ドローンの技術者を養成する工夫  アイデア広場 その1772

 先進国を中心に、情報通信技術(ICT)を活用した教育が進んでいます。日本は、この流れから少し、出遅れているようです。もちろん、この遅れを座視していたわけではありません。文部科学省は、2019年末に全国の小中学校などの教現場のデジタル化を目指した「GIGAスクール構想」提唱しました。このGIGAスクール構想の予算は、 8000億円を超えるものでした。文科省は、この構想を5カ年計画で段階的に進める予定でした。でも、世界との比較でICT教育が遅れている点などを考慮して、計画を早めたのです。2022年には、児童生徒1人に1台のデジタル端末整備がほぼ完了しました。ここまでは、異例の速さでした。その成果もあり、全国の小中学校で児童1人1台のタブレットやPC(主にChrome、iPad、Windows)が配備され、授業での活用(動画共有、デジタル教科書、個別最適化された学習)や持ち帰り学習が浸透するようになりました。子ども達のデジタル関する知識やスキルは飛躍的に向上しています。並行するように、Chat GPTなどの言語モデルの核心的技術により、AIに関する知見やスキルも向上しています。さらに、ここに来て、フィジカルAI(フィジカルロボット)の利用に関する知見とスキルも必要とされる状況が生まれています。今回は、この急激に変化するデジタル社会の乗り切り方を考えてみました。

 フィジカルAIの先駆的なモデルが、ドローンになります。ドローンとAIを融合した利用方法が、世界のあらゆる分野に広がっています。その一つに、農業分野があります。ドローンは農業分野で急速に普及し、種まきや農薬散布しています。DJIは、世界シェア7割を握るとされる中国のドローン企業です。この企業は、2006年に設立し、アメリカや日本など海外5カ国に拠点を持ち、販売活動行っています。DJI製の直径1mを超える大型の農業ドローンが、農場で活躍しています。中国南部の広東省開平市にある農場では、このドローンが種まきや農薬散布に活躍しているのです。DJIのドローンが今年に入って種まきなどをする農地面積は、27万k㎡になるのです。この面積は、日本の国土と匹敵する広さです。ドローンを使用し、人力より50~60倍の広さの作業を行っているのです。また、新しい使用方法も作り出されています。中古の太陽光パネルの保守点検やその維持のビジネスについては、環境が整いつつあります。太陽光パネルの生産が、飽和状態になっています。太陽光発電ビジネスの主戦場は、パネル生産からパネルの保守管理に移りつつあります。パネルは、設置してから年々発電能力が低下していきます。故障も多くなります。その時には、現場に迅速に駆けつけて、部品すばやく交換し、発電能力を維持するサービスが一つのビジネスになります。太陽光発電所の稼働状況を、ドローンやカメラで遠隔監視するビジネスにも需要が出てきています。ドローンは、空撮で4K画質が撮影でき、自動追尾や障害物回避といった機能も備えるようになりました。また、ドローンは、橋や鉄塔の点検、工事現場の測量、建設の撮影、工場の安全整備と多くの用途に使われています。

 ドローンは、流通販売の分野にも進出しています。米アマゾンは、米連邦航空局からドローンを使った配送サービスに必要な認可を受けました。この会社は、2019年6月にネット通販サービスにドローン配送を導入する方針を鮮明にしました。2kgまでの商品を運べるドローンを、自動操縦で飛行することを目標にしたのです。この重さの商品を、注文から30分以内に発注者の自宅の庭などに商品を届けるシステムの構築を目指しました。ネット通販業界では、配送拠点から各家庭までの「ラストワンマイル」の物流が課題になっています。最後の配送が、ドライバー不足によって、ボトルネックになっているのです。この解決のために、ドローンの採用を決めたのです。アメリカの物流大手のウイングやUPSが、ドローン配送に必要な認可をアマゾンより早く取得し、着々と「ラストワンマイル」の課題を克服しようとしています。この分野に、ドローンが導入される要因は、低価格化と高性能化が同時に進んでいることにあります。ドローンに通信機器とカメラを搭載して、遠隔操縦もできます。農園や森林の生育状況を、カメラ映像で把握することも可能です。ドローンは、今まで風に弱いとされていました。どんな姿勢になっても、立て直してまた元の位置を保つドローンもあるのです。安定飛行の秘密は、周囲の景色を学習し、自ら飛び方を判断するAIを備えていることにあります。AIは極小で画像、音声、センサー、テキストなどのデータを複合的に処理できます。一般的な商用ドローンは、10kgあります。用途により使い分けることもできます。原子炉内の状況を調べるには、極小のドローンを使います。高低差の大きい果樹園などの広い農地でも、通信機器とカメラを搭載したドローンを使えば極め細かく把握しやすくなります。

