきます。そのような中で、豚肉の高騰が心配されていました。中国政府は、短期対策として冷凍豚肉の輸入の促進、長期安定策として、養豚業への支援を掲げました。その一つの現われが、高層ビルのビル型豚舎で大量飼育する方式でした。

 中国政府は、大手が動きやすいように、養豚場を建設するための土地取得費を下げたり、税金を安くしたりしました。もちろん大手だけでなく、中小零細農家にも支援の手が差し伸べられました。アフリカ豚熱のまん延で小規模な養豚場は、多くの地域で禁止されたままでした。でも、安定供給の観点から、中小への支援策も拡充されました。銀行ローンの利子の補助年間出荷頭数の条件を、5000頭以上から500頭以上に条件を緩和しています。南京市郊外では、子豚を買い入れて、半年ほど肥育し、売却するのが貴重な現金収入でした。このような農家への支援も、進めるようになりました。中国政府は国民の不満を抑えるために、様々な手を打ってきました。強い国有企業が育っていなかった養豚業界では、買収などを繰り返して規模を拡大してきた4大養豚企業があります。これらの企業と零細農家を軸に、中国の食文化を守る政策を取りました。中国の畜産業界では、人民公社が支えてきた社会保障や医療は事実上崩壊しました。その結果、市場原理がむき出しになってしまったのです。価格が上がると、業者がいっせいに増産に動く傾向がありました。供給過多で値崩れが起きると、減産や廃業が相次ぐというサイクルを繰り返してきました。俗にいう、「ピッグサイクル」の繰り返しが常態化していたわけです。アフリカ豚熱の機会に、安定供給の仕組みを構築しようという中国政府の狙いは、見事に成功したのです。でも、養豚企業が赤字経営という状況に困惑しています。これは中国国内だけでなく、外国の農家にも大きな影響をもたらしています。

 2019年の養豚業の投資額は、前年比8.4倍に急拡大しました。投資額の急増による養豚業の大規模化とデジタル化が急速に進むと、ピックサイクルに異変をもたらしました。異変の象徴のーつが高層ビルを豚舎にしたピックタワーです。アフリカ豚熱を契機に、養豚業の大規模化とデジタル化の象徴であるがピックタワー急速に進みました。ピックタワーの豚舎は、アフリカ豚熱から隔離され効率的な大量飼育を可能にしました。このタワーは、豚熱の感染を防ぎ、生産を効率化し、供給を安定化させました。資本力のある上場企業を中心に、中国の養豚業の集約が一気に進んだのです。豚肉の供給は、以前より安定するようになりました。でも、生産性の向上や安定供給が、順調な利益成長につながったわけではないのです。2025年12月期は主要養豚企業の11社は、最終赤字になっています。さらに、養豚上場20社が公表した26年1~6月期の業績予想は全て最終赤字なのです。大手企業は、安値でも出荷を増やし、採算が大幅に悪化している実情があります。

 余談になりますが、中国が豚の供給を増やそうとする場合、米国産トウモロコシの購入を急いで増やす傾向がありました。また、中国のトウモロコシ産地の遼寧省などで、干ばつが発生すると降水量不足でトウモロコシの収穫が低下します。中国が輸入拡大を急ぐのは、中国での減産懸念と需要増が理由になります。中国のトウモロコシ消費見通しは、例年2億7700万トンでほぼ自国で賄ってきました。中国は輸入に頼る大豆と異なり、トウモロコシは自給政策をとることができたのです。でも、2020~21年度の予想では、生産量が800万トン前後減るとされたのです。800万トンという数字は、日本国民が1年間に消費するコメと同等の数量になります。コメとトウモロコシの違いはありますが、莫大な量です。当時のトウモロコシ輸入は、養豚数を増やすため飼料需要が急増している理由によるものでした。中国の自力更生の成果が、トウモロコシ生産にも現れてきました。中国の2025年のトウモロコシ輸入量は、2014年以来の低水準となりました。中国国内のトウモロコシ生産量は、初めて3億トンを突破するなど増産傾向が続いています。ピックタワーなどによる豚の安定増産の実現、その実現を支えるトウモロコシなどの飼料確保などが実現したわけです。でも、この実現がピックサイクルに異変をもたらし、養豚事業者に赤字をもたらしているとも言えます。さらに、穀物市場にも、影響を与えるようになりました。

 最後は、中国のZ世代から中国の消費行動を眺めてみました。中国のZ世代が、話題になっています。このZ世代は、15~29歳の年齢層の総称で、中国の人口14億人の18.4%を占めています。Z世代の消費行動が、各分野から注目されているのです。中国のSNS「Soul (ソウル)は、利用者の約8割がZ世代と言われています。この「Soul (ソウル)」で、Z世代の消費行動を調べたデータがあります。それによると、「独身の日」のセールでは、購入者の3割以上が複数のサイトをみて価格を比較していました。近年の「独身の日」のセールでは、購入者の43.4%が明確な目的買をしていました。ある太陽電池メーカーに勤める女性は、普通は37元するケーキを15.9元で手に入れたと自慢げに話していました。この女性は、売れ残り品を値引き販売するSNS上のサービスを使っていました。抑えるところは抑えながら、合理的な支出の仕方を探っている様子が見て取れます。中国では、豚肉料理は特別なごちそうでした。でも、生活水準の向上とともに食卓は多様化した。「多様なたんぱく源を取った方が良いとの理由などから豚肉以外を選ぶ家庭も増えています。「牛肉の方が健康的だ。孫には牛肉を食べさせたい」という上海在住の初老の男性が話しています。Z世代の行動様式が、徐々に国民に根付いている面も出てきています。つくれば売れる時代から、人々が求めるものが売れる時代に、中国も変化しているようです。

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