日本人は、年休を上手に消化していないという実情があります。その現われが、年休の完全消化ができない働く人達が多いという数字になります。この数字には、日本の働く職場環境にも原因があるようです。たとえば、総量100の仕事に対して1人あたり10で回していた職場があります。この職場は、平常時に必要な人員を前提に配置されています。そんな中で、営業さんが頑張って仕事を取ってきて、総量が150に増えました。このような時、会社は人数を変えずに1人あたり15にすることで切り抜けようとします。そこで、残業が増えることになります。欧米の場合は、総量100の仕事を10人で行います。150の仕事が来たら、5人増やすことで対処することが一般的です。欧米の場合は、「仕事に人をつける雇用システム」になります。これは、1人の労働者が行う仕事量が、決まっているから可能になります。日本の場合、1人の労働者が行う量が、決まっていないことが多いのです。仕事が増えれば、1人の仕事量を増やすことで対処してきた流れがあります。ある意味、残業が増えて、年休が獲れないという状況が恒常的に生まれています。今回は、年休が完全に取れて、生産性が上がる職場を考えてみました。
エクスペディア(Expedia)が、国・地域を対象に2023年の年休の取得率を比較した調査では、日本が63%で最下位になっていました。エクスペディア(Expedia)は、米国に本社を置く世界最大のオンライン旅行会社になります。また、厚労省の2025年就労条件総合調査によると、年休取得率は2021年までが40~50%台で、2024年は66.9%と上昇していることが分かります。日本の労働者には、時季指定権があり、好きなとき休めることになっています。でも、国際的には低い位置にあります。厚労省の意識調査(2024年度)では、取得しない理由がいくつかありました。その大きな理由は、病気やけがに備えて残しておきたい」(43.3%)になります。時季指定権はあるのですが、職場の環境や仲間の目を気にするジレンマがあるようです。他国の状況をみると、欧州連合(EU)の労働時間指令は少なくとも4週間(20労働日)の年休を保障しています。ドイツは、6週間は有給とすることを法律で定めています。フランスはさらに進んでいて、あらかじめ休む日を決める年休(取得)カレンダーの指定義務を企業に課しています。EUでは、年休カレンダーなど企業の責任で年休を確実に取らせる仕組みがあります。年休を確実に取らせることで、日本のような未消化の問題を生じさせない仕組みができているようです。
法律で決められた年休を消化した上で、さらに特別休暇を導入する企業も出てきています。近年、企業が多様な目的で特別休暇を導入する例が相次いでいます。特別休暇は、年休や子どもの看護休暇などの法律で定められた休暇とは異なるものです。この特別休暇は、企業が任意に設定する法定外休暇で、病気休暇は、特別休暇の代表例になります。厚生労働省の2024年の調査では、勤務先に特別休暇があると答えた割合は41.9%になっています。病気治療やリスキリン(学び直し)のために、この特別休暇を導入する企業が増えているようです。厚労省も、この制度の導入の啓発に力を入れています。力を入れる理由は、体調不良などに備えて年次休暇の取得を控える人が多いことにあります。本来リフレッシュに充てられるはずの年休の取得率が、海外と比べて非常に低いのです。年休を取る立場としては、病気になったらどうしようか、家族が病気になったときのためにとか、本来、体調を整え、元気に働くための休暇が、別の目的のために使われています。この実情を、特別休暇を導入して、危機の場合に備えようという配慮があります。働く人の不安を解消し、働く人の多様な活動をサポートするために特別休暇を活用してほしいというわけです。
余暇や休暇を、知識やスキルの向上そして、趣味のブラッシングの視点から考える人も増えています。学生時代に習得した知識や技能だけでは、変化の激しい産業社会を生き抜くことができなくなりました。知識やスキル向上そして、趣味のブラッシングが、常に求められる時代に入ったともいえます。ブラッシングには、時間の確保とその効率性が求められます。時間の確保については、3区分法の考え方があります。多くの国は、制度上、8時間労働になっています。週休二日制が多く、有給休暇なども制度上確立しています。それをまとめると、1年間の総時間は、24時間×365日の計算で8760時間になります。働く人の生活時間は、睡眠などの生理的時間が8時間(計2920時間)、労働時間が8時間(8時間×365日÷7× (7日-2日)の計算で計2080時間)、余暇時間が3750時間という3区分法が成立するようです。1つの技能を伸ばすための時間は、1000時間といわれています。個人は、この3750時間を、知識やスキルそして、趣味のブラッシングに当てることが可能になります。余暇時間が3750時間もあると思うと、嬉しくなります。でも、この余暇の時間を多くの人は、ブラッシングではなく、残業や家事や育児に使うようになる現実があります。このブラッシングは、個人のやる気だけでは難しい面もあります。企業も、個人の能力向上を支援する体制が求められるようになってきました。特別休暇の導入は、このブラッシングの向上にも視野が向けられているようです。
