良い会社に、就職しようとする若者は健全な若者と言えます。そして、良い会社は若者を生産性の高い社員に育てていくものです。若者が生き生きと働く会社の目安は、入ろうとする会社の社員が、笑顔で働いていることが一つの要素になります。さらに、その社員の家族が笑顔で生活している光景が見られれば、良い会社になるでしょう。給料は、多いに越したことはありません。そのお金のために、単身赴任で家族がバラバラになったり、子どもの養育に支障をきたすようでは、あまり良い会社とは言えないようです。社員がフル回転で隙間なくギリギリで働いている組織は、生産性は高いとみられます。でも、全員が隙間なく働いて、高い生産性をあげる状態をメタ安定状態という場合があります。渋滞学で、よく言われる渋滞前の状態をいう概念です。この状態は、自転車操業のようになっているため、何か故障がでれば、生産はゼロになってしまいます。ブラック企業の過酷な労働によって支えられた生産やサービスは、決して持続可能なものではありません。無理な成長は、必ず組織のどこかにひずみを生んでしまうため、短命になりがちなのです。一方で、200年も続く長寿企業は、これらの場面を長年にわたって乗り越えてきた実績を持つともいえます。現在の日本は、人手不足で企業は質の高い人材を渇望しています。また、どの企業に就職をしようかと選択に迷う若者がいます。そんな間の橋渡しをするツールが現れました。それは、AI面接システムになります。今回は、このAI面接システムについて考えてみました。
オープンAI「ChatGPT」を公開して以降に、AI面接システムの提供企業が急増しています。現在は、国内に約20社あるようです。国内のAI面接システムは、その多くが海外製や独自開発したAIを基盤としています。医療に使われているAIが、分かりやすいモデルになります。そのモデルは、診察の第1段階である問診で使われ始めました。今までは、この問診をアンケート用紙で行う病院が多かったようです。でもAIは、アンケート1枚といった既存の問診票では把握できない詳しい症状や背景を深く探り出しています。あるAI問診は、患者の入力内容に応じて質問を次々と変えて、病状を探っていきます。患者から症状や既往歴、服薬歴、生活習慣などを聞き取って診断の手掛かりを得ています。このAI問診は、5万本以上の医学論文を基礎に症状と病気の関連性を解析するアルゴリズムを構築しました。このアルゴリズムで、患者が診察室に入ったときには医師の手元に充実した情報が提供される仕組みになっています。Al面接は、スマホやパソコン経由で、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」に基づいて分析していきます。対話型のAI面接は、「その経験から学んだことは」とか、「困難な出来事にどのように対処したか」など質問を重ねていきます。学生の性格をチェックする質問を行いながら、学生の答えや言葉づかいを分析していきます。論理性や一貫性、粘り強さなどを評価し、数値や偏差値の形で提示するのが一般的パターンです。
Al面接が、ネット空間から性別や大学、国籍、年齢に関して偏見の情報を機械学習した場合、そのAIにはどのようなバイアスがかかるかわからない点に課題があります。有名な事例が、アマゾンの人材採用に見られました。優秀な人材は、どの会社でも採用したいものです。この採用を人間に任せるより、AIの行わせようとしたわけです。この新しい試みを、アマゾンが行いました。自慢のクラウドコンピューティングを使ったわけです。アマゾンは、過去の入社採用履歴書データをAIに学習させました。AIは、膨大なデータから合否を判定していったのです。結果は、男性希望者に高い評価を与える結果になりました。今までのデータに、問題がありました。応募者の多くが男性だったため、女性に対して差別的な評価を下すようになったのです。AIが採用に当たってどの情報を重視したのかは不明です。でも、データに偏りがあると、偏った解答しか帰ってこない事例もあるのです。AIがネット空間から、ゆがんだ評価を出す社会バイアスの問題が指摘されています。現に、米国では、AI面接の公正さを問う訴訟が続発しています。この問題に、厳格な規制を設けているのがEUになります。EUの規制は、AIの有害な影響から人を保護し、信頼できるAIの利用を進める狙いがあります。世界で初めての包括的なAl規制となるAl規制法を、2024年に発効させました。日本では、具体的な対策やルール整備についての議論はまだ低調のようです。
