周囲を不愉快にする怒りを抑える知恵 アイデア広場 その1794

 人間は、不安や怒りなどを和らげる仕組みをいくつか作り出してきました。古くは占い師などがこの分野を担い、現在は心理療法士が主役になっています。特に、心理療法(カウンセリング)が生活に根付いている文化圏は、キリスト教文化圏になります。この文化圏には、懺悔によって心の悩みを打ち明ける習慣が根付いていました。そんな土壌が、心理療法を盛んにしているのでしょうか。米国では、日ごろの自己管理のために上手に心理療法を利用しています。一方、日本における心理療法は、アメリカより敷居が高いようです。かなり不安が高まった段階で、始めて心理療法を受ける人が多いのです。困ったことに、日本も欧米も患者が年々増えていくという傾向も見られます。専門家の不足が、1つの課題になっているようです。この課題を手っ取り早く解決するツールが、感情AIになっているようです。たとえば、歌舞伎町のホストの約7割が「Chat (チャット) GPT」などの対話型AIを使っています。彼ら・彼女らは、対話型AIに、接客の助言を求めるだけではありません。仕事のつらさや将来への不安を打ち明け、AIの言葉に慰められているといいます。

 米国でも、5人に1人の若者が生成AIに悩みを相談しているという報告があります。不安や怒りなどの悩みに圧倒されそうになったとき、生成AIに相談することは役に立つようです。最近の生成AIには、一定の歯止めがあるようです。たとえば、精神医学の書籍を翻訳する時の出来事です。書籍の中にいろいろな悩みに関する記述があります。その中に、死ぬことを考えるほどに悩んで人の相談場面が出てきます。その場面の会話の和訳を生成AIに尋ねると、突然翻訳を中止してしまうのです。即座に、悩みを抱えている人たちのために設置されている相談窓口を紹介する案内文が表示されるのです。プロ野球監督の事件が報道されたとき、生成AIにお子さんが相談したケースがありました。似たような場面が、再現されたようです。蛇足ですが、 生成AIの情報を生かすために自分が置かれた状況に目を配ることが大切です。広い目配りがないと、相談の意図と違う情報の利用や行動に行きつくことになってしまいます。生成AIには、背景の状況を総合的に勘案しく適切な対応を判断することが苦手です。全体の状況を見て、その場にあった情報を適切に使う知恵は、見識のある人間の方が優れているようです。

 近年、心理的相談の中で増えていることが、怒りに関することのようです。自分の信念や信条と反することに遭遇すると怒りの感情が湧いてきます。それを抑えられる人と抑えられない人がいます。その解決方法にいくつかありますが、その中には間違ったものもあります。その一つに、怒りを外に自由に表出する人は怒りにくくなるという神話があります。怒りの言語的身体的な表出は、怒りを減少するのではなくさらに怒りや暴力を引き起こすことが学術的にも分かってきています。怒りを直接的、間接的に外に表出すことは、それを強化し、怒りを強力にする傾向があるのです。1960年代の初期から、怒りと心臓疾患の関連を示した多くの重要な研究が行われてきました。比較的健康な人々のグループに、生活の中で体験する怒りのレベルの質問に答えてもらう調査を行いました。この質問に答えてもらった人々に、20年以上もたってから、心臓疾患について質問したのです。20年以上前の怒りと敵意のスコアが検討され、それぞれの身体的な健康状態とを比較されたわけです。25年後の追跡調査で分かったことは、怒りの測定で得点が高かった人は、冠状動脈性心疾患が多かったというものでした。また、別の研究で、255人の医学生にパーソナリティの質問表に記入してもらいました。すると、その後の調査結果は、驚くべきものでした。健康の知見を持つ医師においてさえ、怒りの高いスコアの4分の1は、ほぼ5人1人が50歳までに死んでいたのです。一方、敵意に関して低いほうから,4分の1で、死んだ医師は25人に1人だけでした。この種の強い怒りや敵意の調査は、弁護士についても行われました。怒りのスコアが高かった人は、低い人よりも4~5倍の率で冠動脈性心疾患が多かったというものでした。

