産業界では、人手不足が深刻になっています。この状況を打開するために、多くの企業が、いろいろな試みを行っています。その中には、成功した事例もありますが、なかなか上手くいかない事例もあるようです。今回は、その成功事例について、考えてみました。
2014年以降、地方創生が叫ばれてきました。地方創生は、人口減少の抑制、東京一極集中の是正、地域経済の活性化を通じて、持続可能で自立的な地方社会を目指す政策になります。でも、この政策は掛け声だけに終わっているように見えます。成果が現れていないからです。そして、近年はデジタルやAI技術を活用した「地方創生2.0」に看板を代えようとしています。ここで、1回目の地方創生の失敗を再検討する必要があります。1回目の地方創生には、女性の目線が少なかったようです。そのために、効果が上がりませんでした。それは、ジェンダーギャップに起因するものでした。地方創生の政策の中身に、男性の目線が強く、女性の目線が少なかったとも言えます。出産可能な若い女性が故郷を出て行ってしまうことは、自治体の消滅危機に陥ることまでは誰でも分かります。この消滅危機の先への対策がなく、女性たちがなぜ故郷を捨てたのかを放置してきたわけです。「女性が生きやすくなる条件とは何なのか? 」、「何を望むのか?」。創生のカギは、この「何を望むのか」に隠されているにも関わらず、女性の声を聞こうとしない状況が続いています。そして、女性の声を反映した企業が、人手不足の問題を解決し、企業業績を上げている事例が増えているようです。
深刻な人手不足による危機感をバネに、長時間労働をなどの制度を見直して、企業業績を上げた事例があります。えびの電子工業(宮崎)は、大手メーの下請けとして電子部品を製造する企業になります。この工業で働く従業員は、6割が女性になります。A子さんは2009年に入社しました。その時は、事務職のパートとしての採用になります。入社当時は、育児のために、1日5時間ほどしか働けませんでした。正社員への登用の話もあったようですが、「絶対になりたくない」とお断りしていたそうです。子育てが落ち着いた後も、正社員として働く気持ちは起きなかったそうです。その当時の社内には「正社員は,残業するもの」という認識がまん延していました。残業ができる社員ほど評価され、長時間労働が負担となる状況が常態化していたそうです。業務が集中して長時間の勤務になり、過度な期待を負わされて辞めてしまう人を見ていたわけです。倒れそうになる男性社員を見て、女性従業員が正社員や管理職になるのを躊躇していたわけです。
話は飛びますが、仕事が正社員などのベテランや特定技能者に集中する場合、彼らが病気になったり、退職した場合どうなるのでしょうか。この事例を上手に解決した企業もあります。この企業は、半導体、医療、精密機器などの分野で使われるフッ素樹脂製品を製造している陽和になります。陽和は、離職率が単純計算で6.9%になります。 従業員130人の企業で、止めない企業を実践して、成功をおさめています。他の企業に見られないこの成果には、ひとつのきっかけがありありました。それは、「1人のベテラン社員が1週間休んだとき、生産ラインが止まったことでした。」熟練者に一部の業務を頼っていたため、その作業の代役を果たす社員がいなかったのです。その反省を踏まえて、数年かけて業務別の手順書を一つずつ作成し、生産などの現場作業は動画を共有しました。作業におけるカンやコツと呼ばれるポイントを、なるべく数値化して、みんなが分かるようにしたのです。陽和は、社員が互いの仕事をカバーしあえる職場に改めたわけです。すると、会社は良い方向に向かうようになりました。誰かが休んでも、みんが代役ができることで、作業工程がスムーズに回るようになったのです。この会社の社員は、社員が自分の望む時期に気兼ねなく休めるようになりました。有給休暇や育児休暇の取得率は90%を超えています。