先進的な企業は生産性の向上と年休の消化の問題を解決していきます。でも、先に行けない企業もあります。年休はリフレッシュして、労働意欲や効率を高めることが目的になります。好きなとき休めるのですが、日本の労働文化には、好きな時に休めない心理的物理的障壁があります。年休が、リフレッシュではなく、本人の病気や家族の介護のために使われるいびつな構造もあります。特別休暇が無給だと、年休が本人の病気などに使われるいびつな構造が改善されにくい状況が生まれます。フランスなどでは、特別休暇を取った場合、一定期間の賃金を社会保険と企業の負担で保障する制度があります。働く人が、安心して休みやすい制度ができています。休暇を取りやすい職場は、生産性が高い傾向にあることが分かっています。でも、一般の企業においては、休みやすさと生産性の両立に向けた議論が深まっていない実情があります。休みやすい環境をつくれるか、企業の工夫と知恵が求められます。
生産性を向上させ、休みやすい環境を創った企業に、宮崎県にあるえびの電子工業があります。A子さんはパートとして入社、正社員の道を避けていましたが、今は6人の部下を持つ管理職になっています。会社が評価制度の見直したことをきっかけに、2019年に正社員となりました。彼女が管理職になるきっかけとなったのは、2019年に導入した人事評価制度になります。この新たな評価制度が、女性社員の活躍の場を広げました。A子さんの業務内容は、工場の人員配置や異動の調整といった業務を担う管理職になります。彼女は、女性が心地良く働ける仕組みを作る側に回れると考え管理職になったようです。その仕組みは、休暇と多能工に特徴があります。面白いことは、昇進の条件です。それは、有休取得は年10日を取り、月残業時間の平均は30時間未満が事実上の昇進の条件としていることです。そして、社員に「多能工」化も求めています。パートも正社員も関係なく、1人の従業員が複数の業務をこなせるようにしたのです。休みを取りながら結果を出した人を、より高く評価する仕組みになります。多能工化を進めることで、休みを取りやすくなる環境が生まれたようです。
最後になりますが、日本では、年休の消化の問題がこれから解決する課題になるようです。ヨーロッパでは、年休をまとめて取る習慣ができています。日本の場合、夫婦間の時間調整、そして小学生などの場合、学校との時間調整が障害となり、家族旅行なども思うに任せません。取れる期日は、正月休みとお盆の休みなど、決まった期間になってしまいます。この時期、日本民族の大移動という風景になります。これではフレッシュになるより、疲労の蓄積する休暇になってしまいます。それでは、どうすれば、良いのでしょうか。
欧米の企業で働く人々は、長期休暇を取るのが一般的です。さらに、学校も6月から8月末まで休校なので、この期間家族と過ごすことができます。もちろん、家族旅行も長期間のんびり有意義にできます。課題があれば、解決する人々や組織が現れます。日本にも、その兆しが出てきました。コロナ禍は悪い面もありましたが、未来に光を当てる面も示しました。コロナ禍は、学校教育にも大きな影響を与えました。たとえば、小学校の4年の1年間の総時数は1015こまになります。コロナで、学級閉鎖や学校閉鎖により、この授業時間数が、今までになく削られたのです。結果として、学習の遅れた学校やクラスがあった一方で、遅れることなく学習能力を高めた子ども達もいました。ある意味で、個人の努力や工夫で、家庭の工夫で、学習を効果的に進めることができれば、学校の学習に遅れが生じないということが分かったわけです。愛知県や大分県別府市で、2023年度の2学期から導入されたラーケーョンは面白い制度になります。ラーケーションは、自宅で勉強しても良く、目的があれば自由に過ごすことができる制度です。この制度は学校を休んで、家族や友人とテーマパークに行っても良いというものです。この制度が全国的に導入されれば、面白いことになります。ゴールデンウイークにのみ、海外旅行が行われていた流れが変わる要因になります。家族が休暇を取れた時、いつでも学校を休んで海外旅行ができる環境が整うからです。オーバーツーリズムの解消と充実した余暇の体験など、新しい局面が開けるかもしれません。企業と行政協力して、働きやすい、休暇を取りやすい環境を作り出してほしいものです。