 怒りが攻撃を引き起こしやすく、犯罪を引き起こす要因になることは良く知られています。米国のFBIの統計による、とアメリカでは17秒ごとに犯罪が1つ起きています。中でも、家庭内暴力は、対人間の暴力として広く知られた荒廃的問題とみられています。米国では約150万人の女性が、パートナーから殴打があると推定されています。毎年殺された全女性のおよそ40%が、夫の手にかかって死んでいます。この要因の1つに、怒りがあります。男性が怒りに駆られて女性に暴力をふるうとき、危険であることが多いことがわかります。もっとも、最近の米国では、この一般的見解が怪しくなっています。女性が、夫に暴力的に行動しないという状況に変化が現れているのです。最近の調査では、女性が男性を攻撃するケースも多くなりつつあるようです。家庭内暴力もまた、子どもたちにとって残酷な代償あたえています。政府の報告では、米国で毎年約14万人の子が児童虐待による傷害を受けています。さらに、2000人の子ども(毎日5人)が、両親あるいは保護者の手によって殺されている現実があります。このような状況に陥らないように、カウンセラーに相談する人も多いようです。そして、生成AI に相談する人も増えているわけです。需要があれば、そこに供給するビジネスが成立します。

 残念なことですが、生活からまったく怒りや不安をなくすことはできません。そのような中で、自然に怒りや不安に対して、上手に対処する方法が身についている人達がいます。怒りや不安ストレスに支配されるのではなく、これらをコントロールするスキルを身につつけることが望ましいことです。もっとも、この望ましいことができないために、いろいろな問題が起きるわけです。この問題の解決が、脳科学の分野から提示されています。脳科学に基づいて、消費者の深層心理を分析し、マーケティングに生かす動きがあります。顔の表情や身体のしぐさから、感情を評価するシステムが開発されてきました。商品を見て、表情やしぐさがポジティブであれば、売れ筋になります。ネガティブなどの表情やしぐさの場合、消えゆく商品になります。売れ筋や消えゆく商品を別の視点から見ると、人間の感情を視覚化できる技術が整いつつあるわけです。この技術を心理学に応用することで、メンタル不調に対する心理的安全性を確保する流れが、今や世界的な課題になっています。マイクロソフトも、この課題に立ち向かっています。マイクロソフトは、包括的な支援サービスを提供する新興企業「スプリングヘルス」と提携しました。このスプリングヘルスは、カウンセリングやメンタルへルスを評価するツールなど複数のメニューを用意しています。マイクロソフトによると、開始1週間でスプリングへルスに約4000人も登録したそうです。社員の不調を早期に察知して対策を講じる仕組みは、企業にとって利点があります。

 最後になりますが、怒り続けることは自分にとっても、周りに人にとってもメリットがありません。私たちは、メリットがなくデメリットが表面化する行為をできるだけ抑制するべきです。人間は、この抑制するツールを持つことのできる時代に生きています。使い方次第で、ある程度、抑制することができるというわけです。たとえば、スイスのOvomind (オボマインド)は、腕時計型端末から人間の感情を分析するAIを開発しました。腕時計型のウェアラブルは、心拍数や発汗、皮膚の温度といった生体データを読み取ることができます。このAIは、主にゲームを行う人たちをターゲットに利用されています。発汗や心拍数といった生体情報を分析して、ゲームの展開にリアルタイムで反映していきます。生体データを読み取り、AIが「興奮」「ストレス」「退屈」など8分野の感情を抽出していきます。ゲームをする人の生体情報を分析して、ゲームの展開にリアルタイムで反映し、プレーの没入感を高めます。8分野の感情を抽出の結果は、リアルタイムでスマホに表示されます。スマホに表示され、感情に応じてBGMやセリフ、字幕といったゲーム内容が変わるのです。たとえば、ゲームに没入した子どもは、どの場面で「興奮」し、どの時間帯で「退屈」したのかを、データとして蓄積していくことも可能です。どの場面でどんな反応があったかを確かめ、次のゲーム開発にも生かせるようになってきました。つまり、親が子どもを怒りたくなったケースが生じた場合、呼吸や脈拍、発汗などから、怒りのレベルを把握することも可能になりつつあります。そんな時、腕時計型のウェアラブルから、警告音などが流れることになります。そんなツールが実現すれば、米国のように毎日5人の子どもが、親に殺される悲しい事態を防ぐことができるようになるかもしれません。

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