新しいツールが現れた場合、それに適応するまで時間がかかります。携帯電話の次にスマートフォン(スマホ)が登場した時、その新しいツールを上手に使う人は少数派でした。でも、時が過ぎれば、スマホを生活や仕事の一部として使い始めました。今現在、新卒採用の面接に対話型の人工知能(AI)を使う企業が増えています。これに、現役の学生が対応できていない面があります。そのために、学生にはAI面接に否定的な見方が強いようです。2026年卒業の1385人に聞いたところ、その78%がAI面接験には意欲が下がると答えています。かといって、人事部の経験豊かな面接担当者によっても、好き嫌いや人によって質問が違ったりします。いわゆる主観的な面がでて、学生を客観的に評価できないという面が多々出てくることがあります。それならば、主観の入らない面接AIが有効という考えも出てきます。人材を採用する企業にとっては、評価の不当な偏りを防ぎ、なおかつ学生の抵抗感を払拭できるかが課題になっています。もちろん、学生側にも面接AIに対する備えを徐々に行うようになりました。先進てきな大学は、学生がAI面接に慣れるための支援を始めています。福井大学は、全国的にも早く2021年に練習用システムを使えるようにしています。練習の結果を、学内カウンセラーが学生と面談して解説するサービスです。解説することで、強みや弱み、課題を効果的に理解してもらっています。さらに、中央大学理工学部は、AI「Chu(チュー)活ボット」を2024年から学生の練習用に使っています。理工学部の専門性を反映させ、卒業生としての強みを生かして回答する練習を行っています。
日本における学生の採用は、新卒一括採用に特徴があります。この方式は、短期間に多くの面接をすることになります。この短期間で多くの学生を面接するツールとして、AI面接による省力化はある面で魅力的なものです。そのツールに、国産のAI面接システムシャイン」があります。シャインは、東京大学大学院の山崎俊彦教授の研究室が開発しました。このシャインは、人による面接の支援で蓄積した4万件強のモデルを基礎に作られています。AIを用いて、公正性と精度を確保しているといううたい文句です。NTTドコモは、2025年からシャインを使い始めています。2025年は、書類選考を通った約3000人に利用しています。ドコモは、EUの規制を念頭に、プライバシーへの配慮を行っています。また、学生が持つAI面接への不安や意欲低下に関しても慎重に検討しているようです。EUの規制を念頭に、導入後も継続的に運用を見直す考えのようです。また、キリンホールディングスは、2024年にバリエタス(東京・品川)「AI面接官」を試行しています。「AI面接官」は、2025年から選考の初期段階で使っています。キリンは、日本でも将来、EU水準の規制に移行する前提で、このシステムを選んだようです。この2つの大手だけでなく、航空や金融、飲食の大手企業、自治体などでの導入が、すでに1000社を超えているようです。
余談になりますが、人材はまず自分の能力を高めることが求められます。そして、企業は能力の高い人材を採用することになります。AI面接官は、その両者がウインインになるように採用を成就させることになります。人材を見極め方の一つに、マシュマロ実験があります。このマシュマロ実験は、幼児を対象に実施されました。スタンフォード大学で、1960年代後半から1970年代前半にかけて行われたのです。「マシュマロはあげるけれど15分間、我慢できたら、マシュマロをもう1つあげるよ」というものです。15分間、我慢して2つ目を食べることができたのは、3分の1の子ども達でした。残りの3分の2は、待ちきれず目の前にあるマシュマロを食べてしまったのです。誘惑に打ち勝つ意志力に要する資源が枯渇して、15分間我慢することができなかったわけです。この実験の20年後の追跡調査には、マシュマロを食べた子と我慢した子の比較があります。我慢した子どもたちは、多種多様な高いパフオーマンスを示すことがわかったのです。我慢した子どもたちは、大学適性検査の成績、対人関係の良好さを示していました。このような人材に、AI面接官が高い評価を提示すれば、AI面接官の実力も評価されることになるかもしれません。
良い人材を獲得し、離職率を低くするという課題にいくつかの組織が挑戦しています。経済同友会は2016年度から、授業として単位を認定する原則4週間の長期のインターンの支援を始めました。北海道大学は、この経済同友会が進める企業と大学とをマッチングさせる仕組みを活用しています。この大学は従来のインターンに加え、1~2年生を対象にした産学連携のプログラムを導入したのです。学生には、多くの労力を要するプログラムのようです。でも、受け入れ枠の4~5倍の学生が希望するほどの人気のあるプログラムになっています。参加者からは、「何を勉強すべきか明確になった」などの肯定的な意見が相次いでいるようです。協力企業が、積極的に大学3年生や4年生向けにインターンシップの場を提供しているのです。2019年夏の2年次に、JR東日本の新幹線の設備や実験施設などで研修をうけた学生の感想があります。「大学院でより多くの知識を習得しないと、この現場では太刀打ちできない」と痛感し、大学院に進学を決めた学生もいるようです。AI面接官も必要ですが、地道に学生の行動を継続的に追跡するツールも必要になります。2つが上手くマッチングすれば、学生も企業もウインウインになれるかもしれません。