えびの電子工業は、陽和の流れを女性社員が行ったようです。A子さんはパートとして入社、正社員の道を避けていましたが、今は6人の部下を持つ管理職になっています。会社が評価制度の見直したことをきっかけに、2019年に正社員となりました。彼女が管理職になるきっかけとなったのは、2019年に導入した人事評価制度になります。この新たな評価制度が、女性社員の活躍の場を広げました。A子さんの業務内容は、工場の人員配置や異動の調整といった業務を担う管理職になります。彼女は、女性が心地良く働ける仕組みを作る側に回れると考え管理職になったようです。その仕組みは、休暇と多能工に特徴があります。面白いことは、昇進の条件です。それは、有休取得は年10日を取り、月残業時間の平均は30時間未満が事実上の昇進の条件としていることです。そして、社員に「多能工」化も求めています。パートも正社員も関係なく、1人の従業員が複数の業務をこなせるようにしたのです。休みを取りながら結果を出した人を、より高く評価する仕組みになります。多能工化を進めることで、休みを取りやすくなる環境が生まれました。働きやすい仕組みのために、女性管理職は2019年には11%だったが、2024年には30%を超える水準まで高まっています。
地方創生の政策を見るまでもなく、人手不足は地方で深刻な問題になっています。有効求人倍率を見ると、東京都のl.76倍を別として、地方での2024年度の有効求人倍率は、福井1.73倍、石川の1.53倍、岐阜1.52などと不足が顕著になっています。地方では、育児や高齢といった様々な事情を持つ人が働きやすい環境を整えることにより、人材を確保している事例が見られます。福井のキツサカイエステックでは、「週休4日の正社員」を2022年から導入しています。なぜ、新しい施策を取り入れてきたのかという質問対して、代表の方は、「とにかく人手不足」と即答しています。彼は、「家事もあるので仕事は無理ということなら、その人に会社の制度を合わせよう」と考え、実践しました。新しい制度の導入によって、学童保育に預けられない際などには子どもを職場に連れてくることも可能になりました。2018年から働き方の見直しを始め、2024年までの5年間で28人を採用することができました。社員数はほぼ倍に増え、県外から関心を持って応募する方もあり、採用につながったケースも3件あるとのことです。
キツサカイエステックで働くB子さんは、2019年に事務の一般職に入社しました。現在は総合職となり、小学生2人の子どもを育てながら、配管やダクトの図面作成も手掛けています。事務職から総合職になった理由に、「親子出勤制度」がありました。この制度が、キャリア形成を後押しする要因になりました。サカイエステックの2階には建設会社らしくないカフェのような空間があります。ここで、親子で出勤して、子どもを見守りながら仕事ができる環境が用意されています。学童保清に預けられない際などには、子どもを職場に連れてくるということも可能です。親が抜ける場合は、同僚が代りに見ることもあるそうです。仮眠室を改装したキッズルームもあり、必要であれば親は同じ部屋で仕事ができます。子育てと両立しながら、複数の技術系資格も取得し、管理職を目指すことも可能になっています。動きやすい環境を整えることで、採用力が高まり、人材を確保できる好循環にもつながっているようです。地方では、地方で働きたい人の要望に、会社の制度を合わせないと会社に来てもらえない状況があるようです。
最後になりますが、日本は長らく、男性優位の職場環境を形成してきました。でも、徐々に女性の進出が、見られるようになりました。進出を支える背景に、子育てを社会が支えるという制度があります。この制度は、官民が準備することが望ましいことはいうまでもありません。でも、これらの制度には欠陥があります。この欠陥を補う自治体や企業が、優位な立場になるようです。さらに最近になると働いて子どもを育てるだけでは、十分でないという状況も生まれています。最近は、女性の購買力も急速に向上してきています。女性のことは、女性がよく分かります。女性の提案から男性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造、そして販売という流れが多いようです。これを、女性の提案から女性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造・販売という流れを構築した方が合理的です。女性の能力が生かされる分野は、拡大しています。今まで、発揮されていなかった女性の能力をいろいろな分野で開発する企業が、繁栄する時代になってきたのかもしれません。