 ドローンの急激な進化を見せつけた事出来事が、ウクライナ戦争でした。2022年から続くロシアのウクライナ侵略は、軍事技術に変化(進化)をもたらしています。ウクライナ軍がロシア軍に与えている損害の8割が、ドローン攻撃によるものだと明らかになりました。ウクライナ国防省によると、 2024年には、200以上の国内企業が計150万機を生産しました。これは、5000機前後だった2022年の300倍になります。2022年の開戦当初は、ドローンやその部品を輸入に頼っていました。戦況の進展により、急ピッチで自前の生産体制を整備していきました。その結果として、ウクライナは、戦闘機やヘリを撃墜できるAI搭載型のドローンなどの開発にも成功しています。ドローン機体だけでなく、ドローンパイロットも重要な役割を担います。ウクライナ軍が前線の部隊に配置したドローンパイロットは、数万人規模になります。彼らは、実戦経験を通じて急速に練度を上げています。これらのパイロットは、ジャミングや防空レーダーの回避など実戦経験を蓄積しています。豊富な要員が、多様な作戦に従事しています。ウクライナ戦争は、ツールとしてのドローン性能の向上とそのツールを操る兵士の能力を向上させているのです。

 この戦争から、各国は戦争に対する盾と矛の戦術や戦略の見直しを迫られることになりました。特に、ドローン操縦士の育成が、戦争当時国には喫緊の課題になっているようです。ドローンの進化だけでなく、ドローンを扱う兵士の能力も格段に向上していきます。ウクライナでは、1人の操縦士が1日に50機以上のドローンを操縦し、敵の目標を攻撃しています。ドローン操搬士は、実戦経験を通じて急速にスキルを上げています。ドローン操縦士は、1年程度で攻撃の成功率を50%以上も向上させた操縦士も少なくないようです。ウクライナとロシアの双方は、ドローンの操縦士の育成を急いでいます。ロシアは2030年までに、ドローン操縦士を100万人育成する計画を掲げています。より具体的には、日本の中学生にあたる生徒向けの教育カリキュラムに、ドローン操縦を組み込んでいるのです。日本の場合、平和憲法の制約もあり、軍事に関する教育は控えめになります。自衛権の範囲での、教育という建前です。一方で、2022年から2026年までにいたるドローン(フィジカルAI)の技術革新は驚くべきものです。この技術を当然、農業や流通、最近話題になっているクマの出没などの対策に使うことは可能になります。優れた技術があるにも関わらず、その技術を使う人材が育たないために、日本では宝の持ち腐れになる可能性があります。

 余談ですが、新しい技術は、導入、優位、対抗という3段階プロセスを経て効力の「限界点」を迎える流れになります。たとえばドローンの場合、第一段階は斬新であるため、使い方がわからず、配備される数もきわめて少ない状況にありました。第二段階では、配備数が増えてきて、実際に使われるようになります。この第二段階の間、ドローンの新しい機能は優位性を発揮されます。第三段階になると、相手もドローンの機能や戦術を削ぐための研究を進め、やがて「「普通の兵器」となっていく流れになるわけです。一般的に軍事技術は、すでにある技術に一つの工夫を加えながら使用されることが多いようです。ドローンは、「歴史を変える」兵器のひとつといわれています。その理由は、すでにある部品から、低コストで作ることができるからです。中国のドローン企業では、DJI社が有名です。このDJI製の価格が約8万円のマビック・エアー2が、どのような部品で作られているのか調べてみた会社があります。約230種類ある部品のうち、80%が一般電化製品の部品を使っていたのです。ドローンで使われている1枚の基板には、制御や通信半導体やセンサーなど大小10個の半導体部品が高密度で実装されています。このドローンの部品価格の原価は、14000円で、原価率は20%でした。1000円を超える高価な部品もバッテリーとカメラくらいにとどめているのです。部品の組み合わせとソフト技術の向上で、性能を飛躍的に高めている姿が浮かんできます。

 文科省は2023年7月に、小中高校での生成AIの扱い方に関して指針を作成しました。文部科学省は生成AIについて、開発指針が定める利用規約などに基づいて使うよう求めています。一方、現実の使用状況は、進んでいます。「小学生白書2023」によると、小学生の9.8%が、学校で生成AIを使ったことがありました。文科省は2024年度、生成AIの扱い方 の先進的な取り組みをするパイロット校を66校指定しました。この取り組みは、8000億円を投じたGIGAスクール構想の延長線上にあるものです。一方、岸田文雄元首相は、2022年に労働改革のー環として、今後5年でリスキリングに1兆円支援すると述べていました。そして、高市早苗政権も成長戦略としてリスキリングの促進策を強調しています。このリスキリングを小中学校の段階から導入し、ドローンのスキル向上を加えれば面白いことになります。小中学生は、約900万人になります。これらの子ども達が、ITの知識やスキルを向上させたように、ドローンのスキルを向上させるわけです。ドローンの費用は、タブレットやパソコンより安価に提供できます。ハリー・ポッターに登場する魔法界のスポーツは「クィディッチ(Quidditch)」になります。箒に乗って空を飛び、4つのボールを使って相手ゴールを狙うチーム対抗戦です。こんな魔法の世界のゲームを、ドローンで小中学校の子ども達が行えば、ドローンの人材不足は解消するかもしれません。

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